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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年10月
222/506

恋文の行方

 巡察をしていた。

 今日の巡察は珍しく山崎さんと一緒だった。

「山崎さんも、巡察することがあるのですね」

 山崎さんの仕事は、監察方と呼ばれるところで、隊士を監察したり潜入捜査をしたりするところだから、一緒に巡察なんてとっても珍しい。

「私だって、たまには巡察しますよ」

「山崎さんがこうやって巡察していると言う事は、平和な証拠ですね」

 仕事があるときは、そっちを優先しているのだろうから、潜入捜査とかがないと言う事は、平和な証拠だ。

 山崎さんは苦笑していた。

 何か変なことを言ったかなぁ。

「ところで、蒼良そらさんの勘があたりましたね」

 ん?なんか勘が当たったか?

「ほら、家茂公のことですよ。蒼良さんは、将軍はやめないって言っていたじゃないですか。その通りでしたね」

 ああ、そのことか。

 伏見で、家茂公の説得が終わるまで待機していた時に、将軍やめないから大丈夫だって話をしていたのだった。

「蒼良さんの勘が当たりましたね」

 勘というか、知っていたのだけど、まさか知っていたとも言えない。

「来年あたりまで大丈夫ですよ」

 確か、亡くなるのは来年あたりじゃなかったかな?

「来年、何かあるのですか?」

「あのですね……」

 家茂公が亡くなります。

 と言おうとしてやめた。

 それこそ、なんでそんなことを知っているんだと言う事になり、またごまかすことになる。

 だから、

「内緒です」

 と、笑顔で言った。

「内緒なのですか?」

 山崎さんも、笑顔でそう言ってきた。

「占い師じゃないですから、来年なにがあるかなんて、わからないですよ」

 そう言って、笑ってごまかしたのだった。


 山崎さんと巡察をしていると、お茶屋さんがあった。

 お店の前に大きな台が置いてあり、その台の上には赤い敷物が敷いてあった。

 その上に女の子が座っていたのだけど、その女の子、どこかで見たことがあるんだけどなぁ。

 どこで見たんだろう?

「蒼良さん、どうかしたのですか?」

 私が女の子を見ていたことに気がついた山崎さんが、声をかけてきた。

「いや、どこかで見たことあるような感じ出したのですが、きっと気のせいです」

 よくあることだろう。

 どこかで見たことあるのだけど、どこで見たか記憶がないってこと。

 実際、見たことあるかどうかはわからない。

 そして、そのまま終わってしまうことが。

 しかし、今回はそのまま終わらなかった。

 山崎さんの声に気がついた女の子は、私たちの方を見て、

「あっ!」

 と言って、指をさしてきたのだ。

 それに驚いた私たちは、思わず立ち止まってしまった。

 人に指をさすなって、教わらなかったのか?

「あんたっ!」

 女の子は、私に向かってそう言った。

 山崎さんではなく、私に用があるようだ。

「な、何ですか?」

 恐る恐る、私も女の子に言った。

「うちを覚えとらん?」

 えっ、私とあったことがあるのか?どこでだ?

