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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年5月
30/506

土方さんの誕生日

 5月になった。まだ大坂にいる。いつ京に帰るのだろう。


 5月と言っても、旧暦で5月なので、現代でいうと6月になる。梅雨の季節だ。

 5月…何かあったよなぁ…。新選組関係?池田屋は来年でしかも6月だし…。何かあったような感じがする。本で読んだ記憶がある。人物紹介みたいなページだったかな?ということは、誕生日か何か?

 あっ!思い出した。土方さんの誕生日。5月5日だ。こどもの日だったなぁって記憶があるので間違いない。


 この時代は、お正月にみんなで年と取るようになっているから、誕生日なんて関係ないかもしれないけど、でも、その人だけの特別な日だから、お祝いしても文句言われないよね。

 さて、何しようかなぁ。あ、プレゼントも用意しないと。

 プレゼント、何にしよう?そもそも土方さんって、何が好きなんだろう?

「ああ、沢庵だよ。橋本家で漬けた沢庵が気に入って、樽ごと持って帰ったことがあったよ。」

 源さんに聞いてみたら、そういう答えが返ってきた。

「橋本家で付けた沢庵?」

「そう、親戚関係なんだけどな。」

「親戚ということは、江戸ですか?」

「多摩だな。」

 大坂から江戸かぁ…。お取り寄せなんてできないよね。江戸時代だもの、無理だよ~。現代なら、ネットで取り寄せて配達してもらえるのだけど。

 橋本家に行くまでに2週間以上かかるし、帰るのも2週間以上。月が変わるし、もうそれは誕生日プレゼントじゃない。

「他には何かないですか?」

「う~ん、あまり聞かないなぁ。女ぐらいかなぁ。」

「お、女…。」

 私の小指にリボンつけて、プレゼントはわ・た・し。なんてやったら、絶対怒りそうだしなぁ。いや、怒りを通り越して、斬られるかもしれない。っていうか、私も自分がプレゼントになるのは遠慮したいわ。

「他には?」

「他かぁ…なんでそんなこと聞くんだ?」

 逆に源さんに聞かれてしまった。

「いつもお世話になっているから、土方さんの誕生日に贈り物をしようと思って。」

「誕生日?」

 やっぱり、この時代は誕生日という言葉が浸透していない。

「生まれた日ですよ。」

「ああ、そんなの、正月にみんなで祝うだろう。」

「でも、せっかくだから、生まれた日を祝したいじゃないですか。」

「そういうものなのか?」

「そういうものです。」

 困ったなぁ。贈り物が思いつかない…。

 本人にさりげなく聞いてみようかな。


 大坂では、源さんと土方さんと私の相部屋だった。

 という訳で、土方さんと話する機会は山ほどあるわけで、早速聞いてみた。

「欲しいものか?」

「ありますか?」

「ないな。」

「何もないのですか?」

「ない。」

「じゃぁ、願い事は?」

「願い事か。近藤さんが上に立つ組織を作って大きくすることかな。」

「それは、叶うまでに時間がかかるじゃないですか。もっと簡単なものがないですか?」

「お前、何企んでる?」

「えっ、いや、何も。」

「何か企んでるな!じゃなきゃ、こんな変な質問しないだろうがっ!」

 結局、怒られてしまった。


 ああ、プレゼント、何がいいのだろう…。そもそも、男の人って、何をもらえると嬉しいのだろう?


 悩んでいると、斎藤さんを見かけた。

「斎藤さん。」

 呼びかけると、こっちを振り向いた。

「なんだ。」

「贈り物をもらえるとして、何をもらいたいですか?」

「刀だな。」

「刀…。」

「どうせもらえるなら名刀がいい。」

「名刀というと?」

大包平おおかねひら

「おおかねひら?」

「お前には分からんだろう。」

 はい、わかりません。

 あとで調べてみると、なんと、日本刀の両横綱に例えられるぐらいの名刀でしかも国宝。

 東京国立博物館が所蔵しているらしい。って、そんな高価で貴重なものをどうやって手に入れるんだっ!

 刀、却下。


 で、結局何がいいのだろう。また振り出しに戻ってしまった。

 そして、また悩んでいると、沖田さんを見かけた。

「沖田さん。」

「あ、蒼良そらなに?」

 沖田さんは、微笑みながら近づいてきた。

「贈り物をもらえるとして、何をもらいたいですか?刀以外で。」

 刀はダメだ。また手に入らないような名刀の名前を出されたら、かなわない。

「ん?贈り物ねぇ…。蒼良、誰かに贈り物でもするの?」

「土方さんに。いつもお世話になっているから。」

「そういえば、土方さんの誕生日が近いよね。それで?」

「そうです。源さんに言ったら、お正月にみんなで一緒にお祝いするからいいんだって言われましたけど、誕生日は、その人だけの特別な日じゃないですか。」

「だから、お祝いしたいと。」

「そうそう。」

「なるほどねぇ。土方さんに…。何がいいんだか。あ、俳句を作っているから、その俳句が少しでも上手くなるように、うまい人の俳句の句集は?」

「うまい人って、誰ですか?松尾 芭蕉とかですか?」

「松尾 芭蕉?」

「俳人ですよ。有名な。おくのほそ道を書いた人です。江戸から東北の方とか俳句を作りながら旅行した人です。」

「ごめん、その手の話は興味ないから、全然知らないんだ。でも、土方さんなら知っているかも。それでいいんじゃない?」

「でも、土方さん。俳句作っているのを見られるの嫌がるから…。」

「だから、贈ってやるっていうのも手かもね。」

 いや、絶対に怒られるだろう。嫌味かっ!って。

「あ、矢立はどう?」

 突然、沖田さんが言い出した。

「やたて?」

「もしかして、知らない?」

「はい。」

 なんだろう?

