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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年12月
234/506

沖田さんにばれる

「お前、平助に何かしたか?」

 突然土方さんに言われた。

「な、何かって、何ですか?」

 思わずドキッとしてしまった。

 この前、藤堂さんが番頭さんとしてではなく、芸妓さんに変身して働いていたことは、内緒になっている。

 もしかして、どこからか情報がもれたのか?

「平助が女らしくなっているって、他の隊士から言われてだな」

 えっ、そうなのか?

「お前、顔が笑っているぞ」

 えっ、笑ってる?

「何かあったのか?」

「いや、何もありませんよ」

 いかん、笑いが止まらない。

「そう言えば、総司に聞いたら、これには深い深いわけがあるんですよって、笑いながら言ってたが、深いわけってなんだ」

 沖田さん、内緒って言ったのに。

「おい聞いてんのか?」

「土方さん、沖田さんの言う通り、これには深い深いわけがあるのですよ」

「笑うぐらいの深いわけか」

 いや、笑っていないと思うのですが……プッ。

「今、吹き出しただろう」

「ふ、吹き出してなんかいませんよ」

 慌ててごまかした。

「ま、いい。問題はそこではねぇんだ」

 なんだろう?

「うちの隊は、男所帯だからな。男色ってものがあるだろう」

 えっ?だ、男色?

「男が好きだって野郎に平助が狙われる可能性があるってころだ」

 そ、そうなのか?

「救いは、男色最強のやつが長州に行っているってことだな」

「た、武田さんですか?」

「俺は名前まで言ってねぇぞ」

 言っていなくても、言ったと同じだろう。

「とにかく、奴が帰ってくるまでに何とかしねぇと、平助は狙われるぞ」

 そ、それは大変だっ!

「今すぐ、何とかしますっ!」

「で、平助はなんでああなったんだ?」

「それはですね、島原で芸妓さんになったからですよ」

「はあっ?」

 えっ?ああっ!言ってしまったっ!

 藤堂さん、ごめんなさいっ!

「なんで平助が芸妓なんてやっていたんだ? あいつは番頭で言ったと思ったんだが」

「内緒にしてくださいよ」

「お前こそ、今みたいにぽろっと言うなよ」

 はい、すみません。

 もうばれてしまったものは仕方ないと言う事で、心の中で藤堂さんに何回も謝りながら、今まであったことを話したのだった。

 話し終わると、土方さんも笑っていた。

「土方さん、笑いごとじゃないと思いますが……」

「そう言うお前も笑っているぞ」

 我慢してるんだけど、つい……。

「と、とにかくだな」

 まだ笑いが止まらないのか、ふるえた声でそう言った。

「とにかく何ですか?」

「武田が帰ってくる前に平助なんとかしとけ」

 藤堂さんがそうなった責任は私にもあるからなぁ。

「わかりました」


 藤堂さんを探していると、沖田さんに会った。

「あっ! 沖田さんっ!」

 思わず指をさして呼び止めてしまった。

「何?」

「土方さんに言いましたね」

「僕は言ってないよ。深い事情があると言ったんだよ」

 そ、それだよ。

 それが無ければ、私だってぽろっと言わなかったのに。

 って、一番悪いのは、ぽろっと言った私か?

「もしかして、蒼良が言っちゃった?」

 えっ?

「そ、そんなこと……」

「言ったね。平助もかわいそうに」

「お、沖田さんのせいなんですからねっ!」

「誰のせいだって?」

 後ろから声が聞こえた。

 この声は……。

 恐る恐る沖田さんと振り向くと……

「私の名前が聞こえたけど、なに?」

 そこには藤堂さんがいた。

 しかも、なに?って言った時少し首をかしげるしぐさが女っぽい。

 もしかして、私より女らしくなってる?

「平助、それはやばいよ」

 沖田さんも同じことを思ったらしくて、藤堂さんにそう言った。

「そう? 実は、新八さんとかにも言われて困っているんだよね」

 みんな同じことを思っていたのか。

「私は普通にしているんだけど、どうすれば治るんだろう」

 その言い方も、最後の方に首を曲げて指までそえて、変な色っぽさが……。

 思わず私は手が出て、藤堂さんの顔の角度を直して指もしまわせた。

「こうすれば大丈夫です。これからはちょっと気を付けたほうがいいですよ。特に、武田さんが帰ってくるまでに何とかしないと、狙われるって土方さんが……」

「えっ、土方さんに言ったの?」

 ええっ!

