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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年閏5月
193/506

良順先生の健康診断

 いよいよ家茂公が京に来る。

 膳所ぜぜでの妨害事件があったので、膳所には立ち寄らず、その代わりに大津に寄ったらしい。

 来る、来る、と聞いていたので、いつ来るんだろうと首を長くして待っていたのだ。

 これで少しは京が平和になって言くれるといいのだけど、それは無理そうだなぁ。

 家茂公が来たから、攘夷運動が余計に激しくなると言う事もありそうだ。

 私たち新選組は、三条蹴上という所から家茂公を警護することになった。

「膳所で妨害事件もあったから、京でも事件があるかもしれない。気を引き締めて警護をするように」

 と、近藤さんに言われ、三条蹴上という所へ出発した。

「やっと家茂公が来てくれますね」

 隣にいた原田さんに話しかけた。

蒼良そらは、京にいる幕府の人間みたいなことを言うのだな」

「原田さん、何言っているのですか。私たちだって、京にいる幕府の人間じゃないですか」

 私がそう言うと、原田さんは、

「何言ってんだ?」

と言った。

 えっ、なんか間違っていたか?

「俺たちは、幕府の人間じゃないぞ」

 えっ、そうなのか?

「正確に言うと、会津藩預かりになっているだけだ。でも、会津藩の人間でもない。預かりになっているだけだからな」

「じゃあ、私たちって……」

 いったい何なんだ?

「言うなら、たんなる個人組織だな」

 そ、そうだったのか。

「っていう事は、京の治安維持を守るための巡察とか、今回の警護とかって、もしかして全部ボランティアですか?」

「えっ、ぼ……何だって?」

 あ、ボランティアっていう単語はこの時代になかったか。

「無料奉仕ってやつですか?」

「そう言われて見りゃそうだな。誰からも金もらってないもんな。全部商人から借りてるしな」

「原田さん、借りるというのは、返すあてがある人が言う言葉ですよ」

「そう言われりゃあそうだな。じゃあなんで言うんだ?」

 なんて言うんだ?

「強奪?」

 私がそう言うと、後ろからボカッと頭に衝撃が走った。

「なにが強奪だっ! 親切な人からの寄付金だっ!」

 土方さんの声が後ろから聞こえてきた。

 話が全部聞こえていたのか?

「たまに、強奪のようなこともするがな」

 原田さんが土方さんに聞こえないようにそう言ってくれた。

「その金でお前も生活してんだぞっ! ありがたく思えっ!」

 地獄耳の土方さんが後ろで怒っていた。


 無事に家茂公を二条城まで送り届けた。

 任務が終わり、屯所に戻ると、お医者さんなのか?聴診器をして寝ている隊士を診察して歩いていた。

 もしかして、松本良順先生か?家茂公と一緒に上洛すると歴史ではなっていたし、その時に屯所に来るってなっていたから、きっとそうだ。

「良順先生、どうですか?」

 近藤さんが奥から出てきて良順先生に聞いていた。

 良順先生は難しい顔をしていた。

「病人はこれだけか? 健康な人間も診察した方がよさそうだな」

 良順先生は、聴診器を耳から外しながら言った。

「あれは誰だ?」

 原田さんに聞かれた。

「松本良順先生です。近藤さんが江戸に行ったときに具合悪くなって診てもらったことがあるのですよ」

「へぇ。で、耳になんか変なものを付けているが、あれはなんだ?」

 この時代は、聴診器がまだ一般的なものではなかったみたいだ。

「聴診器と言って、心臓の音とかを聞いて患者を診るのです」

「蒼良はそう言うことはよく知ってるな」

 それ、よく言われますよ。

「おい、お前たち。ちょうどいいところにいた。これから良順先生がみんなを診察してくださるらしいから、みんなを集めて来い」

 近藤さんにそう言われた。

「わかりました」

 私はみんなを集めに屯所の中を走った。


 良順先生は、大部屋に入って診察をしていた。

 布団も敷きっぱなしで、汚い部屋なんだけど、大丈夫だろうか。

「そこにいる奴」

 良順先生は、私を見てそう言った。

「私ですか?」

「そうだ。ここの管理者というか、責任者呼んでこい」

 管理者で責任者って、土方さんでいいのかな。

 私は土方さんを呼んできた。

「副長の土方です」

 土方さんはそう挨拶した。

 しかし、挨拶が終わるか終らないかのうちに、良順先生が話し始めた。

「まず、今のここの状態がどういう状態かわかるか?」

 良順先生が鋭い目つきで土方さんを見ていた。

「どういう状態というと……」

「一言でいうと、ほとんどが病人だ」

 えっ、そうなのか?

