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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年3月
252/506

新選組対京都見廻組

「もうすぐ近藤さんが帰ってくるぞ」

 土方さんが嬉しそうに言った。

「これで局長の仕事から解放されるぞ」

「でも、副長の仕事が残っていますよね」

 と言ったのだけど、副長の時の仕事と、代理局長をしているときの仕事量はそんなに変わりないと思うのは、気のせいか?

「お前、それを言うか?」

 気がつけば、土方さんが私を見下ろしていた。

 こ、怖いのですが……。

「でも、土方さんのことだから、きっと局長の仕事と一緒に副長の仕事もやっているのですよね」

 きっと同時進行でやっていたのだろう。

 だから、あんなに忙しい思いをしていたんだよ。

「そんなこと、しているわけねぇだろう」

 えっ?

「全くですか?」

「ああ、まったくやってねぇぞ」

 いや、胸張って言う所じゃないから。

 と言う事は、近藤さんが帰ってきても、副長の仕事が残っているから、そんなに今と変わりがないと言う事か?

「どうするのですか?」

 今までと仕事量が変わらなければ、また目が血走る日も遠くないぞ。

「お前、手伝え」

 普段なら、ええっ!と言うけど、また目が血走っり、ものすごい殺気が出てくる土方さんが嫌だったので、

「わかりました。何でもやりますよっ!」

 と言ってしまった。

「でもお前は字が下手だからなぁ」

 筆で書くのが苦手なんですよ。

「字も読めねぇし」

 ミミズのように、文字を続けて書かれたら読めないだけですよ。

「手伝えと言った俺が悪かった」

 そうだよね。

 私も自分でそう思ったりする。

「せめて、隊務だけはちゃんとこなしてくれ」

 隊務はちゃんとこなしていると思うが……。

「俺が局長しているときに、西本願寺の鐘に石を投げたりはするな」

 そ、それは私じゃないですよっ!

「それは、沖田さんですよ」

「総司が投げたにしても、その場にお前もいたなら一緒だ」

 な、何だそりゃ。

「いいか? あの坊主たちに文句を言われるんだぞ。ただ文句を言われるだけなら別にかまわんが、いつまで文句を言われねぇといけねぇんだ? ってぐらい文句を言われるんだぞ」

 そ、そうなのか?そんなに長い時間怒られるのか?

「その時間に他の仕事ができると思わねぇか? それを思った時の悔しさと言ったら、お前っ!」

「わ、わかりました。隊務をしに行ってきますっ!」

 ここで切り上げないと、きっと土方さんの説教が長くなるぞ。

「お前、逃げるのか?」

「な、何言っているのですかっ! 土方さんのお仕事の邪魔になってしまうじゃないですか」

「おお、そうだな。お前、気がきくな」

「だって、私のお説教で土方さんのお仕事の時間をつぶしたくないので」

 そう言って素早く部屋を出た。

 部屋からは、

「やっぱりお前、逃げてんだろっ!」

 と言う声が聞こえてきた。


 今日は斎藤さんと巡察だった。

「もうすぐ近藤さんが帰って来るらしいですよ」

 さっき土方さんから聞いたことを言った。

「伊東さんも帰ってくるのか?」

「いや、一緒には帰ってこないと思いますよ」

 確か今回の長州では、伊東さんは近藤さんと別行動をとる。

 だから、伊東さんと一緒には帰ってこない。

「近藤さんからの文でそう書いてあったのか?」

 あ、これはまだ知らないことなんだよね。

「そ、そうなんですよ。伊東さんたちと一緒に長州に行ったはいいけど、伊東さんは自分とは別に行動していて、何をしているんだかって書いてありましたよ」

 本当にそんなこと書いてあるかわからないけど。

「文字が読めないくせに、よくそこまでわかったな?」

 ドキッ!

「あ、あのですね。土方さんが読んでくれたのですよ」

 何とかごまかしたけど、

「ほおぉ、あの土方さんがね。わざわざお前に読んで聞かせたのか。なるほどなぁ」

 と、斎藤さんが私を見下ろして言った。

 ごまかしたつもりだけど、ごまかせてないとか?

 どうしよう?

 そう思っていたら、

「あ、天野君じゃないか」

 と、前方から声が聞こえてきた。

 前を見ると、男の人が歩いてきたけど、だ、誰だ?

「知り合いか?」

 斎藤さんにも聞かれたけど、知り合いではないぞ。

「いや……」

 そう言ってから、前方の男の人をもう一回見てみた。

 どこかで会ったことあったかなぁ。

 会津の人かな?ちょっとなまっているような感じもしたけど。

 会津の人と言ったら……。

「あっ!」

 思わず男の人を指さして言ってしまった。

「なんだ、知っているのか?」

 そう、藤堂さんと会津藩邸に文を届けに行ったときにあった人だ。

 確か、見廻組の……

「佐々木さんっ!」

「一瞬忘れてただろう?」

 えっ、ばれてたか?

