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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年4月
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黒谷本陣で稽古披露

 前日に会津藩から稽古を見せてほしいと依頼が来た。

 急に来たことなので、稽古を披露する組み合わせを考えるのが大変そうだった。

 もちろん、その組み合わせに私は入っていない。私より強い人はたくさんいるし、下手に歴史に名前を残すことになってもいいのか不安だったので、ホッとした。

 しかし、私と同じく、稽古披露にでられないこの人は違った。

「なんで俺の名前がないんだよ。俺も出たかったなぁ。」

「原田さん、次の機会がきっとありますよ。」

 原田さんは、とっても悔しがっていた。

 

 次の日、黒谷本陣へ。黒谷本陣と呼ばれているところは、京都守護職のあるところで、光明寺と言うお寺だ。黒谷と言うところにあるから、黒谷さんとも呼ばれていた。

 稽古披露に出る人たちは、緊張感の中にも選ばれたという自信があり、胸をはって堂々としていた。

 私と原田さんは、会津藩の人たちと一緒に見ることになった。

 近藤さんと芹沢さんは、説明をするためか、会津藩主である松平まつだいら 容保かたもり公の隣に座っている。まさに特等席だ。


 今回は、稽古披露ということなので、勝ち負けの勝負を決めるものではない。でも、相当苦労して考えた組み合わせなので、見るのがとても楽しみだ。でも、やっぱり、原田さんは悔しがっていた。


 最初の組み合わせは、土方さんと藤堂さんだ。

「誰が考えたのか知りませんが、面白い組み合わせですね。」

「俺は、その中に入りたかった。」

「原田さん、大丈夫ですよ。次は入れますよ。」

 ところで、次はあったっけ?本を読んだ記憶をたどってみたけど、あったかどうかはわからなかった。

 藤堂さんは、構えた刀をブラブラ揺らしていた。

「やっぱり、刀を揺らすのですね。」

 一度対戦をしたことがある。最初見たときは、なんで刀を揺らすのだろう?と不思議に思った。

「北辰一刀流は、みんなこういう構えだよ。」

「そうみたいですね。山南さんが言ってました。」

 剣を揺らすことで、次の攻撃に素早く移せること、そして、相手に次の攻撃を読まれないようにする目的がある。ちなみに、名前は星眼せいがんというらしい。

「北辰一刀流と、天然理心流の対戦ですね。」

「でも、土方さんは、行商で色々な道場を回っていたらしくて、色々な癖が付いているから、免許皆伝は難しいって、近藤さんが言ってたぞ。」

 そうなんだぁ。でもこの前、ストーカー事件の時は、素早く駆けつけて相手を切っていた。

「土方さんの剣は、道場向きじゃなく、実践向きかもしれないな。」

 原田さんの言うとおりかもしれない。私があの時見たものは、弱い剣ではなかった。


 次の組み合わせは、永倉さんと斎藤さんだ。

「次は、神道無念流と小野派一刀流の対戦だ。」

 最初は悔しがっていた原田さんも、ここにきて楽しんでいるように見える。よかった。

 斎藤さんが構えると、場内がどよめいた。今では左利きでも個性のひとつとして認められているけど、この時代は、左利きだと認められないところが多い。斎藤さんも左利きを認めてくれる道場をそうとう探し回ったのに違いない。

「斎藤は、左利きだからなぁ。新八もやりにくいだろうなぁ。」

 左利きだと、相手と向き合ったときに鏡を見ているような感じになる。それゆえに取っ組みにくい相手になる。近藤さんは、それがこちらの優位になるという考えているらしい。そういう考え方のできる近藤さんは、やっぱりすごいと思う。

