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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年9月
218/506

ぎゃふんと言わせたい

「壬生寺で稽古が出来るようになったぞ。大砲を使った調練もできるようになったぞ」

 土方さんが嬉しそうに報告してきた。

 西本願寺で大砲を使った訓練のようなものをやったら、お坊さんたちにえらい怒られたのだった。

 殺生を嫌うから、豚を境内で飼って殺して食べた時だって、ものすごく文句言われたらしい。

 私は直接言われていないからわからないんだけどね。

 で、禁門の変の時、薩摩藩の鉄砲や大砲がものすごく役に立ったので、これからの時代、刀だけでなく大砲なども使えるようにならなければいけない。

 というわけで、大砲を出してきて境内でドカンと一発やろうとしたら、顔色を変えたお坊さんたちが飛び出してきた。

 西本願寺は町の中にあるから、ここでドカンと打って、近所に当たったりしても大変だ。

 だから、ここで大砲の訓練をやる方もどうだと思うのだけどね。

 それを土方さんたちも思ったのだろう。

 壬生寺の境内を使わせてほしいと頼みに行ってきて、了解されたらしい。

「あそこなら、ここみたいな街中じゃねぇから、大丈夫だろう」

 確かに大丈夫だろうと思うけど……。

 大砲を打ったら、きっとものすごい音がするだろう。

 八木さんにまた怒られそうだなぁ。

「あんたらっ! 今度は何やっとんのやっ!」

 と怒鳴って、壬生寺に乗り込んでくる八木さんを想像してしまった。

 それと、もう一つ嫌なことがある。

「これからは、武田のもとで色々と教わるといい」

 土方さんの言う通り、武田さんが先生なのだ。

 もともと軍師として新選組に入ったらしい。

「武田が嫌いだからって、そんなに嫌な顔しなくてもいいだろう」

 土方さんが私の顔を見て言った。

「あ、顔に出てましたか?」

「出てた。お前はすぐに顔に出るからな。ま、武田と二人っきりにならなければ大丈夫だろう」

 実は、過去に武田さんに襲われかけるということがあった。

 しかも、私を男だと思って襲ってきたと言う事だ。

 あの時は、ばれたのかと思ったぞ。

「絶対に二人っきりにならないようにします」

 私は土方さんにそう言って部屋を出た。


 壬生寺に着くと、武田さん以外に斎藤さんもいたので、とりあえずホッとした。

 大砲の訓練もしたけど、八木さんがぶっ飛んでくることはなかった。

 武田さんが大砲の打ち方を教えてくれるみたいなことを聞いてきたけど、大砲の打ち方を知っているのか?という感じだった。

 斎藤さんの方が知っていたような感じがしないでもないけど……。

 ただ、近藤さんのお気に入りになるぐらい口はうまいので、なんか武田さんにごまかされたような感じだった。

「おい、知っているか?」

 さて、帰ろうかというとき、斎藤さんに声をかけられた。

「何をですか?」

「そこに地蔵があるだろう」

 斎藤さんに言われた方を見ると、小さいお地蔵様がいた。

「夜泣き地蔵と言われているもので、夜にすすり泣くらしいぞ」

 ええっ!本当なのか?

「そ、そんな話、聞いたことないですよ。第一、壬生に住んでいた時も聞いたことないですよ」

「それは、お前がぐっすりと寝ていたからだろう。土方さんあたりに聞いてみればわかるぞ」

 ニヤリと、斎藤さんが笑って歩いて行った。

 見た感じ、そんな怖そうにも見えないんだけど……。

 でも、一人いなるのが嫌だったので、急いで斎藤さんを追いかけたのだった。


「はあ? 泣き声か? そんなの聞いたことねぇぞ」

 屯所に帰ってさっそく土方さんに聞いてみた。

「じゃあ、土方さんもぐっすりと寝ていたのですよ」

「どの地蔵が泣くって? まさか、壬生寺にある夜泣き地蔵のことを言っているんじゃねぇだろうな?」

 そう、まさにそれですよ。

「あの地蔵は、名前は不気味な感じがするがな、子供の夜泣き止めにご利益があるから、そう言う名前になっているんだ」

 そ、そうなのか?

 後で調べたのだけど、病気を治すのにもご利益があるらしい。

「でも、斎藤さんがそう言っていたのですよ」

 私がそう言うと、土方さんはあははと笑った。

「お前、それはだまされたんだ」

 えっ?そうなのか?

