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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年6月
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祇園祭

 土方さんに大坂から帰ってきた報告をし、明日から隊務に復帰するようにと言われた。

 今日一日は休めと言う事だな。

 大坂から帰ってきて、京の夏の暑さを身にしみて感じていた。

 やっぱり京は大坂より暑いわ。

 沖田さんのことが心配だったので、沖田さんの部屋に行くことにした。

 しかし、途中で藤堂さんに会った。

「あ、蒼良そら!」

 藤堂さんは私の顔を見ると、驚いて大きな声で私の名前を呼んでいた。

 私も、突然のことだったので、びっくりした。

「な、何ですか?」

「大坂から帰ってきたのだね。よかった」

「今帰ってきて、土方さんに報告してきたところです」

「うん、何とか間に合いそうだ。行こうっ!」

 突然、藤堂さんが私の手を引っ張って外に行こうとした。

「どこに行くのですか?」

 もしかして、伊東さんの勉強会か?それは前に断ったと思ったが。

 それとも、また新たなる宗教でも作ったのか?

 あ、伊東さんは宗教を作ってなかったか。

 じゃあなんだ?

「約束したじゃないか」

 藤堂さんが私の手を引っ張りながらそう言った。

 約束?したか?

「もしかして、忘れてる?」

 藤堂さんは突然止まって、私の顔を見て聞いてきた。

 私は、コクンとうなずいた。

 何の約束をしたんだ?

「祇園祭の宵山に行くって約束したじゃん」

 あっ!思い出した。

 したよ、した。

「ああっ! すみません、忘れてました」

 大坂での生活ですっかり忘れていた。

 あ、でも……

「宵山、もう終わっているのでは?」

 祇園祭はまだやっているけど、祇園祭の最大の見せ場である宵山は終わってしまったと思うのだけど。

「宵山は終わっちゃったよ」

 藤堂さんは残念そうに言った。

 あ、やっぱり終わっちゃったか。

 見たかったなぁ。

「でも、後の祭りがまだ残っているから」

 おお、それがあった。

 以前原田さんと見に行ったことがある。

 宵山より山鉾やまぼこの数が少ないと聞いたことがある。

 それでも、祇園祭を十分楽しめるものだ。

「すみません。宵山に行けなくて」

 仕事で行けなかったとはいえ、私のせいで行けなかったのは確かなので、謝った。

「いいよ。実は左之さんと宵山を見に行ったのだけど、山鉾が無かったんだ」

 ええっ!あれが見ものなのに。

「何でなかったのですか?」

「昨年の禁門の変で山鉾も焼失してしまったらしいよ」

 そうなんだ。

 大きな火事になったもんなぁ。

「でも、後の祭りで2つか3つぐらい山鉾が出ると聞いたから、蒼良が帰ってくるのを待っていたんだ」

 よかった、何とかお祭りに間に合うように帰ってこれて。

「さ、行こう」

 再び藤堂さんが私の手を引いて外に出た。

 