 という訳で、矢立というものを見に、沖田さんがお店に連れていってくれた。


 矢立というものは、今で言うと、筆箱のようなものだ。

 墨を入れる小さな壺のようなものがあり、それに筆がささっている状態。いつでもどこでも持ち歩き、何か書きたくなったら、紙さえあれば書くことができるという。なかなか便利なものだ。

「ところで、蒼良は、お金あるの?」

「ありますよ。大丈夫です。」

 この前、深雪太夫のストーカー事件の時に、置屋のご主人が、

「あんさんが花魁になったときに稼いだ分や。」

 と言ってお金をくれたのだ。

「もしかして、借りたとか?」

「沖田さん、借りたら、隊規違反になりますよ。」

 確か、勝手に金策をしてはいけないのだった。

「じゃあ、なんであるの?」

「ちょっとしたお仕事をしたときにもらったのです。」

「ふーん。」

 そんなことを話しながら、矢立を選んだ。

 値段的にもデザイン的にも無難なものを選んだ。

 

 京屋に帰り、土方さんと相部屋なので、見つからないように隠した。

 しかし、思いもかけない形で、その矢立が見つかってしまうのだった。

 

 事の出来事は、土方さんはどこかに行っていて、夜遅くに帰ってきた。

 遅かったので、私と源さんで先に寝ていた。当然、真っ暗だ。

 ゴソゴソっと部屋に入っている気配がしたので、土方さん、帰ってきたなぁと、寝ぼけながらに思っていた。

 土方さんは、何かを探していたのだろうか?荷物を開けていたけど、真っ暗なのでわかりずらい。

 そして、ゴロッと、何か物が出てきた音がした。

「ん?矢立か?」

 土方さんのそのつぶやきで私は飛び起きた。

「わっ!それはダメですっ!」

 土方さんから矢立を取り上げた。

「おっ、お前っ!いきなりびっくりしただろうがっ!」

「だって、それよりなんで矢立が出てくるのですかっ!」

「それは、俺が知りたいわっ!」

 土方さんは、自分の荷物を思っていたら、間違って私の荷物をあさっていたらしい。せっかくサプライズで用意していたのに…。

 でも、ちょっと待てよ。寝たときは4日だったから、12時過ぎていたら、5日で土方さんの誕生日になるぞ。

「今、なん時…なんときですか?」

 この時代、時なんて言わないのよね。刻と言う。しかも、太陽が出る時と合わせて時間を合わせているので、夏至と冬至の時とでは、時間の進み方も違ってくるらしい。

「夜九つぐらいかな。」

 夜九つは、1刻が2時間で、日が暮れる夜の6時ぐらいが暮6つで、それから3刻たっているから、3刻×2時間で6時間。

 ということは、ちょうど0時?日付が変わってる?変わっているよね。

「土方さんっ!お誕生日おめでとうございますっ!」

「はあ?なんだ、誕生日って。」

「生まれた日ですよ。」

 土方さんも、正月に歳をとるんだから祝うのは正月タイプなんだろうな。

「なんでそんなもん知ってんだ?」

「本に出ていたのを思い出したので。」

「ほん?」

 あ、またやってしまったか?

「あ、いえ、勘です。今日が誕生日なんじゃないかなぁって。ほら、端午の節句の日だし、土方さんにピッタリ。」

「うそつけっ!源さんにでも聞いたのだろう。」

 そういうことにしておこう。

「で、いつもお世話になっているので、これ、ほんの気持ちです。」

 昼間買い、さっき予想外に転がり出た矢立を差し出した。

「俺にか?」

「はい!」

「ありがとう。何か気味悪りぃなぁ。」

「なんでですかっ!」

「何か企んでんだろう?」

「何も企んでないですよ。」

「あっ!お前っ!これを買った金はどう工面したんだ?まさかっ、隊規にそむいたりはしてないよな?」

「正々堂々と働いた私のお金です。」

 深雪太夫の事件の話をしたら、納得してくれた。

「そういうことだったのか。それなら、俺にではなく、自分に何か買ったらよかっただろう。」

「でも、誕生日だから、贈り物したかったのです。」

「そんなもの、正月に祝えばいいだろう。」

 やっぱり、正月タイプだ。

 そんなことを考えていると、頭にポンッと手が乗せられたような感じがした。

「ありがとな。」

 やっぱり、プレゼントしてよかったなぁ。


 ちなみに、夜にちょっとした騒ぎになっていたのに、横で寝ていた源さんは気がつかなかった。一時は死んでんじゃないか?と土方さんが言い出し、息しているか見ていたけど、ちゃんと息をしていた。

 そして、朝、爽やかに起きた源さんの姿があった。

「昨夜?全然知らんな。何かあったのか?」

 源さん、何かあったとき大丈夫なんだろうか?

 

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