「前にお前に怖い話をすると面白いと言っていたからな。常識で考えれば地蔵が夜泣くなんてありえねぇだろう」

 た、確かに。

「そんなことだから、斎藤にからかわれるんだ」

 た、確かにっ!

「どうすれば、からかわれないですむのですか?」

 思わず土方さんに聞いてしまった。

 土方さんは、考え込んでしまった。

「わかりました。もういいです」

 要するに、私はずうっとからかわれると言う事なのね。

 ああ、いつか斎藤さんをぎゃふんと言わせたいわ。

 なんか死語みたいな言葉を使ってしまったけど。

「そんなことより、総司に今日の訓練のことを報告しねぇと、またあいつへそ曲げるぞ」

 そっちの方が大変だわ。

「行ってきます」

 私は、沖田さんの部屋に向かった。


「へぇ、そんなことをやったんだ」

 私の報告を聞いて、沖田さんはそう言った。

 今日は体調がよさそうで、労咳になっているとは思えないぐらい元気そうだった。

「僕も参加したかったなぁ」

「だめですよ。安静です」

 調子がいい時に調子に乗って色々やると、具合がまた悪くなりそうだ。

「屯所にいるのも、暇なんだけど」

 その気持ちはわかるけど……。

「でも、安静は安静ですっ! 大事な時に働くことが出来なければ、大変じゃないですか」

「その大事なときって、来るの?」

「来ますよっ! 大きな戦があるかもしれないじゃないですか」

 鳥羽伏見のことを言ったのだけど、先の話で知らないことになっているので、大きな戦と言っておいた。

「そんなものあるわけないよ」

 沖田さんは、手を振りながら否定した。

 本当にあるんだからねっ!

 あ、そんなことより……。

「沖田さん、壬生寺に夜泣き地蔵と言うものがあるのですが、病気を治すのにもご利益があるらしいのですよ。今度行ってみましょう」

「え、蒼良知らなかったの?」

 えっ?沖田さんは知っていたのか?

「壬生に住んでいて、知らなかったとはね」

 どうも知っていたらしい。

 そうだよね、壬生に住んでいたんだよね、私たち。

「ま、蒼良そらのことだから、夜泣き地蔵なんて、夜にシクシクと泣くんじゃないかと思ったんじゃないの?」

 ギクッ!な、なんでわかったんだ?

「あ、正解?」

 沖田さんが楽しそうに聞いてきた。

「正解ですよ」

 ふんっ!どうせ全部顔に出ますよ。

「怒っているみたいだけど、何かあったの?」

 沖田さんにそう聞かれたので、斎藤さんとのことを話した。

 すると、沖田さんはおなかを抱えて笑っていた。

 そ、そんなに楽しい話だったか?

「で、蒼良としては、斎藤君に仕返しをしたいと」

「いや、仕返しって、そこまでは思っていないですよ」

 ぎゃふんと言わせたいとは思っているけど……。

 同じか。

「斎藤君に仕返しねぇ。難しいよ」

 やっぱりそうだよね。

「例えば、部屋にからくりを仕掛けるとかしないとね」

 からくり?

「襖をあけて中に入ると、槍が飛んでくるとか」

「そんなことしたら、死んじゃうじゃないですか」

 しかも、どこかのピラミッドにありそうな仕掛けじゃないか。

「それぐらいしないと、驚かないと思うよ、斎藤君の場合」

 そ、そうなのか?

「あと斎藤君に勝てるとしたら、酒ぐらいでしょ?」

 確かに。

 飲み比べは私が勝った。

「ただ、飲み比べの場合、相手が酔いつぶれるので、その後が大変なのですよ」

 勝ったのに、なぜか酔いつぶれている人の介抱をしなければいけないので、なんか複雑な気分になるのだ。

「屯所まで運ぼうとするから大変なんだよ。ほっとけばいいじゃん」

 それができないから、勝っても嬉しくないんだろうがっ!

「斎藤君を驚かすのは難しいよ」

 沖田さんはそう言いながら、なぜか小刀を出してきた。

 そ、それで何をするつもりなんだ?

 そう思っていると、襖に向けて投げた。

 それと同時に襖があいた。

 あ、危ないっ!

 襖の向こうにいたのは、なんと斎藤さんだった。

 斎藤さんは無表情で、さっと横によけた。

 沖田さんが投げた小刀は斎藤さんの後ろの壁に突き刺さった。

「ね、難しいでしょ」

 た、確かに。

 私だったら、襖を開けたと同時に小刀が飛んできたら、もう驚いて座り込んでいるわ。

「総司、なんの冗談だ?」

 斎藤さんは無表情で沖田さんに聞いた。

「蒼良から斎藤君を驚かせてくれと頼まれたから」

 いや、頼んでないぞ。

 まだ頼んでないぞ。

 斎藤さんは、私の方を見た。

「た、頼んでないですよ。斎藤さんが変な冗談ばかり言うから、相談に乗ってもらっていたのですよ」

 斎藤さんの無表情が怖いのですがっ!