 八坂神社に着いた。

 原田さんと見た時と同様に出店がたくさん出ていてにぎやかだった。

 山鉾が焼失したって聞いたけど、その話が嘘のようなにぎやかさだった。

 間もなく山鉾がやってきた。

 原田さんと見た時は7つか8つぐらいあったけど、3つぐらいしかなかった。

 禁門の変で燃え残ったものなのだろう。

 山鉾は大規模なもので10トンぐらいの重さがあって、高さも8メートル以上はある。

 飾りも凝っているので、復活させるのも大変だろう。

「祇園祭って、これで終わっちゃうのかな」

 数が少ない山鉾を見て、藤堂さんが心配そうにそう言った。

「終わらないですよ」

 現代でも祇園祭はちゃんとある。

「本当に?」

「私の時代でも、祇園祭はあります。今とはまた違う形になっていると思うのですが」

「思うのですがって?」

 そこを突っ込んできたか。

「実は、ここにきて初めて祇園祭を見たので」

「えっ、そうなの?」

 藤堂さんは驚いていた。

 自分の時代に帰ったら、改めて祇園祭を見たいなぁと思ったいたところだ。

「私も、蒼良の時代の祇園祭が見てみたい」

 藤堂さんは、通り過ぎていく山鉾を見ながらそう言った。

「その時は、一緒に行きましょう」

 一緒に行けるときは、新選組も助けることが出来て、私も無事に帰れた時だろう。

 無事にみんなで帰れますように。

 そう言う願いを込めて言ってみた。

「わかった、約束だよ」

 藤堂さんは私が教えた指きりをしてきた。

「今度は忘れないでね」

 わかりました、忘れないようにします。

 自信ないなぁ。


 山鉾を見た後は、出店を回った。

 かき氷とかそう言うで店はないけど、現代ではないような出店もあって、面白かった。

「鈴虫が売ってますよ」

「普通に売っているよ」

 そう言えば、原田さんと見に行った時も売っていたなぁ。

「だって、生き物ですよ」

 売る方だって大変だろう。

「蒼良の時代には出店に鈴虫はないの?」

「ないですよ」

「どこで買うの? 鈴虫。もしかして、いないとか……」

 いや、普通にいますから。

「ホームセンターかな」

「えっ、ほおむせんたぁ?」

 わからないですよね。

「鈴虫買っていいですか?」

 お土産に買って帰ろう。

「いいよ。金魚もいるけど」

「ええっ、金魚もいるのですか?」

 この時代からあったんだ、金魚すくい。

 藤堂さんに案内してもらった。

 ちゃんと金魚すくいがあった。

 そんなに現代と変わりなかった。

「もしかして、蒼良の時代には金魚がいないとか……」

 いや、普通にいますから。

 金魚すくいもありますからっ!

「スーパーボールすくいはありませんね」

 さすがにこの時代にはなさそうだ。

 藤堂さんも

「えっ?」

 と言っていた。

「金魚すくいやる?」

「いや、屯所に金魚連れて帰ったら、きっと次の日には死んでますよ」

「確かにそうかもね。衛生状態は良くなっているけど、乱暴な人が多いからね」

 それは鈴虫も同じかもしれないけど、鈴虫は以前飼った時かなり長生きしていたから、大丈夫だろう。

「やっぱり鈴虫にします」

 私は鈴虫の出店に行って、鈴虫を買った。

 それからガマの油を見つけた。

「これは、売るときの口上を聞いて楽しむんですよね」

 これぐらい、私も知っているわよっ!という気持ちも込めてそう言ってみた。

「あ、知ってたんだ。蒼良のことだから、本気にして大量に買うかと思ってた」

 初めて見た時は確かに大量に買おうと思いましたよ。

「もしかして、ガマの油売りも蒼良の時代にいるの?」

 いるのか?いないのか?

「お、お師匠様なら知っていると思います」

 困った時のお師匠様だ。

「今度聞いてみるよ」

 藤堂さんが楽しそうにそう言った。


「蒼良と祇園祭に行けてよかったよ。大坂からなかなか帰ってこないから、行けるか心配になっていたんだ」

 そうだったんだぁ。

 それなのに、私ったらすっかり忘れてて。

 悪いことしちゃったなぁ。

「あ、大坂で鈴木三樹三郎さんに会ったでしょう?」

 藤堂さんに聞かれた。

 鈴木三樹三郎さんは、伊東さんの実弟だ。

 だから、藤堂さんも知っているのだろう。

「会いました。でも、あまり話さなかったですよ」

 普段からあまり話したことないのだけど。

 あ、藤堂さんなら知っているのかなぁ。

「藤堂さん、知りたいことがあるのですが」

「えっ、なに?」

 藤堂さんは私の方を見て聞き返してくれた。

「伊東さんと鈴木さんの名前って、なんで長いのですか?」

「えっ?」

 ずうっと知りたかったのよね。

「知りたいことって、それ?」

 そう言われて私はうなずいた。

「それは、本人に聞いてみないとねぇ」

 やっぱりそうだよねぇ。

「藤堂さん、私の代わりに聞いてくださいよ」

「えっ、私が?」

 うんとうなずく私。

「蒼良が聞きなよ。案外仲良くなれるかもよ」

 いや、それはないな。

 やっぱり、藤堂さんも知らないのか。

 あの名前の長さの理由は。

 

 屯所に帰ると、

「総司が探してたぞ」

 と、土方さんに言われた。

 あっ!私、帰ってきたことを沖田さんに報告するのを忘れてたっ!

