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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年11月
230/506

代理局長の休日

 この日は非番で部屋にいた。

 だって、外寒いんだもん。

 八木さんの家からいただいた?火鉢に朝からあたっていた。

 土方さんは、朝から忙しそうだった。

 隊士がひきりなしに部屋に来る。

 そのたびに指示を出したり、隊士と一緒に部屋を出て行ったりしていた。

 というわけで、土方さんは朝からホッと一息入れる間もなくずうっと働いている。

「土方さん、忙しそうですね。いつもそんなに忙しいのですか?」

「今日は暇な方だぞ」

 そ、そうなのか?

 この状態が続いたら、絶対に土方さんダウンするぞ。

 近藤さんが帰ってくるまで1ケ月ぐらいあるのに大丈夫か?

「土方さん、大変です」

 その声と一緒に襖があいた。

 藤堂さんが立っていた。

「どうした?」

「稽古中に隊士がねんざをしたみたいで」

「ああ、わかった」

 土方さんがそう言って立ち上がった。

「私が出しますよ。石田散薬ですね」

 朝からずうっと動いている土方さん。

 少しは休んでほしいなぁと思い、私が立ち上がった。

「そうか、頼む」

 以前、土方さんが倒れた時、原田さんに頼まれて石田散薬を出したことがあるので、同じところから出した。

「ところで、これって効くのですか?」

 ずうっと気になっていたんだよね。

「効くに決まってんだろっ! 効かなきゃ売れねぇよ」

 確かに。

 江戸で売って歩いていた時、この薬のファンが何人かいたもんね。

「私はお酒を持って行くので、蒼良、先に道場へ行ってくれないか?」

 藤堂さんが、薬を持った私のそう言った。

 石田散薬は、お酒と一緒に飲むと効くらしい。

 もう、そこからして本当に効くのか?と思ってしまうのだ。 

「わかりました。土方さん、道場に行ってきます」

「ああ、頼んだぞ。それと、お前は酒は飲むなよ」

 あら、あまったら飲もうと思っていたのに、ばれちゃったか。


 薬を飲ませるだけだったので、すぐに帰ってくることが出来た。

「終わったか?」

「薬を飲ませるだけだったので、すぐ終わりました」

「隊士の様子はどうだった?」

「ねんざだから、大丈夫ですよ。石田散薬飲んだから、すぐ治るでしょう」

「お前、本気でそう思って言っているか?」

 いや、全然思っていない。

 でも、

「当たり前じゃないですか」

 と、にこやかに言っておいた。

 そうしている間にも、また人がやってきた。

「大変です、副長」

 今度は島田さんが入ってきた。

「なんだ?」

「隊士が、布団から出てこないのです」

 島田さんは真面目な顔をしてそう言った。

「えっ?」

 思わず私と土方さんで声をそろえて聞き返してしまった。

「布団から出てこないのです」

「そんなもの、布団をめくれば出てくるだろ」

「そんな簡単なものじゃないのです」

 どういうことだ?

 島田さんの話によると、その隊士は、布団の中ですすり泣いているらしい。

 って、女か?男なら泣いてないでバンッと出て来いっ!

「仕方ねぇな」

 土方さんがまた立ち上がろうとしたので、

「いいですよ。私が様子見に行ってきます。土方さんはここにいてください」

 と言って、私は立ち上がった。

「で、その隊士はどこですか?」

 島田さんに布団から出てこない隊士のところまで案内された。


 本当に布団をかぶってすすり泣いている。

「どうしたのですか?」

 布団の上からポンポンとその隊士をたたいた。

 布団の中からはすすり泣きしか聞こえなかった。

 島田さんを見ると、島田さんはお手上げという顔をしていた。

 すすり泣く声をよくよく聞いてみると、

「いやだよぉ」

 という声も聞こえてくる。

 なにがあったんだ?

「心当たりはないですか?」

 島田さんに聞いたら、

「そう言えば、郷に帰りたいと言うようなことを言っていましたよ」

 ホームシックか?

「あのですね、新選組に入ったら抜けられないみたいな感じになっていますが、きちんとした事情があれば、抜けることはできるんですよ」

 布団をたたきながら私はそう言った。

 過去にも、家の事情とかで隊を円満に抜けた人は、何人かいる。

 しばらくすると、泣き声が止まった。

「それは、本当ですか?」

「だから、脱走とかしないで、隊務をこなしつつ、円満に隊を抜ける道を一緒に探して行きましょう」

 私が言うと、布団がガバッとめくれた。

 めくれた勢いで、後ろに転がりそうになった。

 いきなり起き上がるなよっ!

