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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年10月
225/506

ダブルデート

 藤堂さんと巡察しているのだけど、藤堂さんの様子がいつもと違う。

 なんかよそよそしいのだ。

「藤堂さん、何かありましたか?」

 あまりによそよそしさが気になったので、思わず聞いてみた。

「い、いや、何でもないよ」

 いや、絶対に何かあった。

 私と目を合わさない、その反応がおかしいもん。

「言えないことですか?」

 最近、山崎さんのような秘密主義の人もいるので、そう聞いてみた。

「い、言えないことっていうわけでもないんだけど……」

 じゃあなんなんだ?

「教えてください。気になります」

 私が言うと、藤堂さんはやっと顔をあげ、私と目を合わせてくれた。

「思い切って聞くけど、蒼良そらは、私のこと嫌いなの?」

 えっ?なんでだ?

「嫌いじゃないですよ」

 恋人としてどうだ?と聞かれると返事に困るけど、友達としては嫌いではない。

 むしろ好きな方なんじゃないか?

 じゃなければ、私が未来から来たことを話していないと思う。

「なんでそんなことを思ったのですか?」

 何が原因でそんなことを考え込んでしまったんだ?

「最近の蒼良、私に冷たかったから」

 そ、そうだったか?

「恋文の件もあったから。それは私が悪かったから仕方ないけど、この前土方さんが倒れた時も、なんか冷たかったから」

 ああ、あのときか。

「あの時は、みんな自分で解決できるのに、寝込んでいる土方さんのところに問題を持ってくるから、怒っていたのですよ」

 おかげですごい忙しかったのだ。

「それは、悪かったね。伊東さんが集会をするのに、土方さんの許可をもらったほうがいいだろうという事で、いつも許可をもらいに行っていたから」

 そうだったのか。

「それなら、冷たくした私が悪かったのですね。すみません」

「いや、蒼良も疲れていたのなら、仕方ないよ」

「でも、藤堂さんを悩ませてしまいました」

 藤堂さんは、一人で考え込んでしまう人だ。

 近藤さんのことも一人で考え込んで、伊東さんを紹介して新選組に入れた。

 近藤さんの考えについて行けないと考えた藤堂さんが、伊東さんが局長になればなんとかなるかもしれないと考えて行動したことだ。

 その後も、伊東さんと一緒に隊を抜け、油小路の変という事件で亡くなってしまう。

 そうならないように私がいたのに、これじゃあ私がいる意味がない。

「でも、解決したから、大丈夫だよ」

 藤堂さんの顔にやっと笑顔が戻ってきた。

「今度から、一人で悩まないで、私に言ってください。言ってもらわないと、わからないですからね」

 みんなから、なんか知らないけど鈍感って言われているし。

「ありがとう」

 藤堂さんは笑顔でそう言った。


 やっといつもの藤堂さんにもどった藤堂さんから、

「面白いものを見せてあげるよ」

 と言われて、女の子がいつも藤堂さんを待っていたお茶屋さんの前に来た。

 藤堂さんを待っていたのだけど、実は女の子が勘違いをしていて、正確に言うと、藤堂さんと一緒にいた隊士を待っていたのだけど……。

 そのお茶屋さんに行くと、その女の子とうちの隊の隊士が、お茶さんの前に置いてある台の上に座って、楽しそうに話をしていた。

「邪魔したら悪くないですか?」

 なんか、いい感じになっているし、そこに私たちが行ったら邪魔だろう。

「そうだね。でも、あの二人、いい感じになっているでしょ」

 藤堂さんに言われて、私はうなずいた。

 いい感じになっていてよかった。

 女の子の方が気が強いと聞いていたので、ひょっとしたらうまくいかないかもって思っていたんだよね。

「あっ!」

 そう思っていると、女の子の声が聞こえてきた。

 隠れていたつもりなんだけど、見つかってしまったらしい。

 女の子がこっちを指さしていた。

「見つかっちゃったね」

 藤堂さんはそう言いながら二人の前に出て行った。

 私も後をついて行った。

「石田君、仲がよさそうだね」

 藤堂さんが隊士の方を肘でツンツンとつっついていた。

 隊士の方は、石田さんというんだ。

 女の子の方はなんていう名前なんだろう?ここまで色々とやり取りをしていて、名前を知らなかった。

「彼女は、名前は?」

 藤堂さんは普通に名前を聞いていた。

 普通に名前を聞いている藤堂さんがすごいと思った。

 文句を言われないだろうか? 

