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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年7月
207/506

秋雨と嵐

 だいぶ秋らしくなってきた。

 秋と言えば秋晴れで、澄んだ青空なんだけど、ここ数日はしとしとと雨が降っていた。

 秋雨ってやつかもしれない。

 しとしとと雨が降っているせいもあるのかもしれないけど、ここ最近は涼しかった。

 しかし……

「涼しくなったのはいいのですが、雨ばかりはなんか退屈です」

 私は、ゴロゴロとしていた。

 この時代はテレビもないし、パソコンもないので、雨が降ると家にこもるしかない。

「お前、そんなにゴロゴロしてると、キノコがはえるぞ」

 土方さんにそう言われた。

「キノコがはえたら、土方さんにあげますよ」

「いらん」

 あっさりと言われてしまった。

「遠慮しなくていいですよ。ちゃんと料理してあげますから」

「いらんわっ!」

 土方さんかまっても面白くないなぁ。

 ああ、退屈だ。

「そう言えば、秋雨って秋の季語ですよね」

「お前は何が言いたいんだ?」

 書き物をしていた土方さんが急に振り向いてきた。

「いや、別に……秋の季語だなぁって。あ、俳句を作れとかって言ってないですからね」

 そう言ったら、座布団が飛んできたから、あわてて逃げた。


 座布団を飛ばしてくるとは、敵もあなどれないな。

 しかも、回転して縦に飛んできたぞ。

 どうやったらあんな飛ばし方出来るんだ?

「あ、蒼良そら

 大広間に行くと、藤堂さんがいた。

 藤堂さんも、暇みたいで、のんびり雨を見ていた。

「蒼良も暇なの?」

「暇そうに見えますか?」

「うん」

 そんなに暇そうに見えるか。

「実は……」

 神妙な顔をして私がそう言うと、

「え、もしかして忙しかったの?」

 と、藤堂さんに聞かれてしまった。

「いや、暇です」

「なんだ」

 藤堂さんは笑顔でそう言った。

「実は……なんていうから、忙しいのかと思ったよ」

「雨だから、やることがないのです。出かけるのもおっくうだし」

 この時代の傘は和紙でできていて、水にぬれると重くなる。

 そして、すぐにだめになってしまう。

 それなら、雨の日に外に出ない方がいい。

「そうなんだよね。雨の日って家にいたいね」

「でも、家にいても、やることがないじゃないですか」

 特に屯所だと、食事を作るのは別な人がやってくれるし、掃除も最近は毎日やっているので綺麗だ。

 だから、やることがない。

「晴れるように、日和坊主でも作ろうか?」

 藤堂さんが立ち上がりながらそう言った。

 日和坊主とは、現代で言うてるてる坊主のことだ。

「作りましょう」

 どうせやることないし、てるてる坊主でも作ろう。


「そんなものはねぇっ!」

 書き物をしている土方さんに書き物に失敗して捨てる紙はありますか?と聞いたら、あっさりとそう言われてしまった。

「あの、俳句がうまくいかなくて捨てる紙でもいいですよ」

 私がそう言うと、シュッ!と言う音とともに座布団が飛んできた。

 私は素早くよける。

 紙の代わりに座布団が飛んでくるから、いらない紙はないってことなんだろう。

 と言う事は……

「土方さん、書き物がうまくなりましたね」

「なんだ、突然」

 捨てる紙が無いと言う事は、字を間違えていないと言う事だ。

 この時代に消しゴムなんてものはない。

「捨てる紙がないと言う事は、間違いがないってことじゃないですか」

「ああ、まあな」

 そう言われてまんざらでもないみたいで、土方さんはどうだっ!って感じで言った。

「あ、もしかして……」

 これって言っていいのか?

