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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年7月
205/506

慶応元年の七夕

「おまさが結婚するらしいぞ」

 土方さんがそう言ってきた。

「誰ですか? おまささんって。まさか、土方さんの……」

 ドキドキしながら聞いてしまった。

「俺じゃねぇっ! 左之だよ」

「えっ、原田さん?」

 そう言えば、私たちが江戸から帰って来た時に、原田さんが結婚するかもしれないという話になってなかったか?

 しかも、歴史では結婚することになっていた。

 でも、原田さんはなぜか結婚しなかった。

 その、結婚する相手がおまささんじゃなかったか?

 その歴史は別に変えなくてもよかったのに、なぜか変わってしまった。

「これでよかったのですかね」

「よかったんじゃねぇのか? 俺は知らんが、左之が良ければいいんだろうよ」

 ま、そうなんだけど。

 原田さんって、確か結婚して子供が生まれるんだよな。

 生まれる子供が生まれなくなるってことはいいことなのかなぁ。

 でも、おまささんが別な人と結婚すれば、その人と子供が生まれるから同じなのかな。

 原田さんも、結婚をやめたってことは、思うところがあったのだろうから、これでいいのかな。

「巡察に行ってきます」

 そろそろ巡察に行く時間だ。

「ああ、行って来い」

 土方さんに見送られて、巡察に出た。


 今日は、原田さんと巡察だった。

 噂をすればなんとやらってやつだ。

蒼良そらどうした?」

 原田さんと巡察中、いつもの通り私の顔に何か出ていたのだろう。

 原田さんにそう聞かれた。

「あ、い、いや、な、何でもないですよ」

「何かあったな。なにがあった」

 ごまかせなかった。

「あ、あのですね。おまささんが結婚するそうです」

「ああ、聞いた」

 なんだ、知っていたのか。

「原田さん、いいのですか?」

「なにがだ?」

「おまささんが他の人と結婚しても」

「蒼良、何言ってんだ。俺の相手はおまさじゃないってわかったんだ。結婚はできないよ」

 そうなんだ。

「それに、おまさは俺なんかと一緒になるより、他の男と一緒になった方が幸せだろう」

 いや、それはないと思うけど。

「そんなことないですよ。原田さんと結婚したら、原田さんは優しいから、また別な幸せがあったと思いますよ」

「そうか。なら蒼良、俺と結婚するか?」

 えっ?

「い、いや、私は結婚なんて早いですよ。まだ20歳だし」

「もう20歳だろう。普通なら結婚して子供もいるぞ」

 この時代はそうなんだろうけど、現代だと、20歳で子供がいるって早い結婚になる。

「でも、私にはまだ早いです」

「蒼良は、いつ結婚するつもりでいるんだ?」

 いつと言われても……

「30歳までに……あ、でも、30過ぎてもいいかな」

 私がそう言ったら、

「あ、蒼良、それはいくらなんでも遅すぎるだろう」

 と、原田さんが驚いていた。

 私の時代では遅い方に入らないのですよ。

「あ、原田さん、もう7月ですね」

 話をそらすために別な話題を提供した。

「おい、今日は何日だ?」

 何日だと言われると、確か……

「6日ですかね」

「七夕だぞ」

 あっ!七夕だ。

 まだ暑いとはいえ、気候的には秋に入るところだ。

 そんな時期に七夕なんて変な感じだ。

「今年は、閏月があったから、すっかり忘れてた。昨年もやってなかったよな、七夕」

 昨年は、禁門の変があったのから忙しくて忘れていたと思う。

「今年はできそうですね」

 私が言ったら、

「さっそく、笹を探しに行くぞ」

 と、原田さんがはりきって言った。

 そして、私たちは笹を探しに行った。


「えっ、とるのですか?」

 原田さんと一緒に来たところは、笹が植えてある所だった。

 小さい丘のようになっていて、そこに竹が生えていた。

 すぐ近くには民家もある。

「とる以外何があるんだ?」

「買うとか……」

 笹は買うよなぁ。

 現代ではお店に売っていたから。

「売っているわけないだろう。蒼良は面白いことを言うなぁ」

「でも、ここって人の土地じゃないですか?」

 大丈夫か?勝手にとって。

「笹がたくさん生えているから、他の人も持って行っているだろう。大丈夫だ」

 そ、そうなのか?本当に大丈夫か?