「風邪が一番多いな」

 良順先生がそう言った。

 風邪って、今は夏だから夏風邪か。

 夏風邪はバカがひくって言葉があるけど、それが本当だったら、うちの隊士のほとんどがバカってことか。

 いやいや、今はそんなこと考えるのはやめよう。

「次は、打ち身、打撲だ。これは新選組の役目を考えると仕方ないな」

 打ち身打撲なら、石田散薬があるから大丈夫そうだ。

 売るほど持っていたんだから、今も持っているだろう。

 たぶん……

「食あたりと、梅毒も多いぞ」

 食あたりって、そんなに食事が悪いのかなぁ。

 誰かひろい食いでもしてんじゃないのか?

 後、梅毒って……確かうつるんだよね。

「なにが言いたいかわかっているか?」

 良順先生は、土方さんをにらんで言った。

 にらまれた土方さんは、普通にしていた。

 にらまれていることに気が付かないのかな。

 気が付かないふりをしているのかな。

「何ですか?」

 土方さんは、何事もなかったかのように言った。

「こんだけ病気があって、隊の人間のほとんどが病人だ。このままだと、新選組は病人で消滅するぞ」

 いや、それは困るなぁ。

「病人を減らすにはどうすればいい?」

 土方さん、そこは敬語で聞きましょうよ。

「まず、大きな湯おけを用意して、隊士の体を清潔に保つこと。それと、病人は別室に隔離だ。後は、お前の横にいる奴をまだ診察してないから、診察させるように」

 ん?横にいる人間って……

「私ですか?」

 私が聞くと、

「そうだ。これで体を見るから、着物の上だけでいいから脱ぐように」

 良順先生は聴診器を出してきた。

「わかりました」

 私が着物を脱ごうとしたら、

「ちょっと待ったぁっ!」

 と、土方さんがすごい勢いで止めた。

「お前っ! 何考えてんだっ!」

 土方さんが小さい声で言ってきた。

「なにって、診察をしてもらうのですよ」

「お前、自分の性別を忘れているだろう。お前が着物を脱いだらどうなるんだっ! よぉく考えろっ!」

 あっ、忘れてた。

 私が着物を脱いだら、えらいこっちゃになるわ。

「良順先生、こいつは着物を脱げない。脱がないで診察は出来ねぇのか?」

 土方さんがそう言った。

「じゃあ脈を診る」

 良順先生がそう言ったので、私は手を出した。

 一瞬、良順先生がえっ?という顔をしたけど、何事もなかったかのように、私の腕を元に戻した。

「この隊士は、健康そのものだ」

 うん、よかった。

「用意するものは、大きい湯おけと病人を隔離する部屋だな。すぐ用意する。行くぞ」

 土方さんにそう言われたので、一緒に行った。


「俺は大きな湯おけを用意するから、お前は病人の部屋を用意しろ。ちゃんと掃除した綺麗な部屋だぞ」

 当たり前じゃないかっ。

「そう言えばお前、前に屯所を汚くしていると、お医者さんが来て怒られるみたいなことを言っていたが、この事を言っていたのか?」

 もちろん、この事だ。

「なんでこうなるって知ってたんだ?」

 えっ、そう言う質問をしてくるのか?