 永倉さんの神道無念流は、江戸の三大道場と呼ばれている道場のひとつだ。ちなみに藤堂さんや山南さんの北辰一刀流も、その一つになる。

 芹沢さんたちも、永倉さんと同じ流派になる。

 斎藤さんの小野派一刀流は、様々な分派があり、この流派も小野家と言う家の系統を受け継いだ一刀流ということになる。

 ちなみに、現在の警視庁の武道専科生はこの流派らしい。


 次の対戦は、平山さんと佐伯さんだ。平山さんは芹沢派の人で、花火の事故で左目を負傷して右目しか見えない。でも、そんなことは全然感じない剣だ。

 流派は永倉さんと同じ神道無念流。

 佐伯さんは、名前を佐伯 又三郎と言って、斎藤さんが壬生浪士組に来たとき辺りに入った人だ。出身は、江戸だか長州だとか言われているけど、よくわからない。

 よって、流派もわからない。分かっているのは、芹沢さんの近くによくいる人だなぁってぐらい。

「芹沢さんの腰巾着対決ですね。」

蒼良そら、うまいこと言うな。」

「だって、二人とも芹沢さんにべったりじゃないですか。」

「そりゃそうだ。相手が女ならともかく、男にべったりはごめんだな。」

 男同士のべったりって、どうなの?やっぱり嫌だなぁ。


 次は山南さんと沖田さん。

「これも、北辰一刀流と天然理心流だな。誰が組み合わせ考えたんだろうな。」

「北辰一刀流と天然理心流で戦わせたかったのではないですか?」

「そうかもしれねぇな」

 山南さんは北辰一刀流。やっぱり剣先を揺らしている。

 沖田さんは天然理心流。その腕は、19歳で免許皆伝という腕前。沖田さんの得意技の三段突きなんて、3回突いているはずなのに、足音とか1回しか聞こえない。それだけ素早く3回突くと言うことは、まさに天才の神業。

 でも、沖田さんが稽古しているところ、あまり見たことないんだよなぁ。やっぱり天才だからかな。

 そんな話を原田さんにしたら、

「小さい頃に近藤さんのところに預けられたらしいから、その分苦労していると思うぞ。」

「やっぱり、天才は99%の努力と1%の才能だから、沖田さんは早くから努力していたのですね。」

「なんだ、99ぱあせんとって。」

 あ、%って、この時代には絶対なかったな。またやってしまった。

「沖田さんの天才の能力が100個あるとして、99個が努力で成り立って、1個が才能と言う意味ですね。」

「天才の能力が100個もあったら大変だろう。大天才だ。」

 いや、とらえかたがちょっと違うような…。


 次は川島さんという人の棒術。川島さんの名前は川島 勝司と言って、やっぱり最近入ってきた人だ。私もあまりよく知らない。

 棒術とは、長いものを武器として使う武術のことで、槍という棒術を使う原田さんが、

「これなら、俺の方がうまいぞ。なんで俺が出れねぇんだよ。」

 と、再び悔しがっていた。

「大丈夫です。次があります。」

 私もそう言って慰めたけど、次があるかどうかはわからない。多分、ない確立の方が高いかも。


 最後は、佐々木さん同士の柔術。佐々木 愛次郎さんと、佐々木 蔵之丞さんと言う名前で、二人とも最近入ってきた人だ。よって、私もよく知らない。

 佐々木 愛次郎さんという人は、新選組の美男五人衆の一人として本で読んだことがある。確か、恋愛関係で芹沢さんと何かあったような…。

 でも、さすが美男五人衆の一人というか、キリッとしていてかっこいい。生で見れた私は幸せ者かもしれない。現代で見たことあるなんて人はいないだろう。

 柔術とは、棒術と反対で、短いものを武器として戦う武術。例えば素手とか。今で言う柔道なんかは柔術なのかもしれない。


 とりあえず一通り見た。何か見ているだけでもお腹いっぱいになりそうな、そんな稽古披露だった。

「出たかったけど、見ているのも楽しかったな。」

「こんな試合、めったに見れませんよ。よかったですね。」

「でも、俺は出たかった。」

「次がありますよ。」

「蒼良は、さっきからそればかり言っているが、本当に次があると思ってるか?」

 いや、思っていないです…。バレたか。

「おまえ、このやろうっ!」

 突然、原田さんに頭を抱え込まれ、げんこつでグリグリっとやられた。

「い、痛いです。」

「あれ、なんかお前、髪の毛からいい匂いがするな。」

「えっ、そうですか?」

 この時代に来てからシャンプーで髪の毛を洗っていない。そもそも、シャンプーなんていう代物がない。

「原田さんの気のせいじゃないですか?」

「そうかもな。」

 なんの匂いかは知らないけど、原田さんのグリグリ攻撃から開放されたので、よかった。

「でも、野郎からただよってくる臭いとは違うな。」

 えっ、そんな匂いがあるのか?

「原田さんは、犬みたいですね。」

 と私が言ったら、またグリグリ攻撃をされそうになったので、逃げた。

 危うく、匂いで女だとバレそうだった。って、匂いでそんなことがわかるのか?

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