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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年7月
206/506

沖田さんと脱走隊士を追う

 脱走した隊士が、名古屋で金策をしたらしい。

 伊東さんと島田さんが中山道と東海道から名古屋を目指して行った。

「脱走と、金策。二つも禁則を破ったからな。見つけたらただじゃあおかねぇぞ」

 土方さんが変に気合が入っている。

「その前に捕まえないといけないですよ」

 捕まえないと、何もできないじゃないか。

 捕まえる前から色々考えているみたいだけど。

「そんなことはわかってる。だから、追っ手を差し向けたんだろうが」

「捕まりますかね」

 伊東さんが見つけたら、逃がしちゃいそうな感じがするんだけど。

「捕まえるっ!」

 捕まるといいんだけどなぁ。

「で、捕まえたらどうするのですか?」

 どうするかはわかっている。

「決まってんだろ、切腹だっ!」

 やっぱり。

「でも、二つ禁則を犯したのに、それじゃあ罰は一つと言う事ですね」

 しばらく沈黙があった。

「お前、そういうことを言うか?」

「いや、気がついたもので」

「それなら、切腹の前に何かやるか? お前が」

 えっ、私がか?

「いや、遠慮します」

「遠慮はするな。お前が言ったんだからな」

 そ、そんな。

「じゃあ、切腹だけでいいと思いますよ」

「だけでって、不満そうだな」

 いや、全然不満じゃないですから。

 いいと思いますよ、切腹で。

 私は見ませんが。

 そんな会話をしていると、沖田さんがやってきた。

「なんか、勘定方の人が逃げたらしいね」

 ん?勘定方か?

「その話は聞いてねぇが」

 土方さんが怪訝そうな顔をしていると、他の隊士の人が息を切らせて入ってきた。

「勘定方の酒井兵庫が脱走しました」

「な、何だとっ!」

 土方さんが立ち上がってそう言った。

 さっき、脱走隊士の話をしていたので、噂をすれば……ってやつか?

「酒井兵庫って、確か、土方さんが処罰した隊士の処分をしていたのですよね」

 沖田さんがそう言った。

「処分って……」

 何?と思い、口に出してしまった。

「知りたい? 土方さんが切腹を言い渡したり斬首を言い渡したりされた隊士の始末をしていたんだよ。要するに、死体の処理とかかな」

 そ、そうだったのか。

「沖田さん、よく知っていますね」

「屯所にこもっていると、色々詳しくなるね」

 沖田さんはそう言った。

 そうか、屯所にこもっていると、詳しくなるのか。

「きっと、土方さんが死体の処理なんて任せるから、嫌になっちゃって逃げちゃったんでしょ」

 そ、そうなのか?

「総司っ! そんなこと言う暇があったなら、探して来いっ!」

 ええっ!

「ち、ちょっと土方さん。沖田さんは病気で安静が必要なんですよ」

「いいよ。僕が探してくるよ」

 沖田さんが部屋を出ようとしたから、

「わ、私も行ってきます」

 と言って、私も部屋を出た。


 私と沖田さんの他に数人の隊士がついてきた。

「沖田さん、休んでてください」

 私は、沖田さんを追いかけながら言った。

「せっかく土方さんに捕まえて来いって言われたんだから、捕まえないとね」

 も、もしかして……

「土方さんにそう言わそうと思って、わざと言ったのですか?」

 私が聞くと、ニッと沖田さんが笑った。

 そ、そうだったのか。

「だって、屯所にいても退屈だから。僕は調子はいいし、それに、お医者さんもいいよって言ってくれたしね」

 そうなのか?

「本当ですか?」

 私が聞くと、うんと沖田さんがうなずいた。

「だから、蒼良そらは来なくてもいいよ」

 でも……

「心配だから一緒に行きます」

 そう言って沖田さんの後について行った。


「だいたい、脱走すると自分の実家の近くとかにいるんだよね」

 そう言いながら、沖田さんが向かったところは、摂津の住吉というところだ。

 今でいうと大阪にあたる。

 本当にそんなわかりやすいところにいるのか?

 そう思っていたら、本当にいたのだった。

「ほらね、僕の言う通りでしょう?」

 そう言って、沖田さんは刀を出した。

 そして、酒井さんを斬った。

 しかし、とどめは刺さなかった。

「いいんですか?」

 私は聞いた。

 とどめをささないなんて、なんか沖田さんらしくない。

「気絶している人間にとどめを刺しても仕方ないじゃん。それに、とどめを刺さなくても、致命傷になっているから、大丈夫だよ」

 そう言いながら沖田さんは刀をしまった。

 確かに、酒井さんはこの傷が致命傷となって亡くなってしまう。

 刀をしまったとたん、ゴホゴホと咳をし始めた。

「だ、大丈夫ですか?」

 私は、沖田さんの背中をさすった。

「大丈夫だよ。今初めて咳が出たから」

 本当か?

「お医者さんに診てもらいますか?」

 確か、家茂公の専属のお医者さんだから、大坂にいるはずだ。

 でも、大坂のどこにいるんだ?

「沖田さん、良順先生のいる場所、わかりますか?」

 沖田さんに聞いたら、素直にうなずいた。

「ついてきて」

 沖田さんはそう言って歩き始めた。

 今日はやけに素直だよなぁ。

 なんかたくらんでいるのか?いや、そう考えるのも沖田さんに失礼だ。

 そんなことを思いながら、沖田さんの後をついて歩いたのだった。


 良順先生は沖田さんが行ったところにちゃんといた。

「どうした?」

 私たちの姿を見ると、良順先生は近づいてきた。

「ちょうど大坂にきたら咳が出たから、先生に診てもらおうと思って」

 沖田さんは笑顔でそう言った。

 笑顔でいえるようなことじゃないんだけどなぁ。

「どれ」

 良順先生の診察が始まった。

「安静にしていろと言ったのに、なんかしたな」

 診察が終わると、良順先生が一言そう言った。

 えっ、沖田さんは先生がいいって言ったって言ってたぞ。

 チラッと沖田さんを見ると、エへへという感じで笑っていた。

 エへへじゃないっ!

