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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年12月
233/506

藤堂さんとアルバイト

「おい、しばらく八木家に近づかないほうがいいぞ」

 土方さんに突然言われた。

「何かあったのですか?」

 八木さんの家に何かあったのか?

「もう十二月だろう」

 そう言えば、もう十二月になるなぁ。

 旧暦なので、現代で言うと一月の中旬ぐらいから、二月の初旬あたりになる。

 十二月の終わりあたりになると、梅が咲くかもしれない。

 今年は、閏年と言うものがあったので、ちょっとずれている。

 いや、かなりか?

 で……

「十二月と八木さんがどう関係するのですか?」

「年末だろう」

「そうですね」

 なんやかんやと師匠も走ると言われている師走になっている。

「他の隊士の情報なんだが、八木さんが餅つきをするらしいぞ」

 そうなんだ。

 もう年末だから当たり前だろう。

「お餅好きだから、お餅ををもらいに行こうかなぁ」

「お前、のんきにそんなことを言っているがな、餅つき手伝わされるぞ」

 あ……。

 八木さんならあり得る話だ。

 壬生の八木さんの家の前を通った日には、なぜか仁王立ちをしている八木さんと遭遇し、そして、

「ここを通ったなら、餅つきせなあかんっ!」

 と、むちゃくちゃなことを言いそうだよなぁ。

 でも、手伝うと、ちゃんとお持ちくれるんだよなぁ、お正月の分の。

 毎年、みんなで手伝うと、ちゃんとお正月にお餅が出てくる。

 今回は、西本願寺に移ってからの初めてのお正月をむかえる。

 お餅とかどうするんだろう?

 土方さんに聞いたら、

「そんなこと知らんっ!」

 と言われてしまった。

 やっぱり、一回は手伝いに行って、お餅をもらったほうがいいのかもしれない。

「一回、八木さんの所に行って、手伝ってきますよ。出来たらお餅ももらってきます」

「そうだな、そうしてくれ。でも、お前が行かなくても、他の隊士が捕まって手伝わされてると思うがな」

 た、確かに。

 そして、お餅を持って帰ってきてもらえると、ありがたいよなぁ。


「いよいよ師走だね」

 藤堂さんが巡察で京の町を歩きながらそう言った。

「そうですね。もう師走ですね」

 年末に入ったと言う事もあるのか、いつもより京の町は賑やかだった。

 こういう賑やかなときに色々と怒るんだよなぁ。

 今日も京の町は平和に終わりますように。

「伊東さんはいつ帰って来るんだろう? 蒼良はわからないかい?」

 藤堂さんは、私が未来から来たことを知っているので、聞いてきたのだと思う。

「年末に帰って来ますよ。長州に行ってもきっと長州に入ることはできなくて、色々方法を試したけどやっぱりだめで、それであきらめて帰ってくると思いますよ」

「そうなんだ。蒼良は詳しいね。なんでそんなに詳しいの? 新選組がそんなに有名になっているとも思わないんだけど」

 藤堂さんも、未来にきたらわかるだろう。

 未来では、こんなことはちょっと調べればわかるようになっているのだ。

 しかも、新選組は有名だ。

 みんなが思っている以上にこの先有名になってしまう。

 一時は官軍、薩摩と長州が勝つから、新選組は悪役になるのだけど、それ以降は新選組の生き方を評価されて、ドラマになったりしている。

「藤堂さんが思っている以上に有名になっていますからね、新選組」

「どれぐらい有名なの?」

 どれぐらい有名かと聞かれると……

「そ、そうですねぇ……聞いた話なのですが、土方さんとかとかだと、命日に墓のお線香から炎が出て燃えるぐらいの量のお線香がお供えされるらしいですよ」

 聞いた話なんだけどね。

「そ、そうなの?」

 私の言葉に藤堂さんは引いていた。

「ちなみに、藤堂さんも有名ですからね」

「いや、私は別に有名じゃなくても……」

「でも、写真が出ていないので、未来で歩き回ってもきっと誰も気がつかないですよ」

「いや、別にそれでいいよ」

 藤堂さんの写真はないんだよなぁ。

 本人が有名になりたいのなら、写真を撮るように勧めるのだけど、そうは望んでいないらしいから、いいか。


 巡察で島原にさしかかった。

 置屋が並んでいるあたりを通ると、牡丹ちゃんと楓ちゃんに会った。

「あ、お久しぶり」

 私が声をかけると、なぜか疲れた顔をしていた牡丹ちゃんと楓ちゃんが私を見た。

「な、なんか、疲れているみたいだね」

 目の下が黒っぽく見えるのは気のせいか?