「わかりました。そうしますっ! ありがとうございます」

 泣いていた隊士は、布団の上で正座をして頭を下げると、その勢いで部屋を出て行った。

「大丈夫ですか? あんなことを言って」

 島田さんが心配そうな顔をして聞いてきた。

「大丈夫ですよ。隊務をこなしているうちに京にも慣れて、こっちの方が楽しくなってきますよ」

 単なるホームシックなら、そうなると思う。

「京で好きな人でもできた日には、もう郷に帰りたくなくりますよ」

 そう言うものだろう、うん。

「蒼良さん、わざわざありがとうございました」

 島田さんにお礼を言われ、部屋に帰った。


「ご苦労だったな。どうだった?」

 隊士のたんなるホームシックにも、気を配らないといけないのか?

 そんなことまでやっていたら、今度は疲労で倒れるぞ。

「たいしたことはありませんでした。説得したらすぐに布団から出ましたよ」

「どういう説得をしたんだか気になるが、解決したならいいか」

 そう言いながら、今度は土方さんは書き物をしている。

「近藤さんはこんなに忙しかったのですか?」

 土方さんの様子を見て、思わず聞いてしまった。

「あの人は、だいたい外に出ているからな。隊のことは俺がまとめればいいんだ」

 近藤さんは、隊を代表して表舞台に上がることも多く、偉い人たちに会うことも多い。

「と言う事は、近藤さんがいてもいなくても、仕事量は変わりないと言う事ですか?」

「今の方が多いな。やっぱり局長の仕事もあるからな」

 そうか、やっぱり今の方が多いのね、仕事。

「土方さん、大変だ」

 再び襖の向こうから声が聞こえた。

 今度はなんだ?

 襖の向こうには原田さんがいた。

「隊士が怪我した」

「稽古中にか?」

「ああ、出血がひどい」

 原田さんが深刻な顔でそう言った。

「お医者さんを呼んだ方が……」

 私がそう言ったら、

「いや、その前に様子見てくる」

 と言って、土方さんが立ちあがった。

「それなら、私が行ってきます」

「お前が今日は非番だろう。ゆっくりしてろ」

「大丈夫です。では行ってきます」

 私は原田さんと一緒に道場へ行った。


 怪我をしていた隊士を取り囲むように他の隊士たちがみんな立っていた。

「おい、どけろどけろ」

 原田さんが追い払うかのようにその人ごみに入って行った。

 私も後をついて行った。

 腕で刀を受けて斬れてしまったらしい。

 腕から出血をしていた。

 その横には、刃こぼれした刀が投げてあった。

 最近の稽古は、刃こぼれをした本物の刀を使ってやる。

 だから、たまにこういう怪我をする隊士もいる。

「とりあえず、止血しましょう」

 良順先生から教わった止血方法で止血をやってみた。

 すると、すぐに血は止まった。

「助かったよ、蒼良」

 原田さんにそう言われた。

「血は止まりましたが、今日は安静にしてください」

 私はそう言い残して、道場を後にした。


「どうだった?」

 部屋に入ると書き物をしている土方さんに聞かれた。

「たいしたことじゃなかったです。止血したら治りました」

「そうか」

「土方さん、いつもこういう理由で呼び出されたりしているのですか?」

 副長を呼ぶようなことでもないような感じがするのは、気のせいか?

「そう言われると、そうだな」

 そうなのか。

 なんとかすれば、自分で解決できるような感じがしないわけでもないが……。

「土方さんっ!」

 今度はなんだっ!

 襖に注目をすると、永倉さんがいた。

「風邪ひいた隊士がいて……」

「医者に診せてくださいっ!」

 思わず私は言ってしまった。

 土方さんに言っても、治るもんじゃないだろう。

「すごい熱なんだぞ」

「だったらなおさらお医者さんに診てもらってください」

「蒼良、そう言うがな……」

「土方さんは医者じゃないですからねっ!」

「わかったよ。そんな怖い顔することないだろう」

 ブツブツ言いながら、永倉さんは出て行った。

 なんか、前回も永倉さんに怒鳴ったような感じがする。

「土方さんも、なんでもかんでもそうやって顔を突っ込むから、他の隊士たちがあてにしてくるのですよ。自分で仕事を増やしているようなものですよ。自分たちで解決させるようにしないと、だめですよ」

「ああ、わかった、わかった」

 いや、わかってないだろう。

 その言い方はわかってないぞ。

「おい」

 また襖の向こうから声が聞こえてきた。

「あのですね、何でもかんでも副長副長って、土方さんはなんでも屋じゃないんですよっ! 自分で解決できることは、自分で解決してくださいっ!」

 よし、言ったぞっ!

 襖の向こうにいたのは源さんで、

「蒼良が忙しそうに動いているのを見たから、差し入れに団子を持ってきたんだけどなぁ」

 と、悲しい顔をして団子をもって立っていた。

 その様子を見て、土方さんは笑っていた。

 す、すみませんっ!


