豊臣家の埋蔵金?
まだ大坂にいる。
そろそろお師匠様が京についているのではないかと、気になって仕方ない。
でも、京に帰る気配はない。
この京屋さんと言う船宿からも、大坂城がよく見える。大坂城を見ながら、いつまで家茂公は大坂にいるのだろう?と思っていた。
「蒼良、大坂城を見て、どうした?」
山南さんの声がした。
「今日も、大坂城がよく見えるなぁって。」
「そういえば、蒼良は大坂城をつくった人物を知ってるか?」
「豊臣 秀吉ですよね。」
「おっ、知ってたか。」
「有名な話じゃないですか。」
「有名なのか?」
有名じゃなかったのか?
「ま、そんなことはいいのだ。問題は、豊臣 秀吉だ。」
「豊臣 秀吉が、何かあったのですか?」
「豊臣家の埋蔵金の話を知ってるか?」
「えっ、徳川じゃなくて、豊臣家の埋蔵金ですか?」
「なに?今の将軍家にも、埋蔵金があるのか?」
いや、あるって話は聞いたことあるけど、その後どうなってるのかはわからない…。
「いや、聞いたことがあるだけです。」
「俺は、それ聞いたの初めてだ。興味あるなぁ。詳しく聞かせてくれ。」
聞かせてくれと言われても…。なんだか、群馬県の方にあるって聞いただけで…。この時代、群馬県のことをなんと言っていたのだっけ?あ、そうそう、
「上州方面にあるって。」
「上州かぁ。やっぱり、初めて聞いたなぁ。」
「なんでも、井伊 直弼の案で、開国によって、金銀が海外に流れるのを防ぐためとか、いざという時の軍用金にするためだとか。」
「井伊 直弼って、最近の話じゃないか。」
えっ?そういえば…。
「井伊 直弼が亡くなったのって、いつでしたっけ?」
「えっ、本当に知らないのか?豊臣 秀吉は知っているのに、最近のその話をしらないのもどうかと思うぞ。」
そ、そうなのか?
「3年前だ。安政7年。」
その、元号で言われちゃうとよくわからないのだけど…。3年前って…。
「すごい最近の話じゃないですかっ!」
「だから、俺も言っているだろう。最近の話だって。豊臣家の埋蔵金より、そっちの方があてになるかもしれないぞ。」
っていうか、まだ埋まってなくて、埋蔵金にすらなってないという可能性もありそうな。
「蒼良、堀りに行くか?」
「いや、遠慮します。まだ埋まっていない可能性があるので。」
「なんと、これから埋めるのか?蒼良、なんでそんな情報まで知っているんだ?幕府の内部に詳しい人間じゃないと、そこまで知らんだろう。」
えっ、そうなのか?私、内部までそんなに知らないぞ。
「そうか、これから埋めるなら、埋蔵金じゃないな。」
山南さんは、ちょっと残念そうな顔で言った。
本当に掘りに行くつもりだったのか?
「ところで、豊臣家の埋蔵金ってなんですか?」
「そうだ、その話をしたかったんだ。蒼良が、別の埋蔵金の話をするから。」
わ、私のせいなのかっ!