「なんだ?」

 いや、言わないほうがいいだろう。

「何でもないです」

「気になるだろう」

 そこまで言うのなら……

「最近俳句を作っていないとか……」

 私がそう言うと、何かがバキッと折れる音がした。

 どうやら筆を折ったらしい。

「し、失礼しましたぁ」

 そのままふすまを閉めて退室した。

 

 広間に戻ると、藤堂さんが古くなったかわら版をもっていた。

「こんなに集まったよ。けっこういらない紙ってあるんだね」

 こちらはいらない紙が無かった。

 土方さんが提供してくれなかったから。

「ああ、こんなにかわら版があると、読みふけっちゃうよ」

 藤堂さんが、かわら版にさわりながら言った。

「読みたいなら、いいですよ」

 私はかわらばんを藤堂さんに差し出した。

 どうせ暇だし、読んでいても全然大丈夫だろう。

 私はあまり中身がよくわからないけど。

「あ、いいよ。きりが無くなるから、日和坊主作ろう」

 藤堂さんがそう言いながら、かわら版を丸くした。

 壬生にいた時にてるてる坊主の顔をみんなの顔にして作った。

 その時は、みんな自分の部屋に持って帰ったんだよなぁ。

 今回もみんなの顔を書いてみた。

 そして軒下につるした。


 次の日、晴れていることを期待したけど……

「なんか、晴れるところか、嵐が来ちゃったね」

 藤堂さんが、外を見て言った。

 これって、台風じゃないのか?

 風が強いし、雨も横殴りで強く降っている。

 現代と違うところは、たまにおけが飛んでいるところだろう。

「日和坊主の効果が無かったですね」

 昨日作ったてるてる坊主は、相変わらず軒下につるされていた。

「みんなも最初の時と変わったね」

 藤堂さんは、軒下のてるてる坊主を見ながら悲しそうに言った。

「どうしてですか?」

 私には、みんなが変わったようには見えないけど。

「だって、壬生にいた時に日和坊主をつくったら、みんな自分の顔の書いてあったやつを持って行ったじゃないか。今回は、私だけだよ」

 あ、そう言われると、そうだなぁ。

「きっと、みんな忙しいのですよ」

 忙しくて、てるてる坊主に気がつかないだけなんだよ。

 そう思いたかった。

「私は、そう思えないけど」

 藤堂さんが悲しそうにそう言った。

 

 台風の中巡察に行くわけにはいかず、屯所内で待機をしていた。

 しかし、しばらくすると、晴れてきた。

「蒼良、晴れたよ。巡察に行こう」

 藤堂さんに言われて、屯所を出た。


 急に晴れたから驚いた。

 台風だと思ったけど、違うのか?

 それとも、もう行っちゃったのか?

 この時代は台風が今どこにいるかなんて教えてくれる親切な人はいないので、自分で判断するしかない。

「嵐の後の青空だね」

 藤堂さんが嬉しそうにそう言いながら空を見ていた。

「そうですね。綺麗ですね」

 本当に雲一つなかった。

 だから、巡察に出たのだけど、なんと、しばらくすると、風が再び強くなり、雨が降り出した。

 さっきの青空は何だったんだ?

 台風は行ったんじゃなかったのか?

「嵐は去ったと思ったんだけどね」

 藤堂さんもそう思ったらしい。

 傘も持って出なかったので、長屋の軒下に避難した。

 それも、あまり意味のない避難だった。

「台風の目だったのかなぁ」

 さっき一瞬晴れたのは、目の中に入ったからかもしれない。

 そう思うと話が合う。

 衛星写真を見ると、大きい台風ほど真ん中の目と呼ばれる晴れている部分が大きく映っている。

 その中に入ると、晴れていて無風になると言う事を聞いたことがある。

「えっ、目?」

 藤堂さんは、衛星写真なんて見たことないからわからないようだ。

「これは台風と呼ばれるもので、秋に多くあるのですよ。その真ん中に入ると、一時的に晴れるけど、すぐに嵐の中に入ってしまうのです」

 私が説明しても、藤堂さんははて?という顔をしていた。

 ああ、衛星写真を見せて説明したいわ。

 でも、その前にこの状態を何とかしなくては。

 軒下にいるのに、雨は吹き付けてくる。

「あれ?」

 そんな中、藤堂さんは鼻をひくつかせながらそう言った。

「どうしたのですか?」

「なんか、臭わない?」

 え、臭い?そう言えば、風の方向によって変なにおいが流れてくるような……。

「これは……」

「なんの匂いですか?」

 私が聞いたら、藤堂さんは

「こっちだ。こっちからする」

 と言って、雨の中駆け出した。

 なんの臭いなんだろう?私も後をついて駆け出した。


 着いたところは、向かい側に建っていた長屋だった。

 長屋に着くと、臭いは強烈になっていた。

 こんなに強烈な臭いなのに、周りの人たちは気がつかないのか?