「そりゃ疲れるわ」

 牡丹ちゃんがため息をつきながら言った。

「何かあったの?」

 私が聞いたら、今度は牡丹ちゃんが、

「今、うちらは大変なんや」

 と、またもやため息交じりで言った。

 な、何があったんだ?

 詳しく話を聞くと、島原では風邪が流行っているらしい。

 症状は、高熱が出て体の節々が痛くなると言っていたので、きっとインフルエンザだと思う。

 現代で言う一月の中旬ぐらいからはやるから、ちょうど今が流行のピークなんだろう。

 しかも、伝染する病気なので、一人がかかるとみんなに広がってしまう。

 それで、島原では芸妓さんが不足しているらしい。

「ただでさえ師走で忙しいのに、人が足りないから、いつもの倍忙しいんや」

 牡丹ちゃんがそう言うと、

「そうや、この状態が続いたら、元気なうちらまで病気になってしまうやん」

 と、楓ちゃんも続けて言った。

「それは、大変だね」

 でも、私にはどうすることもできないしなぁ。

 自然とインフルエンザも流行が終わるから、それを待つしかないのかな。

「そうやっ!」

 突然楓ちゃんが大きな声でそう言った。

「蒼良はんっ! 手伝いに来て」

 ええっ!か、楓ちゃん、とんでもないことを……。

「そうや、蒼良はんが手伝いに来てくれたらええんや」

 ぼ、牡丹ちゃんまで……。

 思わず助けを求めるように藤堂さんを見てしまった。

「土方さんの許可をとらないとだめだと思うよ」

 そうだ、土方さんがいた。

 土方さんが許可するとは思えない。

 だって、私が女装するのを最近嫌がっているから。

 あまり女装した姿を知られると、いざというときに使えなくなるかららしいのだけど。

「そ、そうですよね、藤堂さんの言う通りです」

 そうやって逃げれたと思っていたけど、

「それなら、今すぐ許可をもらってきたらええやんっ!」

 と、楓ちゃん。

「早うもらって来てっ!」

 牡丹ちゃんもそう言う。

「わ、わかりました。でも、土方さんがだめって言ったら、だめですからね」

 最後にそう言って念を押した。

 けど、二人の頭に入っているかわからない。

 とにかく、土方さんに話をして、だめだっ!って言ってもらおう。


「いいぞ」

 えっ?

 今、土方さんの口から信じられない言葉を聞いたのだけど。

「なんて言いました?」

 もう一回聞いてみた。

「だから、手伝ってやりゃいいだろう」

「本当にいいのですか?」

 だめって言うかと思ったのに。

「島原は、今後捜査とかで世話になると思うから、その時のために貸しを作ってもいいぐらいだ」

 そ、そうなのか?

