表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年12月
237/506

江戸でクリスマス

 ふと暦を見た。

「ああっ!」

 暦を指さして声を出してしまった。

「どうしたの? 突然」

 沖田さんの部屋にいたので、沖田さんが驚いていた。

「今日は24日ですよね」

「ああ、そうだね」

 暦を見ながら沖田さんが言った。

「12月24日と言えばクリスマスイブですよ」

「はあ?」

 この時代は、やっぱりないよね。

「あのですね、サンタさんがやってきてプ……贈り物をくれるのですよ」

「へぇ、三太さんもずいぶん太っ腹だね。そんな話初めて聞いたよ。蒼良そらの時代の話なの?」

 沖田さんは、私が未来から来たことを知っている。

「そうです。あ、三太じゃなくてサンタですから」

「どっちでも一緒じゃない」

 そりゃ、読み方はどっちでも一緒だけど。

「で、何かやるの?」

 沖田さんがわくわくしているのか、目をキラキラさせて聞いてきた。

 クリスマスって何をしたっけなぁ。

 そうだ、ツリーに飾りをつけて飾ったよね。

 ツリーの木はもみの木。

「まず、もみの木に飾りをつけます」

「どういう飾り?」

 この時代にはないだろうなぁ。

「ブーツとか、星とか。後は、雪に見立てて綿を飾ったり、ライトアップしたりしますね」

「……なんだかよくわからないけど」

 そ、そうだよね。

「もちろん、本物じゃなくていいのですよ。七夕飾りのような感じで紙で作って飾ればいいのですよ」

「それなら簡単そうだね。もみの木って言う木はよくわからないけど、木に飾りつけをするなら七夕も同じだから、出来そうだね。早速やろう」

 沖田さんは、どこからか和紙を出してきた。

「作ろう」

 楽しそうにそう言うので、私も一緒に作った。

 もみの木はなかったので、屯所の庭の中にあるそれらしい木を見つけて飾った。

「なんか、七夕ですね」

 どこからどう見てもクリスマスツリーじゃない、七夕だった。

 なんか短冊まであるし、吹流しも網みたいな飾りもあるし。

「だって、七夕みたいに木に飾るって、蒼良が言ったんだよ」

 確かに、そう言ったけど。

 ま、いいか。

 クリスマスに飾りをつけることで、クリスマス気分を味わえそうだし。

「あれ? これは何だい?」

 沖田さんが、私が和紙で作った靴下の飾りを手に取って聞いてきた。

「靴下ですよ」

「くつした?」

 この時代はないよね。

 この時代で言うなら……

「足袋の役割をするやつですよ」

「ああ、足袋ね」

 やっぱり、足袋なら通じたぞ。

「なんで足袋なんて飾っているの?」

「サンタさんは、足袋の中に贈り物を入れてくれるのですよ。だから、飾っているのです」

「へぇ、そうなんだ。臭くなりそうだけどね」

 そう言う考え方をするか。

「でも、実際は、く……足袋より贈り物の方が大きいから入れないですけどね」

「へぇ、そうなんだ」

 沖田さんは、楽しそうに私の話を聞いてくれた。

「そうだっ! 僕はいいことを考えた」

 な、何を考え付いたんだ?

