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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年6月
201/506

沖田さんのお願い

 沖田さんのお願いって何だろう?

 あれから数日がたったけど、特にお願いらしいお願いってない。

 人使いが荒いのは相変わらずだけど……。

「お前、総司と何か約束したか?」

 土方さんに突然聞かれた。

「な、なんで知っているのですか?」

 なんか言っていたのか?

「総司が、そろそろ蒼良そらにお願いを聞いてもらわないとって、言っていたぞ」

 そ、そうなのか?

「そのお願いの内容は、何か言ってましたか?」

「いや、それは言ってなかったなぁ。なんか約束でもしたのか?」

 土方さんに聞かれたので、今までのいきさつを全部話した。

「お前、命知らずなことを……」

 そ、そうなのかっ?

「総司のお願いを聞くって、それは約束してはいけねぇことだ」

 そうだったのかっ!

「お前も付き合いが長いんだから、わかるだろう」

 土方さんほど長くもないとと思うけど。

 でも、確かに沖田さんのお願いを何でも聞くって、ある意味怖い約束だよなぁ。

 沖田さん、どんなお願いしてくるのか全然想像がつかないんだもん。

 原田さんとか藤堂さんとかなら、手加減してくれそうだけど、沖田さんの場合はそんなことなさそうだもんなぁ。

「お前の無事を祈っているぞ」

 私の両肩に、ポンッと土方さんの両手がのった。

「そ、そんな大げさな。だ、大丈夫ですよ」

 大丈夫……だと思います。

「いくら沖田さんでも、そんな命がけなことは頼んでこないですよ」

 ええ、たぶん、大丈夫でしょう。

「わかんねぇぞ」

 や、やっぱりそうなのか?

「お前の百面相も面白いなぁ」

 土方さんが、私の顔をまじまじと見てそう言った。

 も、もしかして……

「からかってますか?」

 今、思いっきりからかわれているような感じがしたんだけど、気のせいか?

「いや、別にからかってはない」

 そう言った土方さんの肩が、笑いをこらえているようにプルプルとふるえているのは気のせいか?

「笑いをこらえているように見えるのは気のせいですか?」

 声も震えているような感じがするが……。

「プッ! べ、別に俺は普通だ」

 最初のプッ!はなんだっ!プッ!はっ!

「笑ってもいいですよ」

 ぼそっと私が言ったら、

「すまねぇ」

 と言って、クックックと笑い出した。

 やっぱり我慢していたじゃないかっ!

 ふんっ!笑いたければ、笑えばいいさっ!

「笑うつもりはなかったが、悪かったな」

 ポンポンと、土方さんが私の頭を優しくたたいてきた。

「いいですよ。笑ってください」

 いじけてそう言ってみた。

「そういじけるな。総司が何か変なお願いしてきたら、俺に言え」

 えっ、いいんですか?

 驚いて土方さんの顔を見上げた。

「お前を総司のおもちゃにさせるつもりはねぇ」

 そ、そうなのか?よかった。

「俺のおもちゃならいいがな」

 結局、私はどっちに行ってもおもちゃかいっ!

「お前ぐらい面白い奴もいねぇからな」

 それよく言われるけど、そんなに私は面白いか?

「総司も待っているから行って来い」

 沖田さん、待っているのか?

 待っているとか、そう言う話はしていなかったよなぁ。

「いまなら機嫌よさそうだったから、無理なお願いはしてこねぇだろう。お前からお願いってなんだ? って聞いてさっさとすまして来い」

 そうなのか?それならさっさとすましてしまおう。


「沖田さん、失礼します」

 そろぉっと襖を開けてみた。

 沖田さんは、襖に背中を向けて座っていた。

 本当に機嫌がいいのかなぁ。

 そろぉっと中に入った。

「あ、蒼良? 今、すごい機嫌が悪いんだよね」

 えっ、土方さんは機嫌がいいって言っていたぞ。

 話が違うじゃないかっ!

「機嫌悪いなら、また今度でいいですよ」

 出直した方がいい。

 出直しついでに土方さんに文句言ってやろう。

「なにが今度なの? すごい気になるんだけど」

 本当に機嫌が悪いんだろう。

 すごい怖い顔でにらみつけてきた。

 こ、怖いんですがっ!

「えっ、き、機嫌がお悪いようなので……」

 そろぉっと後ろに下がり、後ろ手で襖を開けようとした。

「蒼良、今逃げようとしたでしょう?」

「えっ、いや、そ、そんなことはないですよっ!」

 後ろ手で開けようとした襖から手を引いた。

「蒼良は、何か用があったから来たんでしょ? 何の用?」

 そ、そんな怖い顔で聞かれたら、お願いなんて聞けないじゃないかっ!

