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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年6月
202/506

江戸から来た隊士たち

 一番隊の隊士を引き連れて、斎藤さんと巡察をしていた。

「総司は、まだ夏負けしているのか?」

 歩きながら斎藤さんが聞いてきた。

 沖田さんは、表向きは夏バテをしてバテているという事になっている。

 まだ労咳だと言う事は言わない方がいいらしい。

 そのうち症状がひどくなればいやでもばれてしまうと思うのだけど。

「はい。今年の夏も暑いですから」

 京の夏は本当に暑い。

 今日も一番隊の二人が夏バテて隊務を欠席している。

 太陽を見ると、夏の日差しが目に差し込んできてまぶしい。

「毎年、夏になるたびに夏負けしていると、隊務に差しさわりが出るな」

 斎藤さんが夏の日差しに目を細めながら言った。

「昨年も、沖田さんは夏負けしてましたっけ?」

「していただろう。池田屋の直後に」

 あれ?

「池田屋って、昨年でしたっけ?」

 元号が変わったせいなのか、事件がたくさんありすぎたせいなのか、なんかだいぶ前の出来事に思ってしまう。

「昨年だ」

 やっぱり、昨年だったらしい。

「すみません。元号がしょっちゅう変わるから、わけがわからなくなっちゃって」

「元号なんて、しょっちゅう変わっているだろう」

 斎藤さんにそう言われてしまった。

「変わりすぎですよ」

 私が来て3年たつけど3回変わったからね。

 毎年変わっているってやつか。

「これが普通だと思うが。面白いことを言うな」

「斎藤さんはこれが普通なんでしょうけど、私はなじめないです。時代が変わったような感じがして、元号が変わるたびに自分が年取って行くような感じしますよ」

「年は毎年とっているだろう。元号が変わったぐらいでそう感じる方がおかしい」

 そうなんだけど、私はやっぱりなじめないです。

 元号を変える方も忙しいだろうに。

「おい」

 突然、斎藤さんに肩を突っつかれた。

「あれはお前の隊の奴じゃないか?」

 ん?一番隊の人?

「一番隊なら、私の後ろにいますが」

「いや、あいつらもそうだろ?」

 そう言われて、斎藤さんが指さす方向を見ると、確かに、一番隊の人が二人いた。

 しかも、夏負けして体がだるいから休ませてほしいと言ってきた人たちだ。

「なんでここにいるんでしょうか? お医者さんにでも行くんじゃないですか?」

「それは俺が聞きたい。なんであそこで遊んでんだ?」

 ん?遊んでる?

「お医者さんに行くんじゃなくてですか?」

「どう見ても、賭博場から出てきたところだろう」

 とばくじょうとは、コップのようなものにさいころを二つ入れて、半か丁かってやるやつだろう。

 よく、ドラマで着物を着てなぜか肩を出している色っぽい女の人が、さいころとコップを持って、

「半か丁か?」

 なんてやっている奴だよね、きっと。

「あれ? 夏負けして体の具合が悪いから、隊務を休ませてくれと聞いたのですが。元気になったのですかね?」

「どう見ても違うだろう。お前、それでよく総司の補佐が出来るな」

 沖田さんの補佐は、何とかできていると思うけど……。

 斎藤さんは、速足で歩き始めた。

「あいつらを捕まえて、事の真相を聞けばいいだろう。医者に行ったのか、それとももともとここに来る予定だったのか」

 それもそうだな。

 仮病だったのか、それとも本当に具合が悪かったのか聞きたい。

 私も、斎藤さんの後をついて行った。


「で、結局、仮病だったと言う事なんだ」

 沖田さんの部屋で沖田さんが笑顔でそう言った。

 あれから、斎藤さんと二人を捕まえた。

「仮病か、本当に具合が悪かったのか、正直に言え」

 と、斎藤さんは刀に手をかけて言った。

「正直に言わないと、どうなるかわかっているな」

 二人をにらみつけた斎藤さん。

 にらまれた方も、これは逃げられないと腹をくくったのか、正直に仮病ですと小さい声で言った。

 それから屯所に帰り、二人をどうするか、沖田さんの指示を聞こうと思い、二人を連れて沖田さんの部屋に行ったのだった。

「笑いごとじゃないですよ、沖田さん」

「いや、僕は笑ってないけどね」

 あ、あの目が笑っていない笑顔だ。

 この顔、怖いんだよなぁ。

「さて、二人にはお仕置きをしないとね。隊の規則で決まっているから」

「そんな規則がありましたか?」

「僕が今作った」

 やっぱりそうなのね。

「で、どんなお仕置きですか?」

「切腹」

 沖田さんは、目の笑っていないまんべんの笑顔でそう言った。

「ええっ、切腹っ!」

 隊務をさぼった二人と声をそろえて言った。

「沖田さん、それはいくらなんでも厳しすぎませんか?」

 隊務をさぼっただけで切腹って、新選組はどんだけ厳しい組織んなんだって話になる。

「冗談だよ」

 じ、冗談だったのかっ!