「僕はたくさん贈り物がほしいからね」

 なんか嫌な予感がしてきたが。

「蒼良は、向こうへ行っていて。三太を驚かせるから」

 だから、三太じゃなくてサンタですから。


 しばらくすると、屯所の大広間がにぎやかになった。

「どうしたのですか?」

 大広間の前であたふたしていた永倉さんに話しかけた。

「変なことになっていてな」

「どうしたのですか?」

「隊士の足袋が無くなっているんだ」

 その時に沖田さんの顔が浮かんだ。

 なんかすごいいやな予感がするのですが……。

「おい、蒼良。どこに行くんだ?」

 外に飛び出た私を追って、永倉さんも外に出た。

 さっきの飾りつけしたあたりに行くと、なんと、足袋の木が出来ていた。

「うわっ! なんでこんなに大量の足袋が木についているんだ?」

 永倉さんが驚いてそう言った。

「蒼良が言ったんだよ。三太が足袋の中に贈り物を入れてくれるって。僕はたくさんほしいから、たくさん飾ったよ」

 沖田さんは嬉しそうに言っていたけど、これって、多すぎでしょう。

「なにわけがわからんことを言っているんだ?」

 永倉さんは、あきれた顔をしていた。

 そして、足袋を木から取ろうとした。

「あ、新八さんだめだよ。三太から贈り物をもらうんだからっ!」

 なんか沖田さん、子供みたいになっているなぁ。

「沖田さん、サンタは夜寝ているときに来るのですよ。あと、子供にしか来ませんよ」

「え、そうなの? つまんないなぁ」

「おい、総司っ! 足袋をみんな持って行くからな」

 永倉さんは足袋を取り始めた。

 沖田さんは、

「つまんないや」

 と言いながら、屯所の中に入ってしまった。

 私も沖田さんが気になったので、沖田さんを追って屯所の中へ行った。

「おい、蒼良は手伝ってくれてもいいだろう」

 一人で足袋を集めていた永倉さんがそう言った。

「すみません。沖田さんが気になるので」

 私は、永倉さんに背中を向けて、急いで沖田さんのところへ行った。

「まったく、これだけの足袋を一人で片せってか?」

 そう言う永倉さんの声が聞こえた。

 ご、ごめんね、永倉さん。


「他に何かやるの? その、蒼良が言っていたやつ」

「クリスマスイブですか?」

「そう、それ」

 うーん、他には何をやったっけ?

「あ、パーティしましたね」

「ぱぁてぃ?」

「宴会のようなものです」

「ああ、それなら楽しそうだね」

「そこでサンタの仮装をした人を入れても楽しいですよ」

「三太ってどんなものなの?」

 沖田さんに言われたので、話すより絵で描いたほうが早いと思った私は、絵を描いた。

「へぇ、これが三太なんだ。ずいぶんと変わった格好をしているね」

「ここと、ここは赤いのですよ」

 墨で赤と書いておいた。

「ほとんど赤じゃん」

「サンタの着物は赤いのですよ」

「なんで?」

 なんでと聞かれても……。

「目立つようにですかね?」

「なんだ、蒼良も知らないのか」

 そんなこと知りませんよ。

 後で調べたら、司教服が赤だからサンタの服も赤いらしい。

「三太って、他に何かやるの? 贈り物は子供しかくれないんでしょ?」

「私の頭の中では、陽気にメリークリスマス! と言っていることしかないのですが……」

「陽気なんだ」

「陽気なんだと思いますよ」

「会ったことないの?」

「あまりないですね」

 偽物なら、街中にもたくさんいたけど、本物って、テレビでしかないかも。

 あと、幼稚園の時に来たサンタさんかな。

「なんだ、蒼良も会ったことがないんだ」

 めったに会えるような人ではないともうのだけど。

 そう思うのは私だけか?

「わかった。こういう格好をしているんだね。後は宴会か。何か食べるの?」

 七面鳥の足を……と言おうとしたけど、七面鳥なんてないよね。

「鳥の足を食べますね。後ケーキ」

 ケーキ食べたいよな。

「鳥の足? 嫌だなぁ、却下。後は? けぇき? なにそれ」

 この時代にケーキがないのが残念だ。

「異国の食べ物です」

 説明するのも大変なので、一言でそう言った。

「異国の食べ物? それも却下だな」

 さっきから却下っ!って、今度は何を考えているんだ?

「蒼良、今日はくりすますだっけ? それの宴会をしよう」

 えっ? クリスマス宴会?

「よし、そうしよう」

 沖田さんは楽しそうに私が書いたサンタの絵をどこかへ持って行ってしまった。

 どこへ持って行くのだろう?そして今度は何をたくらんでいるんだ?


「総司が変な宴会を企画しているらしいが」

 部屋に帰ると、土方さんがそう言った。

 変な宴会って、もしかして……。

「クリスマス宴会とか?」

「そんなようなことを言っていたなぁ。よくわからんが。近藤さんと部屋にこもっているよ」

 な、なんで近藤さんと部屋にこもっているんだ?

