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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年7月
204/506

大坂での警護

 大坂での警護の仕事が始まった。

 この日は橋の上を警護していた。

「なんの警護なんですかね」

 私は、一緒に警護していた斎藤さんに聞いた。

「知らん」

 斎藤さんも知らないのね。

 土方さんに言われてこうやって警護をしているのだけど、そもそも誰を警護しているんだろう?

 もしかして、誰をじゃなく、大坂の治安を守るための警護かなぁ。

 家茂公も大坂城にいることだし、きっとそうだよね。

 そうなると話が合う。

 それにしても……

「斎藤さんは、何も知らないで警護をしているのですか?」

「それは、お前も一緒だろう」

 た、確かに。

「俺は、土方さんに言われたから、こうやって仕事をしているだけだ」

 私もそれは同じだけどさぁ。

「もうちょっと情報がほしいですよね。何のために警護するとか」

「それを知っても、俺たちがする仕事は同じだろう」

 た、確かに。

 そう言われてしまうと、もう何も言えない。

 そんなやり取りをしているとき、警護をしている橋の上がにぎやかになった。

「何かあったようですよ」

 斎藤さんに言うと、斎藤さんはうなずいてからにぎやかになっている方へ行った。


 そこでは、うちの隊士と、どこかの藩の人が言い合いをしていた。

 相手は浪人ではないと言う事は雰囲気でわかった。

 浪人にしてはきちんとした身なりをしている。

 どこかの藩に仕えている人だろう。

 刀も二本さしているから武士と言う事は間違いない。

 どこの藩の人なんだろう?

 言い合いをしているところに近づくと、どけのどかないのと言い合いしているから、道の譲り合いで喧嘩をしているのか?

「どうしたのですか?」

 他の隊士に事情を聴いた。

 その話によると、警護中に刀をさしている人間が通ったので、どこのだれか聞こうとしたら、相手が

「なんでお前らに名乗らなければならないっ! そこをどけろっ!」

 となったらしい。

 大体こういう騒ぎになった時は、相手が大きな態度に出た時だよなぁ。

 そんなことをのんきに思っていると、言い合いしていた相手が刀を出してきた。

「どけないなら、力ずくでどかすぞっ!」

 私たちも刀を出した。

 それから刀を出しての斬り合いになった。

「斎藤さん、捕縛しますか?」

「できらば捕縛したいが、この状態じゃ無理だろう。斬るしかない」

 人を斬るのって久しぶりだなぁと思いながら、目の前にいた人を斬った。

 それから刀を持って走り、二人目を斬った時に、それはおこった。

蒼良そらっ!」

 土方さん同様、普段名前なんて呼ばない斎藤さんが、珍しく私の名前を呼んだ。

 なんだろう?と思って振り向くと、刀を振り上げた人がいた。

 よけようと思ったけど、間に合いそうにない。

 時間が止まったかのように、私は動きが止まってしまった。

 斬られるっ!そう思った。

 目を閉じて、斬られた時の痛みに耐える準備をしていた。

 しかし、その痛みはなかなかおそってこなかった。

 恐る恐る目を開けると、あたしと刀をかまえていた人の間に斎藤さんがはいっていた。

 斎藤さんが相手をすでに斬っていた。

 安心したら力が抜けて、へなへなと座り込んでしまった。

 地面に足が全部着く前に、斎藤さんが私を後ろから抱きかかえた。

「大丈夫か?」

 斎藤さんに聞かれた。

「すみません」

 私は謝りながら斎藤さんを見た。

 右の腕の部分の着物が、血で赤くなっていた。

「斎藤さん、怪我していますよ」

 斎藤さんは、怪我した部分をちらっと見たけど、

「かすり傷だから、たいしたことはない」

 そう言って、他の隊士のところへ行った。

 騒動はもう収まっていた。

 私は、自分のせいで斎藤さんがけがしてしまったことがショックだった。


 橋の上から降りて、川を見ていた。

 警護の仕事はもう終わっていた。

 今回の騒動以外は何事もなく無事に終わった。

 斎藤さんも、自分の着物を破って傷口をきつく縛るという応急処置をしたら、すぐに警護の戻って行った。

「どうした? 元気がないな」

 斎藤さんが、私の近くに来ていた。

「警護も終わったし、帰るぞ」

「斎藤さん、せめてお医者さんに行きましょう」

 命にかかわる怪我ではなさそうだけど、心配だ。

「かすり傷だと言っただろう」

「でも、血が出てますよ」

「もう止まった」

 斎藤さんは袖をめくり、傷を縛っていた着物の切れ端を取った。

 斎藤さんの言う通り、血は固まって止まっていた。

「すみません。私のせいで怪我させてしまって」

 なんで、後ろの気配に気がつかなかったのだろう。

 いつもなら気がついているのに、どうして?