「でも、お仕置きはしないとね。蒼良、一番隊を全員道場に集合させて。この二人も道場に連れて行ってね」

「わかりました」

 道場で何をやるんだろう。


 一番隊を道場に集合させた後、沖田さんを呼びに行った。

「みんな揃ったんだ。じゃあ、お仕置きをやるか」

「お仕置きって、何をやるんですか?」

 すごく気になるのですが。

「あの二人、この前土方さんが江戸で募集した時に来た隊士だよね」

 そういえば、そうだったなぁ。

「江戸から出てきて初めての京だし、そろそろ緊張感が抜ける時期だからね。気合を入れさせないとね」

 どうやって気合を入れさせるんだろう。

 沖田さんと道場に着いた。

 一番隊の隊士たちは、全員緊張した感じで待っていた。

 特に、隊務をさぼって捕まえた二人は、恐怖で顔が固まっていた。

「これから、この二人をお仕置きするから、みんなも見るように」

 そう言って、沖田さんは竹刀を持った。

「蒼良、この二人にも竹刀を持たせて」

「わかりました」

 私は竹刀を二本持ってきて、二人に渡した。

「二人には、僕の稽古の相手をしてもらうから。一人ずつ行くよ。最初はどっち?」

 沖田さんがそう言うと、二人はお互い方を突っつき合っていた。

「じゃあ、そっちから」

 沖田さんは二人のうちの一人に竹刀を向けてそう言った。

「ひいっ!」

 向かれらた人は、そう悲鳴を上げていた。

「さ、早く竹刀をかまえて向こうに立つ!」

 言われた人は、ササッと沖田さんの向かい側に立って竹刀をかまえた。

 その竹刀がふるえている様に見えるのは、気のせいか?

「行きますよっ!」

 沖田さんも竹刀をかまえた。

 さっきまでの笑顔は消えていた。

「蒼良、合図をお願い」

 沖田さんにそう言われたので、

「はじめっ!」

 と私が言うと、沖田さんがササッと圧倒的な速さで相手に近づき、パンッ!とお腹をついた。

 必殺、三段突きだ

 音と見た感じは1回だけ突いているように見えるけど、実はものすごい速さで3回突いている。

 だから、最初の1回目を運よく避けれても、次の2回目は突かれてしまう。

 しかも、その突きの強さもすごい。

 相手が道場の端まで突き飛ばされるぐらいだ。

 もちろん、今回の相手は3回ともそれぞれの場所を突かれたみたいで、最後は道場の端に飛ばされて気絶していた。

 これが刀だったら、相手はとっくに死んでいただろう。

「次っ!」

 最初の人が突かれたのを見ていたので、次の人はガタガタとふるえていた。

「もうしませんから、勘弁してください」

 ガタガタとふるえながらそう言った。

「でも、もうしてしまったことでしょう。それに対してお仕置きをしないとね。蒼良、そいつを向こう側に立たせて」

 沖田さんは、人使いが荒いなぁと思いつつ、私は相手を立たせる。

「勘弁してくれ」

「そう言うのなら、最初から仮病なんて使わなければよかったのですよ。覚悟を決めて、お仕置きされてきてくださいっ!」

 私はそう言いながら、相手を立たせた。

 そして、沖田さんが本日二回目の三段突きを披露したのだった。

 もちろん、二回目も相手は気絶してしまった。

「最近、みんなたるんでいる。特に、江戸から来たばかりの隊士っ! こうなりたくなければ、みんなきちんと隊務をこなしてください」

 沖田さんは一言そう言って去っていった。

 見せしめのために一番隊をみんな集めたのか。

 それなら、その見せしめは大成功だろう。

 沖田さんが去った後も、みんな息をのんでしばらく座っていたのだった。


 夕方になり、涼みに外に出た。

 ブラブラと歩いていると、山崎さんがいた。

 お仕事中なのかな。

 以前、山崎さんと街中であって、声をかけたら土方さんに怒られたと言う事があった。

 実は、山崎さんは監察の仕事中で捜査中だったのだ。

 今回も声をかけて捜査の邪魔をしてしまったら、いけないよね。

 でも、仕事中じゃなければ、声をかけずにすれ違うのって、失礼だよね。

 どうすればいいんだろう?

