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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年3月
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三十三間堂

考えることが多くなった。今日も考えていた。考えていても解決する問題じゃない。でも、殿内さんの件は、私の中で影響が大きかった。

「蒼良」

 考えていると、突然後ろから肩を叩かれた。突然だったから、ものすごく驚いた。

「お、お、沖田さんっ!なんでいつも驚かすのですかっ!」

「今日はまたすごく驚いたみたいだね。いつもより反応がすごいよ。」

「そりゃ、考え事しているときに不意に驚かされたら、誰だってびっくりしますよ。」

「考え事している時でも、周囲に気を配らないと。不意打ちを食らうよ。これは不意打ちを食らわないようにする訓練。」

 そうか、訓練か…って、絶対に違うな。きっと面白いからやっているに違いない。

「あ、そうそう。今日は蒼良に用事があったんだ。」

「えっ、なんですか?」

「ちょっと付き合ってよ。いいところ見つけたんだ。」

「いいですよ。いいところってどこですか?」

「それは着いてからのお楽しみ。蒼良の反応が楽しみだ。あんなにたくさんの千手観音を見たら、きっと驚くよ。」 

 それは、もしかして?あそこでは?

 やっぱり、着いたところは三十三間堂だった。

「あれ?蒼良、知ってた?」

「はい、知ってました。」

「なんだ、つまらない…。江戸にもあるんだけどね。」

「ええっ、江戸にもあるのですか?」

「そこで驚くの?何か違うような。」

 後で聞いた話だと、ここを模倣して江戸三十三間堂というものが深川あたりにあった。しかし、明治5年に無くなってしまったらしい。

 行く機会があれば、この時代にしかないもの、ぜひ行きたいと思ったけど、今は京にいるし無理そうだな。

「もしかして、蒼良は、江戸の方が見たかったとか…。」

「い、いや、京が本場だから、本場のものを見れて嬉しいですよ。」

「感情がこもってないけど。」

 うっ、バレた。

「でも、場所がどこであれ、沖田さんが連れてきてくれたということが嬉しいですよ。せっかくなので、中に入りましょう。」

 ということで、中に入った。


 中は、現代と変わらない。でも、現代で見ても、大量にいる千手観音に圧倒される。

「この中に、会いたいと願う人の顔が必ずあるっていう言い伝えがあるのですよ。」

「蒼良、僕より知ってるね。どれ、探してみようかな。」

「居るんですか?会いたいと思う人。」

「居ないなぁ…。」

「じゃぁ、あるわけないじゃないですか。」

「蒼良は?」

 と言われて、ジーっと見てみると、なぜかお師匠様の顔が浮かんだ。

 そういえば、2月に江戸で別れてから2ヶ月も会ってないな。京にくるっていっていたけど、もしかして…いや、お師匠様に限ってそれはないだろう。

 きっと、東海道を寄り道しながら来ているに違いない。

「おーい、蒼良?また自分の世界に入ったか?」

「あ、すみません。お師匠様の顔が思い浮かんで。」

「天野先生の顔か。なんか、色気がないなぁ。心に思う女性の顔とか浮かばないの?」

「浮かびませんね。そういう沖田さんはどうなんですか?」

「僕は、女性は色々面倒くさそうだからいいよ。」

「面倒くさくなんてないですよ。思う人ができればきっと変わりますよ。」

「蒼良は、経験したようなこと言うね。もうしかして、思う人がいるの?それで最近悩んでいるとか?」

「いや、それはないです。」

「でも、最近の蒼良はおかしいって、土方さんが。」

「えっ、土方さんが?」

「あっ…これは内緒だった。」

 おいっ、そう言っている時点で内緒にならないだろう。

「もう、内緒じゃないですよ。で、土方さんが、なんて?」

「じゃぁ、土方さんには内緒ね。蒼良が、最近何か悩んでいるのか、いつもと違うから、ちょっと確かめてくれって頼まれたんだ。」

「そうだったのですね。だからここに連れてきてくれたのですね。」

 でも、ちょっとムードがないような?でも、沖田さんなりに考えて連れてきてくれたんだなと思ったら、嬉しかった。

「ありがとうございます。」

「いや、僕は何もしてないけど。」

「ここに連れてきてくれたので、嬉しいです。」

「そう言われると、照れるなぁ。男に照れるなんて、僕もおかしくなったかも。」

 いや、私、女ですから。でも、それは内緒。

「で、蒼良は、なんで悩んでいるの?」

「殿内さんのことです。自分のやったことは後悔していません。これでよかったと思っています。でも、何か割り切れなくて。」

「そうか。僕は彼を切ったけど、全然平気だよ。」

「どうしてですか?変な夢とか見たりしません?」

「なんで、変な夢みないといけないんだい?僕は悪いことはしてないし。」

 沖田さんはそうなんだろうな。人殺しとか、そういうことをしてはいけませんと18年間教えられてきた私にとっては、人殺しの計画に加担したっていう重荷がなかなか取れない。

