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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年4月
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家茂公下坂

「21日、家茂公が下坂することになり、その道中の警護をすることになった。」

 近藤さんが嬉しそうに報告した。

 下坂というのは、大坂に行くということ。大坂に行って摂海巡視せっかいじゅんしするらしい。簡単に言うと、大坂湾を視察するということ。

 やっと家茂公のために働けるとあって、近藤さんはとても喜んでいる。

「あの羽織を着るのか?」

 土方さんは、ちょっと不満そうに言った。

「着るに決まっているじゃないですか。し…壬生浪士組を世の中に知らせるいい機会ですよ。」

 危うく、新選組というところだった。

「土方さんは、羽織を着たくないのでしょ。」

 沖田さんが、にこやかに言った。

「あんな派手なの着れるか。」

「あれぐらいしないと、目立たないじゃないですか。」

「蒼良、なぜ目立つ必要がある。」

「なぜと言われても…。」

 あの羽織がトレードマークみたいなものだし。

「せっかくの機会だ。歳もちゃんと羽織を来て、きちんとしないとな。」

 近藤さんのその一言で、土方さんも納得したらしい。さすが近藤さん。


 21日が近づくに連れて、隊内はそわそわした忙しさと、ワクワクした嬉しさに包まれた。

「この前大坂に行ったけど、観光が全然出来なかったからなぁ。有名な所ってどこだろう。」

 ひとりごとで言っていたら、

「遊びに行くんじゃないんだぞっ!」

 と、おなじみの怒鳴り声が聞こえた。

「せっかく大坂に行くのだから、楽しまないと損ですよ。」

「公務なのに、何を楽しむんだ、ばかやろう。」

 やっぱり、羽織を切るのが嫌なのか、不機嫌な土方さんだった。


 いよいよ21日になった。

 会津藩の人たちと一緒に、道中を警護することになった。

 例のダンダラの羽織を20人ぐらいで着て、大坂まで警護をした。とても目立つみたいで、道中の色々な人に注目をされた。

 私は、本物の羽織を着て本当に警護しているのが何か信じられなかった。将軍家茂も有名な人だし、直接見てはいないけど、同じところにいることにすごいと思った。普通の人だと体験できないだろうなぁ。タイムスリップしたかいがあったというものだ。


 大坂に入ると、家茂公は大坂城に。私たちは、大坂八軒家の一つ京屋と言う船宿に泊まった。大坂八軒家というのは、船宿が8軒あると言う単純な意味。船で大坂に入れるところなので、物流がとても便利ということで、人の往来もあり、賑やかな場所だった。


 その夜は、初めての公務を全うできたということで、みんなで宴会になった。

 もう飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎだ。芹沢さんが暴れないか心配になったけど、この時もまだ酒乱ではなかった。

 窓の方を見ると、土方さんが一人でたたずんでいた。

「土方さんは、飲まないのですか?」

「俺は、あまり酒は好きではない。蒼良は?飲んでないようだが。」

「飲酒は、お師匠様から禁止されています。お酒飲んだ日には破門されてしまうので。」

「天野先生は、お前に禁酒を命ずるとは、いいことだ。」

「それは、どういう意味ですか?」

「お前が酒飲んで酔っ払った日には、暴れそうだからな。」

 私は芹沢さんかっ!

「あ、そうだ。せっかく大坂に来たのだから、鴻池さんのところに挨拶に行こう。」

「そうですね。鴻池さんのおかげで羽織ができたようなものですからね。」

「やっぱり、あの羽織派手だよな。でも、みんなで着ると、なかなかいいものだな。」

「あ、やっと気に入りましたか?」

「気に入ってはいない。派手だからな。でも、いい宣伝にはなる。大坂では隊士も募集しようと思っているからな。」

「人が集まるといいですね。」

 きっと集まるだろう。

「おい、蒼良と土方さん、そんなところで何やってんだ?夜はこれからだぞ!飲むぞっ!」

 すっかり出来上がっている永倉さんが呼びに来た。

「永倉さん、すっかり酔ってるじゃないですか。」

「俺は、よっとらんぞ!」

「酔っぱらいは、たいていそう言いますよ。ほどほどにしておかないと、明日起きれませんよ。」

「明日は、ゆっくり休むといい。当分大坂にいることになるからな。今日は飲めるだけのんどけ。」

 そう言いながら、土方さんは永倉さんにお酒を注いだ。

 大丈夫かなぁ…。

 案の定、次の日は、二日酔いでほとんどの人が動けなかった。しかし、この人は元気だった。

「みんな飲みすぎだよ。」

「なんで沖田さんは元気なのですか?」

「僕は、ほとんどのんでないから。蒼良も飲んでなかったね。」

「お師匠様から禁酒を言われているので、飲んでません。」

「蒼良の酔っ払った姿も見てみたかったなぁ。」

 私は見世物かっ!


 前日に土方さんに言われていたので、一緒に鴻池さんのところへ行った。

 そこで、カステラを出された。

「わぁ、カステラだぁ。」

 ずうっと和菓子系のものばかり食べていたので、こういう洋風のものが恋しくなっていたところに出されたので、嬉しかった。

「蒼良はん、知っとったか。知らん思うてたけど。」

「蒼良は、天野先生に色々教わっていたみたいで、色々なものを知っている。異国の言葉もしゃべれるしな。」

「ほほう、天野先生に?」

「えっ、知っているのですか?」

「知っとるも何も、よう世話になっとる。」

 お師匠様、どんだけ顔が広いんだか。

 そんなことを思いながら、カステラをいただいた。

「んんー。美味しい。」

「そんなに美味しいか?俺は甘すぎてなんか好かん。」

「ま、色々ですな。このカステイラは長崎の福砂屋ふくさや言うとこから買ったんや。」

「福砂屋って、有名じゃないですか。」

「蒼良はんは知っとったんかい?」

「コウモリのマークで有名ですよ。」

「こうもりのまあく?」

 あれ?まだこのマークじゃなかったのか?

 後で分かったのだけど、このコウモリのマークは、明治時代から使われたものらしい。またやってしまったわけだ。

 ちなみに、中国で桃と並んでコウモリは縁起のいいものだったので、マークに使用したらしい。

「こいつ、たまに変なこと言うので、気にしないほうがいい。」

 普段なら土方さんのその一言に食いついていたけど、今は、誤魔化せると思い、感謝した。

「そういえば、噂に聞いたで。変わった羽織を着て来とか。」

「そうなんです。ダンダラ模様の羽織。あれ、鴻池さんのおかげで出来たので、お礼を言いに来ました。」

「ああ、例の200両か。あれは会津藩が出したんやろうが。」

「でも、鴻池さんのおかげです。ありがとうございます。」

「いえいえ、どういたしまして。蒼良はんは、ほんまにおもろいなぁ。」

「こいつのこの性格は、今出来上がったものでもないらしい。」

 土方さん、それはどういう意味だっ!


 鴻池さんの家を訪ねた後、あっちこっちに隊士募集のことを書いた紙を貼った。もちろん、印刷ではなく、1枚1枚手書きだ。

 これで隊士がどれぐらい増えるのだろう。すごく楽しみになってきた。


 2~3日後ぐらいに、家里 次郎さんという人が切腹した。

 この人は殿内さんたちの仲間で、殿内さんが殺されたあたりに自分も危ないと思ったのか、脱隊していた人だ。

 なんで脱隊している人がこんなところで切腹かというと、運悪く芹沢さんたちに見つかったらしい。

 隊規に、脱隊したら切腹となっているので、隊規通り切腹になった。

 これで、壬生浪士組内の派閥が3派あったのが、芹沢派と近藤派の2派になった。

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