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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年5月
265/506

長州へ

 いよいよ長州へと旅立つ日が来た。

 大坂まで行き、大坂で鴻池家の人と幕府の永井殿と言う人と待ち合わせをしている。

 そこから広島藩に行くことになってる。

「大坂ぐらいなら、一人でも大丈夫ですよ」

 土方さんは忙しいのだから、大坂までなら一人で行くと言ったのだけど、

「一日ぐらいお前のために使っても大丈夫だ」

 と言って、大坂まで土方さんと一緒に行くことになった。

「いいか、ぜったいに女だとばれるなよ」

 今回の旅は、広島まではいつも通りの男装で行き、広島から長州へ入るときに女装をすると言う計画になっている。

 もちろん、今回同行する人たちにも、私が女だと言う事は秘密だ。

「大丈夫ですよ。いつも通りにすればいいのですよ」

「それが一番心配なんだ」

 そ、そうなのか?

「お前のことだから、宿に温泉があると入るだろう」

 そりゃ、もちろん。

「それがだめなんだ。そんなことしてばれたらどうすんだ?」

 そう言われてみると、そうだよなぁ。

「今までは、誰かしらお前のことを知っているやつがいたが、今回はいないのだぞ」

 あれ?

「伊東さんを連れて江戸から京に帰るときは、みんな私のことを男だと思っていましたよ」

 あの時は、最悪なメンバーだったよな。

「でも、隊士がいただろう」

 確かに。

「今回は、全員他人だからな。心配だ」

 そんなに心配なのか?

「それなら、土方さんも一緒に長州へ行きましょうよ」

「それが出来ねぇから、こうやって心配しているんだ、ばかやろう」

 いや、ばかやろうは余計だろう。

「いいか……」

 というわけで、また最初からの繰り返し、女だとばれないようにしろから話が始まるのだ。

 もうこれで何回目になるのだろう。

 それだけ心配だと言う事なのだろう。


 大坂に着き、鴻池家の人と、永井殿に会った。

 鴻池家の人は一人だったけど、永井殿は幕府でもそれなりの身分の人なんだろう。

 自分の使用人なのか?そんなような感じな人を五人ぐらい連れていた。

 土方さんに、

「なんでそんなに連れて歩くのですか?」

 と聞いたら、

「身の回りの世話をさせるのだろう?」

 と言っていた。

 そうか、それなりの身分になると、使用人がつくんだなぁと、改めて実感したのだった。

 だって、私の身近にそんな人がいなかったんだもの。


 今回の旅は、大坂から山陰道を通って広島まで行く。

 だいたい六日ぐらいかかるらしい。

 歩いて行くからこんなにかかるんだろうなぁ。

「近藤さんとかは船で帰って来ましたが、船で行くことはできないのですか?」

 船で二~三日ぐらいで帰ってきたけど。

「潮の流れと言うものがあるだろう。それに、船は金が高い」

 そ、そうなのか?

「近藤さんはお金持ちだったのですか?」

「ばかやろう。船借りるほどの金がねぇのは見ればわかるだろう」

 それは、近藤さんに失礼だろう。

 私もそう思いつつ聞いたのだけど。

「あの時は、たまたま幕府の人間がいたから一緒に乗ってこれたんだ」

 あ、そんなようなことを言っていたよなぁ。

 とにかく、行きは歩きなんだな。

 それは納得した。

 しばらくみんなで歩くと、街道の入り口にさしかかった。

「俺は、ここまでだ」

 土方さんが立ち止まってそう言った。

「いいか、無事に帰って来いよ」

 私の頭をぐしゃぐしゃとなでた土方さん。

 ここでお別れなんだと思うと、寂しくなった。

「おい、泣くんじゃねぇ」

 あれ?私、泣いていたか?

