沖田さんにばれる
「お前、平助に何かしたか?」
突然土方さんに言われた。
「な、何かって、何ですか?」
思わずドキッとしてしまった。
この前、藤堂さんが番頭さんとしてではなく、芸妓さんに変身して働いていたことは、内緒になっている。
もしかして、どこからか情報がもれたのか?
「平助が女らしくなっているって、他の隊士から言われてだな」
えっ、そうなのか?
「お前、顔が笑っているぞ」
えっ、笑ってる?
「何かあったのか?」
「いや、何もありませんよ」
いかん、笑いが止まらない。
「そう言えば、総司に聞いたら、これには深い深いわけがあるんですよって、笑いながら言ってたが、深いわけってなんだ」
沖田さん、内緒って言ったのに。
「おい聞いてんのか?」
「土方さん、沖田さんの言う通り、これには深い深いわけがあるのですよ」
「笑うぐらいの深いわけか」
いや、笑っていないと思うのですが……プッ。
「今、吹き出しただろう」
「ふ、吹き出してなんかいませんよ」
慌ててごまかした。
「ま、いい。問題はそこではねぇんだ」
なんだろう?
「うちの隊は、男所帯だからな。男色ってものがあるだろう」
えっ?だ、男色?
「男が好きだって野郎に平助が狙われる可能性があるってころだ」
そ、そうなのか?
「救いは、男色最強のやつが長州に行っているってことだな」
「た、武田さんですか?」
「俺は名前まで言ってねぇぞ」
言っていなくても、言ったと同じだろう。
「とにかく、奴が帰ってくるまでに何とかしねぇと、平助は狙われるぞ」
そ、それは大変だっ!
「今すぐ、何とかしますっ!」
「で、平助はなんでああなったんだ?」
「それはですね、島原で芸妓さんになったからですよ」
「はあっ?」
えっ?ああっ!言ってしまったっ!
藤堂さん、ごめんなさいっ!
「なんで平助が芸妓なんてやっていたんだ? あいつは番頭で言ったと思ったんだが」
「内緒にしてくださいよ」
「お前こそ、今みたいにぽろっと言うなよ」
はい、すみません。
もうばれてしまったものは仕方ないと言う事で、心の中で藤堂さんに何回も謝りながら、今まであったことを話したのだった。
話し終わると、土方さんも笑っていた。
「土方さん、笑いごとじゃないと思いますが……」
「そう言うお前も笑っているぞ」
我慢してるんだけど、つい……。
「と、とにかくだな」
まだ笑いが止まらないのか、ふるえた声でそう言った。
「とにかく何ですか?」
「武田が帰ってくる前に平助なんとかしとけ」
藤堂さんがそうなった責任は私にもあるからなぁ。
「わかりました」
藤堂さんを探していると、沖田さんに会った。
「あっ! 沖田さんっ!」
思わず指をさして呼び止めてしまった。
「何?」
「土方さんに言いましたね」
「僕は言ってないよ。深い事情があると言ったんだよ」
そ、それだよ。
それが無ければ、私だってぽろっと言わなかったのに。
って、一番悪いのは、ぽろっと言った私か?
「もしかして、蒼良が言っちゃった?」
えっ?
「そ、そんなこと……」
「言ったね。平助もかわいそうに」
「お、沖田さんのせいなんですからねっ!」
「誰のせいだって?」
後ろから声が聞こえた。
この声は……。
恐る恐る沖田さんと振り向くと……
「私の名前が聞こえたけど、なに?」
そこには藤堂さんがいた。
しかも、なに?って言った時少し首をかしげるしぐさが女っぽい。
もしかして、私より女らしくなってる?
「平助、それはやばいよ」
沖田さんも同じことを思ったらしくて、藤堂さんにそう言った。
「そう? 実は、新八さんとかにも言われて困っているんだよね」
みんな同じことを思っていたのか。
「私は普通にしているんだけど、どうすれば治るんだろう」
その言い方も、最後の方に首を曲げて指までそえて、変な色っぽさが……。
思わず私は手が出て、藤堂さんの顔の角度を直して指もしまわせた。
「こうすれば大丈夫です。これからはちょっと気を付けたほうがいいですよ。特に、武田さんが帰ってくるまでに何とかしないと、狙われるって土方さんが……」
「えっ、土方さんに言ったの?」
ええっ!