「蒼良は、悪いことをしたと思っているの?」

「だって、人殺しですよ。」

「殺したのは僕だよ。蒼良じゃない。」

「でも、計画に加担しました。」

「そうか。相手が誰であれ、人殺しの計画に加担してしまった自分を攻めている。そうだね?」

 沖田さんの言葉は的中した。まさに、そう。そうなのだ。

 後悔はしていないと言いつつ、自分を責めている。これでいいのだと思いつつ、納得できない自分がいる。

「蒼良、これが逆ならどうしてた?」

「逆というと?」

「近藤さんが殺されていたら。」

「それは、もっと嫌です。どうして防げなかったんだろうって、後悔します。」

「僕は、近藤さんを守るために切った。切らなければ、近藤さんがやられていた。」

「分かっています。」

「いや、わかってないから悩むんだよ。」

 それはどういう意味?

「僕は、小さい時から試衛館にいて、近藤さんたちを家族だと思って過ごしてきた。そんな近藤さんたちが居なくなることは耐えられない。自分の大事なものだから、それを守るために切った。だから、そのことに関して僕はこれでよかったと思っている。」

 沖田さんに言われて、私も考えてみた。

 今日まで近藤さんたちがいなければ、私は何をしていただろう?

 タイムスリップすらしていなかったかも。すると、みんなとも出会えていなかった。

 試衛館の人たちの顔が一人一人浮かんできた。

 今まで起きたことも浮かんできた。

 それがなくなるのは、とっても嫌だ。耐えられない。

「蒼良、大丈夫か?」

 私は考えながら泣いていた。みんなが居なくなることを考えると、それぐらい悲しかった。

 それぐらい、私にとって試衛館のみんなは大事なものになっていたのだ。

「大事なもの、わかりました。」

「分かったのはいいけど、泣くのはやめたほうが…男泣きって、色気ないよ。でも、蒼良は色気があるなぁ。」

 そんなことを言いながら、沖田さんは自分の着物の袖で私の涙をふいてくれた。

「大事なもの、失わなくて、よかったです。」

「分かったから、もう泣くのはやめよう。」

「でも、涙が止まりません。」

「男が男の涙をふいているって、はたから見たらおかしいと思うよ。」

「あ、そうですね。」

 現に、周りの人がちょっと興味ありそうな目で見ている。

 私は自分でゴシゴシと涙をふいた。

「もう大丈夫です。悩みも解決したし、割り切れました。私も、大事なもののために計画に加担しました。大事なもの、守れてよかったです。」

「よし、本当に大丈夫そうだね。帰ろうか。」

「はいっ!」

 せっかく来たので、三十三間堂を堪能してから屯所に帰った。


 屯所に帰って部屋に行ったら、土方さんがいた。ここでも相部屋なので、いるのは当たり前なのだけど。

「悩みは解決したか?スッキリした顔になった。」

「はい、ありがとうございます。沖田さんに言ってくれたそうで。」

 って、これは内緒だった。

「総司の奴、いいやがったな。ま、あいつは絶対に言うだろうなと思っていたが。」

 言うだろうと思っていたのに、どうして内緒の話なんだろう。なんかおかしくなってしまった。

「何がおかしい。」

「いや、なんでもないですよ。」

 この人たち、好きだなぁと思った。みんないい人で、みんな優しくて。失わなくてよかったな。

「どうせ、殿内のことで悩んでいたのだろう?」

「なんで知っているのですか?」

「お前の顔見てりゃわかる。すぐに顔に出るからな。」

 なんでもお見通しなのね。

「これからはこんなことは山ほどある。そのたびに悩んでいたら身がもたないぞ。」

「大丈夫です。大事なものが見えたから。その大事なものを守るためなら、鬼になります。」

「そうだな、それぐらいの覚悟がないとダメだ。」

 ふと思っけど、土方さんは、隊規ができたときに鬼になるといった。あれはきっと、近藤さんを守るためなのかな。

「なんだ、人の顔ジーっと見て。」

「いや、土方さんも守りたいものがあるんだなぁって。」

「なんだそりゃ。」

「近藤さんですよね。守りたいものというか、人か。」

「男が男に惚れるって言うか、俺は近藤さんを上にした組織を作りたい。あの人は上に立つべき人だ。そのためなら俺は何でもする。」

 そう言い切った土方さんはかっこよかった。だから、

「あ、やっぱり男色なのですね。」

 と、茶化してしまった。

「ばかやろう。それはお前のせいだろうがっ!」

 げんこつが落ちてきたけど、痛くなかった。

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