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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年12月
238/506

お餅つき

「来たぞ」

 土方さんが少し嫌そうな顔をしてそう言った。

「誰が来たのですか?」

 誰か来た雰囲気は全然感じないんだけど。

「八木さんから正式に餅つきの手伝いの依頼が来た」

 そ、そうなのか。

「いつ依頼が来たのですか?」

「昨日だ」

 昨日、八木さんが屯所に来たのか?

 そう思っていたのが土方さんに通じたのか、

「昨日、不覚にも八木さんの家の前を通ってしまってな」

 と、話し出した。

「土方さんが、八木さんの家に近づくなって言ったのですよ」

「そうだ、俺が言った。俺だってな、忘れることがあるんだ」

 そりゃ人間だからあるだろう。

「あんたら、餅がほしいなら手伝いに来いやと言われた」

 ああ、八木さんが言いそうなセリフだわ。

「壬生を離れた途端に手伝いに来んようになるなんてな、武士の風上にもおけんわとも言っていたなぁ」

 そ、そこまで言っていたのか。

「武士の義の心を知らん人間や、みたいなことも言っていたなぁ」

 ず、ずいぶんと難しいことまで言ったなぁ。

「そこまで言われちゃ、俺だって何も言えねぇだろう」

 確かに。

「だから、近いうちに人をやると言ったら、あさってやるから待っとるでと言っていた」

 昨日の時点であさってと言う事は……。

「明日ですか?」

「そうだ」

 明日は確か……。

「屯所のすす払いじゃないですか」

「そうだ。こっちとしても人をやる余裕はねぇんだが、八木さんにそこまで言われて人をやらないのもなぁ」

 そうだよなぁ。

「お前、頼んだぞ」

 えっ?

「私ですか?」

「お前なら、八木さんとうまくやれるだろう。あ、もう一人適当に連れて行ってもいいぞ。ただし、一人だけだぞ。こっちも余裕はねぇからな」

「な、なんで私なんですか?」

「お前、前にお餅食べたいから行ってもいいって言っただろう。それに、正月の餅ももらえるぞ」

 た、確かにそう言ったが……。

「屯所のすす払いは、いる奴でやるから、お前行って来い」

「えっ、いいんですか?」

「なんで急に笑顔になるんだ?」

 そりゃ、お餅つきと大掃除とどっちがいい?と言われたら、お餅つきがいいだろう。

 だって、お餅が食べれるもん。

「とにかく、明日頼んだぞ」

「わかりました」

 明日、楽しみだなぁ。


 次の日。

 屯所を出ようとした時に気がついた。

 そう言えば、土方さんはもう一人連れて行けって言っていたよなぁ。

 誰を連れて行こうかとか、全然考えていなかった。

 誰か一緒に行ってくれる人はいないかなぁ。

 キョロキョロしていると、ほうきを持って歩いている原田さんが目に入った。

蒼良そら、どこか行くのか? 今日は屯所のすす払いだって土方さんが言っていたぞ」

 原田さんは、そう言いながら近づいてきた。

「その土方さんに頼まれて出かけるのですよ」

「どこに?」

「八木さんの家です」

「えっ?」

 えっ?って思うよね。

 すす払いの日に八木さんの家に行くなんてね。

 あ、そうだっ!

「原田さん、お餅つきとすす払い、どっちが好きですか?」

「えっ? どっちかというとすす払いの方が気が楽だな」

 そ、そうなのか?

「もしかして、八木さんの家に餅つきに行くのか?」

 コクンと私はうなずいた。

 なんでわかったんだろう?と思ったのだけど、ここまでの話の流れでわかるよね。

「原田さんは、すす払いがいいのですよね」

 すす払いがいいって言っていたから、お餅つきに行ってくれないよね。

「一緒に行く人を探しているのか?」

 私がうなずくと、

「それなら、一緒に行こう」

 と言ってくれた。

「でも、すす払いがあるのですよね。お餅つきよりすす払いがいいって言っていたから」

「蒼良と一緒なら、餅つきもすす払いもどっちも楽しそうだからな」

 それは、私がちょっと変な所……いや、ちょっとどころでない変なところが楽しいからと言う事か?

「八木さんの家も久しぶりだからな。よし、行こう」

「いいのですか?」

 本当にいいのかなぁ?

「そんなこと気にするな。行きたくないときは行かないさ」

 そう言いながら、原田さんは私の頭をワシャワシャとなでた。

「ほら、行くぞ。八木さんのことだから、遅いっ! って怒られるぞ」

 そ、そうだった。

 八木さんの家に行かなくちゃ。

 原田さんと一緒に八木さんの家に向かったのだった。


「なんや、西本願寺の方もすす払いやって言うとったけど、四人も人をよこしてくれたんか。さすが新選組の副長や」

 えっ、四人?

