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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年4月
25/506

島原へ行く

  気になるのは、お師匠様。2月に江戸で別れて2ヶ月になる。そろそろ京に着いていてもいい頃だと思うのだけど。

 そこで何やってんだか。携帯があれば連絡が取れるけど、携帯あるけど電波がないこの時代。電波がないので当然携帯も使えず。

「蒼良、暇か?暇だな。」

「あ、永倉さん。どうしたのですか?」

「一緒に島原に行こう。」

「でぇ?」

 ええっ?となんで?がいりまじり、変な言い方になってしまった。

 島原とは、江戸で言う吉原のような場所。遊郭だ。もっと簡単に言うと、綺麗な人と一緒にお酒が飲める場所だ。

 私とは全く無縁の場所なので、永倉さんに誘われてびっくりしてしまった。

 もちろん、ただで行ける場所ではない。お金もかかる。

 夏服も満足に買えなかったのに、そんな金がどこにあるのだ?

「蒼良、その反応はなんだ?」

「あ、すみません。びっくりしてしまって。永倉さん、お金がないのにそういうところに行けるわけないじゃないですか。」

「いや、金の心配はしなくていい。あのな…。」

 永倉さんが何か言いかけたとき、

「蒼良も行くのか。早く来い。」

 と、芹沢さんの声がした。

「そういうわけだ。一緒に行こう。」

 さては永倉さん、一人で芹沢さんの相手をしたくないから、私を誘ったな。

 断ろうとしたら、

「蒼良も、遠慮せず来い。お前も遊びを知っとかないといかんからな。」

 と芹沢さんに言われ、断れなくなってしまった。


 芹沢さんの腰巾着の新美さんたちと、永倉さんと歩いていると、原田さんにあった。

 よし、巻き込んでやろうと思ったら、永倉さんも同じことを考えていたみたいで、一緒に原田さんを誘った。

「蒼良も行くのか?」

 原田さんに聞かれたので、

「永倉さんに、巻き込まれました。」

 というと、永倉さんが、

「蒼良、それはないだろう。お前もな、遊びを知っといたほうがいいぞ。」

 と、芹沢さんが行ったセリフを言った。

 そんなわけで原田さんも一緒に行くことになった。


 揚屋というところに着いた。どこのどういう名前の揚屋かは、連れてこられたのでよくわからない。

 この揚屋に綺麗なお姉さんを呼んでご飯を食べたりお酒を飲んだりする。

 ちなみに、江戸の吉原と違って、本当にご飯を食べたりお酒を飲んだりするだけのところ。そして、歌や舞いなどもも見せてくれるという。綺麗なお姉さんたちにも格というか身分があって、一番上の人を太夫と言って、官位ももらえたらしい。官位がもらえるだけあり、太夫になるには最高の芸や舞いを身につける必要がある。簡単になれるようなものではない。

 私たちが行ったときに、ちょうど太夫道中というものがあって、太夫が、自分たちの住んでいる置屋から、接待をする場所、揚屋まで行くのにゆっくりと見世物のようにして歩いていくというものを見ることができた。

「なんか、背が大きくないですか?」

 太夫の背の高さにびっくりして私が言った。

「ああ、高い下駄を履いて居るし、髪の毛も高く結い上げているから、大きく見えるんだ。」

 さすが永倉さん、詳しい。

 高い下駄というので下を見れみると、本当に高い下駄を履いていて、それを器用に倒して八の字を書くようにして歩いている。

「あんな高い下駄履いて、あんな歩き方したら、絶対に転びますよ。」

「転ばないのが太夫なんだ。」

 永倉さんが言っていたけど、本当か?太夫って歩く練習もしなくてはいけないのではないか?

