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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年8月
213/506

島田さんの結婚

 近藤さんの部屋の近くを通ったら、人がたまっていた。

「どうしたのですか?」

 近づいて私がそう言うと、

蒼良そら、しいっ!」

 と、永倉さんに言われてしまった。

 これは、いつもの盗み聞きじゃないかっ!

「また盗み聞きですか?」

「いや、今回は新八と仲のいい島田が部屋に入って行ったから、気になってしかたないらしいんだ」

 原田さんが説明してくれた。

 永倉さんは島田さんが気になって、そんな永倉さんが気になって原田さんがここにいるわけで。

「沖田さんはなんでいるのですか?」

 沖田さんも一緒にいたのだ。

 しかも一番気合い入れて一番襖に近いところで盗み聞きをしている。

「僕? 暇だから」

 なんだそりゃっ!

「一日中屯所にいると、暇なんだよ」

 そりゃわかるけど、だからって、はりきって盗み聞きか?

「で、何を話しているのですか?」

 盗み聞き云々言っている私も、実は中の話が気になるわけで。

 そろそろ豚をさばくと土方さんが言っていたから、その話なのかなぁ。

 それならよけい気になる。

 島田さんがさばくのかなぁ。

「あれ、みんなで何をやっているのですか?」

 そこに藤堂さんが通りかかった。

「平助、静かにしろ。ばれるだろう」

 永倉さんが藤堂さんに言った。

「いつもの?」

 藤堂さんは私に聞いてきた。

 私はコクンとうなずいた。

「いつもばれて怒られているんだから、そろそろやめたほうがいいと思うけど」

 藤堂さんもそう思うでしょう?

 しかし、中の話も気になるんだから仕方ない。

「あれ? 君たち。こんなところで何をしているのですか?」

 ひときわ大きな声が聞こえてきた。

 いっせいにその声の主を見た。

「あ、伊東さんか」

 沖田さんが何事もなかったかのような感じで言った。

「平助、お前の師匠だろ。何とか黙らせて向こうへ連れて行け」

 原田さんが藤堂さんに言った。

「ええ、私が?」

「みんな、近藤さんに用があるのですか?」

 うわっ!伊東さんが近づいてきた。

「藤堂さん、早くっ!」

「ええ、蒼良までそう言うの?」

 藤堂さんしか伊東さんを扱えないだろう。

「早くしろ、平助」

 仕方ないなぁという感じで藤堂さんが伊東さんの方へ行ったとき、バンッ!と襖が開く音がした。

 ば、ばれたのか?

 しかし、襖を開けたのは、中にいた土方さんではなく、外で盗み聞きしていた永倉さんだった。

 えっ、どういうことだ?

 永倉さんは、島田さんの方へ勢いよく飛びついていた。

 体の大きい島田さんは、永倉さんを受け止めた。

 さすが、島田さんだ。

 そう思っていると、永倉さんが、

「俺は嬉しいぞっ!」

 と、島田さんの肩をバシバシと叩きながら言った。

 いや、そんなに叩かなくても……

 他の人たちも、永倉さんの行動に驚いてあ然としていた。

 いつも、盗み聞きをしやがって!と怒る土方さんも、驚いて成り行きを見ている状態だ。

 それより、何が嬉しいんだ?

「結婚、おめでとうっ!」

 最後にそう言って大きくバンッ!と、思いっきり島田さんの胸をたたいた永倉さん。

 相手が島田さんじゃなければ、ぶっ飛んでたぞ。

「ええ、結婚?」

 盗み聞きをしていた私たちは、声をそろえて言った。

「おめでとうっ!」

 次々とお祝いの言葉が並んだ。

 伊東さんの姿もあった。

 ところで……

「誰が結婚するのですか?」

 なんか、大騒ぎになって、大事なところを聞けなかったんだけど。

 みんな、えって顔をして私を見ていたけど、私、なんか悪いことでもしたのか?

「よし、祝い事だっ! 豚をさばいてみんなで肉を食べて島田の結婚を祝うぞっ!」

 ええっ!島田さんが結婚するのか?

「おめでとうございます!」

 私がお祝いを言うと、

「豚は、話を聞いていなかった蒼良に任せよう」

 とんでもないことを土方さんが言い出した。

 ええっ!そ、そうなのか?それは無理だっ!