 今までのやり取りを考えたら、絶対に文句言われそうだぞ。

「琴と申します」

 女の子はしおらしくそう答えた。

 もしかして、好きな男の前ではしおらしくなるとか?

「お琴ちゃんと言うんだぁ。今まで名前を聞かなくて、ごめんなさい」

 私が言うと、

「ええんよ。うちも色々態度が大きかったさかい、聞きずらかったんやないかなぁと思うとったんよ」

 男が出来ると、女ってこうも変わるのか?

 全然この前までと違うのですが……。

「そうやっ! 藤堂はん、好きな人おりますか?」

 お琴ちゃんが突然そう聞いてきた。

 隣にいた石田さんは、

「藤堂先生に何を聞いているんだ」

 って言って、お琴ちゃんを止めていたけど、お構いなしって感じだった。

 こういうところは、変わっていないかも。

 聞かれた藤堂さんは、私の方をチラッと見た。

 それから、

「いるよ」

 と、一言言った。

「それなら、一緒に出かけまへんか? 藤堂はんと、藤堂はんの好きな人と、うちとこの人で」

 それって、ダブルデートってやつか?

「お前、それは無理だろう」

 石田さんは横で止めていた。

「いいよ」

 藤堂さんは、そう一言言った。

「ほら、大丈夫やったやないの。こういうことは、考えるより実行した方がええんや」

 そう言うお琴ちゃんと藤堂さんは二人でさっさと日にちを決めてしまった。

 藤堂さんは、誰を連れて行くつもりなんだろう?


「ええ、私ですか?」

 屯所に帰ると、お琴ちゃんとのダブルデートの日にちを出し、暇かどうか聞いてきた。

「蒼良以外いないでしょう?」

 そ、そうなのか?誰と行くんだろうなんて、他人事のように思っていたけど。

「でも、男二人だとおかしいですよ」

 ダブルデートにならないだろう。

「もちろん、蒼良が女装していくんだよ」

 ええっ、そうなのか?

「でも、土方さんが最近許してくれないんですよね」

 何でも、私の女装した姿を、あまり人に見せたくないとか、個人的に嫌だとか、なんか色々言っていたよなぁ。

「そうなの? なら無理かなぁ」

 でも、ダブルデートって楽しそうだよなぁ。

「大丈夫ですよ。土方さんにばれなければいいのです」

 そうだよ。

 ばれなければいいんだ。

「本当に大丈夫?」

「大丈夫です」

 着替えは、牡丹ちゃんたちのいる置屋を借りようかな。

「着物とかは、用意するから」

「いや、あるからいいですよ」

「でも、着物がなくなっていたら、土方さんにばれてしまうかもしれないから、こっちで用意するよ」

 じゃあ、藤堂さんに甘えちゃおう。


 当日、女装した私は藤堂さんと一緒にお琴ちゃんたちの待つところへ行った。

「藤堂先生の恋人は、綺麗な方ですね」

 石田さんがそう言うと、横でお琴ちゃんが石田さんの手をつねっていたのが見えた。

「でも、どこかで見たことある。どこやろう?」

 ドキッとしてしまった。

 ば、ばれてる?

「わかった。蒼良はんやっ!」

 ばれてるやんかっ!

「兄弟か何かなん?」

 ん?ばれてない?

「彼女は、おりょうと言って、蒼良の妹かな?」

 藤堂さんが私の顔を見て、相づちを求めてきた。

「そ、そうなんです。いつも兄がお世話になっています」

 なんとかごまかせたぞ。

「あ、それで蒼良はんに似とるんや」

 お琴ちゃんはそれで納得していた。

「ところで、どこに行くのですか?」

 藤堂さんは楽しそうにお琴ちゃんに聞いていた。

「全部うちに任せときっ!」

 はい、わかりました。


 最初に行ったのは、清水寺……の、地主神社だった。

 ここは、恋愛の神様で有名な所だ。

「ここのお守りがご利益あるさかい、ほしかったんや」

 お琴ちゃんの話だと、ペアで持つお守りが売っているらしく、それがほしかったらしい。

「清水寺かと思ったら、地主神社の方というのも、お琴ちゃんらしいね」

 私がそう言うと、

「そうだね」

 と、藤堂さんもそう言った。

「うちらしいって、今日初めて会ったのに、よくわかるなぁ」

 ドキッ!

「なんとなく、そんな感じかなぁと思ったもので」

 そう言ってごまかした。

「そうなん? ようわかったなぁ。ほら、お守り買いに行くで」

 お琴ちゃんは、石田さんの手を引いて行ってしまった。

「蒼良、じゃなかった、お良だったけ?」

「お琴ちゃんたちは行っちゃったので、蒼良でいいですよ」

「私たちもお守りを買おうか?」

 えっ?

