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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年11月
301/506

たき火

 屯所の庭が落葉に埋もれそうになっていたので、掃除した。

 もう木に葉が無いので、これ以上落葉が増えることはないだろうと思い、やっと重い腰が上がって庭掃除をする気になった。

 って言うか、この屯所には、庭が落葉に埋もれても掃除しようと言う人間はいないのか?

 落葉は季語だぞ、多分。

 それを土方さんに言ったら、げんこつを落とされそうなので、やめよう。

 土方さんは、句集を作っておきながら隠したがるし、見せてくれないし、季語を言うと怒るし。

 それなら最初からつくらなければいいのに。

 本人、必死になって隠しているけど、現代で『豊玉発句集』でネット検索したら、全部出ているからね。

 くま手で落葉を一カ所に集めていると、

「はかどっているか?」

 という声が聞こえてきた。

 振り向くと、良順先生が立っていた。

「診察は終わったのですか?」

 今日は沖田さんの診察で来ていた良順先生。

「ああ、終わった。後でいいから、沖田君をなぐさめてやってくれ」

 ん?何かあったのか?

「病気が少しだが進行している」

 そ、そうなのか?

「天野先生から薬をもらったらしいが、間違えていたらしいね」

 そうなのだ。

 お師匠様のお弟子さんでお医者さんをしている人に私たちのことを話し、薬をもらってきたのだけど、そのお弟子さん、お師匠様の話を信じなかったらしく、とうとうボケたと思ったのだろう。

 出された薬は認知症の薬だった。

 私たちがほしいのは、認知症の薬じゃなく、結核の薬なんだけど。

 で、もちろんあれからお師匠様に会っていないので、多分、お師匠様も知らないだろう。

 こんな時にこそ、姿を現してほしいんだけど、変なときばかり姿を現すんだから。

「あの薬があれば、なんとかなるかもしれないんだがなぁ。わしにも作れないし。天野先生に文か何かは出したのか?」

 それが出来ればいいのだけど。

「お師匠様は、あっちこっちに移動して歩いているので、文を出しても届かない可能性の方が高いのです」

 せめて、一カ所にとどまってくれていればいいのに。

「そうか、仕方ないな。とりあえず、沖田君は今後も安静にさせておくように」

「わかりました」

 私の言葉を聞くと、良順先生は去っていった。

 と言っても、安静にしていないんだよなぁ、沖田さん。

 柱に縛り付けてやろうかなぁ。

 それとも、グルグル巻きにして天井からつるしてやろうか。

 それじゃあ、なんかのお仕置きになってしまうなぁ。

 布団と一緒に縛っておくのが一番いいかもしれないなぁ。

「蒼良」

 と、私を呼ぶ声と同時に、肩に両手を置かれた。

「うわああっ!」

 ちょうど、沖田さんのお仕置き……いや、しばりつけ方を考えていたから、沖田さんが後ろから来た時はものすごくびっくりした。

「そんなに驚くことないじゃん」

「す、すみません」

「変なこと考えてたんじゃないの?」

 な、な、なっ!

「なんでわかったのですか?」

「え、考えてたの?」

 えっ?

「僕、適当に言ったんだけど」

 そ、そうなのか?

「何考えてたの?」

 ちょっと意地悪そうな顔をして、沖田さんが聞いてきた。

 この顔の時の沖田さんって、言い逃れができないんだよなぁ。

「い、色々、そう、色々考えていたのですよ。落葉がこんなに集まったからどうしようかとか、色々ですよ」

「ふーん」

 そ、その顔は、信じていないな。

「ほ、本当ですよ。だって、こんなに山になっているじゃないですか、落葉」

 私の目の前には、落葉の山があった。

 その山に飛び込んでいも痛くないぐらい、落葉が積まれている。

「さ、さて、どうしたらいいのかな」

 ごまかしつつそう言うと、

「たき火でもしようか?」

 と、沖田さんが言ってきた。

 えっ、たき火?

「まさか、知らないとか?」

 た、たき火ぐらい知っていますよっ!

 ただ……。

「たき火していいのですか?」

 現代だと、条例とかがあって禁止されている場合もある。

 この時代だとそれはないと思うけど、ちょっとした火で火事になった日には、木と紙で出来ている家が多いから、すぐに火の海になってしまう。

 現に、浪士組で京に出てくるとき、芹沢さんが本庄宿と言うところで大たき火をして苦情が出た。

「大丈夫に決まってんじゃん。火をもらってくるね」

 沖田さんはそう言うと台所の方へ行ってしまった。

 本当に、大丈夫なのか?