「でも、女装した私をあまり見せたくないって言ってませんでしたか?」

「そりゃそうだが、今、島原を突き放すわけにもいかねぇからな。協力してやれ」

 そ、そう言う話になるのか。

 断る理由が出来たと思ったのに。

「わかりました、手伝ってきます」

「頼んだぞ。お前ひとりだと不安だ。山崎を番頭役でつけたいが、あいつは近藤さんと長州だしなぁ」

 そうなんだよね。

「一人で大丈夫ですよ」

「いや、お前に何かあったら大変だ。誰か他の隊士をつける。誰かいないか?」

 そう言う話をしていると、タイミングよく襖があいた。

「あ、藤堂さん」

「平助っ!」

 私と土方さんは一緒に藤堂さんを呼んでいた。

「な、何ですか?」

 二人に呼ばれて驚いている藤堂さん。

「こいつが島原に手伝いに行くから、平助は護衛でついて行け。番頭かなんかになってこいつを守ってやってほしい」

「と言う事は、土方さんの許可が出たと……」

 藤堂さんも信じられないのだろう。

 私だって、許可が出たなんて信じられない。

「そうだ。俺が許可した。だから、頼んだぞ」

「わかりました。蒼良、行こう」

「行ってきます」

 手伝わなくてもよさそうだなぁと思ったのに。

 まさかこういう展開になるとは。


「さすが新選組の副長はんや。話が分かるお人なんやな」

 大喜びしたのは、牡丹ちゃんと楓ちゃんだ。

 置屋に着き、土方さんの許可が出たことを話すと、二人で土方さんをほめちぎっていた。

 土方さんがいたら、どんな顔をするんだろうと思うぐらいほめちぎっていたのだ。

「しかも、蒼良はんだけやなく、他の人もよこしてくるとは、さすが副長はんや」

 牡丹ちゃんが嬉しそうにそう言った。

 ん?他の人?