「いや、特に用はないですよ。具合はどうなのかなぁと様子を見に……」

「ああっ! どいつもこいつもっ!」

 そう言いながら沖田さんは急に立ち上がった。

 き、急にびっくりするじゃないかっ!

 本気で斬られるかと思ったぞっ!

 それにしても、いったいなにがあってここまで機嫌が悪いんだ?

 これは、お願いを聞くより、機嫌を治す方が先だな。

「あ、あのですね。ここで怒っていても何も解決しないので、気晴らしに外に出ませんか? 暑いですが……」

 現代に直すと、今の時期は8月だ。

 夏真っ盛りで暑い。

 けど、部屋の中でイライラしていても、余計暑くなってイライラしてしまうだろう。

「蒼良の言う通りだね。ここで怒っても仕方ないね」

 おおっ、わかってくれたか。

「ここより涼しいところがいいなぁ。連れて行ってよ」

「わ、わかりました」

 これが、沖田さんの言ったお願いだったらいいんだけどなぁ。

 絶対これじゃないよな。

 そんなことを思いながら、沖田さんと外に出た。


「ほら、足をひたすと冷たくて気持ちいいですよ」

 私の足は、川の中に入っていた。

 涼しいところと言われ、現代ならエアコンが入っている建物がたくさん思いつくのだけど、この時代はエアコンなんてものはない。

 扇風機すらないんだもん。

 思いついたのは、水のそばって涼しいよなぁと言う事で、屯所近くを流れている川辺に行った。

 この時代は川が綺麗で足を入れるのも全然抵抗がない。

 川の中が透けて見えるぐらい綺麗って、見ているだけでも涼しくなる。

 足を川の中に入れて、川辺に座って足をパチャパチャとばたつかせてみる。

「本当だ、気持ちよさそうだね」

 沖田さんも、はかまをまくって足を入れてきた。

「でしょう? 気持ちいいですよね」

 沖田さんの機嫌も治ったのかな?顔に笑顔が戻ってきた。

「これだけじゃあ足りないなぁ」

 沖田さんがそう一言言うと立ち上がって、バチャバチャと川の中に入って行った。

 な、何をするんだ?

「昨年の今頃は、壬生の子供たちと川遊びしていたんだよなぁ」

 悲しい顔でそう言った沖田さんは、私の方を見るとニヤッと笑った。

 な、何を考えているんだ?その笑いは、絶対によろしくない考えをしている。

 構えていると、両手を大きく広げた沖田さんは、思いっきり私に水をかけてきた。

 そ、そう来たかっ!

 私も負けないぞっ!

 私も立ち上がって、沖田さんに水をかけた。

 沖田さんも負けずにかけてくる。

 しばらく二人で水のかけ合いをしていた。

 水にぬれても寒くないぐらい暑かった。

 だから夢中で二人で水をかけていた。

「これ、意外と面白いね」

 沖田さんが水をかけながら言った。

「楽しいですね」

 なんか、子供に戻ったみたいに楽しかった。

 子供の時はよくこうして遊んでいたんだよね。

 夢中で水をかけ合っているうちに、ほどよく疲労感が出てきた。

 沖田さんもそうみたいで、水をかける勢いが少し弱まった。

「はぁ。楽しかった」

 そう言った沖田さんの顔が、さっきと全然変わって生き生きとしていた。

 機嫌も治ってみたいでよかった。

「蒼良」

 沖田さんが手を振って呼んできたので、沖田さんに方に行った。

「何ですか?」

 私がそう言うと、ポンッと沖田さんは両手で私の両肩を押してきた。

 当然、私は川の中へひっくり返った。

 と、突然なんなのっ!って思う間もなく、頭から川の中へひっくり返った私。

 何がおきたのかわからず、でも、どこか頭の中が冷静だったのか、バタバタ暴れずに、しばらく川の流れと一緒に泳いでから立ち上がった。

「お、沖田さんっ! な、何をするんですかっ!」

 水をしたたらせながら、私は沖田さんに言った。

「蒼良、泳げるの?」

「泳げますよっ!」

 今はそんな話をしているんじゃないだろうがっ!

「すごいなぁ。僕は泳いだことないよ。漁師か何かだったの? あ、海女さんか?」

「違いますよっ! 体育の授業でやったのですよっ!」

 それだけじゃ泳げなかったから、夏になるとお師匠様と市営プールに行っていたような気がする。

「えっ、たいいくのじゅぎょう? なにそれ」

 あ、怒りのあまりに口を滑らせてしまった。

「そんなことはどうでもいいですよっ! なんで押したのですかっ!」

 なんか私に恨みでもあるのか?

 すると、沖田さんがスッと自分の着物を脱いで私にかぶせた。

「見えてるよ」

 沖田さんのその一言で、自分の着物を見た。

 着物がぬれているから、透けて見えてる。

 さらしで胸のあたりをグルグルとまいてある自分の体がっ!