 パチパチと音をたてながら落葉が燃えている。

「水はいらないと思うけどね」

 桶に入っている水を見て沖田さんがそう言った。

 沖田さんが火をもらいに行っている間に、私は火事になったら大変だと思ったので、井戸から水をくんできた。

 そして桶をそこに置いた。

「何かあった時は大変じゃないですか」

 火事になってからじゃあ遅いんだぞ。

「蒼良は心配性なんだから」

 そう言いながら、沖田さんは自分の横に置いてある落葉を火に入れる。

「少しずつ入れたら大丈夫だよ」

 沖田さんが落葉を入れると、再びパチパチと音をたてて燃えはじめる。

「沖田さんはたき火したことあるのですか?」

 慣れた手つきをしているから、やったことがあるんだろうなぁ。

「あるよ。蒼良も一緒にやったじゃん」

 えっ、やったか?

「芹沢さんと」

 ああ、あれか。

 あの時は私は止めたと思ったんだけど。

「けっこう楽しかったんだけどなぁ、あのたき火も」

 え、そうなのか?

「危なかったじゃないですか」

 火事になるって苦情が来たのも、もっともだと思うよ。

「お、たき火か」

 そう言って入ってきたのは、原田さんだった。

「庭の落ち葉がいっぱいだったので、集めたのです」

「左之さん、蒼良が心配性で、水まで用意しているんだからね」

 万が一ってことがあるじゃないかっ!

「蒼良は蒼良で、色々考えてんだよな、蒼良」

 そう言いながら、原田さんが私の頭をなでてくれた。

「ずるいな、蒼良」

 何がずるいんだ?

「総司も頭をなでてほしいか?」

 原田さんがふざけ半分でそう言った。

「いや、左之さんがずるい。蒼良の頭をなでて」

 沖田さんは何が言いたいんだ?

「あ、そうだ。八木さんから芋もらったから、この中に入れて焼こうか」

 原田さんは風呂敷包みを出してきた。

 その中から芋が顔を出していた。

「美味しそうですね。早速入れましょう」

 私が芋をもらい、洗いに行こうとしたら、

「蒼良、芋持ってどこに行くの? もしかして、一人で食べる気じゃあ?」

 沖田さんがそう言ってきた。

 こんなたくさんの芋を一人で食べるわけないだろう。

「洗いに行くのですよ」

「必要ないだろう。どうせ皮むいて食べるんだから」

 原田さんが私から芋を取ると、一つずつ、たき火の中にいてて、落葉をかぶせた。

 え、いいのか?

「落葉がこれで足りるかなぁ?」

 沖田さんが自分の横にある落葉の山を見て言った。

 確かに、さっきよりかなり減ってきている。

「西本願寺の方の落葉も集めれば大丈夫だろう」

 原田さんが何事もないようにそう言った。

「大丈夫ですかね? 西本願寺の方に行って」

 というのも、西本願寺は新選組が嫌いなんだけど、仕方なく寺を使わせてやっている状態だ。

 だから、西本願寺側と新選組側で区切るために敷地内に柵がある。

 この柵をこえて何かをやった日には、ものすごく怒られるのだ。

 土方さんが。

 そのとばっちりが私に来るんだけど。

「ばれなきゃ大丈夫だろう」

 原田さんがそう言った。

 確かに、ばれなければいいんだけど、なぜかばれちゃうんだよなぁ。

「じゃあ、蒼良、お願いね」

 沖田さんが、私の肩に手をのせて言った。

 えっ、私か?

「僕は、良順先生から安静にしているようにって言われているから、西本願寺まで落葉を取りに行けないし、左之さんは芋を見ないといけないし」

 そ、そうなのか?

 って、こういうときだけ進んで安静にしようとする沖田さんもどうなの?

 しかも、西本願寺までって言うけど、すぐそこだからね。

「蒼良、俺も行くから」

 原田さんが優しくそう言ってくれた。

「総司、芋を頼んだぞ。蒼良、行こうか」

 と言う事で、原田さんとくま手をもって西本願寺へ行くことになった。

「ずるいや」

 という沖田さんの声が聞こえたような気がしたんだけど、何がずるいんだ?