「勝手に涙が出たのですよ」

 目に手をあてると、ぬれていたので、泣いていたと言う事はわかった。

 手であわててぬぐっていると、土方さんが優しく私を自分の胸へ抱き寄せてくれた。

「いいか、これが最後じゃねぇんだ。だから泣くな」

 優しく頭をなでてくれた。

 私は、涙が止まらなくなって、土方さんの胸で泣いてしまった。

「おい、泣くなって言っているだろう。俺がお前をはなしたら、お前は笑顔になるんだ。わかったな」

 そう言われて私はうなずいた。

 土方さんが私から離れた。

 涙が出るけど、無理やりでも笑顔を作った。

「よし。それでいい」

 土方さんはうなずいた。

 そして、私を回れ右させ、背中を優しく押した。

「行って来い」

「行ってきます」

 私は、振り返ってそう言った。

 それから、みんながいる方へ走って行った。

 途中で振り返ると、土方さんが見送っていた。

 手を振ると、振りかえしてくれた。

 みんなと合流し、街道を歩き始めた。

 もういないだろうともって振り返ると、遠くて小さくなった土方さんがまだいた。

 寂しくなってきたけど、泣くなって言われたし。

 でも、涙があふれてきちゃうよ。

 みんなと距離が出来たので、再び走った。

 土方さんが見えるのはきっとここまでだろう。

 そう言う地点が来た。

 もういないだろうと思って、最後に振り返ったら、ものすごく小さかったけど、土方さんの姿が見えた。

 見送ってくれていたんだ。

 行ってきます、土方さん。

 心の中で土方さんに向かってそう言い、振り切るようにみんなの方へ走った。

 土方さんの姿は見えなくなった。

「あんた、土方はんと出来とるって噂聞いたけど、ほんまなんやな」

 土方さんとのお別れを振り切っていると、鴻池家の人にそう言われた。

 えっ?

「安心せぇ。男色は流行っとるからな。うちはなんも思わんよ」

 いや、うちは思わないだろうけど、私は色々思っちゃうからね。

「違いますよ。そんなんじゃないです」

 私はあわてて否定をしたけど、

「あんなお別れを見たら、誰だって男色や思うやろ。そうなんやろ?」

 そう言われると、抱きしめられたりしたよなぁ。

 そうか、はたから見れば、男同士で抱き合って別れを惜しんでいるように見えるんだよね。

 ああ、もう否定できないじゃん。

「はい、すみません」

 変に否定して女だとばれても嫌だったので、認めて謝った。

 本当は違うのになぁ。

「謝らんでもええで。旅は長いさかい、気使わんでもええよ」

 と、変に気を使われてしまったのだった。

 

 大坂を出発して数日がたった。

 ここまでは順調すぎるぐらい順調だった。

 京から江戸に行くときの方が色々あったぞ。

 平和すぎて、拍子抜けするぐらいだった。

 そして、明日はいよいよ広島に着くと言うところまで来た。

「いよいよ明日は広島だ。ここまで無事に来れてよかった」

 永井殿がみんなにそう言った。

 みんなも笑顔になっていた。

 もちろん、私もホッとしていた。

 明日で一応旅は終わる。

 なんとかばれないですみそうだ。

「今日の夜は、無礼講としよう」

 無礼講?その言葉に嬉しい予感しかしなかった。

 そして夜、私の嬉しい予感は的中した。

 宴会が始まったのだ。

 宴会と言えばお酒だろう。

 でも、お酒を飲むと、土方さんがいい顔しなかったよなぁ。

 まだ明日も残っているし、飲まない方がいいのか?

 そう思っていると、お猪口にどんどんお酒を入れられた。

「天野殿。飲めるだろう?」

 なんと、永井殿が直々に徳利を持ってお酌しに来た。

「あ、ありがとうございます」

 幕府の人にお酌してもらって、飲まないわけにはいかないだろう。

 グイッと一気に飲んだ。

「永井殿もどうぞ」

 今度は私が徳利を出して永井殿のお猪口にそそいだ。

 永井殿も一気に飲んだ。

 なんだ、みんな飲めるんじゃないか。

 新選組では、みんなお酒が強いらしいけど、私より先に酔いつぶれちゃうんだよね。

 これは飲みがいがあるぞ。

 いつの間にか、私は徳利から直接飲んでいた。

 お猪口についで飲むのがめんどくさくなっていた。

 周りの人も、私には徳利を持ってきてくれた。

「ありがとうございます」 

 と言いながら、出された徳利を全部空にした。 

 そんなことをしているうちに、気がついたら、私一人が飲んでいた。

 みんな、酔いつぶれていた。

 あれ?新選組のみんなより弱いかも?

 私が強すぎるのか?

 それにしても、酔いつぶれたみんなをどうすればいいんだ?

 ほっとくか?一人一人運ぶか?