 ますます嫌な予感がするのだけど。

「お前、変なことを教えたんじゃないだろうな?」

「い、いや、変なことじゃないですよ」

 変なことは教えてないぞ。

 沖田さんが変なことにしているのだ。

「またお前かっ!」

 またって、沖田さんが勝手にしているだけだぞ。

「近藤さんと部屋に閉じこもって何をしているんですか?」

「俺に聞くな。俺だって追い出されたんだぞ。仕事が出来なくて困っているんだ」

 そ、そうなのか?

「それで総司の気がはれるなら、文句は言わねぇが」

 ん?ずいぶんと優しくないか?

「病気をして、隊務も出来ねぇで、屯所にこもってりゃ気ばらしなんて出来ねぇだろう。珍しく楽しそうに近藤さんと話しているからな。気がはれるのなら、文句は言わねぇよ。近藤さんも同じ気持ちなんだろうよ。笑顔で総司の話を聞いてるよ」

 そうなんだ。

 みんな、沖田さんのことをちゃんと考えてくれているんだなぁ。

 しかも、ちゃんと思ってくれてるし。

 ちょっとだけ、沖田さんがうらやましくなった。


 沖田さんと近藤さんは、夕方まで出てこなかった。

 そして夕方。

 みんなでご飯を食べていると、

「めりぃくりすますだぞっ!」

 と、近藤さんの声が聞こえてきた。

 な、何事?

 声がした方を見ると、赤い着物を着て赤い頭巾をかぶった近藤さんが、背中に何かを背負っていた。

 背中に背負っている物は、サンタが背中に背負っている袋をイメージしたものだと思うのだけど、近藤さんの背負っている物は、緑色の唐草模様が入ったやつで、どこからどう見ても赤い着物を着た泥棒にしか見えなかった。

「な、なんだ、近藤さん、還暦か?」

 土方さんが驚きつつ近藤さんに声をかけた。

 か、還暦って、近藤さんまだ30代だからね。

 でも、見方によっては還暦のお祝いの人に見えるよねぇ。

 還暦の泥棒か?

「総司の話だと、三太とか言う奴らしいんだが、どうだ?」

 近藤さんはちょっと照れながらそう言った。

 そりゃ、そう言う格好をしていたら恥ずかしくもなるよね。

「局長っ! 似合ってますよっ!」

 そう言ったのは、武田さんだ。

 本当にそう思っているのか?

「そうか」

 そう言った近藤さんの顔が嬉しそうだった。

「近藤さん、贈り物を配らないと」

 沖田さんが横でそう言うと、

「ああ、そうだった」

 と言って、唐草模様の風呂敷をあけた。

「これは歳で、これは源さん」

 そう言いながら、色々な物を配り始めた。

 もしかして、プレゼントか?

 どう見ても、泥棒が盗んできたものを配っているようにしか見えないのだけど。

「これは、蒼良にだぞ」

「私にもあるのですか?」

「当たり前だろう。蒼良もわしの大切な隊士だからな」

 近藤さんのその言葉が嬉しかった。

「蒼良には男らしくなってほしいからな、これだ」

 渡されたものは、真っ赤なものだった。

 な、なんだこれ。

 そう思って広げてみると……。

 う、うわぁっ!ふ、ふんどしだぁっ!

 私には無縁のものなのでと返そうとしたら、土方さんににらまれた。

「受け取らねぇと、ばれるぞ」

 小さい声でそう言われた。

「こ、近藤さん、ありがとうございます」

「いや、礼にはおよばんよ。いつかそれをした姿をわしに見せてくれよ」

「えっ……」

 ええっ!と悲鳴をあげようとしたら、土方さんににらまれた。

「は、はい、わかりました」

 絶対に、こんなものはしないからねっ!と思いながら、笑顔で受け取ったのだった。

 後で土方さんにあげよう。


 その後、土方さんに赤ふんをあげたら、

「こんな趣味の悪いものはしねぇよ」

 と言われてしまった。

 近藤さんからもらったのに、趣味が悪いって……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