 西本願寺に入ると、木があるところまで行って、素早くくま手で落葉を集めた。

 だって、見つかると大変なんだもん。

 それにしても、西本願寺は毎日掃除をしているから落葉はないだろうと思ったけど、意外とあるものだな。

「落葉を掃除してやっているのに、見つかると怒られるって、納得いかないよな」

 原田さんはそう言いながら落葉を集めていた。

 確かに、原田さんの言う通りなんだけど。

「納得いかなくても、怒られちゃうんだから、仕方ないですよ」

「そうだな。とにかく見つからないように素早くやろう。そう言えば蒼良はこの前、寺の中掃除させられてたよな」

 そうなのだ。

 私が西本願寺に潜入して見つかっている回数が多いので、罰として掃除させられたのだ。

「今見つかったら大変だよな」

 今度は何をさせられるか、わかったもんじゃない。

「勘弁してくださいよ」

 私がそう言うと、原田さんが笑っていた。

 いや、笑いごとじゃないから。

 でも、もうちょっと悪いことをしたら、不動堂に屯所を早く建ててくれるかもしれないぞ。

 と、一瞬思ったけど、その前にまた罰で掃除させられそうなので、やめた。


 なんとか見つからずに落葉を集めてきた。

「これぐらいあれば足りるね」

 沖田さんも、落葉の山を見て満足していた。

 沖田さんと原田さんは、木の棒で落葉を混ぜたり、芋を突っついたりしていた。

 私は、

「たき火って、温かいですね」

 と言いながら火にあたっていた。

「蒼良、焼けちゃうよ」

 沖田さんが楽しそうにそう言ってきた。

「温かいから焼けてもいいんです」

 と言ったら、原田さんが

「蒼良が焼けたらこっちが困る」

 と言って笑っていた。

 何が困るんだろう?


 それから芋も焼けたので、三人で

「熱いっ!」

 と言いながら皮をむいて食べた。

 芋は甘くてとっても美味しかった。

 あまりは、台所に寄付をした。

 たき火の跡に念のため水をかけたら、

「蒼良は本当に心配性だね」

 と、沖田さんに言われてしまった。

「だって、消えていると思ったら、消えてなかったと言う事がありそうじゃないですか」

 これが原因で京が火の海になった日には、後悔しっぱなしになるからね。

「そうだな。これで火事になったら、奉行所へ連れてかれるからな」

 原田さんもそう言いながら水をかけてくれた。

 ん?奉行所?

「なんで奉行所なのですか?」

 思わず聞いてしまった。

 火消しのところじゃないんだ。

「だって、罰を受けないとね」

 沖田さんがそう言った。

 そりゃそうだよね。

 火の海にして、ごめんねじゃすまないよね。

「どんな罰を受けるのですか?」

「放火じゃないから、押込おしこみだな」

 えっ、おしこみ?

「蒼良、知らないみたいだよ」

 沖田さんがそう言うと、原田さんが説明してくれた。

 説明によると、自分の家から出られないようにして、家に閉じこもることだ。

 そんな刑があるんだぁ。

「でも、うちの隊の場合は、士道不覚悟で切腹だね」

 沖田さんは普通にそう言った。

 そ、そうなのか?

 切腹は嫌だぁっ!

 桶ごと持ち上げて落葉に水をかけたら、沖田さんが

「大げさなんだから」

 と笑っていた。

 だから、笑いごとじゃないからね。


「お前、西本願寺に入っただろう?」

 その日の夜、土方さんが突然そう聞いてきた。

「えっ?」

 思わず聞き返してしまった。

「入ったんだな?」

 な、なんでばれたんだ?

「入ったな」

「なんでわかったのですか? もしかして、西本願寺から?」

「苦情か? 来たぞ」

 そ、そうなのか?

 なんでばれたんだ?

 どこかに防犯カメラか何か仕込んでいるのか?

 って、この時代にはまだないよね。

「落葉が無くなっているってな。庭に落葉が無くなって綺麗になったんだからいいだろうって言ったら、落葉もあれで飾りになっているなんてばかなことを言ってきやがった」

 そ、そうなのか?

 あ、でも、庭を魅せるためにわざと落葉を残すって話は聞いたことがあるような気がする。

「要は、西本願寺側は俺たちを気にくわねぇから、何か見つけて文句を言いたいんだろ」

 そうなのか?

「それなら、もっと悪いことをして、屯所を別に作ってもらいましょうか?」

 それなら、早いほうがいいよな。

「ばかやろう。そんないい話があるわけねぇだろが」

 土方さんにげんこつを落とされそうになったので、あわててよけた。

 そんないい話があったるするのですよ、この先に。

 でも、言っても信じてもらえそうにないな。

「いいか、今回が許すが、次はまた寺掃除だからな」

 え、そうなのか?

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