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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年11月
304/506

中岡慎太郎と写真を撮る

 土方さんに呼ばれたので部屋に行くと、山崎さんもいた。

 山崎さんもいると言う事は、また潜入捜査の仕事か。

「お前に、祇園の芸妓に変装して捜査してもらいたい。山崎はこいつの護衛でついてほしい」

 やっぱりそう来たか。

「祇園の芸妓と言う事は、祇園に行けばいいのですね」

「ああ、祇園の写真館だ。この前近藤さんが写真を撮っただろう。あそこだ」

 えっ、料亭じゃないのか?

「中岡慎太郎って知っているか?」

 知っているも何も……。

「有名な人ですよ」

 坂本龍馬と一緒に薩長同盟を結ばせた人だ。

「そいつは、長州とつながりがある。なんでもいいから情報を仕入れて来い」

「副長、長州は幕府と休戦協定を結んだので、捕縛できませんよ」

 山崎さんの言う通りだ。

 昨年ぐらいまでは長州と聞くと目の敵にして捕縛していたけど、今はそんなことをした日には、幕府から怒られるだろう。

 だって、幕府は長州に負けたのだから。

「休戦中だろ。いつ再開するかわからんだろう。その時のために情報を仕入れておくんだ」

 そ、そうなのか?

「たぶん、再来年あたりですかね。長州と戦うのは」

 次は、鳥羽伏見の戦いだろう、多分。

「なんで蒼良そらさんはそんなことを知っているのですか?」

 山崎さんに不思議そうな顔をされてしまった。

 しまった、ここはごまかさなくては。

「勘ですよ、勘」

「再来年、戦があるのか?」

 土方さんがすうっと目を細め、少し怖い顔で聞いてきた。

 土方さんは私が未来から来たことを知っているが、山崎さんは知らない。

 だから、ここはごまかさないといけないのに、なんで土方さんはそんなことを聞いてくるんだ?

 必死でごまかしているのに、

「鳥羽伏見の戦いがあります」

 なんて言えないから、無言でコクコクとうなずいた。

 それを見た土方さんは、黙り込んでしまった。

「副長、大丈夫ですか?」

 考え込みながら黙ってしまった土方さんを心配するように、山崎さんが言った。

「あ、すまん」

 土方さんは自分の世界から戻って来たようだ。

「と言う事で、頼んだぞ」

「でも、なんで写真館なのですか?」

 なんで料亭じゃないんだ?写真館だと飲めないじゃないか。

「中岡慎太郎が、写真館に予約を入れたらしい」

 あ、斎藤さんと巡察中に会ったあのときに予約をしたのか?

「なんだ、てっきりもう写真を撮ったと思ってました」

 だって、芸妓さんと仲良さそうに出てきてたし。

「撮ったと思ってましただと?」

 土方さんが怪訝な顔をして聞いてきた。

「はい。斎藤さんの巡察中に写真館の前で会いましたので」

「なんだとっ!」

 そう言うと、土方さんがガバッと立ち上がった。

「なんで報告しなかったんだっ!」

「いや、報告するほどの物じゃないかなぁと思ったので」

 報告しても、捕縛もなにも出来ないんだもん。

「ということは、お前は中岡慎太郎に会ったと言う事だな」

「はい。話も少ししました」

「な、なんだとっ!」

「副長、落ち着いてください」

 興奮する土方さんの前に山崎さんが入り、必死でなだめていた。

 土方さんは、ドスンと音をたてて座った。

「お前があったことがあると言う事は、他の人間にやらせたほうがいいか」

「芸妓に変装してくれそうな人はいますか?」

 私が一言そう言うと、山崎さんも土方さんも考え込んでしまった。

「藤堂さんとか」

「あれは伊東派の人間だ」

「山崎さんは?」

「私はできれば女装は遠慮したいですね」

 そりゃそうだよね。

 それに山崎さんは背が高いから、女装は無理だろう。

「後は……原田さんとか永倉さんとか……」

「論外だっ!」

「あっ! 思い切って、伊東さんにやってもらうのは……」

「お前、この状況を楽しんでいるだろう?」

 あ、ばれたか?