「僕じゃないよ。蒼良が」

「いや、最初に沖田さんが深い事情があるなんていうから」

「でも、言っちゃったのは蒼良でしょう?」

「沖田さんにも責任がありますよ」

「あのさ、二人ともやめてよ」

 藤堂さんの声が聞こえたので、そっちを向くと、悲しげな顔をしていた。

 しかも、目がうるんでいるし。

「平助、ごめんよ」

「藤堂さん、ごめんなさい」

 思わず二人で謝ってしまった。

 いかん、これは早く何とかしなければっ!

「平助、今日はちょうど良順先生のところに行くから、一緒に行って相談してみよう」

 沖田さんが藤堂さんの方に両手をのせてそう言った。

「良順先生が何とかしてくれるのですか?」

 いくら医者でも、そこまで治せるのか?

「良順先生なら治してくれるさ。平助、一緒に行こう」

「わかったよ、総司」

「あ、ついでに蒼良もね」

 今、ついでって言ったよな。

「平助に悲しい思いをさせた責任を取らないとね」

 そうだよね、言っちゃったのは私だしね。

「わかりました、行きましょうっ!」

 というわけで、三人で良順先生の所に行った。


「そんなもの治せるわけないだろう」

 良順先生から一言そう言われたのだった。

 そりゃそうだよね、病気じゃなくて、本人の癖だもんね。

 もしかして、沖田さんにだまされたか?

 チラッと沖田さんの方を見ると、エへへという感じで笑っていた。

「総司、もしかして、一人で行きたくないからそう言って連れてきたとか?」

「何言っているんだよ。僕は本気で平助が心配にだったんだよ」

 なんか、言い方がわざとらしいぞ。

「そうなんだ、そんなに私のことを思って……」

 藤堂さんは、感激したのか目がウルウルしている。

 いや、それは違うと思うけど……。

「その、目がウルウルするのも何とかしたほうがいいと思うぞ。それだけでもだいぶ違うと思うがな」

 確かに、良順先生の言う通りだ。

「ところで、蒼良君に話がある」

 良順先生は私の方を見て言った。

「何ですか?」

 良順先生は机の上に置いてあったものを私たちに見せた。

 それは、沖田さんの薬をお師匠様が持ってきたのだけど、そのカプセルが二つに割れて、中に入っていたものも全部出ていた。

 中身にこれが入っていたのかぁ。

 カプセル薬なんてめったに開けないから、中がどうなっているかとかわからないもんね。

「わかるな?」

 良順先生が私に聞いてきた。

「お師匠様が持ってきた、沖田さんの薬ですね」

 私が行ったら、良順先生がうなずいた。

「色々調べたんだが、全く分からなかった。これで少しでも労咳の患者が減ればと思ったんだがな」

 この時代にないものばかりだから、良順先生がわからないのも当然だ。

「で、蒼良君は、この薬のことを知っているかと思って聞いたのだ。はっきりと言わせてもらうと、医者のわしでもわからないもので、異国の者にも聞いてみたが、わからんと言われた。わからないものを自分の患者に飲ませるわけにはいかないから、沖田君にも、服用をやめさせるつもりでいるが」

「だめです。それだけはやめてください」

 今は、この薬だけが頼りなんだ。

 しかも、この薬を飲んでも労咳を止めることはできても、治すことはできない。

「それなら、この薬のことを教えてくれ」

 どうしよう?

 でも、この薬をお師匠様が渡した時点で、こうなることはわかっていた。

 別に内緒にしなくてもいいと言ったから、素直に言ったほうがいいのかもしれない。

 信じてもらえるかわからないけど。

「これは、150年以上先の未来から持ってきた薬です」

 私がそう言うと、藤堂さんは言ってしまって大丈夫か?と言うような心配そうな顔になり、沖田さんと良順先生は驚いていた。

「本気で言っているのか?」

 良順先生に聞かれた。

「本当です」

「信じられないが、この薬を見ればその話も納得できる。この薬はこの時代の物ではない。未来の物だな」

 良順先生に聞かれ、私は素直にうなずいた。

「実は、薬の中身は私もよくわからないのです。ただ、労咳の進行を止めることが出来るとしか知りません。この薬を入れていたものはカプセルと言って、お腹の中に入ると溶けるようにできています」

