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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年8月
211/506

山崎さんと医術修行

 巡察中、山崎さんを見かけた。

 山崎さんって、仕事中なのかなぁ。

 山崎さんのお仕事は、間者のようなお仕事が多いので、やたらと声をかけることが出来ない。

「おっ、山崎だ。おーいっ!」

 一緒に巡察していた源さんが、手をあげて山崎さんを呼び止めたので、その手を止めた。

「なんだ、蒼良そら

 なんだじゃないですよ。

「山崎さん、お仕事中かもしれないので、声をかけない方がいいと思います」

「仕事中じゃないですよ」

 山崎さんの声が後ろからしたので振り返ってみてみると、なんと、すぐ近くに山崎さんが来ていたから、驚いた。

 気配を消して来ないでほしかった。

「ほら、仕事中じゃないってよ。よかったな」

 源さんは嬉しそうにそう言った。

「お休みで休日を満喫しているのですね」

 と、私が聞いたら、山崎さんは首を振った。

 ん?

「仕事じゃないけど、休みでもないって、何なんだ?」

 源さんも同じことを思ったみたいで、山崎さんに聞いていた。

「今は、間者の仕事じゃなくて、医術の仕事をしに行っているのですよ」

「医術の仕事?」

 源さんと声をそろえて言った。

 新選組の仕事じゃないのか?

「良順先生が屯所に診察に来た時に、怪我人が多いから、応急手当ぐらいわかる人間がいたほうがいいだろう。と言う事になって、副長が、私に話を持ってきたのですよ」

 と言う事は?

「山崎さんは、これから医術のことを教わりに行くのですね」

 と言う事だよね。

 山崎さんはコクンとうなずいた。

「わぁ、面白そうですね」

 私がそう言うと、

「巡察ももう終わるから、山崎と一緒に行ってみたらどうだ?」

 と、源さんに言われた。

「ええ、でも、迷惑ですよ」

「誰に迷惑なんだ?」

 源さんがそう言った。

「巡察をここで切り上げたら、源さんに迷惑がかかるじゃないですか」

「俺は別に平気だぞ」

 そ、そうなのか?

「それに、勉強しに行くのに、私がついて行ったら、山崎さんの邪魔になってしまいますよ」

 しかし、山崎さんは、

「別にじゃまになりませんよ」

 そ、そうなのか?

「ほら、山崎も大丈夫だって言っているだろう? 行って来い」

 ポンッと源さんに背中を押された。

「本当にいいのですか?」

 山崎さんを見上げながら聞いてみた。

「蒼良さんも一緒なら、蒼良さんと一緒に応急処置ができると言う事で、私が心強いですよ」

 いや、私をあてにされても困るんだけど。

 でも、この時代の医療ってどんなものなのか興味はある。

「じゃあ、山崎さんと行ってきます」

 源さんにそう言ってから、山崎さんと一緒に医術の勉強をしに行ったのだった。


 良順先生はいなかった。

 家茂公専属のお医者さんだから、大坂で家茂公のそばにいるのだろう。

 ここにいたのは、良順先生の代わりに屯所に来て診察してくれた、南部先生だった。

「あれ? 今日は二人で来たのか?」

 南部先生がそう言った。

「医術に興味があると言う事なので、連れてきました」

 山崎さんがそう言って私を紹介した。

 えっ、誰も医術に興味があるなんて言ってないけど。

「天野蒼良です」

 とりあえず、自己紹介をして頭を下げた。

「ああ、女隊士」

 南部先生がそう言った。

 えっ、なんで知ってんだ?

「良順先生が言っていたよ。あの男所帯の新選組に女がいるって。しかも、他の男たち以上に活躍しているらしいね」

 いや、そう言われると照れるなぁ……って、照れている場合じゃないから。

「この話は、ここだけの話に」

 山崎さんが、私の代わりに言ってくれた。

「あ、そうだった。良順先生にも話を外に出すなと言われていた」

 って、思いっきりここで出していたからね。

 私のことを知っている山崎さんだからよかったけど、他の人だったらと思ったら、恐ろしいわ。

「すまん、すまん。よそには出さないから、安心してくれ」

 南部先生は謝ってきた。

 本当に大丈夫なんだろうな?