「僕じゃないよ。蒼良が」
「いや、最初に沖田さんが深い事情があるなんていうから」
「でも、言っちゃったのは蒼良でしょう?」
「沖田さんにも責任がありますよ」
「あのさ、二人ともやめてよ」
藤堂さんの声が聞こえたので、そっちを向くと、悲しげな顔をしていた。
しかも、目がうるんでいるし。
「平助、ごめんよ」
「藤堂さん、ごめんなさい」
思わず二人で謝ってしまった。
いかん、これは早く何とかしなければっ!
「平助、今日はちょうど良順先生のところに行くから、一緒に行って相談してみよう」
沖田さんが藤堂さんの方に両手をのせてそう言った。
「良順先生が何とかしてくれるのですか?」
いくら医者でも、そこまで治せるのか?
「良順先生なら治してくれるさ。平助、一緒に行こう」
「わかったよ、総司」
「あ、ついでに蒼良もね」
今、ついでって言ったよな。
「平助に悲しい思いをさせた責任を取らないとね」
そうだよね、言っちゃったのは私だしね。
「わかりました、行きましょうっ!」
というわけで、三人で良順先生の所に行った。
「そんなもの治せるわけないだろう」
良順先生から一言そう言われたのだった。
そりゃそうだよね、病気じゃなくて、本人の癖だもんね。
もしかして、沖田さんにだまされたか?
チラッと沖田さんの方を見ると、エへへという感じで笑っていた。
「総司、もしかして、一人で行きたくないからそう言って連れてきたとか?」
「何言っているんだよ。僕は本気で平助が心配にだったんだよ」
なんか、言い方がわざとらしいぞ。
「そうなんだ、そんなに私のことを思って……」
藤堂さんは、感激したのか目がウルウルしている。
いや、それは違うと思うけど……。
「その、目がウルウルするのも何とかしたほうがいいと思うぞ。それだけでもだいぶ違うと思うがな」
確かに、良順先生の言う通りだ。
「ところで、蒼良君に話がある」
良順先生は私の方を見て言った。
「何ですか?」
良順先生は机の上に置いてあったものを私たちに見せた。
それは、沖田さんの薬をお師匠様が持ってきたのだけど、そのカプセルが二つに割れて、中に入っていたものも全部出ていた。
中身にこれが入っていたのかぁ。
カプセル薬なんてめったに開けないから、中がどうなっているかとかわからないもんね。
「わかるな?」
良順先生が私に聞いてきた。
「お師匠様が持ってきた、沖田さんの薬ですね」
私が行ったら、良順先生がうなずいた。
「色々調べたんだが、全く分からなかった。これで少しでも労咳の患者が減ればと思ったんだがな」
この時代にないものばかりだから、良順先生がわからないのも当然だ。
「で、蒼良君は、この薬のことを知っているかと思って聞いたのだ。はっきりと言わせてもらうと、医者のわしでもわからないもので、異国の者にも聞いてみたが、わからんと言われた。わからないものを自分の患者に飲ませるわけにはいかないから、沖田君にも、服用をやめさせるつもりでいるが」
「だめです。それだけはやめてください」
今は、この薬だけが頼りなんだ。
しかも、この薬を飲んでも労咳を止めることはできても、治すことはできない。
「それなら、この薬のことを教えてくれ」
どうしよう?