 こっちは全然記憶がないのだけど。

「手紙、頼んだんやけど」

 女の子のその一言で、全部思い出した。

「ああっ!」

 私も、女の子を指さしてしまった。

 お師匠様に、人に指をさすなって、教わっていたはずなのに。

「知り合いなのですか?」

 山崎さんに聞かれた。

「屯所で手紙を渡されたのです。藤堂さん宛ての」

 それで、山崎さんは恋文だと察したらしく、

「ああ、そう言う事ですか」

 と、言った。

 その一言ですべてわかるって、さすが、監察方の山崎さんだ。

「文、渡してくれたよね」

 女の子に言われ、恋文の行方を思い出した。

 あれは、確か……。

「蒼良さん?」

 私の顔色が変わったことに気がついた山崎さんは、心配そうな顔で聞いてきた。

「どうしよう」

 女の子に背を向けて、山崎さんにそう言った。

「もしかして、手紙を渡していないとか……」

 山崎さんに言われ、私はコクンとうなずいた。

「渡したのですが、間違えて土方さんに渡してしまって」

 確かあの日は、この女の子の後に西本願寺のお坊さんからも手紙をもらい、それで間違えて恋文の方を土方さんに渡し、お坊さんの方を藤堂さんに渡してしまったのだ。

 それを聞いた山崎さんは、

「蒼良さんらしい」

 と笑っていたけど、チラッと後ろにいる女の子を見たら、笑いごとじゃすまされない。

 真剣な顔で私たちの方を見て様子をうかがっている。

「どうしましょう?」

 思わず山崎さんに助けを求めてしまった。

「まず、様子を見て見なければ、何とも言えませんね。色々あの女の子から聞き出してみましょう」

 そうしよう。

 山崎さんと一緒に女の子がいる所へ戻った。

「で、文は渡してくれたん?」

 再び女の子に質問をされた。

「文とあなたがここにいることは、何か関係があるのですか?」

 山崎さんが質問をした。

 それ、確かに知りたいわ。

 いい質問をするなぁ。

「おおありや。ここで待っとるって文に書いたんや。しかも、来るまでずうっと待っとるって書いたんやけど、来ないんや」

 そりゃそうだ。

 だって、その文を見せていないもん。

 それにしても、来るまで待っているって……。

「その文を出したのって、確か先月でしたよね」

「そうや」

 もしかして……

「先月からここで待っているのですか?」

「そうや」

 そうなのかっ!普通、一カ月ぐらい来ないとあきらめないか?いや、その日であきらめるよね……。

「なんでそんなに待っているのですか?」

 山崎さんがそう質問した。

「文に来るまで待っとるって書いたら、だいたいの人が来るんや」

 そ、そうなのか?

「だから、藤堂はんも来るやろうと思って、待っとるんや」

「でも、さすがに一カ月もたっていると……」

 山崎さんがそう言うと、

「そうやっ!」

 と、山崎さんの声を女の子がさえぎった。

「あんたら、新選組の人やから藤堂はんに会うやろ?」

 女の子の迫力に負けて、思わず山崎さんとうなずいてしまった。

「うちは明日も待っとるって言っといて。来るまで待っとるって」

 それにもうなずいてしまったのだった。


「ええっ、そうなの?」

 屯所に帰ってから、山崎さんと一緒に藤堂さんに報告に行った。

 藤堂さんは、驚いてそう言った。

 そりゃ驚くよね、一カ月も待っているんだもん。

「とりあえず、言いましたから」

 山崎さんがそう言って去っていった。

 私も去ろうとしたら、

「蒼良」

 と、呼び止められてしまった。

「何とか断ってよ」

 わ、私がか?

「藤堂さんが、断ったほうがいいですよ」

 あの女の子、迫力があったもんなぁ。

 それに、ちゃんと藤堂さんが断らないと、あの女の子も納得しないと思うのだけど。

「私はこれから夜の巡察に行くから、蒼良頼んだよ」

 そう言うと、藤堂さんは去っていった。

 ええっ!私が断るのか?

 そりゃちょっと違うだろう。

 藤堂さんを追いかけたけど、すでにいなくなっていた。

 逃げ足速い。

 

 ああ、どうすればいいんだ?

「お前、何回ため息ついてんだ?」

 土方さんにそう言われた。

 ため息つきたくないけど、ついてしまう。

「藤堂さんに逃げられました」

「はあ?」

 土方さんに、今まであったことを全部話した。

「ほっとけばいいだろう。お前がかかわる問題じゃねぇ」

「ほっといたら、あの子、ずうっと待っていますよ」

「待たせとけばいいだろう。そうすれば気がつくだろ?」

 いや、どうなんだろう?

「気がつくでしょうか?」

「気がつかねぇかもなぁ」

 土方さんもやっぱりそう思うか?