「蒼良さん、そんなに見つめられても困るのですが……」

 山崎さんにそう言われてしまった。

 そんなに見つめていたか?

「山崎さんも涼みに来たのですか?」

 話しかけてきたから、仕事中じゃないよね。

「いや、仕事中です」

 仕事中だったのかっ!

「実は、この家の中に隊士がいるのです。それをどう捕まえようか考えていたところだったのです」

「この家の中にですか?」

 山崎さんはコクンとうなずいた。

 その家は、暑いのに雨戸を閉めてあった。

「留守じゃないのですか?」

 暑いのに雨戸を閉めているんだから、人なんでいないだろう。

 そう思っていた。

「こんなに暑いのに、雨戸を閉めている方がおかしいのです」

 確かに。

「何をしているんですか? この中で」

「どうも、密通をしているようです」

 えっ、密通?

「すみません、密通って何ですか?」

 私が聞いたら、山崎さんがえっ?という顔をした。


 山崎さんから聞いた話によると、この家には旦那さんがいる奥さんがいるようで、どうもその旦那さんがいない時を狙って、うちの隊士が遊びに来ているらしい。

「副長に調べて捕まえて来いと言われたので」

「遊んでいるなら、そのままにしておいたらいいと思うのですが」

「どうも、隊務をさぼって遊んでいるようなので」

 そ、そうなのか?それってもしかして……

「もしかして、その隊士って、この前江戸で募集してきた隊士とか……」

「蒼良さん、よくわかりましたね」

 やっぱりそうなのねっ!江戸から来て初めての京の夏で、緊張感が抜けているのか?

「こう雨戸を閉められると、一人で捕まえる自信がないので、確実な方法を取ります」

 確実な方法って?

「蒼良さん、申し訳ないのですが、玄関の戸を叩いてもらえませんか? もちろん、新選組の名前を出して」

「それだけでいいのですか?」

「後は、私が雨戸の前で待ちかまえています。悪いことをしている人間は、逃げますからね。私の考えに間違いが無ければ、雨戸を開けて飛び出してくるでしょう」

 なるほど。

「わかりました」

 私は、山崎さんに言われたとおり、

「新選組ですっ! 開けてくださいっ!」

 と言いながら、戸をバンバンたたいた。

 すると、雨戸が開く音がし、中から人が飛び出してきたらしく、山崎さんが待ちかまえていたほうがにぎやかになった。

 私もお手伝いに行こうと思い、山崎さんの方に行くと、すでに山崎さんが捕まえた後だった。

 しかも、二人も。

「えっ、二人っ?」

 二人の隊士がここの中にいたのか。

 家の中からは、雨戸をしめ切っていたせいか、生暖かい空気が流れ込んできた。


「切腹だっ!」

 土方さんが一言そう言った。

「最近、江戸から来た隊士の緊張感が無くなっているから、見せしめるのもいいだろう」

 沖田さんも同じようなことを言っていたような気がするが……。

「でも、奥さんのいる人と遊んではいけないという隊の規則がないですよ」

 もしかして、土方さんも今作ったなんて言わないよね。

「士道に背きまじきことっていうのがあるだろう。それに背いたから切腹だっ!」

「二人捕まえましたが、二人共ですか?」

「当たり前だっ! みんなの前で切腹させる。特に、江戸から募集してきた隊士は必ず見させるからな」

 というわけで、二人の切腹は決まったのだった。


「へえっ、二人でいたんだ」

 この話を沖田さんに報告しに行ったら、沖田さんは楽しそうにそう言った。

「これで少しは江戸から来た隊士たちも働いてくれればいいけどね」

「働いてもらわないと困りますよ」

 仮病使ってさぼったりされたら困るよ。

「これで、うちの一番隊の隊士が隊務をこなさなかったら、切腹できるね」

 いや、沖田さん、そんなことを嬉しそうに言わないでください。

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