「お前は、肉料理をいろいろ知ってそうだからな」

 そう言った土方さんの手がポンッと私の頭の上に乗った。

 な、なんだ、料理だったか。

 驚いたぞ、本当に。


 台所にいつもいる佐々山さんと数人の隊士と一緒に、台所で待機をしていた。

「来ませんね」

 佐々山さんはそう言うと、台所の土間に面して一段高いところにある畳の上に座った。

 最初は、みんな初めて肉を料理すると言う事で、気合を入れて待っていたのだけど、その肉がなかなか来ないのだ。

 あの気合はどこへ行ったという感じで、みんな待ちくたびれていた。

「ちょっと見てきますね」

 何かあったのかなぁ。

 そう思いながら、台所を出て様子を見に行った。


「おい、そっちだっ!」

「わぁ、逃げられた」

 豚小屋の前に近づくと、そんな隊士たちの声が聞こえてきた。

 もしかして、捕まえられないとか……。

 豚小屋に着くと、私の思いは的中していた。

 大勢の隊士たちが豚を追い回していたのだ。

 豚も命がかかっているんだから、逃げるのも命がけだろう。

「もっと簡単に捕まると思ったんだけどな」

 土方さんがいつの間にか私の近くに来ていた。

「と言う事だから、お前のところまで行くのは時間がかかるぞ」

「わかりました」

 私がその場を去ろうとした時、

「おお、捕まえたぞ」

 という声がしたので、豚がいた方を見てみると、隊士が6人ぐらいでおさえていた。

 よし、そのうちにこっちにも来るだろう。

 台所の人たちに知らせてこよう。

 そう思った時、とんでもない一言を聞いた。

「ところで、どうやってさばくんだ?」

 土方さん、知らないのか?

「お前、知ってるか?」

 私はブンブンと首を振った。

「なんだ、知らんのか」

 知るわけないじゃないかっ!私こそ、土方さんが知っていると思っていたぞ。

 豚を捕まえたけどさばけないとなれば、あきらめるしかないのか?

 その時にある人の顔が頭に浮かんだ。

 良順先生なら知っているかも。

 まだ京にいるよね。

「おお、豚を捕まえたか」

 良順先生の声がしたので、気のせいかなぁと思いつつ声のした方を見ると、やっぱり良順先生が、近藤さんと沖田さんと一緒にいた。

 おお、噂をすればなんとやらってやつだ。

「良順先生、豚をさばけますか?」

 私が聞いたら、

「朝飯前だ。さばいてやろう」

 と、腕まくりをしながら答えてくれた。

 ようやく何とかなりそうだぞ。


 台所に着きしばらくすると、さばかれた肉が次々とやってきた。

 肉をさわるとあたたかかったから驚いた。

 いつも冷たい肉しかさわっていないから。

 そういえば、さっきまで生きていたんだもん、当たり前だよね。

「蒼良さん、これはどうしますか?」

 肉を佐々山さんに渡すとそう聞かれた。

「これは、豚汁にでもしましょう。指示するので、お願いします」

 というわけで、色々と指示を出した。

 指示を出している間にも、肉はどんどんと運ばれてくる。

 冷蔵庫という物がないから、素早く調理しなければならない。

「これはどうしますか?」

 隊士が長いものを持ってきた。

 これは、腸か?

 腸はウィンナーにするといいと聞いたことがあるぞ。

 どうやって作るんだ?

 肉と香辛料を詰めると聞いたことがあるけど、適当にやってみよう。

「この中に肉とか詰めてゆでてください」

「蒼良さん、肉だけだと匂いがあると思うので、適当に匂いを消すやつも入れておきますね」

 さすが、佐々山さんっ!

 お願いします。

 そうしている間にも、次々と肉は運ばれてくる。

 ようやく落ち着いた時、山崎さんがいた。

「驚いたなぁ。蒼良さん、料理作れたのですね」

 そりゃどういう意味だっ!かまどさえなければ私だって作れるのよ。

 なんせお師匠様のごはんを作っていたのは私なんだからね。

「あ、土方さんが呼んでます。そろそろ食事の準備ができたから、みんな来いとの事です」

 なんだ、呼びに来たのか。

 からかいに来たのかと思った。

「蒼良さん、今度は美味しいものを作ってもらえそうですね。楽しみです」

 い、いや、山崎さん、そう言われても……

「かまどが使えないので。でも料理はできますよ」

「え、かまどが使えないのに、料理が出来るのですか?」

 山崎さんが驚いていた。

 なんか、驚くようなことを言ったか?

