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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年9月
216/506

原田さんにばれる?

「松原の件も何とか解決したな」

 土方さんが疲れたような感じでそう言った。

 松原さんの彼女の家で、腐乱した遺体が二体見つかった。

 それは、原田さんと運んできたもので、松原さんではない。

 今頃どこら辺まで逃げているんだろう。

 こっちは、何とかばれずにすみそうだから、きっと松原さんもどこかで幸せに暮らすだろう。

 はあっと、土方さんがため息をついた。

「鬼にでもならなきゃ、こんなことやってられねぇな。誰が誰と付き合おうが、俺には関係ねぇって言いたいがな」

 突然どうしたんだろう?

「松原の件だ。別にあいつが誰を好きになろうとあいつの勝手だろう」

 そりゃそうなんだけど。

「でも、注意したのは土方さんじゃないですか」

「ここで注意しとかねぇと、隊をまとめられねぇだろうが」

 そうなのか?

「うちの隊の連中のことだから、松原の件を許すと、美人な妻を持った武士とか浪人を殺して、残された女の方をものにしようとするだろう」

 確かに。

 新選組は、荒くれ者の集団だしなぁ。

 それぐらいの集団じゃなければ、強くなれないから仕方ないのかもしれないけど。

「そういう集団をまとめるには、隊の規則を厳しくし、厳しく取り締まるのが一番だ。誰かが鬼になって厳しくしねぇと組織もまとまらなくなる。だから俺は鬼になったが、たまに嫌になるな」

「土方さんも、ストレスがたまるのですね」

「はぁ? すとれす?」

 ああ、この時代にはその言葉はなかった。

「なんというか、わああああって叫びたくなったり、誰彼かまわず怒りたくなったりすることです」

「ああ、それならしょっちゅうだ」

 土方さん大丈夫なのか?心の病気になったりしないか?

「そんなに心配するな」

 私が心配そうな顔をしていたのだろう。

 土方さんが私の顔に手をあててきた。

 と、突然何なの?ドキドキするのですが。

「お前がいれば大丈夫だ。お前の前では、鬼ではない京に来る前の俺に戻っている。なんでだろうなぁ」

 そんなこと言われても、わかりませんよ。

 それより土方さんの手が私の頬をさわっていて、心臓が爆発しそうなのですが。

「お前がいれば俺は大丈夫だ。そんな感じがする」

 そ、それはよかったです。

 しかし、それだけではすまなかった。

 だんだん土方さんの顔が近づいてきたのだ。

 これは、キスされるのか?ど、ど、どうしよう?

 あ、でも、土方さんならいいかな。

「おい、歳っ!」

 もう少しでキスされるぞってときに、部屋のふすまが勢いよく開いた。

 ふすまにいたのは、源さんだった。

「わっ! 邪魔して悪かったな。続きをしてくれ」

 そう言って、源さんは静かにふすまを閉めた。

 思わず土方さんと目を合わせてしまった。

 そして、土方さんは無言で立ち上がり、ふすまをバンッ!と勢いよく開けた。

 そこには、源さんが耳をこちらに向けて座っていた。

 ぬ、盗み聞きしていたのか?

「続きなんてできるかっ!」

 土方さんは再び鬼になったのだった。


「松原さんの件は、このままばれずに終わりそうです」

 屯所で原田さんに会ったので、報告した。

「そうか、そりゃよかった」

 屯所の広い縁側に原田さんとすわった。

 外は秋の空が広がっていた。

 屯所の中は、巡察に行っている人たちがいないのでほとんど人けが無かった。

「それにしても蒼良そらは勘がいいな」

 勘はそんなにいい方じゃないんだけどなぁ。

「松原の話を聞いて驚いたよ。蒼良の予想通りだもんな」

 あ、その話か。

「なんとなくそうなんじゃないかなぁと思ったのですよ」

 あははと笑ってごまかした。

 まさか、知っていましたなんて言えないじゃん。

「そう言えば、松原の件だけでなく池田屋の時もそうだったなぁ」

 池田屋?その時私何かやったか?

「土方さんが他の場所を捜索していた時も、一生懸命になって、池田屋だっ! って言っていただろう。実際、池田屋だったしな」

 そんなことも確かにあったなぁ。

「なんでそんなに勘がいいんだ? 俺も見習いたいな」

 原田さんに頭をポンポンと軽くたたかれた。

「それは私にもわかりませんよ」

 あははと、また笑ってごまかした。

 まさか、知っていましたからなんて言えないだろう。

 しばらく無言で秋の空をながめていた。

 原田さんは縁側でごろんと横になった。

「そう言えば最近、平助がなんかおかしくないか?」

 ん?藤堂さんがどうかしたのか?

「最近俺たちとの付き合いが悪いんだよなぁ」

 そうなんだ。

 藤堂さんは、伊東さんに引っ付いているしなぁ。

 きっと伊東さんの手伝いか何かで忙しいのかな。

「伊東さんも何考えてんだかわからないしな。そんな奴と一緒にいる平助も平助だよな」

「原田さんもそう思いますか?」

「ああ。俺は難しいことはわからないが、伊東さんがあまりよくないことを考えているのはわかる」

 おお、私と同じ意見だ。

「あの人は、いつか新選組を裏切りますよ。裏切って隊を出るのですよ。しかも隊士も何人か連れて。藤堂さんには隊をぜったに出ないでくださいと約束したのですが、やっぱり伊東さんについて出ちゃうと思います」

 はぁ。

 やっぱり藤堂さんは伊東さんと行動を共にしちゃうんだろうなぁ。

 原田さんは無言のままだったので、どうしたんだろうと思って原田さんを見ると、ガバッと起き上がった。

「蒼良、なんでそこまでわかるんだ?」

 えっ?な、何か悪いことを言ったか?あ、言ったなぁ、言ったよ、言っちゃったよ。

「あ、あのですね……勘です、そう勘っ!」

 しかし、原田さんをごまかすことはできなかった。

「勘だけでそこまでわからないと思うぞ」

 そ、そうですよね。

 ああ、どうしよう。

「ちょっと外に出るか」

 原田さんに誘われた。

「はい」

 これは、もう逃げられないし、ごまかせないってことか?


