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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年閏5月
194/506

伏見稲荷大社

 良順先生が診察に来た次の日から、南部先生というお医者さんが毎日診察に来てくれた。

 今の隊は、それぐらい衛生状態も悪く、健康状態の悪い隊士が多かった。

 なんせ、バカがひく夏風邪をひいている隊士が多いんだから、いったい新選組って……。

 そして、家茂公が大坂城に入ることになり、藤ノ森というところまで警護することになった。

「総司の代わりに、お前が一番隊を率いて警護しろ」

 土方さんにそう言われた。

「総司はなるべく休ませてぇからな」

 それってすごい重大な任務だよなぁ。

「わかりました」

「総司には言ってないから、お前から言っといてくれ」

 ええっ!なんで私が言うんだ?

「普通は、副長である土方さんが言うのだと思うのですが」

「俺は忙しいんだ。明日出発だからな、色々と準備があるんだ」

「沖田さんに文句言われるのが嫌だからでしょう」

「そんなことはない」

「沖田さんがすねると手におえないから」

「そうなんだよなぁ。あいつ、なんであんなにすねんだ?」

 やっぱりそうだったのか?

「すねるというか、やりたいのに、病気のせいでできないから悔しいんだと思いますよ」

「なるほどなぁ。お前はそんな総司の心を理解してると言う事だな」

 いや、それほどでもないですが。

 そう言われてちょっといい気持ちになっていると、

「じゃあ、頼んだぞ」

 と言われてしまった。

 ち、ちょっとっ!それはどう考えても土方さんの仕事だと思いますよっ!

 そう言いたかったけど、土方さんは忙しそうに去っていった。

 逃げられたっ!


「沖田さん、いますか?」

 そろぉっと襖をあけた。

 沖田さんはいなかった。

 なんだ、いないよ。

 沖田さんがいなかったので、報告できませんでしたって、言いに行こう。

 回れ右して歩き出したとたん、ドンッとぶつかった。

蒼良そら、僕の部屋になんか用?」

 い、いたっ!どこにいたんだ?

 いなかったことにして、報告に行こう。

 しかし、私が右に行くと沖田さんも私と同じ方向に移動をし、私が左に行くと沖田さんも同じ方向に移動をした。

「沖田さん、邪魔してます?」

「蒼良、僕に用があったのでしょう?」

「あったけど、なかったことに」

 そう言いながらさっと右に行くと、やっぱり沖田さんに邪魔された。

「そう言われると余計気になる」

 沖田さんはそう言うと、私をひょいっと抱き上げた。

「ち、ちょっと沖田さんっ! 何をするのですかっ!」

 足をバタバタさせたけど、

「蒼良は軽いねぇ」

 と言いながら沖田さんの部屋に入れられてしまった。

「で、何?」

 部屋の中でおろされ、改めて聞かれた。

「何って、何ですか?」

「用があったんでしょ」

 本当は、土方さんの仕事なのに。

「あのですね、明日家茂公の警護のために藤ノ森というところまで行くことになりました」

「あ、そう。明日なら準備しないとね。何も準備することないけどね」

 なんか、余計言いにくい状態になってきたぞ。

「そ、それでですね、土方さんが私に一番隊を率いて警護しろと言われました」

「へぇ、そうなんだ」

 何事もないように沖田さんが言ったけど、沖田さんの背後になんか変なオーラを感じるのは気のせいか?

「じゃあ僕は三番隊を率いて行こうかなぁ」

 いや、それは無理だと思いますよ。

「いっそのこと十一番隊なんて作ろうかな」

 いや、無理だろう。

「蒼良に一番隊とられちゃったしなぁ」

 やっぱりすねてるよ。

「あ、あのですね、私は別に一番隊とってないですからね」

「でも、明日率いて警護すんでしょ」

「明日は警護しますけど、一番隊の隊長は沖田さんですからね。私は補佐ですから」

「じゃあ、明日僕が警護するよ」

 それが無理だから、土方さんは私に頼んできたんだろう。

「沖田さんは療養してください」

「いやだ」

 な、なんでだっ!

「僕は元気だから大丈夫だよ。土方さんも蒼良も大げさなんだよ」

 いや、大げさじゃないからね。

 現に数年後には悪化しちゃうんだからね。

 少しでも悪化してほしくないのに。

「大げさじゃないですからね。療養とれるときにちゃんととっとかないと、大事な時に悪化して活躍できなくなっちゃいますよ」

「今だって、大事なときだと思うけど」

「もっと大事な時が来ますから。今よりもっともっと大事な時、その時に沖田さんに活躍してほしいから」

 明治維新が来るから。

 その時に沖田さんがいないと困るから。

「蒼良、泣かなくてもいいじゃん」

 えっ、泣いていたか?

 目をこすってみると、ぬれていた。

「泣いてませんよっ! 目から汗が出たんですっ!」

 感情的になって泣いてしまったのが悔しいから、そう言ったら、

「目から汗ねぇ。面白い言い方だね」

 と言って、沖田さんは笑っていた。

「わかったよ。今回は休んでおく。ちゃんと休んでおくから、蒼良、一番隊を頼むね。蒼良なら安心して任せられるから」

 沖田さんのその言葉を聞いて、また泣いてしまった。

 任せられるなんて言われちゃったよ。

「蒼良、また目から汗が出ているよ」

 沖田さんがそう言いながら、私の涙を手で拭いてくれた。

 沖田さんの手が私の頬にふれ、ドキッとした。

「一番隊は、責任もって率いてきますから。でも、沖田さんの一番隊ですからね」

「わかったよ。ついでにもう一つ蒼良に頼もうかなぁ」

「何ですか?」

「お土産買ってきてね」

 えっ、お土産?