 思わず藤堂さんを見てしまった。

「藤堂さんは、私の護衛の役で番頭さんかなんか……」

 になって……と続けるつもりだったのだけど、

「この人も綺麗な顔をしておるさかい、ええ芸妓になるで」

 ぼ、牡丹ちゃん、藤堂さんは芸妓役じゃなくて、番頭さんで来たのだけど……。

「そうと決まったら、早う着替えんと。揚屋に行く時間もせまっとるさかいな」

 楓ちゃんは藤堂さんと私を置屋の部屋の中に押し込んだ。

「い、いや、私は芸妓じゃなくて……」

 藤堂さんも必死に否定しているけど、

「今足りんのは芸妓やさかい、頼んだで」

 と、楓ちゃんが一言そう言った。

 その一言で、藤堂さんも芸妓になることが決まったのだった。


「藤堂さん、綺麗ですよ」

 もともと男性にしては綺麗な顔をしていて、しかも小柄な方だったので、芸妓になっても全く違和感がなかった。

「蒼良にそう言われても嬉しくないんだけど」

「そんなこと言わないで、ここまで来たら、腹をくぐりましょうっ!」

 予定外の出来事が起きて、私は楽しかった。

 まさか、藤堂さんが芸妓になるとは思わなかった。

 あ、顔が笑ってしまう。

「蒼良、楽しそうだね」

 藤堂さんににらまれてしまった。

 その顔も、すごく色気のある顔になっている。

「その顔、色っぽいですよ」

「だから、蒼良に褒められても嬉しくないんだけど」

 そんな会話をしていると、同じく支度を終えた牡丹ちゃんと楓ちゃんが入ってきた。

「あんた、もうちょっと声色をあげて話できんの?」

 楓ちゃんが藤堂さんに言った。

 そうだよね、姿は芸妓なんだけど、声が男性なんだよね。

 現代なら、ハスキーな声の女性で通りそうなんだけど、この時代はそれじゃあ通らないのかもしれない。

「これでどう?」

 ちょっと声色をあげた藤堂さん。

「あかんわ」

「だめや」

「だめみたいですよ、藤堂さん」

「じゃあ、私はお役御免と言う事で」

 藤堂さんは嬉しそうにそう言った。

 自分だけ助かろうなんて、ずるいぞ。

「だめやっ!」

 楓ちゃんが素早く藤堂さんの着物の袖をつかんだ。

「声出さなかったら大丈夫や。黙って笑顔でお酌したらええ」

 牡丹ちゃんが藤堂さんにそう言った。

「逃げれませんよ」

「わかったよ。蒼良、やっぱり楽しんでいる?」

「な、何言っているんですかっ! 私は藤堂さんが心配なのですよ」

 本当は楽しんでいたりするのだけどね。


 揚屋と言って、宴会をやるお店に四人で呼ばれて行った。

 なんとかにわか芸妓がばれなくて済んだけど、藤堂さんが相手をした人がスケベな人だったらしく、色々さわりまくられたらしい。

 それを顔をひきつらせて無言で耐えていた藤堂さん。

 さすがだわ。

 私だったら、即刻酔いつぶしてたわ。

「こんな恰好をしていなければ、斬っていたのに」

 藤堂さんは、置屋への帰り道に悔しそうにそうつぶやいていたのだった。


 そんな生活も数日が過ぎた。

「蒼良、私は自分がだんだん女になっていくようで怖いんだけど」

 ある日、藤堂さんがそう言ってきた。

「そうですか? 別に変らないですけど」

「いや、変わっているんだよ。気がついたら正座しているし、足の崩し方も歩き方も女っぽくなっている」

 そうかな?そう言われてみると、内またで歩いているような……。

「そ、そんな事を気にしてはいけないですよ。だ、大丈夫です」

 ここで藤堂さんに逃げられても困るので、そう言ってごまかした。

 そして、置屋にいる他の芸妓さんたちもだんだん元気になり、

「もう今日で最後でええで」

 と、牡丹ちゃんに言われた。

 やった、今日でこの思い着物から解放されるぞ。

 藤堂さんも、ほっとした顔をしていた。

 しかし、よりによって最後に日なのに、とんでもないことが待っていた。

 なんと、揚屋に行くと、なぜか沖田さんと良順先生がいたのだ。

 沖田さん、お酒を飲む気なのか?労咳ってお酒を飲んで大丈夫なのか?

 だめなら全力で阻止したいのだけど。

 しかし、問題はそこではなかった。

 隣を見ると、沖田さんの顔を見て表情が固まっていた藤堂さんの姿があったのだった。

「蒼良、ど、どうすればいい?」

 小さい声で私に聞いてきた。

「とにかく、何事もないようにふるまえばばれないですよ。藤堂さんが芸妓になっているなんて誰も思っていないから、大丈夫ですよ」

 私はそう言ったけど、自分もばれないかと思いっきり不安になっている。

 何事もないふうにふるまえば、大丈夫。

 ばれやしない。

「あれ、蒼良、なんでここにいるの?」

 思いっきりばれてるし。

「沖田さんこそ、なんでここにいるのですかっ! お酒は飲んで大丈夫なんですか?」

「少しならいいって良順先生の許可が出たから、大丈夫だよ。蒼良がくれた毒薬が効いているらしくて、調子がいいんだ」

 だから、毒薬じゃないから。

「なんだ、蒼良君か? わからなかった」

 良順先生が、私の芸妓姿を見て驚いていた。

「ちょっとお手伝いで来ているので」

「そう言う事もあるんだな」

 そう言いながら、良順先生は藤堂さんがお酌したお酒を飲んだ。

 どうやら、藤堂さんの方はばれてないらしいぞ。

「平助も一緒に手伝っているんだ、偉いね」

 まんべんの笑顔でそう言った沖田さん。

 ば、ばれてる……。

 その言葉を聞いて、お銚子を持ったまま固まった藤堂さん。

「な、なんでわかったんだ?」

「あ、やっぱり平助だったんだ。似ているなぁと思っていたけど、まさか本当にそうだとは思わなかったよ」

 そう言いながらお酒を飲む沖田さん。

 もしかして、かまをかけたってやつか?

「沖田さん、これには深い、深い事情と言うものがあるのです」

「蒼良、事情って何?」

「だから、深すぎで言えないのですよっ!」

「それにしても、平助も似合っているね」

「褒められても、嬉しくないから。このことは、誰にも言わないでくれよ」

「事情にもよるかな」

 沖田さん、楽しんでいるな。

 と言う事で今までのいきさつを話したら、おなかを抱えて沖田さんは笑い転げたのだった。

「わ、わかったよ。内緒にしておくよ。本当は話したいんだけどね」

「総司、お願いだから、黙っててくれ」

「わかった、わかった」

 本当に大丈夫なのか?


 この日でお役御免になり、置屋に来た時の姿に久しぶりに戻って置屋を後にしたのだった。

「あれ、戻っちゃったの?」

 置屋の前ではなぜか沖田さんが待っていた。

「あれ? 良順先生は?」

「平助と蒼良がいるなら大丈夫だろうと言う事で、先に帰ったよ。平助も似合っていたのになぁ」

 沖田さんがそう言うと、

「総司、それを言わないで」

 と、藤堂さんが言った。

「本当に内緒にしてくださいよ」

「大丈夫だよ。こう見えても僕は口がかたいからね」

 ほ、本当か?一番軽そうに見えるんだけど。

「あ、平助。歩き方が変だよ。内またになっている」

 前を歩いていた藤堂さんを見ると、本当に内またになっていた。

「えっ、意識して歩いているんだけど、本当に?」

 そう聞かれたので、沖田さんと二人でうなずいた。

 それから屯所に着くまで、藤堂さんは必死になって歩き方を変えていたのだった。

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