「誰だ、こいつは?」

 斎藤さんが怪訝な顔をして私に聞いてきた。

 こいつはって、失礼じゃないか?

「見廻組の佐々木只三郎さんです。お兄さんが会津藩士なのですよ」

 斎藤さんに佐々木さんを紹介した。

「天野君、隣の人は新選組の方か?」

 今度は佐々木さんが聞いてきた。

「はい。斎藤一さんです」

「君が、あの斎藤君かっ!」

 佐々木さんは嬉しそうにそう言った。

 あのって何だろう?

「新選組の斎藤君と言ったら、剣豪がそろっている新選組の中でも一番強いと有名だぞ」

 そ、そうなのか?沖田さんだと思っていたけど。

 確かに隊の中でも、剣が強いのは沖田さんか斎藤さんかって言われている。

「俺は、有名になるつもりはないんだがな」

 それでも、斎藤さんがちょっと嬉しそうに見えるのは気のせいか?

「そうだっ! ここで会ったのも何かの縁だ。手合せを頼んでもいいか?」

 佐々木さんが斎藤さんを見てそう言ってきた。

「手合せって、何をするつもりなんですか?」

 斎藤さんをひじでツンツンと突っついて、小さい声で聞いてみた。

「剣の相手をしてくれって事だろう」

 そうなんだ。

 佐々木さんは、私たちが散々追いかけて斬ることが出来なかった清河という人を、江戸で斬った人だ。

 だから、佐々木さんもかなり強そうだぞ。

「仕事中だが、別にかまわん。どこでやる? まさかここでやるわけにもいかないだろう?」

 斎藤さんが、周りを見回してからニヤッと笑った。

「うちの詰所に来るといい」

 佐々木さんがそう言うと歩き始めたので、私たちも後をついていった。


 京都見廻組の詰所と呼ばれるところは、二条城の隣にあった。

「さすが、育ちのいい人間が集まるところは、いいところにあるな」

 斎藤さんが嫌味っぽく言ったけど、佐々木さんは聞こえなかったみたいで、笑顔で詰所を案内してくれた。

 私は、斎藤さんをひじでツンッ!と突っついた。

「なんだ?」

「あんまりそういうことを言わないほうがいいと思いますよ」

 ここで新選組対見廻組で喧嘩になった日には、見廻組の人たちの方が人数が多いから、負ける自信はあるぞ。

 負ける喧嘩はしないほうがいい。

「喧嘩にはならない。なんせここにいる奴らは育ちがいいからな」

 さっきから斎藤さんはそう言う事ばかり言っているけど。

「もしかして、ひがんでます?」

 だから、そんなことばかり言うのか?

「誰がひがんでるだって?」

「だって、せっかく見廻組の詰所に案内してくれているのに、変なことばかり言うじゃないですか」

「だからって、ひがんでない。嫌味を言っているだけだ」

 いや、あまり変わらないと思うから。

「お二人とも、喧嘩はやめたほうがいい」

 斎藤さんと見廻組の喧嘩を止めようとしていたのに、佐々木さんに斎藤さんとの言い合いを止められてしまったのだった。


 色々と案内されてから道場に行ったら、見廻組の人たちがたくさんいた。

 そう言えば佐々木さんが、

「新選組の斎藤君が来てくれた。手合せを頼んだから、道場まで来るといい」

 と、他の人に言いながら歩いていたので、人が集まったのだろう。

「人がたくさんいますが、大丈夫ですか?」

 不安になって斎藤さんに聞いた。

「大丈夫だ。そこで見てろ」

 斎藤さんは、私の頭に軽く手をのせた後、佐々木さんから竹刀を受け取った。

「では、よろしく頼む」

 佐々木さんの一言で手合せが始まった。

 パンッ!と竹刀と竹刀がぶつかる音が響き渡った。

 最初は周りの人たちも静かに試合の動向を見守っていたけど、佐々木さんが不利になってくると、

「佐々木、負けるなっ!」

「新選組なんて、負かしてしまえっ!」

 というような声があちらこちらから聞こえてきた。

 こっちも負けないぞっ!

「斎藤さん、頑張ってっ!」

 私も大きな声で応援したけど、見廻組の人たちの方が人数が多いので、すぐに違う声で違う応援をされてしまう。

「いけっ! 佐々木っ!」

 私だって、応援負けないんだからねっ!

「斎藤さんっ! 負けないでくださいっ!」

「佐々木っ! 勝ったら当番変わってやるぞっ!」

 なんじゃその応援はっ!そっちがこう来るなら、こっちだってっ!

