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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年11月
232/506

薬とお師匠様

 斎藤さんと屯所に帰ってからが大変だった。

 まず、屯所の前で永倉さんと遭遇。

「土方さんが探してたぞ」

 という怖いお言葉をいただいた。

 今一番聞きたくない言葉だった。

「俺も一緒に行くから、安心しろ」

 と、斎藤さんに言われ、二人で部屋に行った。

「お前っ! 斎藤とどこに行ってたんだっ!」

 部屋の襖を開けた途端に飛んできた土方さんの怒鳴り声。

「す、すみませんっ! ちょっと伏見へ」

「伏見へ何しに行った?」

「美味しいお酒を飲みに……」

「はぁ? もう一度聞くぞ。伏見に何しに行った」

「だから、美味しいお酒を……」

 って、この理由じゃだめなのか?

「戦の偵察に」

 鳥羽伏見の戦いのときに、薩摩の本陣になる神社に行ったから、理由になるだろう。

 偵察なんて全然しなかったけどね。

「戦の偵察? それは近藤さんが長州に行っているだろう」

 やっぱり、この理由は時期が早かったか?

「伏見城の戦いの偵察ですよ」

 そんな戦いがあったよな?

「そりゃ、いつの戦の話だ?」

「せ、関ケ原の戦いのあたりじゃないかと……」

「ばかやろう。ふざけているのか?」

 い、いや、ふざけていませんっ!

 これでも真面目なんですよっ!どうやってごまかそうかと。

「土方さん」

 これまで黙って私たちのやり取りを見ていた斎藤さんが、やっと口を開いた。

「なんだ?」

「俺が他の奴と外泊しても部屋に呼ばれてどこ行っていた? と聞かれたことはないが、なんでこいつと外泊すると、色々と聞くんだ? 俺は悪いことをしているのか?」

 さ、斎藤さん、それは余計に怒らせると思うのですが……。

「斎藤は、俺に文句があるのか?」

「いや、文句はない。ただ、なんで外泊した相手がこいつだとこうやって部屋に呼ばれて色々と聞いてくるんだ? と疑問に思っただけだ」

 斎藤さんのその言葉を聞いて、土方さんの目が細く鋭くなった。

 怒っている、絶対に怒っているぞ。

 しかし、それは一瞬のことで、すぐに笑顔になった。

「斎藤の言う通りだな。悪かった」

 土方さんの口から出たその言葉が信じられなくて、思わず見入ってしまった。

「いや、謝ってもらえたらそれでいい」

 そう言うと、斎藤さんはすっと立ち上がり、私の方を見て、

「またな」

 と言って部屋を出て行った。

 土方さんを怒りを鎮めることが出来るとは、さすが斎藤さん。

「おい、お前っ! 無断で外泊してただですむとは思っているのか? しかも、斎藤にあそこまで言わせやがってっ!」

 あれ?怒りが静まっていない?しかも、激しくなっている?

「なんで斎藤と外泊しやがったっ! 理由があるなら聞いてやる」

 土方さんの顔からさっきの笑顔が消えていた。

 斎藤さん、もう戻ってこないよね。

 ああ、どうすればいいのっ!


 ちゃんとした理由もあったし、別に隊の規則にも違反したわけではないので、今まであったことを話した。

「なるほどな。手合せに負けたからか」

「はい」

「なんで斎藤と手合せをした? あいつが勝つに決まってんだろう」

「だから、ほとんど永倉さんが相手してくれたので……」

「永倉じゃだめだ。総司を呼べばよかっただろう」

 それじゃあ永倉さんに失礼だろうと思ったけど、あ、そう言う手もあったかと思ってしまった。

「で、お前は斎藤が好きなのか?」

「好きって、どういう好きですか?」

 ラブかライクか?と聞きたいが、どっちの言葉も土方さんは知らないだろう。

「男女の関係として、斎藤のことが好きなのかと聞いてるんだっ!」

「ああ、そう言う事ですね。なんでそんなことを聞いてくるのですか?」

「副長としてだな、色々と心配だから聞いてんだろうが」

 副長の仕事と言うのもいろいろ大変なのだなぁ。

「男女の関係で言われると、そう言う思いはないです。まだ私には早いですよ。一人前になっていないですし」

「いや、20歳ならもう結婚して子供がいてもいい年だぞ」

 この時代はそうなんだよね。

「でも、まだ私はそう言う気持ちになれないです」

 私がそう言ったら、いつまでも結婚できないとか言われちゃうかなぁと思ったけど、

「そ、そうだな。まだ早いかもな」

 と、さっきと全然違う事を言ってきた。

 なんか、土方さんおかしいぞ。

 そう思っていると、

「総司も稽古の報告がないっていじけてたぞ。早く総司の部屋に行ったほうがいいぞ」

 と言われてしまった。

 そう言えば、斎藤さんとの手合せがあったりして、報告全然していなかった。

「わかりました。行ってきます」

 沖田さん、いじけると手が付けられないんだよなぁ。


「沖田さん、蒼良そらです」

 沖田さんの部屋の前で私はそう言った。

「蒼良? 僕は出かけていないからね」

 思いっきりいるじゃないかっ!そうとういじけているっぽいぞ。

 そぉっと襖を開けると、沖田さんが火鉢にあたっていた。

「いるじゃないですか」

「蒼良には、居留守を使っているから」

 本人目の前にしてそう言うか?

