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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応2年2月
249/506

大和出張という名の花見

「大和に出張だ」

 突然土方さんが言いだした。

 えっ、大和?

「あの、それってどこですか?」

「お前の生きていた時代には、大和って地名はないのか?」

 無いと思うけど。

「いいか、大和とはな……」

 そう言いながら、土方さんは地図を出してきた。

 この時代に一般に出回っている日本の地図は、丸い島が四つぐらい並べてあるものだ。

「だいたいここらへんかな」

 うーん、この地図で場所をさされてもよくわからないや。

「京はどこですか?」

 京を基準にしてみたら、わかるかな?

「京は、ここらへんだろう」

 なるほど。

 と言う事は、奈良県辺りか。

「な……大和に出張って、長州藩士か何かがいたのですか?」

 それに急な話だし。

「いや、いねぇと思うぞ」

 そうなんだ。

「それならなんで大和に出張なのですか?」

「たまにはみんなで出かけてゆっくりするのもいいだろう。最近は京も落ち着いているのか、たいした事件はねぇしな」

 ん?これってもしかして、慰安旅行ってやつか?

「いいですね。たまにはみんなで楽しくやりましょうよ」

 奈良に慰安旅行。

 奈良ってなにがあったっけなぁ。

 確か大仏があったよなぁ。

 奈良時代に作ったものだから、江戸時代には当然あるだろう。

「そうだな。ちょうど桜も見ごろになりそうだから、花見が出来そうだな」

 えっ、花見?

「まだ二月ですよ」

 二月に花見はないだろう。

「今年はそろそろ咲きそうだぞ」

 そう言われてみると、最近暖かい日が続いている。

 桜のつぼみも膨らんできているような。

 例年は三月に満開になるのだけど、今年は……あ、ずれているのか。

 昨年、閏月と言うもがあって、五月が二回あると言う得した気分になった年だった。

 だから、例年より季節の進みが早く感じるのだ。

「大和は初めてだからな。花見ができるところとかあるんだろう?」

「そりゃ、どこにいても花見ができるところはありますよ」

 壬生の近くにも、畑の真ん中にある桜の木が綺麗で、みんなで花見をしたことがある。

 いざとなれば、奈良の畑の真ん中で花見をしたっていいんだ。

 と思うのだけどね。

 それじゃあやっぱり駄目かなぁ。

 誰かの土地とかだったら、やっぱり不法侵入になるだろうしなぁ。

 あ、でも、この時代には法がないから、案外大丈夫かも。

 いや、そう言う問題じゃないか。

「確かに、お前の言う通りだな。桜の咲いているしたで宴会すりゃ、それは花見だな。よし、わざわざ大和に行く必要もねぇな」

 えっ、そ、そんなっ!

「何言っているのですかっ! せっかくだからみんなで行きましょうよ。奈良……じゃなくて、大和にっ!」

 あわててそう言った私を見て、笑いながら土方さんは、

「わかった、わかった」

 と言ってくれた。


 というわけで、みんなで奈良に出張に来た。

「でかいなぁ」

 原田さんが大仏の前で上を向いて言った。

 奈良に着いたら、自由行動になり、私たちが最初に行ったのが、東大寺にある大仏だった。

 やっぱり、奈良と言ったらこれだよね。

 私が現代で見たものとほとんど変わりがなかった。

 建物もそんなに変わっていない。

 変わっている物がほとんどだけど、変わっていないものがあると、なぜかホッとしてしまう。

「聖武天皇が大仏を作ろうと言ったから、作ったらしいですよ」

「聖武天皇? それはいつのことだ?」

 あれ?私は歴史で習ったから知っているけど、この時代は歴史って言う教科がないのか? 