「今日は何を勉強するのですか?」

 山崎さんが南部先生にそう言った。

「ああ、今日か。今日は体の仕組みをやろうかと思う。せっかく蒼良さんも来たから、応急処置もやるか?」

 そう言いながら、南部先生は本を数冊持ってきた。

「この本は、人間の体の中のことが書いてある」

 南部先生はそう言いながら、本を私たちの前に置いた。

 一冊持ってパラパラめくってみると、かなりリアルな体内の絵がかいてあった。

 絵でさえ、あまり見たくないと思ってしまったから、写真じゃなくて本当によかったと思ってしまった。

「人間の体の中って、こうなっているのですね。初めて見ました」

 山崎さんはそう言いながらパラパラと本をめくって真剣に見ていた。

 すごい、真剣に見ているよ。

 私はできれば避けたいと思っているのに。

「この丸っぽいものは何でしょうか?」

「ああ、これは胃ですよ。ここで胃液という酸性の液を出して食べ物を消化するのですよ」

 山崎さんは驚いた顔をして私を見たけど、すぐに本に視線を戻した。

「このくねくねしている物は?」

「これは小腸ですよ。胃で消化した食べ物から栄養をここでとるのですよ」

「じゃあ、これは?」

「それは大腸です。便をつくるのですよ」

「なんで蒼良さんはそんなに詳しいのですか?」

 えっ?詳しいか?

 学校の理科の授業で習ったことなんだけど。

「驚いたなぁ。私と同じぐらい詳しい」

 南部先生までそんなことを言い出した。

 もしかして、ここでは知らないふりをしていた方がよかったのかも。

「どこかで医術の勉強をしていたことがあるのか?」

 南部先生に聞かれた。

「いや、お、お師匠様に」

「蒼良さんのお師匠様は、たしか天野先生だよな?」

「はい」

「江戸であったことがあるが、そんなに医術を知っているように見えなかったぞ」

 お、お師匠様、なんで医術に詳しいふりをしてくれなかったのですかっ!

 少しでも詳しいふりをしてくれればよかったのに。

 って、それは無理か。

「お師匠様の友達に詳しい人がいたので、その人から教わったのですよ。そう、その人から」

 よく自分の口からスラスラと出てくるよなぁと、自分で自分に感心してしまった。

「ああ、それなら確かに詳しいですね」

 山崎さんが優しく笑ってそう言った。

 何とかごまかせたらしい。

 それからしばらくその本を見ていたのだった。

 それから応急処置の勉強をして屯所に帰った。


「山崎さんは、鍼灸しんきゅうという腕もありますよね。すごいですね」

 鍼灸師でありながら、医師でもある。

 この場合、医師とは言わないと思うのだけど、医術の知識も得ようとしているから、すごいと思う。

「そんなにすごくないですよ。なんなら蒼良さんに鍼灸の技術を教えましょうか?」

 え、いいのか?

 一度教わっておきたいと思っていたのだ。

 黙らせるために誰かに刺してやりたいと思っていたのだ。

 誰かというと、それは内緒だ。

「お願いします」

 と言う事で、山崎さんから鍼灸の技術も教わることになった。


「で、なんで俺なんだ?」

 土方さんがうつぶせになって背中を出していた。

「ちょうど副長からやってほしいという話があったので」

「俺が頼んだのは、山崎でこいつじゃない」

「大丈夫ですよ。うつぶせで寝ていたら、誰が刺したかわかりませんから」

 と、私が言ったら、

「そう言う問題じゃねぇだろうがっ!」

 と、怒鳴られてしまった。

 確かにそうなんだけどね。

「私が指示しますから、大丈夫ですよ。動かないでください」

 山崎さんがそう言って土方さんの背中に針を刺した。

「いてっ! でも、気持ちいいんだよな」

 土方さんは頭を折った座布団に乗せて気持ちよさそうにそう言った。

「今度はどこ刺しますか?」

 私が山崎さんに聞いたら、

「ちょっと待て、なんでお前が山崎に聞いてんだ?」

 と、土方さんが頭を少し上げて言った。

「勉強のためですが」

「まさか、お前が刺すんじゃないだろうな?」

「大丈夫ですよ。土方さんからは誰が刺しているか見えないですから」

「お前は、絶対に刺すなっ!」

「副長、暴れると、変なところに刺さるので」

 そう言って山崎さんが針を刺した。

「まだ蒼良さんには針を持たせませんから」

 山崎さんが針を刺し終わるとそう言った。

「これも修行が必要なので」

 なんだ、簡単にできるものではないとは思っていたけど、まだ針は持てないのね。

「おう、そうか。それならよかった」

 土方さんは、本当にホッとしたみたいで、再び座布団に頭を乗せた。

 つぼの場所の勉強になればいいと思い、山崎さんが針を刺すのを見ていた。


「気持ちよかった」

 針治療が終わって、土方さんが起き上がって着物を着ながらそう言った。

 私は、道具をしまう山崎さんの道具箱の中を見ていた。

 その中に、すりこぎ棒の小さいものがはいっていた。

「これなんですか?」

 山崎さんに聞いてみた。

「これは、つぼを刺激するときに使うものです」

 なるほど。

 そう言えば、これを使って足裏マッサージなんてよくやっていたよなぁ。

 そうだっ!

