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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年12月
235/506

一方長州では?

 局長たちと一緒に長州へ行くことになり、無事に長州に着いたのは先月のこと。

 幕府の役人と一緒に広島藩に入ったのは、先月の16日のことだった。

 そこまでは順調だった。

 ただ長州を目指して旅をすればいいだけなので、当たり前なんだが。

 20日に長州の代表の者が出てきた。

 そして、入国を拒否された。

 というわけで、広島で足止めされてしまった。

 そんなときに局長から呼ばれた。


 局長のいる部屋へ行くと、伊東参謀と見知らぬ人間が一人と局長がいた。

「山崎君来たか」

 局長は私が部屋に入るとそう言い、座るようにという意味だろう、座布団を指さした。

 私はその座布団に座った。

「山崎君、君に頼みがある」

 局長は改まってそう言った。

「なんでしょう?」

 局長なんだから、頼みがあるなんて言わないで、直接言えばいいのにと思うが、それが局長のいいところなのかもしれない。

「長州に潜入してくれ」

 局長は一言そう言った。

 長州は入国拒否されて潜入どころか、入ることすらできないはずだ。

「恐れながら、局長……」

 私がそのことを言おうとしたら、伊東参謀に止められた。

「山崎君、心配はいらない。ここにいる人間は、赤根武人あかねたくとと言って、長州の人間だ。こういう事もあろうかと思い、捕縛した長州の人間を放免して連れてきていたのだ」

 伊東参謀が自分の考えは正しかったと言うように、胸を張って嬉しそうに言った。

「この赤根武人という人間と一緒に長州に潜入しろと言う事ですね」

「そう言う事だ。よくわかっているな、山崎君」

 局長ではなく、伊東参謀がそう言った。

「わかりました」

 私はそう返事をした。

 副長から伊藤参謀を見張ってほしいと頼まれていたが、今は長州に潜入することが先決だろう。

「頼んだぞ、伊東君」

 最後に局長にそう言われた。

「わかりました」

 再びそう返事をした。

 今回の潜入捜査は、厄介なものになりそうだな。

 蒼良さんがいれば、夫婦役で潜入ってなって厄介なことも楽しいものになるのだが。

 男装をして新選組に入っている蒼良さん。

 女なのにかまどは使えなくて、いつも二人でご飯を作っていた。

 それが楽しくて捜査中だと言う事を忘れてしまう事もあった。

 蒼良さんがいてくれたら。

 局長たちとの話が終わり、部屋を出た。

 外に出ると、青い空を見上げた。

 京の空の下で蒼良さんは今頃何をしているのだろう。


 次の日、長州藩士が局長を訪ねてきた。

 その日のうちに局長も広島藩にある長州藩邸を訪ね、同じ藩士と面談をした。

 それでも、長州入国は拒否された。

 伊東参謀の作戦が実行される時が来た。

 その日のうちに私は赤根武人とその他数人で長州藩へ潜入することになった。


 長州に潜入したら、赤根武人とは別行動をとることになった。

 赤根という人間から見れば、長州へ潜入させてやったんだから、あとは自分で何とかしろと言う事なんだろう。

 これは潜入中に知ったことだが、赤根は幕府の攻撃から長州を守ろうとしていたらしい。

 そこからして裏切り行為になる。

 かつての自分と仲のよかった人間を集めて説得するも、伊藤参謀に連れられてきたことは長州側もすでに知っており、長州側からも裏切り者扱いをされてしまう。

 そして、捕縛された。

 裏切り者扱いをされているから、処刑は免れないだろう。


 赤根を頼れないことを悟った私は、商人のふりをして長州の町を歩いた。

 商人のふりをすることは、普段の潜入捜査で慣れている。

 潜入捜査で一番怪しまれないのが、商人だろう。

 どこにでもいるし、何をしてもとがめられない。

 私が以前やっていた鍼灸師しんきゅうしはもっと都合がいい。

 鍼灸をするときは、外では出来ない。

 だから、誰にもとがめられずに家の中に入ることが出来る。

 家の中に入れればこっちものだ。

 厠へ行くふりをして、あっちこっち部屋に入って調べることもできる。

 家の人間に見つかれば、厠の場所を探していたと言えばいい。

 今回も同じことをすれば大丈夫だろう。

 そのために、自分が寝起きするところを探さねばならない。

 宿を取れば、旅人であると言う事がわかってしまう。

 旅人となるとまた扱いが変わってくる。

 どこからきた?と言う事になり、そこから新選組だと言う事がばれてしまうと言う可能性もある。

 それだけは避けねばならない。

 いつもは副長が手をまわしてくれているのだが、今回は自分が全部やらなければならない。

 まずは長屋を借りたほうがいいかもしれない。

 長屋を借りるのも大変だ。

 まずは長屋を取り締まっている大家をだまさねばならない。

 無事に借りることが出来るのだろうか。


 どこでもいい、今回は一人だけだから、寝るだけのところがあればいい。

 そう思いながら長州の町を歩き、長屋を探していたら、見慣れた看板が建っていた。

 その看板には、『鴻池』と書いてあった。

 だめでもともとだ。

 自分を雇ってもらえるか聞いてみよう。

 ここで雇ってもらえるのなら、潜入捜査も楽なものとなるだろう。

 私は、鴻池と書かれた店をくぐった。

 長州の鴻池は大坂と比べ物にならないぐらい小さい店だったが、他の店と比べると大きい。

 さすが、日本中に名をとどろかせている大商人、鴻池家だ。

「ごめんください」

 のれんをくぐると、

「はいはい」

 と、大坂なまりの声が聞こえてきた。

 奥から出てきた人間を見て、自分はなんて運がいいのだろうと思った。

 出てきた人間は、なんと、鴻池家の主人その人だったのだ。


「山崎はんが来るとは思わなんだな」

 あれから奥へ通され、お茶を出されたので、鴻池の主人と一緒に飲んだ。

 これまであったことを詳細に話した。

 そのうえで、協力を頼んだ。

「ええで」

 鴻池の主人は、一つ返事で了解した。

「それにしても、なんで長州にいるのですか?」

 大坂にいるはずの主人が、なんで長州に?