 原田さんは笹を切りはじめた。

 大きな笹を切り、それを持ち上げた時、

「なにしとるんやっ!」

 という声が聞こえてきた。

 やっぱり、とったらいけなかったんじゃないのか?

「蒼良、逃げるぞ」

 な、何だと?

「俺がこっち持つから、蒼良はそっち持って」

 原田さんと、笹の両端をもった。

「よし、逃げるぞ」

 やっぱりとったらだめだったのか?

「原田さん」

 不安そうな私の声を聴いた原田さんは、

「大丈夫だ。捕まらなければな」

 と言って笹を引っ張って逃げた。

 私もつられるように逃げた。


 屯所に帰る途中、いいことを考え付いて、壬生に少し寄ってから屯所に帰った。

 原田さんと飾りを作っていると、にぎやかな子供たちの声が聞こえた。

 それで沖田さんを呼びに行った。

 沖田さんは、屯所に来ていた子供たちを見て戸惑っていた。

「蒼良なの? 子供たち呼んできたの」

 沖田さんに聞かれた。

「そうですよ」

「蒼良、僕の病気を知っているでしょう?」

「でも、両親がその病気の子だっているでしょう? それでも子供は両親と一緒にいるじゃないですか」

「僕は親じゃないんだよ」

「少しだけです。少しなら大丈夫ですよ」

 少しぐらいなら、大丈夫だろう。

 子供が好きな沖田さんが、屯所にこもっているのはきっと寂しいだろう。

 だから、壬生に寄って七夕やるからおいでと、子供たちに声をかけたのだ。

「総司兄ちゃんだっ!」

 子供たちが沖田さんの姿を見ると、喜んでそう言った。

「ほら、総司もこっち来て飾りをつくれ」

 原田さんに言われ、仕方ないなぁという顔をして、沖田さんが私たちのところに来た。

「仕方ないなぁ」

 そう言った沖田さんの顔が笑顔だった。


 みんなで願い事を書くことになった。

 この時代の七夕の願い事は、芸事関係の願い事を書くらしい。

 例えば、字がうまくなりますようにとか、剣がうまくなりますようにとかという感じだろう。

 子供たちも真剣な顔をして書いている。

「土方さんは、俳句がうまくなりますようにだね。代わりに書いといてあげようかな」

 沖田さんがそう言って書きはじめた。

「誰が俳句がうまくなりますようにだと?」

 土方さんの声が聞こえたような……

 顔をあげると、土方さんが座っている沖田さんを見下ろしていた。

 さすが、地獄耳。

「お前、俺の俳句を見たのかっ?」

 そうだよ、沖田さんは見たことあるのか?

「そう言えば、土方さんたちが江戸に言っていた時に、総司が部屋に入って何か探していたが……」

「左之さん、シイッ!」

 沖田さんが自分の人差し指を自分の口にあて、原田さんに向かって笑顔でそう言った。

「シイッ! じゃねぇだろう」

 土方さん、怒っているぞ。

「僕は、土方さんがいない間、お掃除してあげようと思って入ったのですよ」

 絶対に嘘だ。

 俳句を探していたのにきまってる。

「ところで、中山道の山道はどうなったの?」

 な、なんでそれを沖田さんが知っているんだ?

 もちろん、土方さんが私をにらんできた。

「お前、なんか言ったか?」

 えっ、わ、私なのか?

「私は何も言っていないですよ」

「この話を知っているのは、お前しかいねぇだろう」

 詳しく言うと、私が松尾芭蕉の奥の細道のように、江戸から京に帰るときに、旅のことを俳句にまとめたらどうだ?と提案したのだ。

 その句集の名前が中山道の山道なんだけど。

 もちろん、即却下されたけど。

「ああ、俺。俺が総司に教えたんだ」

 えっ、原田さんが?