「厚化粧すればばれねぇだろう。やっぱりお前が行け」

 やっぱりそうなるのか。

 というわけで、祇園に行くことになったのだった。


「全体的に重たいです……」

 髪の毛を結い上げ、かんざしをつけた。

 着物も芸妓さんの物で重い。

 男装よりたくさん着ているので暖かいと言う事だけがいいことかな。

「蒼良さん、がに股ですよ」

「すみません」

 山崎さんに注意されて、急いでなおした。

「重たいのは我慢するしかないですね」

 やっぱりそうだよね。

 早く仕事を終わらせて、この着物を脱いでしまいたいわ。

 そう思っていたら、山崎さんの笑い声が聞こえた。

「普通の女性は、綺麗な着物を着たら喜ぶものですが、蒼良さんは違うのですね」

 どうせ普通の女性じゃないですよ。

 ああ、早く元の姿に戻りたいわ。

「それが蒼良さんらしくて好きですよ」

 その言葉にドキッとしてしまい、思わず山崎さんを見上げてしまった。

 山崎さんは、いつもの優しい笑顔だった。

 友達として好きって言う意味か。

 好きとかって言うから驚いたじゃないか。

「着きましたよ」

 気がついたら、写真館についていた。

「それでは、作戦開始しましょう」

 山崎さんが優しくそう言って写真館の戸を開けた。


 そこには、私の他にも芸妓さんが一人と、中岡慎太郎と他に男の人がいた。 

 確か、この三人で写っている写真があったよな。

 って言うか、私の他にも芸妓さんがいるのなら、私はいらないじゃないか。

「帰っていいですか?」

 と、こっそり山崎さんに言ったら、

「だめです」

 と、優しい笑顔で言われてしまった。

「ずいぶんと綺麗な芸妓じゃないか」

 中岡慎太郎が、そう言いながら私に近づいてきた。

「写真館の主人から、もう一人芸妓がいたほうがいいだろうと言う事で、連れてきました」

 山崎さんが写真館の主人の方をチラッと見ながらそう言った。

「写真を撮るのに時間がかるさかい、二人いたほうがええやろう思うたんや」

 写真館の主人は、カメラの手入れをしながらそう言った。

「ほな、さっそく始めよか。まずはどう言うものを撮りますか?」

「最初は一人で」

 中岡慎太郎はそう言ってカメラの前に座った。

 座った時にムッとした表情になった。

 なんか、ずいぶんと怖い顔をして撮るなぁ。

「どうせ撮るなら、笑顔で撮ったほうがいいと思いますが」

 思わずそう言ってしまった。

「最初はこれでいいんだ」

 中岡慎太郎は、ムッとした顔のままでそう言った。

 笑わせてやろうかしら。

 カメラを撮っている写真館の主人の後ろに立ち、変顔をしたり変な踊りをしたりしてみた。

 最初は我慢していたみたいだけど、とうとうこらえきれなくなったのか、中岡慎太郎はプッと吹き出して笑い始めた。

「ああ、動くと写真が撮れへん」

 写真館の主人がそう言った。

 この時代、現代のようにすぐ撮れるものではなく、二十秒ぐらいかかるので、それぐらい動かないでジイッとしていないといけないらしい。

 動いた場合は、写真は撮れない。

「撮り直しや」

 もしかして、悪いことをしてしまったか?

 そう思っていると、中岡慎太郎が立ち上がってこちらに向かって歩いてきた。

 もしかして、怒られるのか?

「確かに、どうせ撮るなら笑顔がいいだろう。ただ、最初は普通に撮らせてほしい。それから一緒に笑顔で撮ろう。楽しい写真になりそうだ」

 中岡慎太郎は、ニッコリと笑ってそう言った。

 怒られるかと思ったぞ。

 と言うわけで、最初は普通に一枚うつした。


 何枚か撮った後、私の他に来ていた芸妓さんと男の人と中岡慎太郎で写真を撮った。

 それを黙って見ているだけだと、潜入した意味がないので、何か情報を得ようと思い、色々なことを話しかけた。

「坂本龍馬はんと同じ出身地やそうですね」

 京に住んで三年たつけど、京言葉は、なかなか慣れない。

 その慣れない京言葉を一生懸命つかって言った。

「知っているのか? 龍馬を」

 そりゃ、有名な人じゃないか。

 と、言ったらばれそうなので、

「以前ごひいきにしてもろうたことがあるんです」

 と言ってごまかした。

「一緒に大きな仕事をしたって言うてましたよ」

 薩長同盟のことをそう言ったら、

「そんなことまで言っていたか」

 と言っていた。

 けど、その話はそこで終わった。

 中岡慎太郎と言う人は、とても頭のいい人みたいで、色々考えながら話をしているような感じがした。

 だから、ついうっかり口を滑らしてと言う事はなさそうだ。

 情報を仕入れることは難しそうだぞ。

 