でも、この薬をお師匠様が渡した時点で、こうなることはわかっていた。
別に内緒にしなくてもいいと言ったから、素直に言ったほうがいいのかもしれない。
信じてもらえるかわからないけど。
「これは、150年以上先の未来から持ってきた薬です」
私がそう言うと、藤堂さんは言ってしまって大丈夫か?と言うような心配そうな顔になり、沖田さんと良順先生は驚いていた。
「本気で言っているのか?」
良順先生に聞かれた。
「本当です」
「信じられないが、この薬を見ればその話も納得できる。この薬はこの時代の物ではない。未来の物だな」
良順先生に聞かれ、私は素直にうなずいた。
「実は、薬の中身は私もよくわからないのです。ただ、労咳の進行を止めることが出来るとしか知りません。この薬を入れていたものはカプセルと言って、お腹の中に入ると溶けるようにできています」
「なるほど、苦い思いをしないで薬が飲めると言う事だな」
良順先生は、二つに割れたカプセルを手にとって見ながら言った。
「だから、これなら僕も飲めるんだよ」
沖田さん、他の薬も飲めるようになってくださいよ。
子供じゃないんだから。
「未来では、労咳は治るのか?」
再び良順先生に聞かれた。
「治ります。ただ、この薬よりも強い薬を使わないといけないみたいで、病院での治療が必要です」
「なるほどな。蒼良君が労咳になりにくい体だと前に聞いたが、それも、蒼良君が未来から来たと言う事がわかると話が合うな」
信じてもらえないかと思ったけど、良順先生は信じてくれた。
「信じてくれて、ありがとうございます」
「普通は信じないと思うが、わしはここが柔らかいからな」
ここと言いながら、自分の頭を指さした。
「沖田君を未来に連れて行って治療するのはだめなのか?」
「それは、まだ沖田さんを連れて行く時期ではないと思います」
だから、お師匠様もまだ連れて行くとは言っていない。
藤堂さんにも時期が来たらみたいなことを言っていたようだし、まだ連れて行くことはできないのだろう。
私も未来に連れて行って治療を受けさせたいと思っているけど、出来ないでいる。
「時期を間違えて連れて行くと、機械がこわれるそうです」
「機械?」
「私とお師匠様をこの時代に運んだ機械です」
「そうか」
良順先生は、残念そうな顔をした。
沖田さんの労咳を治してあげたかったのだろう。
「ところで、未来から来たってことは、蒼良は、この後どうなるかわかってんだよね。僕はどうなるの?」
沖田さんに一番聞かれたくないことを聞かれた。
黙っていたら、
「わかった、労咳で死ぬんだね」
と言われてしまった。
何も言えなくなってしまった。
「本当なんだ」
沖田さんが悲しい顔をした。
「あのですね、確かに私の生きていた時代から見れば、この時代は過去です。でも、この時代から見れば、先のことは未来なんですよ。未来は変えることはできるんですよ」
だから、私がここにいる。
これから起きる未来を少しでも変えるために。
「大丈夫ですよ。沖田さんを労咳で死なせませんよ。絶対に私が死なせませんから」
私がそう言うと、しばらくシーンとした空気が流れた。
ウッウッと、藤堂さんの泣き声が聞こえ、そっちを見ると、また女らしく指で涙をふいていた。
「なんか、感動しちゃって」
「こりゃ、こっちを何とかしないとだめだな」
良順先生が藤堂さんを見てそう言った。
「蒼良、ありがとう。僕は、蒼良が男であろう女であろうと、未来から来た人間であろうと、そんなことは全く関係ない。蒼良と言う人間が好きだよ」
沖田さんは笑顔でそう言ってくれた。
「ありがとうございます。一応今の話はここだけの話にしてください」
「でも、平助は知っていたみたいだし、他にも知っている人はいるんでしょ?」
そう言われると、もう三人いや、良順先生もだから四人か。
「それなら、大丈夫だよ」
沖田さん、何が大丈夫なんですか?
「いや、本当にこれだけは内緒でお願いします」
頭を下げて一生懸命お願いした。
「わかったよ。言わないから安心して」
沖田さんも、これは普通じゃないと思ったのだろう。
そう約束してくれた。
その間、良順先生は藤堂さんを診察してくれていたのだった。
「あ、少し治ってますよ」
少し前を歩く藤堂さんに言った。
内またでなよなよって感じで歩いていたのが、普通に戻ってきている。
「そう? よかった。しばらくは意識していないとだめだな」
「平助、良順先生に言われたの?」
「うん。しばらく男らしくを意識していれば、自然に治ると言われた」
治せないと言いつつ、ちゃんと治療をしてくれた。
さすが良順先生。
「武田さんが帰ってくるまでには何とかなりそうですね」
「蒼良、なんでここで武田君が出てくるの?」
藤堂さんが不思議そうな顔をして聞いてきた。
あれ、武田さんの件は言ってなかったか?
「蒼良は、平助が武田君に狙われると思っていたんでしょ」
沖田さんが普通にそう言った。
藤堂さんが真っ赤な顔をして、
「そ、それはないよ。ぜったいに」
と、否定をしていたけど、このままだと襲われる可能性大だからねっ!