「京に帰って来た時に、蒼良が言っていただろう。中山道の山道がどうのこうのって」

 そ、そうだったか?

「結局、お前じゃないか」

 土方さんににらまれる。

 えっ、私のせいなのか?

「蒼良は、まったく」

 なぜか沖田さんにも責められる。

 ええっ!私が悪いのかっ?


 笹は、飾りをつけたら屋根の上にのせて飾った。

 よその家も七夕をやっているらしく、たくさんある屋根の上は笹飾りでいっぱいになっていた。

「すごいですね」

 屋根の上からその様子をながめて私は声をあげていた。

「七夕になれば、どこもそうだろう。蒼良は、面白いなぁ」

 原田さんに言われた。

 そうなのか?現代ではこんな光景はないぞ。

「こんな景色見たの、初めてです」

「え、そうなのか?」

「あ、屋根の上から見たのが初めてです」

 確かに、屋根の上から見たのは初めてだもん。

 前回の七夕は、屋根の上に上がらなかったし、こんな街中ではなく、壬生だったから、屋根に上がっても遠くに笹飾りが見えただけだっただろう。

 しばらく屋根でこの風景を見ていたのだった。

「七夕は、夜中にやるからな」

 原田さんにそう言われた。

 そ、そうなのか?

「知らなかったのか? 天の川も見えるし、織姫と彦星も見えるからな。前も壬生にいた時に一緒に見ただろう」

 そうだった。

 この時代だから、ものすごく綺麗に見えた。

「わかりました。夜中ですね」

 よし、今回も星を見るぞ。


 夜中に起きて外に出ると、すでに原田さんがいた。

「お、来たな。星が綺麗だぞ」

 原田さんに言われて空を見た。

 綺麗な天の川が見えた。

 この星空が現代では見れない。

 この時代だから見れるんだ。

「感動して声も出ないようだな」

 原田さんの声が聞こえた。

「本当に綺麗です」

「綺麗だな。ちょっと横になって見るか? そのまま首を上にあげてたら痛くなるぞ」

 確かに。

 屯所の大きい縁側で寝転んでも見れたので、縁側に寝転んでみた。

 みんな寝ているせいか、中からは寝息しか聞こえてこなかった。

「蒼良は、星を見るときは目が輝いているな」

「だって、こんな綺麗な星空、見たことないですから」

「そうか? いつも夜になると星が出てるだろう」

 まさか、私がいた未来では夜も明るいから星が見えませんなんて言えないので、

「あまり意識して星を見たことが無いので」

 と言ってごまかした。

「確かに、意識して見ないよな、星」

 しばらく無言で原田さんと星を見ていた。

「蒼良と星が見れてよかった」

 最後に原田さんのその一言が聞こえた。

 なんで最後だったかというと、なんと、気がついたら朝になっていたのだった。

「お前ら、どこで寝てんだ?」

 目が覚めたら、他の隊士たちと永倉さんがのぞきこんでいたのだった。


「いつの間に寝ちゃったんだろう?」

 笹飾りを原田さんと持ちながら歩いた。

「俺も、気がついたら寝ていたよ。昨日の昼間巡察したから、疲れてたんだろう」

 そうだよね、きっと。

「でも、目が覚めたら新八がいたって、目覚めが悪いなぁ」

 原田さんが笑いながら言った。

 笹飾りを原田さんと持って歩いているけど、これからこれを川に流す。

 これで七夕の行事が終わる。

 現代では川に流すのはいけないけど、この時代、飾りも全部紙だから、川に流しても自然に消えてしまう。

「よし、着いたぞ。ここでいいか」

 原田さんがそう言って、笹をおろした。

 川を見ると、他の人たちも流しているみたいで、たくさんの笹が流れていた。

「流すぞ」

 原田さんの一言で、笹を川の中に入れた。

 笹はすうっと海に向かって流れて行ったのだった。

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