 今回は斎藤さんがいてくれたから、私は怪我せずにすんだ。

 でも、斎藤さんが怪我してしまった。

 たいした怪我じゃなかったからよかったけど、運が悪ければ、命に係わる怪我をしていたかもしれない。

「お前のせいではない。俺の剣の腕が足りなかったから、こうなったんだ」

 いや、斎藤さんの剣の腕は、新選組でも上位に入ると思うけど。

「お前は悪くない。もう自分を責めるな」

 そう言って、斎藤さんは私の背中をポンポンと軽くたたいてきた。

「行くぞ」

 斎藤さんにそう言われ、宿に帰った。

 

 それから、京の屯所に帰ってきた。

 なんであの時、後ろの気配に気がつかなかったんだろう?

 それが悔しいやら、情けないやらで、屯所で暇さえあれば、道場で竹刀を振り回していた。

「やたらと竹刀を振り回せばいいってもんじゃないだろう」

 急に竹刀が振り下ろされなくなったと思ったら、斎藤さんが竹刀の先っぽを握っていた。

「今は、竹刀を握っていないと、気が済まないのです」

 斎藤さんが斬られたのは、私がいたらなかったからだ。

 そう思うと、強くなりたいと思い、竹刀を握りたくなってしまう。

「相手をしてやる」

 斎藤さんはそう言うと、他の竹刀を持ってきて私の前に立った。

 斎藤さんは、左利きなので、こうやって向かい合わせに立つと、変な感じがする。

 斎藤さんが向ってきたから、あわてて竹刀を打ち返すも、打ち返されて竹刀を飛ばされる。

「俺を相手に油断するとは、余裕だな」

 斎藤さんはニヤリと笑った。

 全然余裕じゃないからね。

「もう一本、お願いします」

 しばらく斎藤さんが相手をしてくれた。

 私が斎藤さんに勝つと言う事はなかった。


「どうすれば強くなれるんですか?」

 私は息を切らせながら聞いた。

「さあな」

 そう言った斎藤さんは、全然息が切れてなかった。

「ただ言えることは、さっきみたいにやみくもに竹刀を振り回していたら、強くなれないな」

 それはわかっている。

 私だって剣道をやっている。

 お師匠様に頼まれて、道場に来る子供たちに指導もする。

 だから、やけになって竹刀を振り回しても強くならないと言う事はわかっている。

 でも、竹刀を握らずにいられなかった。

 足を引っ張らないように、強くなりたい。

「竹刀をよこせ。しまってくる」

 斎藤さんが疲れて座り込んでいる私に手を出してきた。

 その手に竹刀を置いた。

「しばらく、竹刀に触るな。今の気持ちのままさわったって、なんの意味もない」

 斎藤さんは、そう言い残して、道場から去っていった。


「なんだ、お前は。道場で竹刀を振り回していたと思ったら、今度は全く道場にも行かなくなって、ゴロゴロしてんのか?」

 部屋でゴロゴロしていたら、土方さんに言われた。

「だって、やることが無くなっちゃったのですよ」

 斎藤さんに、竹刀に触るなと言われちゃったし。

 自分でも、こんな気持ちのまま竹刀をさわっても八つ当たりのようにしかならないって、わかってる。

 だから、竹刀に触らないのもいいかもしれないと思って、斎藤さんの言う事を聞いて大人しく部屋でゴロゴロしていたのだけど……。

「暇だ……」

 そう、暇なのだ。

 今までこんなに暇なことってなかったと思うけど。

「暇なら、俺の仕事手伝え」

 土方さんにそう言われた。

「書き物がいっぱいあるんだ」

「えっ、書き物ですか?」

 書き物は苦手なんだけどなぁ。

「隊士全員の名前を書きだせ」

「何に使うのですか?」

「井上松五郎さんに送る」

 井上松五郎さんとは、源さんのお兄さんにあたる。

 この人も、新選組スポンサーの一人だ。

「全員の名前は覚えているかわからないですよ」

「一番隊ならわかんだろう?」

 そりゃわかりますが。

「一番隊から書いていけ」

 土方さんに仕事を与えられ、しぶしぶと筆で名前を書いた。