 やっぱり、私とは全然無関係の世界だわ。

 

 揚屋に着いた。

 芹沢さんたちはお酒を飲み始めた。暴れるのでは?を気にしたが、この時の芹沢さんは飲んでも暴れることはなかった。

 多分お酒を飲んで、あんなことやこんなことをやるのはもうちょっとあとのことなのかな。

 気がつくと、綺麗な着物を着たお姉さんたちがいた。

「わぁ、すごい。」

 その着物の豪華さもすごいけど、お姉さんたちの綺麗さもすごい。

「蒼良は、初めてか?」

 隣にいる原田さんに話しかけられた。

「初めてですよ。原田さんは?」

「俺は、何回かはある。江戸でだけど。」

「そうなんですか。原田さんはかっこいいからモテるんじゃないですか?」

「何言ってんだ。今日一番人気があるのは芹沢さんだろう。」

 芹沢さんの方を見ると、両方にお姉さんが。

「今日は芹沢さんが出すって言ってたし。でも、豪華だよな。」

「原田さん、ここ、いくらかかるのですか?」

 こんなに豪華なんだもの、絶対に高い。払いきれるのか?

「そないなの気にするような旦那はんは、お座敷遊びする資格がないよ。」

 私の隣にいた女の子が、悠長な京都弁で話してきた。

 えっ、そうなのか?じゃぁ、なおさら高いような。

「これ、牡丹ぼたん。そないな話、やめなさい。」

 芹沢さんの隣にいたお姉さんが言った。

 私の隣にいる女の子、牡丹というらしい。

「なんだ、蒼良は金が気になるのか?」

 当たり前じゃないかっ!こんな豪勢なお座敷代、払えるのか?