「そうそう、豊臣家の埋蔵金。あのな、秀吉が病気になったとき、息子で跡取りの秀頼がまだ幼くて、不安に思った秀吉は、いざという時のために、勘定奉行に命じて、結構な量の金を埋めたそうだ。」
「そうなんですか。どれぐらいの量なのですか?」
「そこまでは知らん。でも、すごい額になるかもしれないぞ。」
そんなすごい金額が隊に入ったら…。今から最新の銃とか大砲とかを大量に買っておけば、数年後の鳥羽・伏見の戦いで勝てるかもしれない。
まさに歴史を変えることになる。
手に入れられるものなら、手に入れたいなぁ。
「山南さん、お話、ありがとうございます。」
「えっ、蒼良、どこへ行く!」
私は、山南さんにお礼をしたら、ダッシュで大坂城の方に走っていったので、山南さんの声はもう遠くなっていた。
さて、秀吉といえば、大坂城だろう。この城のどこかに埋蔵金があるはずだ。
う~ん、どこから忍び込もう。
「あれ、蒼良じゃないか。」
振り向くと、原田さんがいた。
「原田さん、ちょうどいい所に来てくれましたね。」
「な、なんだ。」
私は、山南さんが言っていた、豊臣家の埋蔵金の話をした。
「で、その埋蔵金が、大坂城に埋まっているって言いたいんだな。」
「そうです。一緒に掘り当てましょう。」
「無理だろう。どうやって中に入るんだ?」
「それを考えていたのですよ。どこか、隠し通路みたいなものがありますかね?」
「隠し通路?」
「井戸の中に入ると、横に道があって、その道を歩くと城の中に入れるとか、聞いたことないですか?」
「ねぇなぁ。なんでそんな通路があるんだ?外から簡単にが入れるようじゃぁ、堀を作って外部からの侵入を阻止する理由がないだろう。」
「外部からの侵入じゃなくて、中で何かあったときに城外に出て逃げれるようにする、そういう役目をするやつですよ。」
「蒼良は、そんなこと考えてたのか。面白いこと考えるなぁ。なるほどねぇ、中から外に逃げる通路か。」
「なんなら、近所の井戸とか探ってみます?」
「蒼良、よ~く考えろ。仮にその通路があったとする。無事に中に入りました。で、埋蔵金は大坂城のどこにある?」
うっ、そこまではわからない。
「大坂城は広いぞ。あっちこっち掘ってたら、捕まるぞ。」
「捕まると、どうなりますか?」
「今は、家茂公がいるからな。運が悪けりゃ、謀反の疑いで打首だ。」
ひぃぃぃぃ、首を切られるということでしょ。それは嫌だ。
「どうだ、それでもやるか?」
「いや、やめます。」
打首は嫌だ。でも、埋蔵金、諦めきれないなぁ。
そんな思いで堀の中を覗いていると、
「おい、そこでなにしてる?」
と、後ろからいきなり声がしたのですごいびっくりした。
「ひ、土方さんじゃないですか。それに、近藤さんも。」
二人とも、裃を着ていた。
「裃着て、どうしたんだ?」
原田さんが聞くと、
「会津公に呼ばれてな。家茂公が京に帰る日が決まり、帰る日も警護しないといけないからな。その打ち合わせだ。」
近藤さんが、家茂公の警護がまた出来るので嬉しそうに言った。
「お前たちは、ここでなにしてる?」
土方さんが言った。
「蒼良が、大坂城に侵入して埋蔵金掘り当てるとか言い出したから、諦めさせてたんだ。」
「お前!またろくでもないことをっ!」
「ひぃぃぃ、打首だけはご勘弁を。」
「何言ってる。」
「いや、侵入したら謀反の疑いで打首だと言ったから。」
「原田の言うとおりだっ!全く!お前って奴はっ!」
「まぁ、歳、そんなに怒るな。蒼良も反省しているし、本当に大坂城に入ったわけじゃないんだ。」
「入っていたら、問題だよ、近藤さん。」
そう言いながらも、土方さんは私をにらんでいたのだった。
「ところで、埋蔵金って、なんだ?」
私をにらみつつ、土方さんは言った。
山南さんから聞いた話をしたら、
「それは大坂城じゃないだろう。」
「えっ、なんでですか?」
「埋蔵金ってのは、何かあった時のために隠すんだろ。豊臣家になにかあった時というのは、大抵、大坂城にも何かあるってことだろう。そんなところに埋める馬鹿もいないだろう。」
「あ、なるほど。じゃぁ、どこに埋めたのだろう。」
「蒼良、もしかして、場所まで聞かなかったのか?」
原田さんに言われて気がついた。山南さんから、埋蔵金の話を聞いたけど、場所までは聞いていなかったなぁ…。
「エヘヘ…場所、聞き忘れました。」
「蒼良…。」
原田さんは、気が抜けた声を出していた。
「ま、お前らしいや。おい、行くぞ。」
土方さんに言われて、私たちは、京屋に戻った。
山南さんがいたので聞いてみると、
「摂津国の多田銀山だ。」
今で言う兵庫県だ。
「大坂城じゃなかったのですか?」
「俺は、大坂城とは一言もいっとらんぞ。場所を言おうとしたら、蒼良が、走り去ってったから。」
たしかにそうでした。ああ、勘違い…。
人間、働かないで、お金を得ようと思ったらダメってことよ。よくわかったわ。
家茂公の帰京が5月11日に決まった。
私たちも、一緒に京へ帰ることになった。
大坂での隊士募集が成功したみたいで、行きよりも帰りの人数の方が多くなった。
人数が増えての帰京だったので、借りている屋敷の大家である八木さんは驚いていた。