 あっ、学校がないのか。

 聖武天皇って、何年だったかなぁ。

「752年にできました」

 確か、そう習ったぞ。

「今が確か1866年だから、千年以上も前の話か。すごいなぁ」

 私がいた、150年先の未来なんて、小さい話になってくるなぁ。

「もしかして、蒼良そらはその時代にも行ったことがあるのか?」

「いや、ないです。来たのは、この時代だけですから」

 何をしたくてそんな昔に行かなければならないんだ。

「そうだよな。この大仏のことに詳しいから、もしかして行ってきたのかと思った」

 そ、そうなのか?

「私の時代では、みんなが教わることなのです」

 この幕末のことも。

「そうか。だから知っていたのか」

 原田さんはそう言って、再び大仏を見上げた。


 次に行ったのは、大仏がある東大寺からそんなに離れていない場所にある、興福寺と言うお寺だった。

 そこには、阿修羅像がある。

「大和は初めて来たけど、こういう像がたくさんあるね」

 藤堂さんの言う通り、ここの興福寺だけでもたくさんの像がある。

 そして、現代では国宝になっている。

「ここは、藤原氏のゆかりのお寺らしいですよ」

 これは、修学旅行の時にガイドさんが説明してくれた。

「蒼良は、京のことも色々知っていたけど、大和のことも知っているんだね」

「だって、有名な観光地じゃないですか」

「えっ、そうなの?」

 この時代ではどうなのかわからないけど、私の時代では、観光地だぞ。

 平城京があったところだから、修学旅行でも行く学校が多いと思うぞ。

「そう言えば、幕府も保護をしていると聞いたことがあるよ」

 そ、そうなのか?

「歴史のある建物だから、保護しているんだね」

 それはどうなのかわからないけど、きっとそうなんだよね。

 

 その次に行ったところは、やっぱり近くにあった春日大社だ。

 ここも、藤原氏にゆかりのある神社だ。

 そして、現代では世界遺産になっている。

「大和も、京と比べると地味なような感じがするな」

 土方さんがそう言った。

「京と比べると、歴史は古いですよ」

「でも、京は何でもかんでも派手な感じがするな」

 そ、そうなのか?

「そ、それはたぶん……今も帝がいるからだと思いますが」

 たぶん……。

「ま、そうかもしれなぇな。それに、仏像が多いな」

「奈良の仏像は、美男子が多いって聞きますよ」

「はぁ? お前、何言ってんだ?」

 だって、テレビとかでやっていたんだもの。

「俺から見りゃ、どれも同じに見えるがな」

「土方さん、そんなこと言うと、罰が当たりますよ」

「罰が怖くて、副長なんかできるかってぇんだっ!」

 た、確かに。

 土方さんは鬼副長だからなぁ。

「あ、土方さんは鬼だからきっと罰は当たらないと思いますよ。豆なら投げられると思いますが」

「お前っ! なんか言ったか?」

 いや、じ、冗談だから、そんな怖い目で見ないでくれっ!


 次の日は、氷室神社と言うところで、お花見をした。

 ここはしだれ桜が見事に咲いていた。

「花見にはちょっと早かったかと思ったが、ここの桜は早咲きらしいから、ちょうどよかったな」

 永倉さんが桜を見てそう言うと、さっそく敷物が敷いてあるところに座って、お酒を飲み始めていた。

「お花見なんだから、桜を見ましょうよ」

「珍しいことを言うな。蒼良もこれが一番楽しみなくせに」

 永倉さんは、お酒を私の方に差し出して言った。

「そりゃそうですけど」

 でも、私は桜も見るぞ。

「さぁ、のめのめっ!」

 そう言いながら、永倉さんが私にお酒をそそいでくれた。

「ありがとうございますっ!」

 お礼を言って一気に飲み干した時に、

「なにが桜を見ましょうだっ! お前みたいなやつのことをなんていうか知っているか?」

 と、土方さんの声が聞こえた。

 ん?私のようなやつのことを?