「斎藤さんっ! 勝ったら斎藤さんのお願いを一つだけ叶えますよっ!」

 私の声が耳に入ったのか、手合せも佳境に入っていたのか……。

 きっと後者だろう。

 斎藤さんがパンッ!と音を立てて佐々木さんの竹刀を払い落し、竹刀を佐々木さんの首に突き付けた。

 道場の中は斎藤さんの素早さに驚いたのか、静まり返っていた。

「まいった」

 佐々木さんが一言そう言った。

 すると、道場の中はまた賑やかになった。

 さっきまでは、斎藤さんを負かせてやれっ!みたいな感じだったけど、今は、斎藤さんの強さをほめたたえていた。

「やっぱ、新選組の斎藤は噂通り強い」

「あの佐々木を負かしたんだからな」

 そんな声があちらこちらから聞こえてくる。

 その声が聞こえていないみたいな感じで、斎藤さんが私の向かって歩いてきた。

「さっき言ったことは、本当だな?」

 えっ?

「さっき言ったことって何ですか?」

「俺が勝ったら、願い事を一つ叶えるって言っただろう」

 言った、確かに言ったよ。

 それは否定しないけど……。

「まさか、そのために勝ったとかって言わないですよね」

 そんなことないよね。

「そうだと言ったらどうする?」

 斎藤さんは、いたずらっ子のように笑って言った。

 そ、そうなのか?


 見廻組の人たちは、私たちが来た時は、敵対心のようなものを出していたけど、手合せの後は、尊敬の眼差しが向けられた。

 そのせいか、

「話が聞きたいから、もうちょっといろ」

 と言われ、なんと夕飯とお酒までごちそうになった。

 お銚子で飲んでいる斎藤さんを見て、

「酒も強いのだな」

 と、周りの人たちに感心されてしまった。

「こいつもすごいぞ」

 斎藤さんにそう言われた私。

「な、何言っているのですか」

 ここでそんなことを言わないでくれ。

「そうなのか? 飲んでみろ」

 周りの人たちからお銚子が何本も出され、出されたものを断ったら失礼かなぁと思い、全部飲み干してきた。

「本当だ、強い」

「新選組は、剣豪も多いが、酒豪も多いのだな」

 もしかして私、新選組の評判を落としたか?

 ああ、こんな評判を広げてしまって、どうしましょう。

 っていうか、天野っていう大酒飲みがいるって評判が広がった日には、嫁に行けなくなるじゃないかっ!

 まだ行かないけどね。

 外見は男だけど、中身はそれなりに年頃の女ですからっ!一応っ!


 すっかり暗くなってしまった帰り道。

 星空を見ながら斎藤さんと屯所に向かって歩いていた。

「星が綺麗ですね」

 そう言う私に、斎藤さんが笑った。

「お前は、星を見ると綺麗だって言うが、いつもと同じ夜空だろう」

「いつもと同じ夜空じゃないですよ」

 星は、絶えず移動しているし、見る時間や日によっても違う夜空なのだ。

 それに、この時代の星空は綺麗だ。

 きっと周りが現代のように明るくないからだろう。

「さっきお前が言ったことだがな、今、頼んでもいいか?」

 えっ、今か?

「今すぐできるものなのですか?」

「さあな」

 そう言って、斎藤さんも夜空を見上げた。

 さあなって、どんなお願い事なんだ?

「お願い事にもよりますが……」

 夜空を見上げている斎藤さんを見上げてそう言った。

「そうか。俺の願い事はだな」

 そう一言言ったけど、斎藤さんの目線は、相変わらず夜空だ。

「お前、昼間に言っていただろう? 伊東さんは後から帰ってくるって」

 確かに、そう言った。

「もしその通りになったら、俺はみんなから嫌われることをすることになる」

 もしかして、伊東さんの間者をすることを言っているのか?

 確かに、これから斎藤さんのすることは、伊東派にとっても嫌われることだし、新選組の人たちからも、伊東さんを売って帰ってきたと言われることだ。

「別に、嫌われるのは構わない。ただ、お前まで嫌われるとな……」

 そこで私を見下ろしてきたので、斎藤さんと目があった。

「大丈夫です。私は斎藤さんのことを嫌いませんよ」

 だって、斎藤さんがこれからやることは、新選組のためのことだってわかっているから。

「本当だな」

「はい。斎藤さんを信じていますから。そのせいで伊東さんの命が危うくなったって、悪いのは伊東さんですからね。斎藤さんは何も悪くないですよ」

「伊東さんの命が危なくなるのか?」

 おっと、これは先の話だ。

「例えの話ですよ」

「ああ、例えか。俺の頼みはそれだけだ」

 そんなことでいいのか?

 それなら簡単だ。

「わかりました」

 私がそう言うと、斎藤さんはホッとした顔をして、

「帰るぞ」

 と言って歩き始めた。

 それにしても、私に嫌わないでくれなんて、どうしてそんなお願いをするのだろう?

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