「私たちの二人だけですが……」

 他にも人がいるのか?

「えっ? でももう手伝うてもらっとるで」

 そ、そうなのか?だ、誰なんだ?それは。

「もち米が出来たから持ってきたぞ」

 そう言いながら来たのは、なんとっ!

「かつ……」

 桂小五郎っ!と言おうとしたら、手で口をふさがれてしまった。

「それ以上は言うな、おん……」

 女隊士と言おうとしただろうっ!

 八木さんにはまだばれていないので、私もあわてて桂小五郎の口を手でふさいだ。

「あんたら、何やっとるん? 同じ隊士で仲がええからって口ふさぎおうてどうするん?」

 八木さんがあきれた様子でそう言った。

 仲が良くないですから。

 って言うか、一応宿敵ですからね。

 お互いこれ以上は言わないと、目で確認し合ってから、口を押さえていた手を離した。

「なんであなたがここにいるのですかっ!」

 一応追われている身だってことがわからないのか?しかも、のんきにもち米炊いているし。

「ここの家の前を通ったら、米の炊ける匂いがしたからのぞいたら、家の者がよく来てくれたと言って中に入れてくれた」

 八木さん、この人のことを完全に隊士と思っているよ。

「断ればいいじゃないですか」

「一回断ろうとしたら、えらい勢いで怒られそうになったから、ここにいるのだ」

 確かに。

 八木さんならすごい勢いで怒りそうだわ。

 桂小五郎と一緒にいる人間は仲間なのだろう。

 この人も一緒に巻き込まれたらしい。

「蒼良、知り合いか?」

 原田さんが、私と桂小五郎のやり取りを聞いていたらしく、そう聞いてきた。

 この時代、写真と言うものが無いので、追われているわりに顔があまり知られていない。

 現代だったら、この顔見たら110番でありそうな顔なんだけどね。

「知り合いではないです」

「おい、女隊士。十分に知り合いだろう」

 桂小五郎がそう言ったので、八木さんに聞こえていないかと急いで八木さんの方を見たら、八木さんはたけたもち米を臼に入れる作業をしていたので、気がつかなかったらしい。

「こいつ、蒼良が女だって知っているぞ」

「むやみに女隊士って言わないでくださいよ、桂小五郎っ!」

 女隊士って言ったお返しだっ!

「なんだって、お前が桂小五郎か。こいつは捕まえないと」

 原田さんが桂小五郎の着物をつかんだ。

「そう簡単に捕まるわけにはいかないものでね」

 桂小五郎も、着物をつかんでいる原田さんの指をはがそうとしている。

「逃がすものかっ!」

「捕まるものかっ!」

「あんたら何喧嘩しとるんやっ!」

 八木さんはつかみ合いになっている二人の間に、なんと、お餅をつく道具であるきねをおろしたのだった。

 二人はあわてて避けた。

 あんなものにまともに当たったら、命にかかわる怪我をするぞ。

 それを平気でおろす八木さんって、やっぱりある意味怖いかも。

「同じ隊士なんやろっ! 喧嘩せんで仲ようせいっ! ほら、餅つくでっ!」

 八木さんはそう言って背中を向けた。

「ここは休戦したほうがいいですね。八木さんを怒らす方が怖いですよ」

 私が提案すると、二人ともうなずいてくれた。

「餅つきが終わったら、絶対に捕まえるからな」

 原田さんはそう言って、先に臼の方へ行っていた八木さんの方へ行った。

「あなたも追われている自覚を持って行動してくださいよ」

「ん? 俺って、追われていたのか?」

 思いっきり追われてますからねっ!しかも、京は長州人は出入り禁止なんだからねっ!

 