「蒼良は、見ないほうがいい」

 藤堂さんはそう言って長屋の戸を開けた。

 えっ、見ない方がいいって言われても、気になるだろう。

 藤堂さんの後ろから、恐る恐るのぞいてみた。

 中には、ものすごい背が高い人がいた。

 いや、頭は上にあるけど、足がついていない。

 ずいぶんと変わったブランコに乗っている……って、違うだろうっ!

「首つりだ」

 藤堂さんが一言そう言った。

 と言う事は、この臭いは……

「死んだ人間の臭いだったのですね」

 私が言うと、藤堂さんがうなずいた。

「私は、奉行所に行ってくるから、蒼良はここにいて」

 ええっ!ち、ちょっと待って!と、言おうとしたけど、そう言う隙も無いぐらいの速さで藤堂さんは雨の中を駆け出して行った。

 私は、この首つりの人と二人っきりになりたくなかったのですがっ!

 外に出ると、雨が吹き付けてくるし、中に入ると、首をつっている人がいるし、どこにいればいいんだ?

 そんなときに、隣から人が出てきた。

「なんや、騒々しいと思ったら、人がおったんかい」

 た、助かったぁ。

「あのですね、人が首をつっているのですよ」

「ああ、そこの人な。なんか臭いと思ったわ」

 臭いと思ったら、ちょっと開けて見てみようよっ!

「おととい見たのが最後やから、あの後つったんかな?」

 長屋から出てきた人は、何事もなかったかのように言った。

 気がつこうよ。

「首を吊ると言う事は、何かあったのですか?」

「ああ、禁門の変で店が燃えたらしいで。店を建て直そうと思うとったらしいけど、そう簡単にできるもんやないしなぁ。それで死んだんやと思うけど」

 そこまでわかっていて、この人は……

「じゃあ、うちは失礼するわ」

 あ、ちょっと待ってっ!と言おうとしたけど、素早く中に入られてしまった。

 できれば、お宅に入れてもらいたかったのよ。

 首つっている人の家じゃなくて、あなたの家に。

 はあ、藤堂さん、いつ帰ってくるんだろう?

 チラッと首つりの人の顔を見た。

 目があってしまった。

 藤堂さん、早く帰って来てっ!


 どれぐらいたったのだろう。

 雨が小降りになり、風もおさまりかけた時に藤堂さんが奉行所の人を連れて帰ってきた。

「お、遅いですよっ!」

「蒼良、そんなに怒らなくても……」

 この死体とずうっと一緒にいたんだよっ!怒りたくもなるだろう。

 しかも、二人っきりで。

 あ、一体っていうのか?

 長屋の中は、奉行所の人たちが手早く死体をおろし、色々調べていた。

「呼びに行ったときに、雨が大降りになっちゃって、しばらく雨宿りして行けって言われて、お言葉に甘えてきたんだ」

 いや、そこでお言葉に甘えないでくれっ!

「ごめん。怖かったよね」

 こ、怖いなんてもんじゃないわっ!

 涙目になっていたみたいで、目の部分を藤堂さんが指でなでた。

 後は奉行所の人たちにお任せして、雨も小降りになってきたので、私たちは屯所に帰ったのだった。


「あれ?」

 次の日、部屋の軒下を見ると、てるてる坊主がいた。

「俺の顔が書いてあったから、俺のなんだろ? もらっといたぞ。おかげで今日は晴れたな」

 土方さんが軒下を見てそう言った。

 大広間の軒下のあったのに、いつの間にか土方さんの部屋にてるてる坊主が一つ移動していたのだ。

 そして外は、台風一過の青空が広がっていた。

 大広間に行ったら、軒下のてるてる坊主はいなかった。

「あ、蒼良。日和坊主もらったぞ。ありがとな」

 原田さんが後ろからやってきて、私の頭をなでて行った。

 なんだ、壬生の時と同じように、みんな自分の顔のものを持って行ったんだ。

 みんな、全然変わっていないですよ。

 そう藤堂さんに報告したくなった。

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