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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年11月
228/506

びすかうと

 部屋に呼ばれた私は、近藤さんん部屋に行った。

 そこには、近藤さんと土方さんと原田さんがいた。

 なんだろう?

「お前たちには、近藤さんの供を頼みたい」

 私が部屋に入って座布団に座ると、土方さんがそう言った。

 え、おとも?聞いたことがある言葉だぞ。

 確か、一緒に行くってやつか?

 あのメンバーだぞ。

 絶対に嫌だ。

「お前、そう露骨に嫌な顔せんでもいいだろう」

 土方さんにそう言われた。

 顔に出ていたか?

 思わず顔をさわっていると、

「供って、大坂までだぞ」

 と、原田さんが耳元で言ってくれた。

 そ、そうなのか?

「大坂までですか?」

 恐る恐る聞いてみると、

「わしは隊士9人がついているから、必要ないって言ったんだがな。歳がせめて大坂まで人数多く連れて行けって言って聞かないんだ」

 と、近藤さんが困ったように言っていた。

 どうやら、本当に大坂までだったらしい。

 伊東さんと武田さんを含むあのメンバーで長州までって、耐えられないもの。

 山崎さんがいるからまだいいんだけど。

 大坂までなら、近いからまだ我慢できるぞ。

「本当なら、長州までもう少し大目の人数をつけたいぐらいなんだが、近藤さんも少しでいいって聞かねぇから」

「歳、あまり多く連れて行くと、京の勤務に支障が出るだろう」

「でも、危険な所に行くのに、9人は少なすぎるだろう」

 確かに。

 戦時中に敵地に乗り込むようなものだもんね。

 しばらく、多いの少ないのって言い合いしていた。

 それを原田さんと顔を見合わせて見ていた。

「止めたほうがいいですかね」

 原田さんに聞いたら、

「そのうち自然に止まるだろう」

 と言う事だったので、放っておいた。

「俺は、近藤さんに無事に帰ってきてほしいんだよ」

 土方さんは近藤さんにそう言った。

「歳が心配しなくても、大丈夫だ。わしだってそんな簡単に死なないさ」

 近藤さんがそう言うと、原田さんが本当?という顔で私を見た。

 原田さんは私が未来から来たことを知っているから、近藤さんが無事に帰ってくるか知りたいのだろう。

 私は大丈夫という意味でうなずいた。

 それを見ていた原田さんがホッとした顔をしていた。

「土方さん、大丈夫だよ。近藤さんのことだから、無事に帰ってくるさ」

 原田さんが、なだめるように土方さんに言った。

「土方さんは、局長になりたくないんですよね」

 この前、そんなようなことを言っていたから、私がそう言うと、

「お、お前っ! 近藤さんの前で何言ってやがる」

 と、土方さんが怒鳴ってきた。

 だって、この前そう言ってたじゃん。

「歳、そう怒るな。蒼良はやきもちを妬いているんだ」

 え?そ、そうなのか?

「歳が、あまりにわしのことを心配するから、蒼良も妬きたくなるだろう」

 いや、そう言う事は全然ないんだけど……。

 近藤さん、また勘違いをしていないか?

「俺がいない間、蒼良と喧嘩するなよ」

 近藤さんはまんべんの笑顔で言った。

 やっぱり、勘違いしているよね。

「仲良くやるんだぞ。蒼良も歳を頼むぞ」

 なんか、また誤解をされたままになりそうだなぁ。


 原田さんと大坂まで送っていくことになり、近藤さんたちと一緒に屯所を出た。

 近藤さんたちは、土方さんをはじめとする隊士たちに見送られながら屯所を後にした。

「蒼良は、長州に行かないのか?」

 武田さんに突然そう聞かれた。

「行きません」

 あんたと一緒に行かないよっ!と、心の中で言った。

「そうか、残念だな。今後の勉強になるから、蒼良は俺と長州に行ったほうがいいと思うぞ」

 今、俺とって言わなかったか?

「お前、俺とって言わなかったか?」

 原田さんも気がついたみたいで、武田さんにそう言ってくれた。

「言ったぞ。俺と一緒に行けば、俺が色々と教えるから勉強になるぞ」

 いや、武田さんに教わらなくても、知っていますから。

 長州がこの先どうなるかとか色々。

「大丈夫です。自分で勉強しますので」

 にこやかにお断りしたのに、

「遠慮するな。教えてやるぞ。色々と」

 色々と言う部分がものすごく気になるのだけど。

「蒼良はいいと言っているだろう。しつこいぞ」

 原田さんが武田さんに言った。

「俺は、蒼良のためを思ってだな……」

 武田さんがそう言い始めた時、

「お前、いつから蒼良を呼び捨てにしているんだ?」

 と、原田さんがさえぎるように言った。

「いつからって……」

「武田、お前は蒼良より年は上だが、新選組では蒼良の方が先輩にあたるんだからな。呼び捨てにしていいわけないと思うぞ」

「い、いや、でも、俺は5番隊組長で、蒼良は……」

「蒼良はな、組長にはなっていないが、それにはそれなりの理由があるんだ。その理由が無ければ、きっと今頃は、副長補佐ぐらいになっているだろう。お前なんかとは違うぞ」

 原田さん、副長補佐って、土方さんの使い走りか?

