土方さんにばれる
近藤さんの部屋に呼ばれた土方さん。
疲れたような感じで帰ってきた。
「近藤さん、また長州に行くらしい」
やっぱりそうか。
一月にもう一回行くような事が歴史にあったので、そろそろじゃないかとが思っていた。
「今度は、容保公に頼まれたらしいぞ。前回と同じ幕府の人間と一緒に行くらしい」
「土方さん、また代理局長ですね」
「俺は、局長の器じゃねぇから嫌なんだけどな」
前回も、散々嫌がっていたけど、何とか局長の仕事をこなしていた。
「さて、今回は隊士は誰をつけるかな。伊東さんが一緒に行きたいようなことを言っていたな」
今回の長州では、確か伊東さんも一緒に行くけど、向こうで近藤さんとは別行動をとる。
自分は新選組にいるけど、考え方は全く違うとでも言って歩くのだろう。
「そう言えば、伊東さんが篠原を連れて行きたいと言っていたな」
篠原さんと言えば、伊東さんが江戸から京に来た時に連れてきた人だ。
「これで三人は決まったな。後は誰をつけるかな」
土方さんは考えながらそう言った。
「土方さんが信頼できる人がいいと思います。多分、長州に行ったら伊東さんは近藤さんと別行動を取りますよ」
「そうか。それなら、尾形でもつけるか」
尾形さんなら大丈夫だろう。
彼は、伊東さんを江戸から京へ連れてくるときに、土方さんの間者として、伊東さんの身の回りを探っていた。
「もうちょっと人を増やしたいがな。近藤さんが数人でいいって言うからな。でも、向こうへ行ったら山崎もいるから大丈夫だろう。今回はどれぐらいで帰ってくるんだろうな?」
確か……
「三月ぐらいには帰って来ますよ。伊東さんたちは少し遅れて帰って来ますが」
少し遅れて帰ってくると言う事自体がおかしいんだよな。
「そうか、三月か。今回は長州の中に入れそうなのか?」
「今回もだめだと思いますよ」
長州はきっと戦をやる気満々になっていると思うし、そんなところに敵を入れることはないだろう。
「そうか。で、お前はなんでそんなことまでわかるんだ?」
あっ!しまったっ!
「勘ですよ、勘っ!」
またもや勘でごまかそうとしている私。
「確かに、鈍感なのに勘だけは鋭いのは認める。だがな、勘が当たりすぎじゃねぇか?」
そ、そうかな?
「そう言えば、近藤さんが前に長州行ったときに、帰ってくる時期も当てたよな。後は池田屋の時も場所をあてたよな?」
そ、そうだったかな?
「そう言えば、薩長同盟も当てたな。誰もが薩摩と長州が同盟なんて結ぶわけねぇと思っていたのに」
「き、記憶にございませんが……」
ごまかそうとしたけど、
「嘘つけっ!」
と、ばれてしまった。
「お前、一体何者なんだ?」
何者だと言われても……。
「人間ですよ」
「そりゃそうだろうがっ! サルか何かだったのか?」
サルとは失礼なっ!
「よく考えてみろ。こんなにも先に起こる出来事を言い当ててんだぞ。もう勘とかじゃねぇだろう? なんで言い当てることが出来んだ?」
ご、ごまかせないのか?
「実は、占い師なんですよ」
「嘘つけっ!」
即答でそう言われてしまった。
これは、本当のことを言うしかないのか?
「実は、未来から来たのですよ。だから、これから先に起きることを知っているのですよ」
思い切って本当のことを言った。
しばらくしーんとなった。
そして土方さんは、
「寝る」
と、一言言って本当に寝てしまった。
ま、夜だからいいんだけど、この反応はどう考えればいいんだ?
数日後、近藤さんたちが長州に旅立った。
今回は見送りはいいと言う事なので、屯所からみんなと一緒に見送った。
その後、土方さんの代理局長のお仕事が始まった。
土方さんは忙しいのか、あれからあの話題をいっさいしなくなった。
どう考えているのかものすごく気になるんだけど、まさか私からふるわけにもいかないし。
このまま、忘れ去られればいいかも。
なんて都合のいいことを考えていると、土方さんに呼ばれた。
「お前、暇か?」
「暇ですよ」
な、何が待ち構えているんだろう?