 写真を撮り終り、次の写真を撮る間の時間があった。

 その時に逆に話しかけられた。

「お前は、今の日本をどう思う?」

 ま、お前に聞いても仕方ない質問だったな。

 と、その後につぶやいていた。

 すごいことを聞いてくるなぁ。

「今は、国の中で争っている場合ではないと思います。そんなことをしていると、ち……清のように日本は異国の植民地になってしまいます」

 山崎さんにひじで突っつかれ、小さい声で、

「言葉」

 と言われてから気がついた。

 思いっきり、京言葉を使わないで話していた。

 ばれたかも?

 恐る恐る中岡慎太郎を見てみると、驚いた顔をしていた。

 やっぱり、ばれたかもっ!

「女にしておくのはもったいない。なんで男に生まれなかったんだ?」

 中岡慎太郎にそう言われた。

 あれ?ばれてないかも?

「気に入った。次はお前と写真を撮りたい」

 そ、そうなるのか?

「いいか?」

 ここは、受けたほうがいいんだろう。

「喜んで」

 と言う事で、一緒に写真を撮ることになってしまった。


 写真を写してもらうので、写真機の向こう側に座った。

「ずうっと首も動かさないでいたので、首がつかれてきた」

 座った時に中岡慎太郎にそう言われた。

 確かに、数十秒動かないでいるのは疲れるだろう。

 それを何回かやったんだもんなぁ。

「腕を借りるぞ」

 そう言って、私の腕を肘をつくために置いてあった脇息きょうそくに置き、私の手に中岡慎太郎が顔をのせてきた。

 ええ、そうなるのか?

「ええ顔しとるで」

 写真館の主人がそう言いながら写真を撮った。

 後で気がついたのだけど、この写真、現代にも残っていたよなぁ。

 確か、一緒に写った芸妓さんは黒く塗りつぶされてたよなぁ。

 時代が違う私が一緒に写って大丈夫なのか?とか、色々考えちゃったけど、黒く塗りつぶされるのなら、いいか。

 せっかく有名な人と写したのに、なんか残念だなぁと思いながら、笑顔でおさまったのだった。


「結局、情報は何も得られませんでしたね」

 芸妓姿からいつもの姿に戻った私は、山崎さんと屯所に向かって歩いていた。

 山崎さんは、機嫌が悪そうな感じだった。

 いつも優しい笑顔を浮かべているのに、珍しいなぁ。

 何かあったのかな?

「あの……、何かあったのですか?」

 私が着替えている間とかに何かあったか?

 もしかして、私が悪いことをしたとか?

 恐る恐る山崎さんを見上げると、目があった。

「あ、すみません」

 なぜか山崎さんは謝ってきた。

「蒼良さんが悪いんじゃないのですよ」

 一応笑顔だけど、なんかこわばっているような?

「何かあったのですか?」

 もう一回聞くと、私から目をそらして、

「我慢できなかったのです」

 と言った。

 え?

 何が我慢するようなことがあったのか?

「蒼良さんの手に顔を近づけたあいつに、我慢が出来なかったのです」

 それって、中岡慎太郎のことか?

「私はまだまだ未熟者ですね。自分の気持ちを抑えることが出来ない」

 そ、そうなのか?

 なんか訳が分からないが……。

「山崎さんは、私より我慢できている人だと思いますよ。だから、潜入捜査とかまかせられるのですよ。私なんて、絶対無理ですもん」

 我慢強い山崎さんだから出来るんだろう。

「そう言う意味ではないのですが……」

 そ、そうなのか?

「でも、別にいいですよ。ありがとうございます」

 山崎さんは優しい笑顔に戻ってそう言った。

 なんかわからないが、少しはなぐさめることが出来たのかな?

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