八木家の葬式
屯所として使っている八木さんの家で不幸があった。
女の子が亡くなったらしい。
いつもお世話になっているので、みんなでお葬式の手伝いをした。
受付を見てみると、近藤さんと芹沢さんが座っていた。
なんか、すごい人が受付している…。局長オーラがすごい。
その局長ズ、たまに二人で突っ付き合っては笑いをこらえているような…。何しているのだろう?
「何しているのですか?」
声をかけると、局長ズ、揃って顔を上げた。
「蒼良、これ見てみろ。」
芹沢さんに言われて見てみると、落書きだった。
「さっき受付に来た奴をちょっと書いてみたのだがな。」
「芹沢さん、絵がうまいですね。でも、さっきの人はこんな鼻じゃぁなくて、もっと低くて潰れた感じでしたよ。」
「じゃぁ、蒼良、鼻だけ直してみろ」
芹沢さんが筆を私に渡してきた。
「もっと、こういう感じで…。」
「ぷっははっ!蒼良、それじゃぁ猪みたいだ。」
近藤さんが声を出して笑った。
「近藤さん、笑ってはダメですよ。お葬式の最中です。」
「いや、すまんすまん、つい面白くてな。ぷっはは。」
笑うなと言われると、余計笑いたくなる気持ちはわかる。近藤さんもそういうタイプみたいで、たまにぷっははと、声をだして笑っていた。
「じゃぁ、これをこうすると…」
再び芹沢さんが筆を入れる。
「せ、芹沢さん、何か怪しい生き物になってますよ。ぷぷぷ。」
「蒼良、笑うでない。葬式中だぞ。」
そういう芹沢さんも笑っている。近藤さんに至っては、背中を向けてうずくまって笑いをこらえている。
そんなことをしていると、げんこつが落ちてきた。
「イタッ。」
「蒼良、葬式中だぞ、何笑っている。」
げんこつを落としたのは土方さんだった。
「す、すみません。つい落書きが面白くって。っていうか、なんで私だけげんこつなのですか?」
「ばかやろう。芹沢さんと近藤さんにげんこつが落とせるかっ!」
落とせません。この中で一番落としやすかったのが私だった訳ですね。
「近藤さん、腹抱えて笑わない!葬式中です。」
「歳、す、すまん。わ、笑いが止まらん。」
「近藤さんは、笑いのツボに入っちゃったみたいです。」
「お前が笑いのツボにいれたんだろうがっ!」
「はい、すみません。」
きっと、この中で一番怒りやすいのも私なわけで。
「土方君、そう怒るでない。わしが最初に落書きしたのがいけなかった。いや、つい暇でな。」
「芹沢さん、受付なんですから、頼みますよ。蒼良、行くぞ。」
土方さんに行くぞと言われたので、受付を後にした。
ちなみにこの落書き、後日八木さんの家のふすまが破れたときに、貼られていた。
そして、いよいよお葬式も終盤になった。
私も初めてのことだったのでよくわからなかったのだけど、出棺のときに槍を持って送るらしいのだけど、その槍をみんな左で持っていた。
「どう考えても、右だろう。なおしたほうがいい。」
と、芹沢さんが言い始めた。
「でも、葬式だから、あえて逆にしているのかもしれない。」
近藤さんが言った。
確かに、着物のあわせも逆にするもんね。しかし、芹沢さんは納得できないらしく、
「右に持ち直すべきだ。」
と騒ぎ始めた。
大丈夫なのか?大事にならないか?と心配したけど、そこは八木さん。知らんぷりして行ってしまった。
色々とあったけどお葬式は無事に終わった。