「出かけるぞ」
出かけるのか?
「近藤さんがいないのに、大丈夫なのですか?」
前回の時は、近藤さんがいないからと言う事で、屯所にこもっていなかったか?
「少しぐらいいなくても大丈夫だろう」
確かに。
「どこに行くのですか?」
「いいからついて来い」
どこに行くのか、ものすごく気になるのだけど。
着いたところは嵐山近くにある梅宮神社と言うところだ。
名前の通り、梅がたくさん咲いている。
「もう散っているな」
土方さんの言う通り、梅の花も少しずつだけど散り始めていた。
「散っている梅も綺麗ですよ」
桜ほどではないけど。
しばらく二人で静かに梅を見ていた。
私としては、この前の話をいつふられるかドキドキしていた。
「この前の話だがな」
き、来たぞっ!
「最初は、またふざけやがってと思っていた」
そりゃそうだろう。
こんな話、まともに信じてくれる方がおかしいのだ。
今まで話した人たちはみんな信じてくれたけど。
「でも、お前が未来から来たとすると、今までのことが全部理解できるんだ」
それはどういう意味だ?
「お前が、みんなが当たり前に知っていることを知らねぇで、知らないようなことを知っている。特に、鴻池家に行ったときなんかがそうだ」
鴻池さんの所に行くと、珍しいものを出してくれるんだけど、それがまた現代では普通にあるものなのだ。
「そう言えば、最初会った時も、着物が着れなかったよな。あれだって、お前が未来から来たばかりで知らなかったとしたら、納得できる」
そうだった。
最初は土方さんに怒られながら着せてもらったよなぁ。
「で、どれぐらい先に未来から来たんだ?」
「150年ぐらい先の未来です」
「150年かぁ」
土方さんは、遠い目をした。
遠い目をしたくなるぐらいの遠い未来だよね。
「もしかして、その時代の人間は、お前みたいにこの時代に行ったり来たり出来るのか?」
「いや、それはないです。私とお師匠様だけです」
「そうか。それはよかった。お前みたいに未来から来た人間が大量にいるとなりゃ、話が変わってくるからな」
それって、ある意味怖いぞ。
歴史がずいぶんと変わりそうじゃないか。
「久々に嵐山に来たな。ゆっくりして行くか」
もっといろいろ話を聞かれるのかと思ったけど、土方さんは梅を見ながら歩き始めたのだった。
「ここも梅が多いな」
「実はもちろん、梅酒ですよね」
「何言ってんだっ! 梅干しだっ!」
「土方さんこそ、何言っているんですかっ! ここはお酒の神様がいる神社なので、美味しい梅酒が出来そうですよ」
「梅干しって言ったら、梅干しだっ!」
またそう言う言い合いをしたけど、ここの梅は梅宮神社の梅で私たちの梅ではないのだ。
久々にゆっくりすると言う土方さんの言葉通り、嵐山に宿を取った。
夜になり、土方さんが
「寒くなってきたな」
と言いながら、火鉢をいじっていた。
「一つ聞いていいか?」
土方さんが火鉢をいじりながら言った。
「何ですか?」
「薩長が勝つのか? 幕府が勝つのか?」
長州征伐のことを言っているのか?
「幕府は負けます」
長州征伐だけでなく、この先の戦はみんな幕府が負ける。
「近藤さんの言う通りになりそうだな。幕府の士気が全然ねぇからな」
土方さんの言う通り、幕府側は、各藩士が出来れば戦いたくないと言う人たちが多い。
財政難な藩が多いので、お金も出したくないのだろう。
お金がかかることもしたくない、これが本音なんだろう。
「幕府が負けると言う事は、新選組もだな」
私はうなずいた。
「そうか。負けるのか」
そう言いながら、再び火鉢を突っつく土方さん。
「お前は、なんでここにいるんだ? 未来からここに来たのには訳があるんだろ?」
よくぞ聞いてくれた。
「私とお師匠様は、新選組が大好きなんです。少しでも助けることが出来るならと思い、ここにいます」
「ということは、お前は俺たちを助けるためにいるのか?」
「はい」
「そうか」
そうつぶやいた土方さんが、嬉しそうに見えた。
「助けるって、何をするつもりなんだ?」
「お師匠様は、出来れば私たちの時代に連れて帰りたいって言ってました」
「はあ?」
はあ?って、なんか変な反応だよなぁ。
「お前、本気で言っているのか?」
「本気ですよ」
「俺はいかねぇぞっ!」
ええっ!それは困るんだけど。
「なんでですか?」
「そんな、訳が分からねぇ所に行けるかっ!」
訳が分からなくないですよっ!