「せめて、呼び捨てはやめろ」

「蒼良は蒼良なんだからいいだろう」

 武田さんがそう言った時、原田さんは槍をかまえなおした。

「言う事を聞けないようだな」

 びっくりした武田さんは、

「わ、わかったよ」

 と言って、前を歩く近藤さんの方へ行った。

「原田さんが、槍で刺すかと思いましたよ」

 私がそう言うと、原田さんが槍を再び持ち直した。

「あんな奴刺すにも値しない。槍がけがれる」

 い、いや、そこまで言わなくても……。

「蒼良のことを呼び捨てするのが前から気に食わなかったんだ」

 ああ、私も、いつの間に呼び捨てなんだ?と思っていた。

 新選組では、幹部クラスの隊士は先生をつけて呼ばれている。

 先生をつけて呼べとまでは言わない。

 いや、呼んでほしくない。

 せめて、そんなに親しくないんだから、さんか君をつけてもらいたいと思っていた。

「ありがとうございます。武田さんに呼び捨てされるの、私も嫌だったのですよ」

 現代なら、セクハラで訴えてやるところだ。

「そうだったのか。なら早く俺に言えばよかっただろう。もうちょっと早く何とかしてやれたのに」

 いや、もうその気持ちだけで充分です。

 それにしても、本当に長州行きのメンバーにならなくてよかった。

 

 大阪に着き、大坂より先は幕府の人たちも一緒なので、幕府の人たちと合流したところで私たちは近藤さんたちと別れた。 

 大坂では土方さんに頼まれた仕事があった。

 それは、鴻池さんのところに挨拶に行くこと。

 鴻池さんは新選組のスポンサーなので、機嫌を損ねることがあってはいけない。

 でも、鴻池さんの機嫌が損ねたことは、今のところないんだけど。

 本当は、土方さんも行きたかったらしいんだけど、近藤さんがいない今は代理で局長になっていて、隊から離れることはできないらしい。

 別に、離れたって大丈夫だと思うんだけど。

 というわけで、原田さんと一緒に鴻池さんのところへ行くことになった。


「な、なんだ、あれ?」

 原田さんが鴻池さんの家の玄関に置いてある大きな柱時計を指さして言った。

「時計ですよ」

「時計? あれがか?」

 この時代の時計は、十二支を時間に当てはめているから、数字が書いてあるこの時計は始めて見る物だと思う。

 時計の前で原田さんと会話していると、いきなりボーンと鳴りだした。

「うわぁっ!」

 原田さんが驚いて飛び上がっていた。

「あ、二時ですね」

 時計は二時をさしていたので、二回鳴った。

「こんなところにいつまでもおらんと、早う奥にきいや」

 鴻池さんが奥から出てきた。

「あ、すみません。時計を見ていました。今日は、土方さんじゃなくて、原田さんと一緒に来ました」

 私が鴻池さんに原田さんを紹介したら、

「またええ男が来たなぁ」

 と、言って奥へ入って行った。

「蒼良、もしかして、鴻池さんって……男色か?」

 原田さんが小さい声でそう聞いてきた。

「い、いや、違うと思いますが。どうしてですか?」

 どこからそう言う発想が……。

「ええ男が来たとか言っていたから」

「ああ、深い意味はないと思いますよ」

 たぶん。

「それならいいが」


 奥に案内された。

「新選組は、男前な人ばかりおるなぁ」

 奥に案内されてすぐに、また鴻池さんがそんなことを言うから、原田さんが固まってしまった。

「蒼良はんも男前やし、土方はんもやろ。原田はんもやしな」

 私は、男前と言われるとちょっと複雑な気分になるのですが……。

「もしかして、鴻池さんは女性より男性が好きとか……」

 原田さんにさっき質問されるまでは気にならなかったけど、それからすごく気になったから聞いてみた。

「おい、蒼良」

 原田さんが小さい声でそう言って、ひじでツンツンと突っついてきたけど。

 そんな私の失礼な質問に、鴻池さんは大笑いしていた。

「アハハッ! 蒼良はんはおもろいことを言うなぁ。うちは女の方が好きやで」

 どうやら普通らしい。

 よかった。

 原田さんが一番ホッとした顔をしていたのは、気のせいか?

 そんな話をしていると、鴻池家の使用人の人が木でできた皿を持って入ってきた。

 今度は何が出てくるのだろう?