「なんで嘘ついたのですか?」

「だって、土方さんに捕まえて来いって言われたし」

 いや、それは沖田さんがそう言わせたんでしょうがっ!

「それに蒼良からもらった薬をもらってから、咳が止まっていたんだよ」

 あの薬の効果が少しはあったらしい。

 できれば、現代に連れて帰って治療させたい。

「そう、あの薬っ!」

 薬と言うところで、良順先生が反応した。

 え、なんだ?

「あれは君が持ってきたのか?」

 良順先生に聞かれた。

「えっ、いや、あれはお師匠様が……」

「沖田君に色々聞いたが、どこで手に入れたかわからないか?」

 まさか、未来から持ってきましたなんて言えないだろう。

「お師匠様からもらったので、私はよくわからないです」

 何かあった時のお師匠様だ。

「そうか、残念だな。労咳に効く薬らしいから、他の患者にも飲ませたかったがな」

 そうだよね。

 すみません、お師匠様が持ってきただけしかなかったので。

 って、もしかして、沖田さんが素直だったのは、薬のことを聞き出そうとしたからか?

「それと、もう一つ話がある」

 良順先生がそう言った。

 もう一つってなんだ?

「女の身で、なんで新選組にいるのかが知りたかった。しかも、周りの人間は気がついていないようだが」

 な、なんでばれてんだ?

 もしかして、脈か?

 そう言えば、山崎さんも脈を診てわかったとかって言っていたなぁ。

 ああ、あの健康診断の時に逃げていればよかったんだ。

「どうして、女の子の蒼良が新選組にいるのかなぁ」

 沖田さんもそう言ってきた。

 もしかして、ここに連れてきた目的ってそっちか?

 って、なんで沖田さんも知っているの?

「こ、これには、深い深い事情がありまして……」

 どうすればいいんだ?

「わかった。ただ、女の身だと何かと不便もあるだろう。何かあった時に診せにきなさい」

 良順先生の言葉がものすごく身に染みたし、ありがたいなぁと思った。

「ま、女でも男でも、蒼良は蒼良だからね」

 沖田さんも笑顔で言ってくれた。

「あの、この話はみんなに内緒でお願いします」

「わかってる」

 良順先生はそう言ってくれたけど、

「でも、ほとんど知っていると思うけどね」

 と、沖田さんは言った。

 そ、そうなのか?

「でも、内緒にしてあげるよ。蒼良がいなくなると寂しいからね」

 沖田さんもそう約束してくれたのだった。


 せっかく大坂に来たんだから、薬の町に寄っていくといいと良順先生に言われた。

 沖田さんは嫌がっていたけど、私が無理やり引っ張って連れて行った。

「僕は変な薬なんて買わないからね」

 沖田さんはそう言っていたけど、効きそうな薬があったら買うぞ、私はっ!

 薬の町と言われているのは、大坂の道修町どしょうまちというところで、幕府がここで薬の検査をして、全国に売る特権を与えたから、薬の町と言われているらしい。

 労咳に効く薬がこの時代にないのはわかっていたので、ほとんどながめているだけだった。

 そこに神社があったので、お参りをした。

 この神社は、少彦名神社すくなひこなじんじゃと言って、やっぱり薬の神様をまつっているらしい。

 もちろん、病気治癒の祈祷もあるらしい。

 と言う事で、さっそく沖田さんとお参りをした。

「いいよ、別に」

 と、沖田さんは言ったけど、

「薬が無いんだから、神頼みしかないですよ」

 と私が言って、無理やりお参りをしたのだった。


「久々の外出は楽しかったなぁ」

 沖田さんが帰りにそうつぶやいた。

「でも、安静にしていろって言われてたんじゃないですかっ!」

 すっかりだまされたぞ。

「たまにはいいじゃん。屯所の中にじいっとしているのも飽きるよ」

 確かに、飽きるよね。

「蒼良が報告しに来るのだけが楽しみなんだから」

 それだけが楽しみっていうのもなんかかわいそうだなぁ。

「たまには、出かけようよ。こもっているのもよくないと思うよ」

 そうだよね。

 あそこにこもりっきりっていうのもね……って、危うくだまされるところだったぞ。

「労咳の治療は安静のみですよっ! 長生きしたいなら、安静にしてください」

「僕は、別に長生きしたいとは思わないけどね」

 そ、それは困るっ!

「一番隊の皆さんは、沖田さんが復帰してくるのを待っているのですよ。一番隊を治めるのは沖田さんしかいないのです。だから、長生きしてもらわないと困りますっ!」

「でも、蒼良が今は治めているからいいじゃん」

 私と沖田さんとでは違うだろう。

 沖田さんと言えば、新選組の中で一番強いと思う。

 そんな沖田さんが率いるのが一番隊なのだ。

 だから、私じゃだめなのだ。

「沖田さんじゃないとだめなんですっ!」

「わかったよ」

 沖田さんは、ポンポンと私の頭を軽くたたくようになでた。

「蒼良がそう言ってくれるなら、ちゃんと治療して長生きするよ」

「約束ですよっ!」

 できる約束かどうかわからない。

 けど、沖田さんは私が絶対に死なせないからねっ!

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