 その様子を見ている沖田さんは、おなかを抱えて笑っているし。

 笑いごとじゃないからね。

「仕事が入った。行くぞ」

 斎藤さんはそう一言言うと、行ってしまった。

「僕も行こうかなぁ」

「だめですよ。安静ですっ!」

 沖田さんにそう言ってから、私も斎藤さんの後を追った。


 仕事は、いつも通り浪人が数人で暴れていると言うものだった。

 現場に行ったら、案の定、刀を振り回していた。

「新選組ですっ! 刀をおろしなさいっ!」

 最初はそう言ったのだけど、私の言う事を素直に聞くぐらいだったら、こんなところで暴れないわけで。

「行くぞ」

 斎藤さんが刀を抜いて相手に向かっていった。

 私も遅れずに刀を抜いて向かった。

 とりあえず捕縛だろうなぁと思い、一人を捕縛した。

 その時にスキが出来たのだろう。

 気がついた時は、二人の浪人が私に向かってきていた。

 どうしよう?斬られるのか?

 私もここで終わりか。

 そんなことを思っていたら、スッと私の横を何かが横切って、私に向かってきていた二人を見事にとらえた。

 その何かは、斎藤さんだった。

「大丈夫か?」

 斎藤さんが真剣な顔で聞いてきた。

「大丈夫です」

 斎藤さんのおかげで、斬られずにすんだ。

 よかった。

 浪人たちは、捕縛して奉行所へ送った。


「心臓が止まるかと思った」

 屯所への帰り道、斎藤さんがポツリとそう言った。

「えっ?」

 突然そう言ったので、聞き返してしまった。

「お前が斬られるかと思った時だ」

 ああ、あのときか。

「斎藤さんがいなければ、斬られていました。助けていただいてありがとうございます」

「あまり驚かせるな」

 斎藤さんにそう言われてしまった。

 もしかして、ぎゃふんと言わせることはできなかったけど、心臓が止まるかと思うぐらい驚かすことが出来たと言う事か?

 でも、それは私が斬られる時で、ずいぶんと命がけなことだぞ。

 もう二度とごめんだ。

「お前を誰かに傷つけられるのは、ごめんだ」

「私だっていやですよ」

 冗談じゃない。

 自分自身が一番嫌なことだろう。

「お前はわかっていないようだな」

 フッと笑った斎藤さんに頭をなでられた。

 何がわかっていないのだ?

「ところで、西本願寺にも出るらしいぞ」

 えっ、ここでその話か?

「そんなもの出ませんよっ! もう騙されませんよ」

「信じるも信じないも、お前の勝手だ。夜中に厠に行くと出るらしいからな」

 そ、そうなのか?

「信じませんよっ!」

 と言ったけど、斎藤さんは、ニヤリと笑っただけだった。


 で、こういう時に限って、夜中にトイレに行きたくなるわけで。

 でも、出るって言っていたよなぁ。

 一人で行くのは怖いよなぁ。

「土方さん」

 思わず、隣で寝ていた土方さんを起こした。

「なんだっ! 何かあったのか?」

 土方さんは、大変なことがあったと思ったのか、飛び起きた。

「あ、あのですね。厠に行きたいのですが」

「……そんなもの、勝手に行けばいいだろうがっ! 夜中に起こして俺の許可を取るようなことでもねぇだろっ!」

「だって、怖くていけないんですよ。出るらしいですから」

 しかも、この時代のトイレと言うやつは、建物から少し離れて建っている。

 行くまでの道のりも怖いのだ。

「なにが出るんだ?」

「この世のものでないものが……」

 私がそう言うと、土方さんはあきれた顔をした。

「寝る」

 一言そう言って、布団に戻ってしまった。

「ええっ、土方さぁん。一緒に着いてきてくださいよぉ」

「お前、いくつだっ! 子供じゃねぇんだから、一人で行って来いっ!」

「そんなぁ。なら、ここでしますからねっ!」

 私が脅かし半分でそう言ったら、

「ばかやろうっ!」

 と言って飛び起きた土方さんにげんこつを落とされたのだった。

 げんこつを落としつつも、土方さんは厠までついてきてくれたのだった。

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