「どんな料理が作れるのですか?」

「こう見えても、色々できますよ」

 胸を張って言う私を不思議そうに見る山崎さん。

「かまどが使えなければ、何も作れないともうのですが……」

 あっ、そうだよね。

 この時代、ガスコンロなんていう便利なものがないしねぇ。

「ああ、かまどさえ使えればっ!」

 私が思わずそう言うと、山崎さんは笑っていた。

 何とかごまかせたぞ。


 みんなの所に行くと、たくさんの料理があった。

「お前が指示して作らせたらしいな」

 土方さんがそう言ってきた。

 こ、こんなに作っていたのか?

「良順先生が、こんなにたくさんの種類の肉料理を食べたのは初めてだと喜んでいたぞ」

 そうなんだ。

「お前、いつの間にこんなに肉料理を覚えたんだ?」

「お師匠様の食事を作っていたので、自然とおぼえましたよ」

「天野先生は普通に肉を食うのか?」

「もう大好きですよ」

「そ、そうか」

 土方さんがひいていたけど、なんか悪いことでも言ったか?

 あ、この時代は肉があまり手に入らないし、肉は薬として扱われていたから、引くのは当たり前なのか?

 薬を毎日食っていたらさすがに引くよね。

 飲むものだし。

 ま、お師匠様のことだから、いいか。

「あ、これは無理」

 そんな声が聞こえてきた。

 声の主は沖田さんだった。

「さっき食べたけど、匂いと歯触りがだめ」

 そんな沖田さんが手にしていたのは、レバニラ炒めだった。

 フライパンなんてものもが無いから、鍋でいためた。

 もちろん、食用油が無いから、豚肉の脂身から油を取った。

 匂いは、生姜と醤油で消した力作に入るんだけど。

「蒼良君、これは豚のどの部分にあたるんだ?」

 良順先生が、レバーを食べない沖田さんを見ながら言った。

 レバーは、確か……

「肝臓です。栄養があるのですよ」

「ああ、聞いたことがある。貧血に効くんだ。沖田君。君にピッタリの食事だ」

 さすが良順先生、知っていたんだぁ。

「ええっ、これは無理ですよ」

 沖田さんはとっても嫌がっていた。

 確かに、レバーって、嫌いな人が多いもんね。

「総司、先生の言う事はちゃんと聞け。じゃなければ治らんぞ」

 土方さんは、モグモグとレバーを食べて言った。

 土方さんは食べれるんだ。

「鼻をつまんで飲みこめ」

 土方さん、料理作った人の前でそれを言うか?

「一つだけですよ」

 そう言って、沖田さんは鼻をつまんでレバーを口の中に入れて飲みこんだ。

「食べましたよ」

 胸を張ってそう言っていたけど、

「もう一つ」

 と、良順先生に言われ、仕方なくもう一つ食べていた。


 そう言えば、この席は島田さんの結婚祝いの席なんだよね。

 島田さんの方を見たら、小さくてかわいらしい女の人が横に座っていた。

 幸せそうだなぁ。

「島田の奥さんは、お腹の中に子供がいるらしいぞ」

 土方さんが私に教えてくれた。

「えっ、島田さんの子ですか?」

「あたりめぇだろうがっ!」

 そうだよね。

 他人の子だったら大騒ぎだわ。

「赤ちゃん産まれたら、抱っこさせてもらおう」

 楽しみだなぁ。

「お前、自分で産んだほうがいいと思うぞ」

 突然土方さんに言われた。

「えっ?」

「お前も20歳だから、いつまでもこんなことしてねぇで、早く結婚して子供産んだほうがいいぞ」

「いや、まだ早いですから」

「早くねぇだろう」

 この時代、20歳で未婚は晩婚になるらしい。

「まだ考えられないですし……」

「考えとけ、いいな」

 そ、それは、どういう意味なんだ?

 そんなこと、まだ全然考えられないのですが。

 とにかく、島田さんに赤ちゃんが生まれたら、見せてもらおう。

   

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