 いつの間にか、三人でお団子を食べてお茶を飲んでいた。

「そうか、また朝から忙しかったのか」

 今までの出来事を源さんに話した。

「そうなんですよ。ちょっと考えたら、ちゃんと自分で解決できることなのに、ここに持ってくるのですよ」

「それを蒼良が解決してたんだな。蒼良も歳にこき使われてかわいそうに」

 源さんが私の頭をなでてくれた。

「おい、俺はこき使っとらんぞ。こいつが勝手に動いているだけだ」

 そりゃそうですけど……。

「歳、その言い方はひどいだろう。蒼良も歳のことを考えてんだぞ」

「源さんがこき使っているとかって言うからだろうがっ!」

「わかりましたから、喧嘩はやめてください」

「俺は喧嘩しているわけじゃねぇぞ」

「歳相手に喧嘩してもなぁ」

「源さん、そりゃどういう意味だ」

 だから、喧嘩はやめましょうよ。

「とにかく、このままの状態が続いたら、土方さんは疲労で倒れますよ。そろそろ隊士たちも、自分のことは自分でするようになってもらわないと」

「俺は大丈夫だがな」

「今は大丈夫でも、疲労ってものは蓄積するものなのですよ。ここら辺でみんなにもちゃんとしてもらわないと」

「蒼良の言う通りだ。歳は一人しかいないんだから、もっと自分を大事にしろ」

 源さんの言う通りだ。

「とりあえず、休みましょう! 休んでどこかへ行ったら、土方さんがいないんだから、自分たちで解決する道を見つけて何とかするでしょう」

「蒼良の言う通りだ。そうしよう、歳」

「仕方ねぇな」

 と言う事で、急に土方さんの休日が出来たのだった。


「お前、すごいことを書いたな」

 土方さんは、私が書いた紙を部屋の前にはりながらそう言った。

『副長は出かけています。自分のことは自分で解決しやがれっ! by副長』

 と書いた。

 苦手な筆ででかでかと書いてやった。

「この記号のようなものはなんだ?」

 byという文字を指さして源さんが言った。

 あ、この時代にこの文字はないよね。

「すみません、書き直してきます」

 再び筆と紙を用意して書いたのだった。


「外に出たはいいが、どこに行くんだ?」

 土方さんに言われてしまった。

 この季節、外に出ても寒いだけなのよね。

「嵐山は遠いですしね」

 休日は一日だけしか取れなかった。

 一日あればあいつらもわかるだろうと言う事だった。

 それもあるんだけど、明日は代理局長としての仕事が入っているらしい。

「できれば、温かい所に行きたいですよね」

「温かいところなんて、この季節にあるわけねぇだろう」

 確かに。

 沖縄とかって簡単にいけない時代だもんね。

「温かいところならあるぞ」

 一緒に来た源さんがそう言った。

「案内してやる」

 源さんは、京の美味しいお店とか色々知っている。

「お願いします」

 源さんの言葉に甘えることにした。

 今回はどんなお店に連れて行ってくれるんだろう。


 着いたところは、湯葉屋さんだった。

 出されたものは、湯葉鍋だった。

「京は湯葉が有名らしいぞ。その中でも、ここはうまい」

 源さんは湯葉を突っつきながらそう言った。

「源さんは、いつこういうお店を探しているのですか?」

「巡察中に決まっているだろう」

 そ、そうなのか?

「源さん、まさか巡察中に遊んでいるってことはねぇよな?」

 ひ、土方さん、顔が怖いですよ。

「まさか、やることはちゃんとやってるさ」

 源さんのことだから、きっとそうなんだろう。

「とにかく、飲みましょう」

 険悪な空気になりそうだったので、私は、土方さんと源さんにお酌をした。

「蒼良も飲め」

 源さんが私にお酒を注ごうとしたけど、

「こいつはだめだっ!」

 と、土方さんにおちょこの口をふさがれた。

「ああ、ひどいっ! 一杯ぐらいいいじゃないですか」

「お前は一杯じゃすまねぇだろうがっ! 今日は酒は抜きだっ!」

 そ、そうなのか?

「湯葉がおいしいから、酒を飲むなら湯葉を食おう」

 源さんがそう言ってなごませてくれた。

 

 厠へ行き、湯葉鍋をしている部屋に入ろうと襖に手をかけた時、

「蒼良がいてくれてよかったな」

 という源さんの声が聞こえた。

 私のことを話している?何話しているんだろう?

 気になって襖の外から聞いていた。

「そうだな。あいつがいて俺のことを見て、俺が自分で止められなくなると、あいつが止めてくれる。今日みたいにな。いなかったら、俺はどうなっていたんだろうなぁ。京に連れてきてよかった」

 私がいなくても、土方さんは土方さんでしたよ。

 ちゃんと歴史に残っている。

 でも、京に連れてきてよかったと言われて、とっても嬉しくなった。

 私こそ、みんなとここにいれてよかったと思っています。

 そう思いながら、土方さんと源さんが鍋を突っついている部屋の襖をあけた。

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