 鴻池さんは、私が来ると変わったものを出してきてくれる。

 それは、現代には普通にあるものなんだけど、この時代ではとても珍しいものだ。

 その珍しいものを知っている私が珍しいのか、それがいつの間にか勝負のようなものになっている。

 私が知っている物だったら、私の勝ちで、知らないものだったら鴻池さんの勝ちらしい。

 今のところ、私の全勝だ。

「今日は、これや」

 木の皿に入っていたものは……。

「ビスケット?」

 今のように丸い形ではなく四角い物だけど、四角いビスケットなのだろう。

「また蒼良はんに負けてしもうた」

 その勝負を見ていた原田さんは、不思議な顔をしていた。

 説明をしたら、

「あ、そうなのか」

 と、納得をしてくれた。

「びすかうとと言うんや。でも、異国の人間はビスケットと言うておったわ」

 そうなんだ。

「いただいてもいいですか?」

 ビスケットなんて、久しぶりに食べるぞ。

「ええで。原田はんも食べな」

 鴻池さんは原田さんにもビスケットをすすめた。

 原田さんは恐る恐るビスケットを口にした。

「うわっ、あまりうまいもんでもないな。粉っぽくて口の中がパサパサする」

 原田さんはビスケットを食べながら言った。

「そうやろ? うちのとこでも不評だったで。喜んで食べるの、蒼良はんだけや。持って帰ってもええで」

「え、本当ですか? では遠慮なくいただきます」

 本当に、喜んでいるのは私だけらしい。

 帰りにビスケットを包んでもらった。

 一人で喜んでそれをいただいた。


「蒼良のいた未来では、こういう食べ物が普通なのか?」

 京へ帰る途中で、原田さんが質問してきた。

 原田さんが未来のことを口に出してきたのは、初めてだ。

「普通というか、ありますね。ビスケット」

「美味しいのか?」

「久しぶりですからね。美味しかったです」

 この時代に来て以来だから、ずいぶんと久々に食べたぞ。

「俺は美味しいとは思えないな。蒼良の時代は変なものを美味しいと感じるんだな。俺は蒼良の時代には行けないなぁ」

 原田さんが少し寂しそうに言った。

 いや、お師匠様が出来れば連れて帰りたいって言っていたから、来てもらわないと困るのよ。

「こういう食べ物ばかりじゃないですよ。もっと色々な食べ物があるのですよ。魚も、刺身だっていつでも食べれますから」

「そうなのか? 刺身ってとってすぐじゃないと食べれないだろう」

「私の時代だと、保存方法があるので、その方法で保存すればいつでも食べれるのですよ。ただ、買ってきてすぐに食べないとやっぱり腐りますけどね」

 冷蔵庫の説明をしてもわからないだろうと思い、保存方法と言っておいた。

 冷蔵庫に入れっぱなしだった、みたいなことが何回かあるんだけどね。

「へぇ。刺身がいつでも食べれるっていいな」

「それ以外に、かき氷も普通に食べれますよ」

 この時代は、かき氷は高級品だもんね。

「氷がとけないのか?」

「とけないようにできるのですよ」

「それを聞いたら、蒼良の生きていた時代も見てみたくなってきたな」

 きっと驚くだろうなぁ。

「でも、びすかうととかいうやつはもう食べたくないな」

 原田さんの口には合わなかったらしい。

 思わず笑ってしまった。

「こら、笑うな」

 と、原田さんは優しく怒り、軽くげんこつを落としてきた。

「土方さんのげんこつと全然違う」

 と、思わず言ってしまった。

「蒼良、聞こうと思っていたんだけど……」

 原田さんが、急に真顔になって聞いてきた。

「何ですか?」

「土方さんとできているのか?」

 えっ?もしかして、原田さんも誤解している?

 近藤さんのあの言葉を聞いたら誤解するよね。

「できていませんよ。近藤さんがまた誤解をしているんですよ」

 誤解されるようなことを……したな。

 うん、したわ。

 そして見られたわ。

 土方さんが風邪でダウンしているときに、ご飯食べさせてあげているところを見られたんだ。

 ああ、あの時から近藤さんは誤解したままなのか?

 早く撤回したくても、近藤さんは長州だしなぁ。

「よかった」

 原田さんのその声が、私の耳元で聞こえた。

 というのも、色々と誤解をとく方法を考えているときに、抱きしめられていたのだ。

「蒼良は土方さんを好きだったら、どうしようかと思ったよ。土方さんにはかなわないから」

 原田さんはそう言うと、今度は強く抱きしめてきた。

「でも、蒼良は渡さない。渡すつもりはないからな」

 強く抱きしめられて、ちょうど原田さんの胸のところに私の耳が当たっていた。

 ドク、ドク、ドクと、心音が強く聞こえてきていた。

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