「あ、あのですね。近藤さんが江戸に行って体調を崩した時に、良順先生に診てもらって、その時に、近藤さんが京に来た時は屯所に寄ってくれって言っていたので」

「それでか」

 何とかごまかせたらしい。

 まさか、未来から来て、こうなることを知っていたなんて言えないよね。

 と言う事で、私は綺麗に掃除をして病人の部屋を用意した。


 病人を掃除した部屋に移してから、土方さんの所に行った。

 土方さんはすでに湯おけを用意し終わっていて、隊士が順番にその湯おけに入って体を洗っていた。

 さすがにその様子は見れないので、遠目で確認した。

 土方さんは、良順先生と話をしていた。

「病人を全員隔離しました」

 土方さんに報告すると、

「わかった」

 と、一言言った。

「こんなにすぐに全部用意してくるとは思わなかった」

 良順先生は嬉しそうに言った。

「他に何かあれば、すぐやるが」

「これは今すぐにじゃなくてもいいが、豚と鳥を飼育して、残飯をエサにするといい。豚と鳥は貴重な栄養分になるし、残飯をエサにすることで、衛生管理もできる」

「わかった。なるべく早くに用意しよう」

 土方さん、明日にでも用意しちゃいそうだよなぁ。

「それと、しばらくは私の代わりに南部精一郎という人間を送る」

「良順先生は来ないのですか?」

 私が聞いたら、

「わしは、一応家茂公の主治医だから色々と忙しいのだ」

 と言われてしまった。

 そうだった。将軍様の主治医だった。

「えっ、家茂公の主治医……」

 土方さんは初めて聞いたみたいで、固まっていた。

「それとだな、労咳が一人いるぞ」

 良順先生のその言葉で土方さんと顔を合わせてしまった。

「その様子だと、知っているみたいだな。本人にはまだ言っていない。でもこのままほっておくと、どうなるかわかっているな。すぐ療養をさせるように」

「一度総司と話した方がいいな」

 土方さんがそうつぶやいたのが聞こえた。


 沖田さんの部屋に行くと、沖田さんは暑いせいなのか、病気のせいなのかはわからないけど、だるそうな感じで畳の上で横になっていた。

「なんだ、二人そろってどうしたの?」

 沖田さんは起き上がりながらそう言った。

「どうしたのじゃねぇっ! さっき医者が診察しに来ただろう」

 土方さんは、ドカッと沖田さんの近くに座った。

「そう言えば来ましたね」

 そう言えばって、他人事だし。

「お前、診察してもらったんだろ」

「してもらいましたよ」

「それなら、俺が言いたいこと、わかるだろう」

 土方さんがそう言った後、沈黙が部屋の中を占めた。

「総司、養生しろ。今からでも江戸に帰って治して来い」

 ええっ、江戸に返すのか?

「土方さんたちとここにいます」

 沖田さんはきっぱりとそう言った。

「ちゃんと治してからまた来ればいいだろう」

「治るかわからないじゃないかっ!」

「養生すれば治る病だろうがっ!」

「蒼良っ! 蒼良からも何か言ってよ」

 沖田さんが話を私にふってきた。

 えっ、私?

「そうだ、お前からも一言言ってやれっ!」

 土方さんまで私にふってきたよ。

「蒼良っ!」

「おいっ!」

 なんで二人で一緒にふってくるかなぁ。

「あ、あのですね……」

 私が話し始めると、二人とも私をじいっと見てきた。

 そんな真剣に見ないでよっ!

「今から江戸に帰るのも、体力を使いますからね。特に夏で暑いからその分体力も落ちますよね。そしたら病気が悪化してしまうと思うのですが……」

「蒼良の言う通りだよ」

 私が江戸に帰れと言わなかったから、沖田さんは嬉しそうにそう言った。

「でも、養生は必要だと思います。だから、ここで養生すればいいと思います」

「ここでか?」

 土方さんは不服そうに言った。

「ここじゃあ養生できんだろう」

「いや、養生してもらいます。養生しなかったら、その時は江戸に送り返せばいいのです」

「なるほど。お前もたまにはいいことを言うな」

「ええ、蒼良、それはないよ」

 いや、しっかり養生してもらわないと困るから。

「よし、わかった。総司、ここで養生しろ。養生しなかったらおみつさんに迎えに来てもらうからな」

 おみつさんとは、沖田さんのお姉さんで、土方さんより怖いという噂もある。

「わかったよ」

 不服そうな顔をして沖田さんはそう言った。

「蒼良が変なことを言うから」

 私のせいかいっ!江戸に送り返されなかっただけ感謝してほしいもんだわっ!

「それと、滋養のいいものを食わすからな」

 最後に一言土方さんがそう言った。

 これで沖田さんの病気が少しでも良くなってくれるといいなぁと思った。

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