「桜小町とでもいうのですか?」

 ウフフ、土方さんったら。

 桜が似合っているなら、似合っているって言ってくれればいいのに。

 なんて思っていたら、

「酔っ払っているのか? 花より団子って言うんだ」

 あ……そうともいうよね。

 うん、確かに。

「土方さんも、そんな意地悪言わないで、飲めよ」

 永倉さんが間に入ってくれて、土方さんにもお酒を注ぎはじめた。

「土方さんは、お酒が飲めないから、蒼良にやきもちを妬いているんだよ」

 沖田さんが近づいてきてそう言った。

「そうなのですか?」

「そうに決まっているじゃん」

 それなら私がお酒を飲まないほうがいいかな。

 飲みたいのに、弱くて飲めないと言うのも、なんかかわいそうだよね。

「だから、酔いつぶせばいいんだよ」

 私の考えと違う事を沖田さんが言った。

「酔いつぶしちゃえば、何も言えなくなるじゃん」

 そりゃ、沖田さんの言う通りだけど……。

「なにこそこそやってやがるっ!」

 私と沖田さんの間に、土方さんが入ってきた。

 目がすわっていたので、もう酔っ払いっているのだろう。

「二杯しか飲ませてないのに、酔っ払ったみたいだぞ」

 永倉さんが楽しそうにそう言っていたけど、全然楽しいことじゃないですからね。

「土方さん、酔っていますね」

「俺は酔ってないぞ」

 レロレロとした口調でそう言った。

 いや、もうその口調は酔っているだろう。

「いいか、こいつは俺の物だからなっ! さわるんじゃねぇぞっ! 誰にもさわらせたくねぇからな」

 土方さんはそう言いながら、私の肩を抱き寄せてきた。

 俺の物って、私は土方さんの物になった記憶がないのですがっ!

「だめだよ。僕も蒼良のことを気に入っているからね。いくら土方さんでもそれは許さないよ」

 沖田さんが笑顔でそう言った。

 ああ、みんな酔っ払っているよ。

「私は誰のものでもないですよ。自分の物ですからね」

 酔っ払いにそう言っても無駄だろうなぁ。

「お前の物は、俺の物。俺の物はお前の物だ」

 土方さんは、私の肩を抱き寄せたままそう言った。

 なんか、そんなセリフを聞いたことがあるぞ。

「とにかく、もっと飲んだ方がいよさそうだね」

 沖田さんは、土方さんにお酒をそそいだ。

 それって、逆効果なんじゃないのか?

 案の定、お酒を飲みほすと、土方さんはそのまま仰向けに倒れてしまった。

「これでうるさいのは消えたね」

 だ、大丈夫か?

「大丈夫だよ。あれぐらいの酒で死にはしないよ」

 そ、そうだけどさぁ。

「さ、蒼良、楽しもう」

 沖田さんにお酒をそそがれたので、それを一気に飲んだ。

 私も沖田さんにお酒を注ごうがと思い、お酒を射れようとしたら、

「僕はいいよ」

 と言われてしまった。

「病気してから、あまり飲まないようにしているんだ」

 あ、そうか。

「すみません。気がつかなくて」

「いいよ。蒼良が楽しんでいるのを見ると、僕も楽しいから」

 沖田さんは笑顔でそう言ってくれた。

「最近は、体の調子はどうですか?」

「蒼良は、すぐそれを言うね。おかげさまで、あの毒薬を飲んだせいか、大丈夫だよ」

 いや、だから、毒薬じゃないから。

「あれ? お前はこれで飲むんだろ?」

 斎藤さんがやってきて、お銚子を握らされてしまった。

「みんなの前で飲んだら、お行儀が悪いじゃないですか」

「安心しろ。誰もそんなこと思いはしないよ」

 そう言って、斎藤さんは去っていった。

 仕方ないなぁ。

 せっかくなので、お銚子で直接飲むと、

「蒼良、お行儀が悪いよ」

 と、沖田さんに言われてしまった。

 ここにそういうことを思うやつって言うか、言う人がいたじゃないかっ!


 そして次の日、

「昨日なにがあったが覚えてないんだがな」

 と言いながら、頭を押さえている土方さんがいたのだった。

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