「なんか稽古の後、斎藤君と出かけちゃったらしいね。報告もしないで」

 そこまで知ってんのか?

「す、すみません」

「報告してからでも行けたと思うんだけどね」

「はい、その通りです」

「しかも、泊まって来ちゃうし、いつ帰ってくるかわからないと来たもんだ」

「沖田さん、怒っています?」

「全然怒っていないよ」

 まんべんの笑顔でそう言われたけど、そんなことは信じなかった。

 絶対に怒っている。

 火鉢をむきになって突っついているし。

「すみませんでした。これからはちゃんと報告します」

 でも、報告しなかったのは確かに悪いので、謝った。

「僕は怒っていないよ」

 いや、その言葉は嘘だ。

「気に食わないだけだから」

 そっちの方が怖いんだけど、気のせいか?

「だから、悪かったと思っているので、許してくださいよ」

 私がそう言うと、沖田さんは火鉢を突っついていた手を止めた。

「悪かったって思ってる?」

「思っていますよ」

「じゃあ付き合ってよ」

 えっ?

「今日は、ちょうど良順先生の所に行かないといけないんだよ。だから、一緒に付き合ってよ」

「一緒に行けばいいのですか?」

「うん。蒼良も一緒だと、きっと楽しいと思うからね」

 何が楽しいのか訳が分からないけど、とりあえず一緒に行くことになった。


「どうですか?」

 聴診器を当てている良順先生に聞いた。

「蒼良が僕より必死になっているね」

 沖田さんは笑いながら言ったけど、私にとってはとっても大事なことなんだからねっ!

「よくも無く、悪くも無くって感じだな」

 そ、それはどういう意味だ?

「異常ないってことだよ」

 沖田さんがそう言った。

 そうなのか?

「異常ないことはない。あえて言えば、少し病状が進んでいるかもしれん。何か変わったことはあったかい?」

 病状が進んでいる?

「どんな感じで進んでいるのですか? もうだめとか? どうなんですか?」

「蒼良、落ち着いて。本人より興奮してどうすんの?」

 興奮していないから。

 ただ聞きたいだけだから。

「ま、ここまであまり何事もなく来たのが、奇跡的なことだな。普通なら、もう喀血してもいい時期だろう。でも、まだ血を吐いていないんだろ?」

「だいぶ前に吐いたっきりかな」

「若いから進みも早いんだが、沖田君の場合はそうでもないんだよな」

「安静にさせてますからっ!」

「だから、蒼良が興奮してどうすんだよ」

 す、すみません。

「いや、安静にしていても、病状が進むときは進む。やっぱり蒼良君が飲ませたと言う謎の薬が効いているんじゃないのか?」

 そ、そうなのか?あの薬は、この時代じゃ手に入らないんだよなぁ。

「ああ、あの毒薬ね」

 だから、毒薬じゃないって。

「天野先生が持ってきたらしいが……」

「良順先生、お師匠様は今、旅に出てまして、たぶん今頃どこかの温泉にはってそのままふやけているかもしれません」

 あまり温泉ばかりはいっていると、ふやけんだからねっ!ふやけた人を見たことないけど。

 私にすべてまかせて自分は遊び歩きやがってっ!

「その天野先生だが……」

「やっぱり、ふやけましたか?」

「誰がふやけたって?」

「え、お師匠様ですよ」

 あれ?今、お師匠様の声が聞こえたような?

 声のした方を見ると、沖田さんの後ろにお師匠様が立っていた。

「お、お師匠様っ! なんでここにいるのですかっ!」

「ふぉふぉふぉっ! 驚いたか?」

「まさかっ! 本当にふやけてしまって、それで良順先生のお世話になっているのですか?」

 私は真剣に話しているのに、沖田さんと良順先生は笑いをこらえていた。

 そんなに面白いことを言ったか?

「誰がふやけたって?」

「お師匠様ですよ。そう言われてみると、しわが少し増えたような……」

「元からじゃっ!」

 お師匠様の怒鳴り声が響き渡った。

「す、すみませんっ!」

「わしが心配して見にきたら、好き放題言いやがってっ!」

 いや、好き放題は言ってないと思うのですが。

 お師匠様がここにいると言う事は……。

「温泉巡りの旅は終わったのですか?」

 そう思って聞いてみると、

「まだじゃ。秘湯がたくさんあってな」

 と、嬉しそうに話してくれた。

 まだ終わってないらしい。

「じゃあなんでここにいるのですか?」

「お前、久々に会った師匠にずいぶんと冷たいな」

 そ、そうか?