 原田さんと河川敷を歩いた。

 そこにいる人の数は少なかった。

「座るか?」

 原田さんに言われ、芝生の上に座った。

「勘っていうのは、嘘だな」

 座ったと同時にそう言われた。

「はい」

「と言う事は、知っていたと言う事か」

「はい」

 もうごまかせないだろう。

 そう思って返事した。

「わかった」

 原田さんはそう一言言った。

 あれ?

「聞かないのですか?」

 思わず私が聞いてしまった。

「なにを?」

「なんで私が知っていたのか、とか」

 もしかして私、墓穴掘っているか?

「そんなこと別にどうでもいいさ。蒼良だって話したくないことがあるだろう。それを無理に聞きたいとは思わない。話したくなったら、話してくれればいいさ。でも、嘘はやめてくれ」

「わかりました」

 なんて心が広いんだ。

 感動してしまった。

「なんて、かっこつけて言ったけど、本当は、蒼良のことを知りたくてたまらないんだよなぁ。なにかっこつけてんだかな」

 原田さんはため息をつきながらそう言った。

 この人なら、ちゃんと話しても大丈夫かもしれない。

 そう思った。

 っていうか、ここまでばれているんだから、もう隠しても仕方ないだろう。

 隠すという行為は、原田さんがしてほしくないと言っていた嘘をつくことになってしまう。

 信じてくれるかわからないのが心配なんだけどね。

「原田さん」

 意を決して、原田さんを呼んだ。

「なんだ?」

「全部話します。信じてもらえるかわからないですが」

「無理しなくてもいいぞ」

「いや、もう原田さんには隠せないと思ったので」

「蒼良、実は女だと言う事以外にも隠していたことがあるのか?」

 私は無言でうなずいた。

「あのですね。私、未来から来たのです。ここらか150年以上先の未来から、この時代に来たのです」

「えっ?」

 原田さんは驚きのあまりに固まっていた。

 そりゃ固まるよね。

「未来から来たって……未来には、過去に戻れるものがあるのか?」

「いや、ないですよ。私の場合はお師匠様のお弟子さんが作ったので来ることが出来ました。未来でもまたその一台しかない機械です」

「そうか。じゃあ、蒼良は江戸の人間ではなく、未来の人間なんだな」

「信じてもらえますか?」

 恐る恐る私が聞いたら、

「信じるに決まってんだろ」

 と、原田さんは言ってくれた。

「すみませんが、この事は内緒にしてください」

「蒼良は、秘密が多い女だな」

 原田さんは笑いながらそう言った。

「すみません」

 私が謝ると、

「秘密の多い女は、魅力的だからな」

 と、原田さんは言った。

「と言う事は、さっき平助のことを言っていただろう。それも勘じゃなくて、これから起こることなんだな」

 私はうなずいた。

「そうか。伊東さんを好きになれないわけだよな」

「原田さんも、伊東さんが嫌いなんですか?」

「もって事は、蒼良も嫌いなのか?」

「大っ嫌いです」

「気が合うな」

 原田さんも伊東さんが好きではないらしい。

 思わず二人で笑いあってしまった。


 それから屯所に帰った。

 屯所に着くと、100人近い人たちが屯所の周りにいた。

 な、何なんだ?

 しかも、ただいるだけなら問題はないのだけど、殺気と言うものを感じてしまった。

 何事だ?

 急いで部屋に戻って土方さんに聞いた。

「うちの隊士が捕縛してきた奴が肥後藩士だったらしくて、その藩士たちが屯所を取り囲んでいるんだ」

 そ、そうなんだ。

「ところで、肥後藩ってどこにあるのですか?」

「お、お前……」

 絶句する土方さん。

 そして、その横でなぜか笑いをこらえている原田さん。

「あっ、確か容保かたもり公が肥後守ひごのかみでしたよね」

「そりゃ官職であって、肥後藩とは何も関係ねぇっ!」

 そ、そうなんだ。

「土方さん、捕縛した藩士を引き渡すしかないだろう」

「左之の言う通り、そうするしかなさそうだな」

「そもそも、なんで肥後藩士を捕縛したのですか?」

 ずうっと思っていたことを質問してみた。

「昨日の夜、巡察中の隊士と口論になったらしい」

 えっ、それだけで捕縛か?

「それなら、引き渡しても害はなさそうだな」

 原田さんがそう言った。

「引き渡して、外にいる肥後藩士たちを全部ここから移動させろ」

 土方さんがそう言ったので、原田さんが、捕縛していた肥後藩士を引き渡した。

 すると、追い返さなくても、肥後藩士たちはいなくなった。

「これはわかっていたのか?」

 原田さんが聞いてきた。

「こういう細かいことは、全然わかりませんでした」

 勉強不足だよなぁ、自分。

「わかることと、わからないことがあるんだな。肥後藩の場所とか……」

 そう言うと、原田さんが笑い出した。

「県名を言ってもらわないとわからないですよ」

「と言う事は、未来には肥後藩はないのだな」

「肥後藩だけではなく、藩と言うもの自体が無いですよ」

 私がそう言うと、

「そうか。俺には想像つかないな」

 と、原田さんは少し寂しそうに言ったのだった。

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