 運ぶか。

 明日、気まずい思いしたくないもんね。

 というわけで、一人一人部屋まで引きずって行くと言う作業をし、こんなに疲れる思いをするなら、宴会で喜ぶんじゃなかったと思ったのだった。


              *****


 数日前、副長から文が来た。

「うちの代わりに蒼良はんが来るらしいで」

 その文を読んで鴻池さんが嬉しそうにそう言った。

 私も、まさか蒼良さんが来るとは思わなかった。

 長州滞在が伸びたのは残念に思ったが、思いかけず蒼良さんが来ることになったのは私も嬉しかった。

 副長が文を出した日にちが数日前になっている。

「もう出発しとるな」

 暦を見て、鴻池さんが言った。

「そろそろ広島に着きますね」

「それなら、うちも帰るしたくしよう。大坂の店が気になるさかい、一刻も早う帰りたいんや。こっちの様子も面白そうで気になるんやけどな」

 鴻池さんは、長州の潜入捜査を楽しんでいるみたいだ。

 現に、積極的に長州藩の人間を捕まえて話しかけている。

 そのおかげでかなり情報収集もうまくいっている。

「蒼良はんと話したかったけど、無理そうやな」

「いや、広島で少しぐらいなら話しできるんじゃないですか」

 蒼良さんと入れ替えになると言っても、顔を合わせてすぐに出発と言う事はないだろう。

 お互いが同じところに宿泊すえば、話もできるだろう。

「そうやな。それなら支度せなあかんな」

 そう言いながら、鴻池さんは奥の部屋へ行ってしまった。

 私も、鴻池さんを広島まで送っていく準備をしないといけない。

 いつのも支度と違って、楽しいものになった。


 広島藩に着いた。

 鴻池さんが早く帰りたいのか、早く蒼良さんに会いたかったのかわからないが、早く、早くと言うので、早くついてしまった。

 広島で二~三日待った。

 やっと蒼良さんたちが来たと思ったら、様子がおかしかった。

「あ、山崎さん、久しぶりです」

 蒼良さんはいつもと変わりなかった。

 しかし、蒼良さんの周りの人間が普通じゃなかった。

 みんな頭を片方だけ手で押さえていたり、青白い顔をしていたり。

 ひどい人間になると、口まで押えていた。

「何かあったのですか?」

 蒼良さんは元気そうなんだが。

「昨日、広島の近くに着いたので、みんなで宴会をしたのですよ」

 蒼良さんのその一言で何が起きたのかわかった。

 飲みすぎだ。

 蒼良さんがお酒を飲んでいる姿を見ると、なぜかそれを見ている人たちも一緒になって飲んでしまうため、蒼良さん以外は酔いつぶれ、ひどい人になると二日酔いになる。

 と言う事は、ここにいる人間はすべて二日酔いと言う事になる。

 また楽しいことをしてくれたなぁ。

「山崎さん、笑いごとじゃないのですよ。昨日は大変だったのですよ。みんなを部屋に一人で運んだのですよ」

「それは大変でしたね」

 蒼良さんに会えたことが嬉しくて笑顔になっていたのだろう。

「本当に、笑いごとじゃないんですから」

 と、蒼良さんはもう一回言った。

「あ、蒼良はん。久しぶりやな」

 鴻池さんが出てきた。

「お久しぶりです。お元気でしたか?」

「元気やったで。今回はうちのせいでここまで来てもろうて、悪かったな」

 蒼良さんは、大坂に帰る鴻池さんの代わりにやってきた。

 今までは鴻池さんを隠れ蓑にして潜入していた。

 しかし、鴻池さんは大坂に店がある。

 そろそろ大坂に帰らないといけない時期らしい。

 それなら、蒼良さんをここによこして、私と夫婦役で潜入させた方がいいだろうと言う事になったのだろう。

 だから、蒼良さんが長州に来たのは、鴻池さんのおかげでもある。

 鴻池さんにとっては、自分のせいで申し訳ないと思っているのだろう。

「いや、大丈夫ですよ。長州、長州って言って追いかけているのに、長州のことを何も知らないことに気がついたので、いい機会です」

「そう言ってもらえると、嬉しいわ」

 鴻池さんは笑顔でそう言った。

「そうや。今日は蒼良はんのためにとっておきの物を用意したんや」

 いつの間に用意していたんだ?