 藤ノ森って有名な所なのか?お土産なんて売っているのか?

 そう思いながらも、コクンとうなずいてしまったのだった。


 無事に家茂公を藤ノ森まで警護した。

 藤ノ森は、伏見の近くらしい。

 警護が終わった後、周りを見渡してみたけど、お店が無かった。

 たまたま山崎さんが隣にいたので、

「ここらへんで有名な所ってありますか?」

 と聞いてしまった。

 有名な所なら、お土産も売っているだろう。

「えっ、突然どうしたのですか?」

 山崎さんに驚かれてしまった。

 そりゃ、突然そんな質問されると驚くよね。

「ないこともないですが……」

 えっ、あるのか?


 山崎さんに連れてこられたのは、伏見稲荷大社だった。

 千本鳥居という、たくさん鳥居があって鳥居の朱色の道になっているところを歩いた。

「すごい鳥居の量ですね」

「この鳥居は、みんな奉納されたものですよ」

 山崎さんは歩きながらそう言った。

「鳥居を奉納して、信仰の深さをあらわしているのですよ」

 そうなんだぁ。知らなかった。

「と言う事は、これだけたくさん信仰があるってことですね」

「ご利益もあるかもしれないですよ」

 それならせっかく来たのだから、沖田さんの病気治癒をお願いしよう。

 稲荷山という山全体が神社の敷地になっているので、神社全部を歩くと言う事が、山を登って降りることになる。

 その間にも鳥居がたくさんあった。

 本殿の近くに、石灯篭いしとうろうがあり、数人の人だかりができていた。

「あれ、何ですか?」

 気になって山崎さんに聞いた。

「おもかる石と言うのですよ」

 それって何なんだ?

 山崎さんの話によると、この石灯篭の前で願い事を念じて灯篭の頭にある石を持ち、それが軽く感じれば、願い事も軽くかない、重く感じれば、それだけ大変で難しいっていう石らしい。

 早速やってみることにした。

 最初に山崎さんがやった。

「どうですか?」

「軽いともいうけど、重い感じもする」

「それって、どうなんですか?」

「わからないってことかな」

 そ、そうなのか?そう言う事もあるのか?

「蒼良さんもやってみてください」

 山崎さんに言われ、私もやってみた。

 沖田さんの病気が重くなりませんように。

 石を持ってみたら……。

「お、重っ!」

 重くて持てなかった。

 ええっ!やっぱり重くなってしまうのか?

「蒼良さん、大丈夫ですか?」

 山崎さんが、心配そうに顔をのぞき込んできた。

 ええいっ!たかが占いのようなものじゃないかっ!当たらぬも八卦、当たるも八卦っ!未来は石が決めるんじゃないっ!

「大丈夫です。未来は石じゃなく、私が作るものですから。こんな石に左右されてたまるかっ! って感じです」

 そう言って笑ったら、山崎さんに、

「蒼良さんのその考え方が好きですよ」

 と優しい顔で言われてしまった。

 好きですよなんて言われたものだから、照れてしまった。

「そ、そうだ、お守りを買いましょうっ!」

 私がギクシャクと歩き始めると、山崎さんも笑いながらついてきてくれた。


 お守りも買い、伏見稲荷大社を後にして山崎さんと一緒に京へ向かった。

「蒼良さんは、何をお願いしたのですか?」

 沖田さんのことだけど、沖田さんの病気のことは、まだ隊の中では内緒になっていると思う。

「内緒です。願い事は言うとかなわなくなるのですよ」

 私はそう言ってごまかした。

「そう言う山崎さんは、何をお願いしたのですか?」

 私が聞くと、山崎さんはあははと笑いながら、

「言うとかなわなくなるでしょう? だから言いませんよ」

 と言われてしまった。

 そう言われると気になるなぁ。

「蒼良さんは面白いですね」

 私をじいっと見つめてきたと思ったら、いきなり山崎さんがそう言ってきた。

 な、何が面白いんだ?

「蒼良さんのおかげで今日は楽しい一日でした」

「いや、こちらこそ、山崎さんにいいところを教えていただいてよかったです」

「あそこでよかったのか心配だったから、そう言われるとホッとするよ」

 そうだったのか。

「すみません、急に変なことを言って。沖田さんからお土産買って来いと言われたから、お店が無くて困っていたのです。でも、お守りが買えたからよかったです」

「蒼良さん、そのお守りは、商売繁盛のお守りなのですが……」

 えっ、そうなのか?


 そもそも、稲荷大社って、商売の神様なんだよね。

 ああ、私としたことが。

 でも、お土産はお守りしかないから、沖田さんに警護の報告がてら渡した。

「蒼良、僕にはこのお守りが、商売繁盛と読めるけど、気のせいかな」

 いや、気のせいじゃないです。

「伏見稲荷大社に行ってきたので、お土産です」

 私は、笑顔で言った。

「でも、このお守りは……」

「気のせいですよ、気のせい」

 そうやってごまかしたけど、ごまかしきれないよね。

「蒼良は、僕に商売をしろと?」

「誰もそう言ってないですよ」

「いや、このお守りがそう言っている」

 いや、お守りも、商売繁盛と書いてあるだけだから。

「そうか、蒼良が一番隊の組長になるから、僕は京で商売して繁盛させろってことだね」

 なんでお守りひとつでそう言う解釈ができるんだっ!

「誰もそんなこと言ってないですよ」

「蒼良、ありがとう。お守り買ってきてくれて」

 沖田さんは笑顔でそう言ったけど、その笑顔がとっても怖かったのは、気のせいか?

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