「書けましたよ」

 数時間後に土方さんにそう言った。

「遅い」

 一言そう言われてしまった。

 仕事を頼んだのはあんただろうがっ!ありがとうぐらい言ってもらいたいわ。

 土方さんは、無言で私が書いた物を見た。

「お前に頼んだ俺がばかだった」

 そりゃ、どういう意味だっ!

「こんな読めないものを人に送れねぇや」

 私から見たら、土方さんの字も読めませんからね。

「もういいぞ」

 そう言われたから、またゴロゴロしたら、にらまれた。

「何ですか?」

「目ざわりだ」

 そ、そうなのか?

「でも、私の部屋でもあるので、我慢してください」

 そう言ったら、土方さんから殺気を感じた。

 それで、思い出した。

「あっ!」

 思わず、土方さんを指さしてしまった。

「なにがあっ! だっ!」

 さっきよりも強くなった殺気。

「殺気を感じなかったのですよ」

 そう、大坂の警護の時に橋の上で斬り合いになった時、後ろから殺気を感じなかったのだ。

 だから、気がつかなかったんだ。

 なんで殺気を感じなかったんだろう?

「考えてるところ悪いがな、俺はお前に付き合っている暇はねぇんだ」

 あれ?土方さんの殺気がさらに強くなっているのは気のせいか?

「しばらく外に出てろっ!」

 そこで口答えをすると、斬られそうだったので、素直に外に出た。


 外に出てもやることはない。

 しかも、まだ夏の日差しが照り付けてきて暑い。

 はあっとため息をつくと、後ろから人の気配がした。

「暇か?」

 そう聞いてきたのは、斎藤さんだった。

「暇ですよ。すごい暇です。ものすごく暇です。何ですか? なんか用ですか?」

 そう聞いてきた私に、斎藤さんは少しいやな顔をした。

 ちょっとしつこかったか?

「付き合え」

 そう言って斎藤さんが歩き始めたので、後をついて行った。


 着いたところは、甘味処だった。

 夏と言えばくず切りだろうと思い、くず切りを頼んだ。

「どうしたのですか? 急に甘いものが食べたくなったとか」

 斎藤さんも疲れているんだろうなぁと思いながら言ってみた。

「この前の斬り合いになった奴について、気になったから調べた」

「なにを気になったのですか?」

「お前の後ろにいたやつの気配がなかったからな。気になったのだ」

 斎藤さんのその言葉を聞いて驚いた。

「斎藤さんも感じなかったのですか?」

「感じていたら、かすり傷も受けてなかった」

 斎藤さんが斬られた傷は本当に浅かったみたいで、もう治っていた。

「あいつはどこの藩かわからなかったが、そう言う仕事をしていたらしい」

「そう言う仕事とは何ですか?」

「お前、本当に知らんのか?」

 知らないから聞いているんだろう。

「藩主に頼まれて、秘密に相手を処理する仕事だ」

 簡単に言うと……

「殺し屋ってやつですか?」

「なんだ、知っているのか。そう言う事だ」

 そうだったのか。

 プロを相手に戦ったと言う事だな。

「だから、お前は何も悪くないと言う事だ。気配を感じなかったみたいだが、それは当たり前のことだったんだ。お前の剣の腕が落ちたわけじゃない」

 斎藤さんは、きっぱりとそう言ってくれた。

 そうだよね。

 相手が気配を消していたんだから。

「だから、安心しろ」

 最後にそう一言言うと、斎藤さんもくず切りを食べ始めた。

 もしかして、それを言うために甘味処に誘ってくれたのかな。

「ありがとうございます」

 私がお礼を言うと、

「礼はいらんから、早く食え」

 と、耳を赤くして言っていた。

 斎藤さん、照れてる。

 思わず顔が笑ってしまった。

 その笑いを斎藤さんに見られないように、下を向いてくず切りを食べたのだった。

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