「土方さん、これを使って私が土方さんを楽にしてあげますよ」

「いい、遠慮する」

 間を置かず、そう返事をされた。

「なんで遠慮をするのですか。いいじゃないですか。針を刺すわけじゃないのだし」

「俺じゃなくても、山崎にやってやればいいだろう」

「きっと蒼良さんは、副長にやってあげたいのですよ」

 もしかして、山崎さんも逃げてる?

 そう思いながら、

「いつも土方さんは私たちのために色々な仕事をしているので、感謝の気持ちを込めて、つぼを刺激してあげますよ」

 と、心に少しだけある思いを言った。

「そこまで思っていてくれたのか。お前の思いを無駄には出来ねぇな。どこのつぼを刺激するんだ?」

 土方さんが覚悟を決めたかのようにそう言ってくれた。

「足の裏です」

「えっ、足の裏?」

 土方さんが驚いた声でそう言った。

「確かに、足の裏はつぼが多いです。蒼良さん、つぼに心得があるのですか?」

「あ、少しは」

 一時期お師匠様が足裏マッサージに凝りだし、毎日のようにやってあげたことがあるから、少しは知識があると思う。

「よし、やってみろ」

 土方さんが足の裏を出してきた。

「あ、意外と綺麗ですね」

「意外ととは何だっ!」

「すみません。それではいきますよ」

 私は、土方さんの足の裏にグリグリとすりこぎ棒の小さいやつをあてた。

「いててててっ! いてぇだろうがっ!」

 土方さんがすごい勢いで、足を引っ込めた。

「ここが痛いと言う事は、胃が悪いのですよ」

「蒼良さん、よくわかっていますね。その通りですよ」

「おい山崎っ! 感心している場合じゃねぇだろうがっ! 山崎の針より痛かったぞ」

「それだけ胃が悪くなっていると言う事ですよ」

「うるせぇっ!」

「他にも見てあげますよ」

「もういい」

「そ、そんなっ! 私は土方さんを思って……」

 泣きを入れたら、

「わかった」

 と言って、再び足を出してきてくれた。

 そして再び足裏を刺激する。

「いてててっ!」

「ここは、目ですよ。書き物をし過ぎってことですね」

「仕方ねぇだろう。いててててっ!」

「ここは、腸です。あっちこっちが悪いのですね」

「ちょっと待て。お前、これはいかさまじゃねぇだろうな?」

 土方さんが再び足を引っ込めた。

「いかさまじゃないです。蒼良さんの言う通り、足の裏はつぼがたくさんありますから。ただ、副長だけでなく、他の人も同じように痛がります」

 山崎さんが説明してくれた。

「なんだ、いてぇから病気というわけじゃねぇんだな」

「そう言うわけではないです」

 山崎さんがそう言った。

「土方さん、裸足で西本願寺の丸い石の砂利の上を歩くといいですよ。刺激になりますから」

「蒼良さん、いいこと言いますね」

 山崎さんに褒められた。

「お前らも一緒にやるか? 俺一人で裸足で歩いてたら、西本願寺の奴らに変な奴だと思われるだろう」

「ああ、確かにそうですね」

「おい、納得してんじゃねぇよ」

 あ、納得したらいけないところだったのか?

「で、一緒にやるか?」

「あ、私はまだ仕事が残ってるので」

 山崎さんがそう言うと、スッとたって部屋から出て行った。

 もしかして、逃げたのか?

「お前はどうすんだ?」

 そう言う土方さんと目があった。

「え、私ですか? やっぱり、やめたほうがいいですよ。二人で砂利の上を歩いて、痛い痛い騒ぐのもねぇ」

「お前が言ったんだが」

 そ、そうだったか? そうだったような感じがする。

「わかりました。私が毎日足裏のつぼを刺激してあげますよ」

「それは遠慮するっ! いてぇ思いは山崎の針で充分だ」

「遠慮することないですよ」

「遠慮してねぇっ! やらなくていい。副長命令だっ! 絶対にやるなっ!」

 副長命令が出てしまった。

 っていうか、こんなことに副長命令使っていいのか?

 思わずそう思ってしまった。

 

 

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