いいや。
いざとなりゃ、だまして連れて行く手もある。
「絶対に行かねぇからなっ!」
そう言いながら、再び火鉢を突っついた土方さんだった。
行かないって言うなら、だまして連れて帰ってやるっ!
夜も深くなり、珍しく土方さんがお盆にお銚子を二本乗せて来た。
「寒いからな。たまにはいいだろう」
土方さんがお酒を持ってくるなんて、珍しいなぁ。
「二本だけですか?」
少なくないか?
「一人一本で充分だろう」
いや、なんか物足りないなぁ。
「一本で満足しろっ! わかったな?」
私をにらみながら言った土方さんが怖かったので、コクコクとうなずいた。
私が土方さんにお酌をすると、土方さんも私にお酌してくれた。
二人で一緒に飲むと、土方さんの顔が赤くなっていた。
もう酔ったらしい。
私なんか、まだまだ全然足りないぐらいなのに。
「おいっ! 昼間の話の続きだがな」
ああ、あの話ね。
「はい、何ですか?」
「このことは、俺以外に知っているやつはいないよな?」
あれ?誰が知っていたっけ?指を折って数えていると、
「お前っ! なんで他の奴が俺より先に知っているんだ?」
と言われてしまった。
そう言われてもなぁ……。
「これには、深いわけがあるのですよ」
私だって、教えたくて教えたわけじゃない。
「俺より先に知っているやつがいると言う事が、気に食わんっ!」
いや、そんなことを言われても、もう知ってしまったことだから、どうにもできないし。
「お前のことは、俺が一番最初に知りてぇんだっ!」
そ、そうなのか?なんでだ?
そう思っていると、土方さんは後ろに倒れてしまった。
「ひ、土方さんっ!」
驚いて土方さんのそばに行くと、寝息を立てて寝ていた。
どうやら、酔っ払ったらしい。
まだ一杯しか飲んでいないぞ。
お銚子の中には結構な量が入っていたので、そのまま飲んでしまった。
それから、眠ってしまった土方さんを布団まで引きずったのだった。
もしかして、あれで二日酔いになるんじゃないかと心配したけど、朝になったら、いつもの土方さんになっていた。
「昨日、俺はいつの間にか寝てしまったらしいな。記憶がない」
えっ、たったあれだけのお酒で?
「俺は、なんかやらなかったか?」
「何にもやっていないですよ」
昨日の出来事は、知らなければ知らない方がいいので、黙っていることにしよう。
「そう言えば、言おうと思っていたが、すっかり忘れていたことがある」
まだ何かあったのか?
「何ですか?」
「天野先生が変なものを出して近藤さんに見せていたぞ」
変なもの?
「何ですか?」
「俺も、あんなもの見たの初めてだ。四角いやつで、音が流れていたぞ。天野先生の話だと、他にも色々できるらしいが、ここでは出来ないと言っていた」
もしかして……。
「最後に、ちょっと撮らしてくれと言って、俺と近藤さんにそれを向けて何かやっていたが」
間違いない。
スマホだっ!
「もしかして、それで近藤さんにも、私が未来から来たことがわかってしまったのですか?」
「いや、それはないと思う。近藤さんも珍しいものだなぁと見ていただけだったからな」
それならよかった。
本当にお師匠様は、ろくなことをしないな。
スマホを出してくるなんてっ!
「ところで、あれはいったい何だったんだ?」
土方さんに説明してわかるだろうか?
「あれはですね、あの中に人が入っているのですよ」
嘘つけっ!と怒鳴られるかと思っていたら、
「そうだろう? 俺もそう思ったぞ。あそこから人の声が聞こえたからな。しかし、どうやってあんな小さい中に人が入っているんだ?」
と、真剣に土方さんは悩んでいたのだった。