「心配することはない。全部俺の金だ。」

「まさか、また借りたのではないですよね。」

 私が聞いたら、芹沢さんは豪快に笑った。

「わっはっは。大丈夫だ。心配するな。」

 よしっ、その言葉を聞いて安心した。

「安心したなら、飲んでください。」

 隣にいる女の子、牡丹ちゃんがお酒を注いでくれたけど、お断りした。

「すみません。お酒飲めないので。」

「そやん?残念だわ。でも、せっかく来たのやし、楽しんでいってくださいな。」

「ところで、牡丹ちゃんは何歳ですか?」

 なんか、私と同じ年ぐらいに見えるのだけど。

「16どす。」

「えっ、私より年下だ。」

「旦那はんは?」

「18です。あの、旦那さんじゃなくて、蒼良でいいよ。」

 旦那はんなんて言われると、何かむずかゆい変な気分になる。

「じゃぁ、蒼良はんって呼びますね。」

 そのうちに、牡丹ちゃんたちは舞いを披露してくれた。ものすごく優雅で上手だった。

 私より年下なのに、この優雅さと色気というか、そういうものを持っていてすごい。

 私なんて、全然色気ないもんなぁ。男装しているし。

「牡丹ちゃん、すごい上手だったよ。私より若いのに、すごい。」

「蒼良はんだって、京の治安を守っとるのやろ。それもすごいと思うけど。」

「でも、牡丹ちゃんは、その年で親と離れてちゃんと生活しているのだもの。すごいと思う。」

「そないに褒めても、なんも出ないどすよ。」

 年も近いせいか、二人で盛り上がってしまった。

 二人で盛り上がってしまい、お酒が事のほか進んでいた原田さんに気がつかなかった。

 その結果、一人の酔っ払いが誕生してしまった。

 芹沢さんじゃなくて、原田さんか…。

「おうっ!俺は酔っ払ってなんか無いぞ」

 ろれつが回っていなかったので、そうとう飲んでいるらしい。

「酔っている人間は、たいていそう言うのですよ。」

「蒼良、俺が酔っているとでも言いたいのか?」

 思いっきり、酔っていると思うのですが…。

 原田さんはヨレヨレと立ち上がり、上着を脱いだ。

「お前は、金物の味を知らんからなぁ、そんなことを言うんだ。見ろっ!俺は金物の味を知っているからなぁ…。」

 例の切腹の跡を見せていた。完全に酔っている…。

「左之、もう帰ったほうがいいんじゃないのか?」

 永倉さんが、原田さんに上着を着せていた。

「じゃぁ、私が連れて帰ります。」

 私は立ち上がって原田さんを支えた。

 原田さんもフラフラしているけど、歩けるようなので、支えてやればなんとか屯所まで帰れるだろう。

「芹沢さん、すみませんが、お先に失礼します。」

「おう、気を付けて帰れ。」

 芹沢さんに挨拶したあと、原田さんを支えて座敷を後にした。

「蒼良はん、気いつけて帰ってね。」

 牡丹ちゃんが玄関まで見送ってくれた。


「やいっ、蒼良。お前、楽しそうだったなぁ。女とイチャイチャして。」

「イチャイチャなんてしてませんよ。話をしていただけです。」

 フラフラしている原田さんを支えながら歩いていた。

「お前は、綺麗な顔しているからモテるぞ。」

「何言っているのですか。原田さんもかっこいいからモテますよ。」

「そうか?嬉しいこと言ってくれるじゃないか。でもな、いくらモテても、好きな奴から好かれんことにはどうにもならん。」

「えっ、原田さん、好きな人いるのですか?」

「ん?いるって言えばいるし、いないって言えばいない。」

 なんだそりゃ。酔っぱらいをまともに相手した私が馬鹿だった。

「やい、蒼良。女とイチャイチャして、なんか腹が立つ。」

「なんで私が女の人とイチャイチャしていたら、原田さんが怒るのですか?芹沢さんだってイチャイチャしていたじゃないですか。」

「それとこれとは違う。」

 私から見たら同じに見えるけど。

「蒼良だから、腹が立つんだ。」

「はいはい、わかりましたよ。」

 酔っ払いの相手はまともにするんじゃない。そう思って適当に返事をした。

「俺は、蒼良が好きだから。」

 原田さんはそう言うと、私を抱きしめてきた。

 ええっ、どういうこと?私を好きって、それはどういう好きなのだろう?

 何かドキドキしてきた。原田さんの胸の中で変にドキドキしていると、原田さんの体重がかかってきて、押し倒されるような感じになった。

「ちっ、ちょっと、原田さんっ!」

 どうしよう?押し倒されたよ、どうすればいい?パニックになっている耳元に聞こえたのは、原田さんのいびきだった。

 押し倒されたのではなく、眠くなったから全体重を私に押し付けてきたらしい。もちろん、私は支えきれないので、一緒に倒れてしまった。

 まったく!酔っ払いがっ!

 起こしたけど、彼はすっかり夢の中だった。

 屯所まで人を呼びに行っている間に、原田さんになにかあったら嫌なので、引きずっていくことにした。

 原田さんの両手を私の両肩に乗せ、ひたすらズルズルと引きずった。

 

 相当時間がかかったみたいで、屯所に着くと、後から出た永倉さんたちが既に帰ってきていて、蒼良と左之がいないって、騒いでいた。

「おお、蒼良、ずいぶん時間かかったなぁ。あ、左之の奴、寝やがったか。どれ、あとは俺がやるよ。お疲れ。」

 永倉さんが軽々と原田さんを抱えていった。

 さすが、男の人は力があるなぁ。それにしても、疲れた。


 次の日、引きずるのに力を使ったみたいで、あっちこっちが筋肉痛になっていた。

 そして、二日酔いで片方の頭が痛いのか、頭を抑えている原田さんにあった。

「蒼良、昨日はすまなかったなぁ。」

「大変でしたよ。相当飲んだのですか?」

「なんか、酒が進んでね。ところで昨日の記憶がないのだが、なんで俺の両足の先が擦り傷みたいになっているんだ?」

 見てみると、原田さんの足の先、確かに擦り切れている。昨日引きずって帰ってきたから、その時に出来たらしい。

「俺、何かやったか?」

「い、いや、別に、何もなかったですよ。」

「じゃぁ、この傷は?」

「さ、さぁ…。寝るときにこけたんじゃないですか?」

「でも、転んでもここは怪我しないだろう。」

「と、とにかく、消毒したほうがいいですよ。」

 私は薬箱を持っていき、原田さんの足を消毒した。

「俺、何したんだろうなぁ。」

 思い出さない方がいいこともありますよ。そう言いたかった。

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