「機嫌悪そうでした?」

「いや、にこやかだったぞ」

 そ、それは逆に怖いかも。

「にこやかに怒っているとか……」

「そんなこと知るかっ。とにかく、探してたぞ」

 沖田さんに会うの、怖いなぁ。

「土方さんも一緒にどうですか?」

「いや、遠慮する。俺は忙しいんだっ!」

 そんなっ!

「遠慮しなくてもいいですよ」

「じゃあ、行かねぇ」

 あっさりとと言われたのだった。


 そろっと襖を開ける。

 沖田さんも気配を感じたみたいだけど、私に背中を向けたままだった。

「あの……」

 声をかけたけど、背中を向けたままだ。

「蒼良はどこ行ったのかなぁ。まさか、組長に帰ってきたことを報告しないままどこかに出かけたわけじゃないよね」

 出かけてましたから。

「まだか、お祭りなんかに行ってないよね。今日は後の祭りがあったみたいだけど」

 思いっきりお祭りに行ってましたから。

「どこに行っちゃったのかなぁ。帰ってきたら、お仕置きだな」

 お仕置きって、何するつもりなんだっ!

「あの……沖田さん?」

「あ、蒼良、おかえり」

 やっと振り向いてくれた。

 まんべんの笑顔でそう言って迎えてくれたけど、その笑顔がなんか怖かった。

 目が笑ってないのですがっ!

「す、すみません。報告忘れてて」

「えっ、忘れてた?」

 ああ、またその笑顔っ!怖いよ。

「大丈夫だよ。蒼良だって忘れるときはあるよね。忘れて平助とお祭りに行っちゃうこともあるよね」

 はたで聞いていると、なんていい上司なんだと思うかもしれないけど、目が笑ってない笑顔って怖いからねっ!

「怒ってますか?」

「怒ってないよ」

 いや、怒ってるだろう。

「鈴虫買ってきたので、許してください」

「だから、怒ってないから」

「沖田さん、そんなこと言ってて怒ってますよ。目が笑ってないですからね」

「あ、ばれた? 怒ってるよ。で、お仕置きしないとね」

「お仕置きって……」

「規則では組長に報告をしなかった人間は……」

 ち、ちょっと待て。

「その規則って、いつできたのですか?」

「今僕が作った」

 そ、そんなっ!

「鈴虫あげますから許してくださいよ。ほら、リンって鳴くのですよ。暑い夜でも、この鳴き声を聞いたら涼しくなりますから」

「鈴虫だけじゃあねぇ」

 他に何を出せっていうんだ?

「じゃあ、どうしろというのですか?」

「一つだけ、僕の言うこと聞いてくれる?」

「今ですか?」

「今じゃなくて、今度でいいよ」

 それで済むならいいか。

「いいですよ」

 私がそう言ったら、やっと目も笑ってくれた。

「後の祭りはどうだった?」

 機嫌も治ったみたいで、そう聞いてきた。

「昨年の禁門の変で山鉾が焼けちゃったみたいで、山鉾の数が少なかったです」

「そうなんだ」

「沖田さんは、具合はどうですか?」

「蒼良は、すぐにそれを聞くね」

 だって、心配なんだもん。

「お医者さんが診察に来てくれて、言う通りに療養しているよ。元気なんだけどね」

 療養してくれているなら、よかった。

「そう言えば、蒼良が前に毒薬くれたでしょ?」

 毒薬じゃないですから。

「それを飲んでから調子がいいと言ったら、良順先生がその薬を見せろって言っていたけど」

 そ、そうなのか?

「でも、沖田さんにみんな飲ませちゃってないですよ」

「えっ、そうなの? 良順先生に色と形を教えたら、すごい見たがっていて、蒼良が帰ってきたらぜひ話ししたいって言っていたけど」

 ど、どうしよう。

 この時代の物じゃないから、ごまかさなければっ!

 どうごまかそうか?

 一番いいのは会わなければいいのか?

「今日良順先生に会って、蒼良が帰ってきたことを教えといたよ」

 なんて余計なことを。

 何とかごまかすことを考えなければっ!

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