「もうすぐ長州に幕府軍が入るって聞いたさかい、長州に貸していた物を返してもらわんとな」

 鴻池家は両替商だ。

 その規模は、ほとんどの藩が鴻池の世話になっていると言っても過言ではない。

 藩を維持するためにも金は必要だ。

 両替もしていたが、同様に借金もしているのだろう。

 財政難である今、ほとんどの藩が借金だらけだろう。

 その借金に鴻池家がどれだけ貢献しているのだろうか。

 突然取り立てに来られて、長州藩は出すものがあるのか?

 長州藩が気の毒になってきた。


 鴻池の主人の一言で、私は鴻池の主人の付き人として働くことになった。

 仕事は、主人の横について歩くだけだ。

 たまに鍼灸の治療もした。

 仕事はそれだけだが、潜入捜査としての仕事は大成功だった。

 なんと、長州藩の中に入ることもできてしまった。

 仕事内容は思った通りの借金の取り立てだった。

 突然来た鴻池の主人に、藩の人間はあわてていた。

「返すんか? 返されへんのか?」

「いや、もうちょっと待ってほしい。今はわが藩も取り込み中ゆえ」

 やり取りされる会話はこれだけだ。

 これだけのことが何回も繰り返される。

 そして帰りにいつも、

「毎回同じことばかりでつまらんやろ」

 と、鴻池の主人に言われた。

 しかし、私にとっては大きな収穫だった。

 大きな収穫とは、長州は幕府と戦う気が満々だと言う事だ。

 武器も見たこともないような物がそろっていた。

「あれは、何ですか?」

 初めて見る武器に視線を送って、鴻池の主人に聞いた。

「なんやようわからんけど、最新鋭の武器らしいで」

 長州に武器の購入など幕府は禁止しているはずだ。

「幕府が禁止しているのに、どこから武器が入ってくるのですか?」

「聞いた話やと、亀山社中と言う所から買うているらしいで」

 亀山社中?初めて聞く名前だ。

 蒼良さんなら知っていそうだな。

 あの人は、私たちが知らないようなことを知っていて、普通に知っていることを知らない人だ。

 それが面白い所であり、彼女の魅力の一つになっている。

 そう思ったら、蒼良さんに会いたくなった。

 蒼良さんは何をしているのだろう。

 青空を見て、そう思った。

 空は京にもつながっているのに、会えないのは切ない。


 鴻池家に戻り、亀山社中について調べた。

 すると、その裏に薩摩がいることが分かった。

 そもそも、亀山社中は坂本龍馬という人間が作ったらしく、その組織自体は肥前長崎にある。

 その資金は薩摩藩が援助をしたらしい。

 その組織が長州に出入りしていると言う事は、長州と薩摩はつながっていると言う事か?

 その事実が信じられなかった。

 前回の長州征伐の時に幕府側の参謀に任命された人間は、確か薩摩藩の人間だ。

 そして、長州藩と交渉をして不戦勝を勝ち取った。

 その時から、長州とつながりがあったのか?

 そこまではわからない。

 はっきりしていることは、長州の裏に薩摩がいると言う事だ。


 数日後、その報告をしに広島に入った。

 鴻池の主人の付き人になっていたので、鴻池の主人も広島まで付き合ってもらった。

「久々に近藤はんに会えるなぁ。楽しみやなぁ。蒼良はんがおらんのが残念やけどな」

 それは私も一緒だった。

 

 広島の宿に私が潜入する前と同じように局長がいた。

 潜入捜査でわかったことを教えると、

「でかしたぞ、山崎君」

 と、大きな声でほめた。

 伊東参謀の方を見ると、顔色が青ざめていたように感じた。

 薩摩という名前が出てからそう言う感じになっている。

 何か都合が悪いことでもあるのか?これは京へ帰ってから副長へ報告しよう。

「山崎君が色々とやっていると言うのに、この身はいまだ長州に入れずにいる。誠に残念だ。なぁ、伊東君」

 局長が伊東参謀に返事を求めた。

「あ、そうですね」

 伊東参謀は何か考え事をしていたらしい。

 すぐには返事が出来なかった。

 局長の話によると、広島藩にいた長州藩士が長州に帰ると言うので、同行をさせてもらおうとしたらしいが、これも断られたらしい。

 こうなったら最後の手だと思ったのか、岩国に入国した。

 岩国の役人に長州入国を求めたが、これも断られた。

「やることはすべてやった。だから、京へ帰ろうと思う」

 局長は残念そうにそう言った。

 先に旅立った幕府の役人を追って、船で大坂に行くことになっているらしい。

「山崎君、悪いが君はここにとどまって仕事を続行してもらいたい。頼んでいいか?」

 そう言われて頭によぎったのは、蒼良さんだった。

 会える日がまた遠のいたな。

「わかりました」

 蒼良さんにいつ会えるのだろうか。


 それから鴻池の主人と局長で話をしていた。

 それを横で聞いていた。

 最後に

「山崎君、頼んだぞ」

 と言われた。

「わかりました」

 私はそう一言言い、頭を下げた。

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