「恋愛の神様のお守りですよ」

「だから買うんだよ、おそろいのお守り。ご利益があるらしいし」

 そう言うと、藤堂さんまでお琴ちゃんたちの後を追うように行ってしまった。

 本当に買うのか?

 でも、土方さんからもらったお守りもあるんだよな。

 お守りをたくさん持つと喧嘩してお守りにならないって話を聞いたことがあるけど。

 でも、種類が違うから大丈夫か?

 土方さんからもらったお守りは、確か、魔除けだったか?


 お守りを買い、次に向かったところは、貴船神社だった。

 ちなみに、ここも縁結びにご利益がある神社だ。

「縁切りの神様でも有名なんやで」

 お琴ちゃんが得意げに言った。

 そ、そうなのか?

「丑の刻にここで願をかけるとかなうんやで。そやから、この人に好きな人がおったら願掛けしとるところやった」

 こ、怖いなぁ。

 これは呪いと同じじゃないかと思ったけど、呪いではなく心願成就の方法の一つらしい。

 丑の刻って、夜中の3時だぞ。

 そんな時間に神社にお参りって怖いだろう。

 ちなみに、なんで丑の刻かというと、丑の年の丑の月の丑の日の丑の刻に、貴船明神という神様が降りてきたかららしい。

「とにかく、願掛けや。行くで」

 再び、石田さんを引っ張って、お琴ちゃんは行ってしまった。

「私たちも、せっかく来たのだから、楽しもう」

 藤堂さんに言われて、私たちも散策を始めた。

 道もガタガタで、着物になれていない私は、足元がとっても危なっかしく感じる。

 そんな私に、藤堂さんは私の手を引いて歩いてくれた。

 参道の両端に赤い灯篭があった。

 その間を藤堂さんと手をつないで歩いていたら、なんかドキドキしてしまった。

 まるでデートじゃないか。

 しかも、ものすごくいい雰囲気の場所なんだけど。

 本宮に着くと、お琴ちゃんたちがいた。

「やっと手をつないだんか? 恋人同士らしく見えるで」

 お琴ちゃんは、横で石田さんが止めているのにもかかわらずそう言った。

 藤堂さんと目があい、顔が熱くなってしまった。


 なんか恋愛のパワースポット巡りになってしまった、ダブルデートは無事に終わった。

「何とかばれなくて済みそうですね」

 土方さんと会ってしまうかもと思ったけど、全然会わなかった。

「なんだ、意外と大丈夫なもんなんですね」

 私が言うと、藤堂さんは私の頭の向こう側を見ていた。

 何かあったのか?

「なにが大丈夫だって?」

 そ、その声は……

 恐る恐る後ろを向くと、なんと、土方さんがいた。

「い、いやあ、私は蒼良の妹で、お良と申しまして……」

「なにがお良だ、ばかやろう」

 ごまかせなかったか。

「なんで土方さんがここにいるのですか?」

「それは俺は言う事だろう。なんでお前はそんなかっこうでここにいるんだ?」

「そ、それはですね……捜査です。ね、藤堂さん」

 藤堂さんに相づちを求めたら、藤堂さんも、コクコクとうなずいてくれた。

「なんの捜査だ?」

 ギロッとにらむ土方さん。

 こ、怖いのですがっ!

「隊士の捜査です。私の隊の隊士が押し借りをしているという噂があったので、蒼良に頼んで一緒に捜査していました」

 藤堂さん、嘘がうまいなぁ。

「それで、女装したと言う事か?」

 コクコクと、今度は私がうなずいた。

「わかった」

 そう一言言って、土方さんは行ってしまった。

 悪いことしちゃったなぁ。

 反省しなくちゃ。

 しかし、そう思ったのも屯所に帰るまでで、着替えて屯所に帰ったら、土方さんがデンッ!と待っていた。

 部屋に入るなり、

「俺は、認めんぞっ! 女装して平助と一緒に出かけることはねぇだろうがっ!」

 と言われてしまった。

「そ、捜査なんだから、仕方ないじゃないですかっ!」

 そう言ってごまかしたけど、

「お前の女装する姿を俺以外の人間に見せたくねぇんだよっ! これからは、俺以外の前で絶対に女装するなっ! わかったか?」

 と、えらい自分勝手なことを言っていた。

「わかったか? 返事しろっ!」

 なんか勝手だよなぁと思いつつ、

「わかりました」

 と、返事をしたのだった。


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