「なるほど、苦い思いをしないで薬が飲めると言う事だな」

 良順先生は、二つに割れたカプセルを手にとって見ながら言った。

「だから、これなら僕も飲めるんだよ」

 沖田さん、他の薬も飲めるようになってくださいよ。

 子供じゃないんだから。

「未来では、労咳は治るのか?」

 再び良順先生に聞かれた。

「治ります。ただ、この薬よりも強い薬を使わないといけないみたいで、病院での治療が必要です」

「なるほどな。蒼良君が労咳になりにくい体だと前に聞いたが、それも、蒼良君が未来から来たと言う事がわかると話が合うな」

 信じてもらえないかと思ったけど、良順先生は信じてくれた。

「信じてくれて、ありがとうございます」

「普通は信じないと思うが、わしはここが柔らかいからな」

 ここと言いながら、自分の頭を指さした。

「沖田君を未来に連れて行って治療するのはだめなのか?」

「それは、まだ沖田さんを連れて行く時期ではないと思います」

 だから、お師匠様もまだ連れて行くとは言っていない。

 藤堂さんにも時期が来たらみたいなことを言っていたようだし、まだ連れて行くことはできないのだろう。

 私も未来に連れて行って治療を受けさせたいと思っているけど、出来ないでいる。

「時期を間違えて連れて行くと、機械がこわれるそうです」

「機械?」

「私とお師匠様をこの時代に運んだ機械です」

「そうか」

 良順先生は、残念そうな顔をした。

 沖田さんの労咳を治してあげたかったのだろう。

「ところで、未来から来たってことは、蒼良は、この後どうなるかわかってんだよね。僕はどうなるの?」

 沖田さんに一番聞かれたくないことを聞かれた。

 黙っていたら、

「わかった、労咳で死ぬんだね」

 と言われてしまった。

 何も言えなくなってしまった。

「本当なんだ」

 沖田さんが悲しい顔をした。

「あのですね、確かに私の生きていた時代から見れば、この時代は過去です。でも、この時代から見れば、先のことは未来なんですよ。未来は変えることはできるんですよ」

 だから、私がここにいる。

 これから起きる未来を少しでも変えるために。

「大丈夫ですよ。沖田さんを労咳で死なせませんよ。絶対に私が死なせませんから」

 私がそう言うと、しばらくシーンとした空気が流れた。

 ウッウッと、藤堂さんの泣き声が聞こえ、そっちを見ると、また女らしく指で涙をふいていた。

「なんか、感動しちゃって」

「こりゃ、こっちを何とかしないとだめだな」

 良順先生が藤堂さんを見てそう言った。

「蒼良、ありがとう。僕は、蒼良が男であろう女であろうと、未来から来た人間であろうと、そんなことは全く関係ない。蒼良と言う人間が好きだよ」

 沖田さんは笑顔でそう言ってくれた。

「ありがとうございます。一応今の話はここだけの話にしてください」

「でも、平助は知っていたみたいだし、他にも知っている人はいるんでしょ?」

 そう言われると、もう三人いや、良順先生もだから四人か。

「それなら、大丈夫だよ」

 沖田さん、何が大丈夫なんですか?

「いや、本当にこれだけは内緒でお願いします」

 頭を下げて一生懸命お願いした。

「わかったよ。言わないから安心して」

 沖田さんも、これは普通じゃないと思ったのだろう。

 そう約束してくれた。

 その間、良順先生は藤堂さんを診察してくれていたのだった。


「あ、少し治ってますよ」

 少し前を歩く藤堂さんに言った。

 内またでなよなよって感じで歩いていたのが、普通に戻ってきている。

「そう? よかった。しばらくは意識していないとだめだな」

「平助、良順先生に言われたの?」

「うん。しばらく男らしくを意識していれば、自然に治ると言われた」

 治せないと言いつつ、ちゃんと治療をしてくれた。

 さすが良順先生。

「武田さんが帰ってくるまでには何とかなりそうですね」

「蒼良、なんでここで武田君が出てくるの?」

 藤堂さんが不思議そうな顔をして聞いてきた。

 あれ、武田さんの件は言ってなかったか?

「蒼良は、平助が武田君に狙われると思っていたんでしょ」

 沖田さんが普通にそう言った。

 藤堂さんが真っ赤な顔をして、

「そ、それはないよ。ぜったいに」

 と、否定をしていたけど、このままだと襲われる可能性大だからねっ!

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