「あんたら、もうちょっとゆっくりできんのか?」

 八木さんがお餅をついてる様子を見ながらそう言った。

 原田さんが杵で餅をつき、臼の中の餅をひっくり返すのは、桂小五郎がしていた。

 原田さんは、すきあれば杵で桂小五郎の手をついてやろうと思っているみたいで、杵で餅をつく速さがものすごく速い。

 一方の桂小五郎も、手をつかれたらたまったもんじゃないと思っているみたいで、ものすごい速さで餅をひっくり返す。

 その二人がお餅つきをしているので、ものすごく速い。

 もう秒速なんじゃないか?というぐらい。

 リズムもトントントンって、休む間もないぐらい。

 そのせいか、お餅もすぐにできた。

 そしてなぜか、桂小五郎と一緒にいた人とお餅を丸くしている私。

 関西の方って丸餅で食べるらしい。

 うちは四角いお餅なんだけどなぁ。

「お餅は丸餅を食べますか?」

 無言でお餅を丸めてもつまらないなぁと思った私は、その人に質問してみた。

「丸餅です」

「やっぱり、長州あたりだと丸餅なのですね。うちは四角い餅です」

「ああ、そうですか。あなたは変わった人ですね」

 それはよく言われるが……。

「新選組なら、長州人を捕縛するでしょう。あなたはしないのですか?」

 ああ、そのことか。

「今は、休戦中なんですよ。ここの家のご主人がものすごく怖いので。それと、長州人だって同じ日本人じゃないですか。同じ日本人同士で争っている場合じゃないですよ、今は」

「桂先生の言う通りだ。あなたを新選組に置いておくのはもったいない。長州にどうですか?」

 こんなところで勧誘か。

「遠慮しておきます。私は新選組が好きなので」

 私がそう言うと、

「もったいない」

 と言われてしまった。

 その会話が終わったところで、新しいつきたてのお餅が来たので、それを丸め始めた。

 私たちは、平和的にお餅を丸めていたけど、お餅をついている方は、殺気すら感じられるような感じだった。

「同じ隊士なのに、なんであんなに仲が悪いん?」

 八木さんは、まだ隊士だと思っているらしい。

「さ、さぁ。人数が多いので、仲が悪い隊士もいるのですよ」

「ま、うちは餅つきが早う終わるかわいっこうに構わんのやけどな」

 確かに、秒速で餅をついているから、早く終わりそうだ。


 餅つきが早く終わったのはいいが、丸める作業は普通の速度なので、ついた餅がたまってしまうと言う事態になり、餅つきが終わると、餅をついていた二人が一緒に丸めるのを手伝ってくれた。

「八木さん、四角い餅じゃだめなのですか?」

 丸いと丸めるのが大変で。

「あかんっ! 正月は丸餅やっ!」

 やっぱり駄目か。

「蒼良、口を開けてみろ」

 原田さんが突然言ったので、私は口を開けた。

 すると、つきたてのお餅が口の中に入ってきた。

「美味しいか?」

「はい。つきたては美味しいですね」

 モグモグとやっていると、

「あんたら、相変わらずやな」

 と、八木さんが言ってきた。

「相変わらずと言うと?」

 訳が分からなかったので、聞き返した。

「男同士でイチャイチャと、ええ加減にせえやっ! 原田はんはこれで二回も縁談を蹴ってるんやでっ!」

 しかも、八木さんの持ってき縁談話を蹴っているので、八木さんも気に食わないところがあるのだろう。

「す、すみません」

 思わず謝ってしまった。

「こいつらは男同士ではない」

 向かい側で餅を丸めていた桂小五郎が突然そう言いだした。

 休戦協定結んでいたんじゃなかったのか?

「こいつはお……」

 桂小五郎が途中で黙ったのは、原田さんが餅を投げたからだ。

 その餅は見事命中。

「おのれ、やりやがったな」

 桂小五郎も餅を投げ始めた。

「あんたらっ! 正月の食い物で遊ぶんやないっ!」

 再び八木さんの杵が飛んできたのだった。


 なんやかんやあったけど、お餅つきは無事に終わった。

「あれ、あいついなくなったぞ」

 お餅つきが終わって、八木さんから解放されてすぐに原田さんは桂小五郎を捕縛しようと思ったらしく、彼を探し始めたが、さすが逃げの小五郎で、すでに姿が無かった。

「逃げ足が速いな」

「逃げの小五郎ですからね」

「逃げの小五郎か。あいつにふさわしい名前だな。今度会ったら絶対に捕まえてやる」

 捕まらないんだよね、これが。

 って言うか、桂小五郎も追われているって言う自覚もないから、つかまりそうな感じがするんだけど、目の前でひらりと逃げるんだもんなぁ。

 やっぱり、このまま彼は偉い人になっちゃうんだろうなぁ。

「来年の正月も、餅が食えそうだな」

 原田さんが、八木さんからもらったたくさんのお餅を見て言った。

 八木さんは、怒ると怖いけど、色々とお世話もしてくれる。

 今回も、新選組はお餅なしでお正月を迎えるんじゃないのかと心配になって呼んでくれたのだろう。

「八木さんに感謝ですね」

「そうだな」

 たくさんのお餅をもって、屯所に帰った。

 屯所では、すす払い恒例の胴上げをやっていた。

 この時代、何故かわからないけど、すす払いが終わると胴上げをする。

 今回は、土方さんが胴上げをされていたのだった。

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