「これや。長州は異国と取引しているのか、異国の者が色々あるんや」

 そう言って鴻池さんが出してきたのは、なぜかふたをしてある徳利だった。

 その徳利の中身を猪口に入れた。

 黄金色と言うのか?そう言う色の飲み物が入っていた。

「これは、ビールですね」

 蒼良さんが笑顔で言った。

「前も出してくれましたよ。土方さんと大坂に行ったときに」

「そうやけど、あんときは蒼良はん飲めなかったやろ。二十歳になるまで飲まないって言っとったから。だからもってきたんや。たまたま手に入ったと言う事もあるけどな」

 と言う事は、この中身は酒なのか。

「わざわざありがとうございます」

 鴻池さんは私の猪口にもそのびいるなる物を入れたので、私も飲んでみた。

 これは、あまりおいしいものではないな。

 苦いし。

 蒼良さんは酒が好きだから喜んでいるだろうと思って見てみると、真っ赤な顔をしていた。

「蒼良さん、大丈夫ですか?」

 目がすわってきて、普通の状態じゃない。

 私は蒼良さんの近くまで行った。

「暑いっ!」

 突然、そう叫んで着物を脱ごうとし始めたので、あわてて止めた。

「蒼良さん、だめですよ」

 もしかして、酔っているのか?

「山崎さん」

 突然そう呼ばれたので、蒼良さんを見ると、蒼良さんの顔が近づいてきた。

 もしかして、接吻をされるのか?

 そう思って構えていると、バタンと言う音がした。

 見てみると、真っ赤な顔をした蒼良さんが倒れていた。

 お酒が強いはずなのに、なんで一口でこんなに酔っているんだ?

「蒼良はん、酔いつぶれてしもうたわ」

「部屋に運びます」

 私は蒼良さんを抱き上げて、そのまま今日泊まることになっていた部屋へ運んだ。

 布団に寝かすと、静かに寝息を立てて寝ていた。

 長旅だったから、きっと疲れてしまっていたのだろう。

 掛け布団をかけて、そのまま部屋を後にした。


            *****


 あれ?なんで布団に寝ているんだ?

 しかも、たくさん寝たみたいで、少し頭がボーとする。

「目が覚めましたか?」

 山崎さんが隣にいた。

「あ、山崎さんっ!」

 山崎さんと鴻池さんと一緒になったのは覚えている。

 でも、その先の記憶がない。

 布団から起き上がると、頭がズキッと痛かった。

「急に起き上がらないほうがいいですよ。二日酔いです」

 山崎さんがお水を出してきてくれた。

 ちょうど飲みたいなぁと思っていたんだ。

 私は出されたお水を一気に飲んだ。

 二日酔いと言う事は、お酒を飲んだんだよね。

 そう言えば、鴻池さんからビールをもらったけど、あれが原因か?

 あれっぽっちの酒で酔っ払ったのか?

 それが信じられなかった。

 確か、お師匠様が言っていたよな?日本酒以外は弱いぞって。

 もしかして、本当にそうなのか?

 今はそんなことを考えている場合じゃない。

「そうとう疲れていたのですね。一日寝ていましたよ」

 ん?今は朝みたいだから、昨日の昼間から寝ていたと言う事か?

「鴻池さんは?」

 せっかく会えたのに、あまり話も出来なくて悪いことをしてしまった。

 まだいるのかな?

「今朝、早くに旅立ちました。蒼良さんと一緒に来た人と」

 えっ?

「あの人は、もしかして、迎えに来た人だったのですか?」

 てっきり、これから私たちと一緒に長州に入ってくれる人だと思っていた。

「鴻池さんは、蒼良さんによろしく伝えてくれと言っていました。起こそうかと思ったのですが、疲れているのだろうから、そのままでいいと言って旅立ちました」

 そうだったのか。

 今度大坂に行ったときは、お礼とお詫びをしないとなぁ。

「明日、長州へ行きましょう。鴻池さんが長州の店を自由に使っていいと言ってくださったので、お言葉に甘えましょう」

 なんていい人なんだ、鴻池さんは。

「今日は一日ゆっくりして、疲れを取ってください」

 山崎さんはそう言うと、空になった湯呑をもって部屋から出て行った。

 山崎さんもいい人だなぁ。

 頭が少し痛かったので、再び布団に入った。

 明日から長州だ。

 そう思っていたら、夢の中に入っていたのだった。

 

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