「蒼良、もっと優しくしたほうがいいと思うよ」

 沖田さんがまんべんの笑顔でそう言った。

 なんか沖田さん、この状況を楽しんでないか?

「わしは、お前が心配で気になったから来たんじゃ」

 って、私の方を見てではなく、沖田さんの方を見て言っていた。

 しかも、沖田さんの方に両手をのせて。

 私はどうでもいいのかいっ!

「良順先生から病状を聞いて、薬を持ってきた。これを飲めば、症状は止まるだろう」

 お師匠様の手には、この前持ってきた薬と同じものがあった。

 しかも瓶に入って大量に。

「ただ、治すものではない。止めるものだ」

 治すには現代でも入院が必要だ。

 出来るなら、沖田さんを今すぐ現代に連れて行って、治療を受けさせたい。

「その薬をわしももらっていいかな?」

 良順先生が、お師匠様に手を出してきた。

「一粒でいいか?」

「充分だ。成分を分析して、同じものが出来れば、労咳に苦しむ人たちをすくうことが出来るからな」

 良順先生は嬉しそうなんだけど、きっとこの時代にない成分だと思うんだけど。

 それにしても、なんでこんなにたくさんの薬があるんだ?

 しかも、現代に帰らないと手に入らないと言われていたものが……。

「お師匠様、ちょっと」

 私はお師匠様の手を引いて、奥の方へ行った。


「それは、現代から持ってきたからじゃ」

 私が聞いたら、お師匠様はそう答えた。

「それは、もしかして……現代に帰ったってことですか?」

 タイムマシンは、使いすぎると壊れるから、現代には帰れないって言っていたよな?

「ち、ちょっと用事があってな」

「どんな用事ですか?」

「これの充電が切れてな」

 お師匠様はスマホを出してきた。

 スマホなくても、この時代生きていけますからねっ!

 って言うか、みんな持っていませんからっ!

 電波もないから、役に立ちませんからっ!

「なんで、そんなことで……」

「ついでに沖田の薬も持ってきたんだからいいじゃろ?」

 ついでって、スマホを充電するついでに薬をもらってきたのか?反対だろう、普通はっ!

 しかも、追及をすると、現代には何回か帰っていたらしい。

「でも、戻ってくるのは、この時代のこの時間だから、一時間帰っても全然時間は進んでないんじゃ。便利だのう」

「タイムマシン、肝心な時に使えなかったらどうするのですか?」

「大丈夫じゃ。わし以外の人間が数回使うと壊れるが、わしは大丈夫なのじゃ」

 そんな都合のいい話、信じるかっ!

「あ、信じとらんな。なら、わしは鍵をもって消えるぞ」

 お師匠様が鍵をもって消えると言う事は、タイムマシンが使えなくなるばかりではなく、私が現代に帰ることが出来なくなると言う事だ。

「わ、わかりました。信じます」

 信じるしかないだろう。

「ふぉふぉふぉ。それでいいんじゃ」

 いや、よくないと思うが。

 

 お師匠様から薬をもらった後、お師匠様も一緒に屯所の近くまで来た。

「近藤さんなら、長州に行っていていませんよ」

 沖田さんがそう言ったら、

「わかっとる。だから、屯所には寄らん。このまま失礼する」

 と、お師匠様は言った。

「まだ秘湯が残っとるからな」

 また温泉巡りの旅に戻るらしい。

 少しは私の手伝いもしてほしいんだけどなぁ。

「じゃあ、達者でな。また寄る。沖田、薬はちゃんと飲め」

 お師匠様が薬の話をした時に気がついた。

 現代の薬を良順先生に渡した。

 成分を分析したら、この時代にないものだってわかってしまう。

 それって、ばれるってことだろう。

「お師匠様、ちょっと」

 私は去ろうとしていたお師匠様の腕を引っ張った。

「なんじゃ」

 沖田さんに聞こえていないか確認した後、お師匠様に小さな声で、

「薬を良順先生に渡したら、私たちが、この時代の人間でないことがばれませんか?」

 と言った。

「別にいいじゃろう」

 そ、そうなのか?

「隠すようなことじゃないしな」

 そ、そうだったのか?私は必死に隠していたけど。

 そう言えばお師匠様は、藤堂さんにあっさりと未来から来たことを話しちゃうし、堂々とスマホで撮影をしていたり、隠していると言う雰囲気が全然なかったよな。

「ばれたときは、お前に任せる。じゃあな」

 それって、もしかして、逃げていませんか?

「お、お師匠様っ!」

 と、私が叫んでも、お師匠様は、ヒラヒラと手を振って去っていったのだった。

 私にどうしろというんだっ!

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