「ああ、どうすればいいと思いますか?」

「そう言う断り方はいくつかあるぞ。平助が女を連れて行って、こいつと付き合っていると言う断り方と……」

「それなら簡単ですね」

 私が女装して藤堂さんと一緒に行けばいい話だ。

「お前、自分が女装してとかって考えてんじゃねぇだろうな」

「そっちの方が簡単じゃないですか」

「いや、だめだ」

 土方さんに言われてしまった。

 なんでだめなんだ?

「なるべくお前が女装した姿を他の人間に見せたくねぇっ!」

 そうなのか?

「平助のために女装するのも気に食わん」

 それは、土方さんの個人的な理由なのか?

「他に断り方はありますか?」

「一番は、本人が行って断るのがいいだろう」

 そう思うでしょ?私もそう思うのです。

「でも、本人が行けねぇっていうのなら、俺が行ってやろう」

 えっ?

「土方さん、もしかして暇なのですか?」

「なんでだ?」

 人の恋路に足を踏み入れないって人だと思っていたから。

「俺が行ったらわりぃか?」

 悪くはないです。

 変なことを言って、土方さんが行かねぇっ!って言い出しても困るので、

「悪くないですよ」

 と、笑顔で言った。


 というわけで、暇な土方さんと一緒に、女の子がいたお茶屋さんに行った。

 しかし、女の子はいなかった。

「おい、いつもここにいる女は?」

 土方さんがお店の人に聞いた。

「えっ? いつもおる女の子?」

 お店の人に逆に聞き返されてしまった。

 えっ、知らないのか?

「昨日、ここにいた女の子です」

 私が言うと、

「ああ、あの子か。そんないつもおるわけじゃないよ」

 えっ?

「でも、あの子が……」

「お前、だまされたな」

 えっ、そうなのか?

「女が毎日ここに一カ月もいるわけねぇよな。たいてい飽きるかあきらめるよな。それに、その女もそんなに暇じゃねぇだろう」

 そう言われると、そうだよなぁ。

「よし、こっちもだましてやろう」

 土方さんはそう言うと、お店の人を呼んできた。

「新選組の藤堂って男が来たが、いねぇから帰ったと言ってくれ。後、文の返事だが、好きな女がいるから、もうかまわねぇでくれと伝えてくれ」

 一気にそう言うと、

「帰るぞ」

 と、最後に私の方を見て言った。


「えっ、土方さんが断ってくれたの?」

 一応、藤堂さんに説明したほうがいいだろうと思って、藤堂さんに今までのことを説明した。

「だって、藤堂さん逃げちゃったじゃないですか」

「夜の巡業だったんだよ」

 そう言って逃げたよな。

「とにかく、断ったので。今後は私もかかわりませんからね」

「蒼良、怒ってる?」

 藤堂さんにそう聞かれ、顔をのぞかれた。

「怒っていませんよ」

「いや、怒っているでしょう?」

 うう、本当のことを言うと、怒っている。

「そもそも、藤堂さんがちゃんと断れば、よかったのですよ」

「でも、蒼良がちゃんと文を渡してくれればよかったんじゃないの?」

 そ、そうともいう。

 間違えなければよかったのだ。

 結局自分のせいなのか?と、落ち込んでしまった。

「蒼良、落ち込んでいる?」

 再び藤堂さんに聞かれた。

「なんか、自分が自分で嫌になって来ました」

 はぁ、何してんだか、自分。

「蒼良、私が悪かったよ。だから、落ち込まないで」

 藤堂さんは、そう言いながら私を抱きしめてきた。

 抱きしめられた私は、驚きで落ち込みがどこかに飛んで行ってしまった。

「機嫌なおして、蒼良」

 もう機嫌どころの騒ぎじゃないですから。

 藤堂さんの腕の中から解放されたら、今度は、両手でほっぺではさまれ、顔をあげられた。

 目をそらしても、藤堂さんの顔が視線に入ってくる。

 どうしよう。

 きっと赤い顔をしているよ。

「蒼良、顔が赤いよ」

 藤堂さんにそう言われて笑われてしまった。

 そして、ますます顔が熱くなってしまった。

 藤堂さんには色々と言いたいことがあったけど、これで何も言えなくなってしまったのだった。

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