 かぶせてもらった沖田さんの着物を胸の前で合わせた。

「今日は晴れてるし、そこらへんで横になっていれば着物も乾くよ」

 沖田さんの言う通り、いい天気で暑いから、すぐ乾くよね。

「ちょっと上がってます」

 私はそう言って川から出た。

「うん、いいよ。ゆっくりしてなよ」

 沖田さんはそう言ってくれた。

 っていうか、あんたのせいだからねっ!


「蒼良? 蒼良ったら」

 沖田さんの声がして、体が揺さぶられた。

 ん?

「あまりここで寝ていると、干物になるよ」

 えっ、干物?それは困る。

 私は飛び起きた。

「気持ちよさそうに寝ていたね」

 ね、寝ていたのか?

 かなり寝ていたみたいで、川に来た時はお日様が上の方にあったのに、今は夕方になっていて、下の方にある。

 でも、おかげですっきりしたかな。

「沖田さん、着物ありがとうございました」

 着物、借りっぱなしだった。

「あ、いいよ。僕が川に蒼良を倒しちゃったんだし」

 そ、そうだよっ!そうだったよっ!

「なんであんなことをしたのですか?」

 しかも、突然っ!なんか私悪いことでもしたか?

「ちょっと確かめてみたかったんだ」

 な、何をだ?私を倒して何がわかるんだっ!

「でも、わかったからいいよ」

 何がわかったんだっ!

「これがわかったところで、蒼良が蒼良であることは変わりないんだよね」

「なにがわかったんですか?」

「内緒」

 なんだ、そりゃっ!そんなんで納得できるかっ!

「さ、帰ろう」

 沖田さんはなぜか一人で納得して歩き出した。

 私も、納得できないまま沖田さんの後ろについて行った。

「僕は、蒼良が蒼良であればいい。それがわかったよ」

 私はいっこうに分からんが。

 そう言えば……

「沖田さんのお願い事って何ですか? ほら、この前約束したじゃないですか。お願いを聞くって」

 最初はそのお願いを聞くために部屋に行ったんだよなぁ。

「あ、いいよ」

 えっ、いいのか?

「僕のお願いは、かなったようなものだし」

 かなったのか?いつの間に?

「蒼良が川に落ちた時にね」

 うーん、ますますわからん。

「だから、もういいよ」

「えっ、いいんですか? 私、まだ何もしていませんよ」

「したからいいよ。川に落ちたでしょ」

 確かに、沖田さんに押されて川にひっくりかえったけど。

「僕のせいでそうなったから、これで帳消しでいいよ」

 あ、そう言う事か。

 それならなんか納得できる。

 今日の私はそれだけの仕事をしたんだ。

「わかりました」

 沖田さんのお願いを聞いたと言う事で、なんかホッとしたのだった。


「お前、ずいぶん顔が赤いぞ。さては、飲んだか?」

 えっ?そんなに赤いか?

 鏡を見てみると、本当だ、赤い。

 日に焼けたんだ。

「お酒飲んでないですよ。日に焼けたのです」

 日焼け止めなんてないし、ああ、シミとか気になるのですが。

「なにしてんだか。昼間からいい身分だな」

「沖田さんが機嫌悪かったから、川に涼みに行ったのです。そう言えば、誰かは機嫌がいいとかって言ってましたよね」

 確か、土方さんがそう言っていたと思ったけど。

「機嫌悪かったか?」

 土方さんが聞き返してきた。

「かなり悪かったですよ」

「そりゃ悪かったな」

 土方さんはそう言うと、陶器の瓶を出してきた。

「ヘチマの液だ。効き目があるかわからんが、塗ってみろ」

 ヘチマの液は確か美容液になると聞いたことがある。

「あ、ありがとうございます」

 なんでヘチマの液を土方さんが持っていたのだろう?

 あ、もしかして……

「土方さんがこれを使う予定でしたか?」

 土方さん、かなりの美男子だからきっとこれでケアとかしていたのかな。

「ばかやろう。俺は女かっ!」

 やっぱり、使わないか。

 と言う事は……

「誰かへの贈り物とか?」

 自分で言っていて、胸がズキッとなった。

「それなら私が使うのは悪いですよね」

 陶磁器の瓶を土方さんに返した。

「いや、お前が使え。お前に買ってきたのだから」

 えっ?

「私にですか?」

 思わず信じられなくて聞き返してしまった。

「表向きは男装して、男になっているが、お前は女だからな。こういうものも使いたいだろう」

 そこまで考えてくれたのか。

「あ、ありがとうございます」

「おう」

 土方さんは、陶磁器の瓶を私に出してきた。

 私も遠慮なくいただいた。

 そこまで考えてくれたんだぁと思うと、なんか嬉しくなった。

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