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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年閏5月
192/506

伊東さんの正体は?

 膳所ぜぜから帰って来て数日後、河内狭山藩の山本時次郎という人を捕縛した。

 なんで捕縛したのかは明らかになっていないけど、家茂公の上洛を控えているので、そっち関係が原因なんだろうなぁと思っている。

 そして、膳所事件の首謀者という人がいるという情報が入り、斎藤さんとその場所に向かった。

「あの事件に首謀者がいたのですね」

 向かっている途中に斎藤さんに話しかけた。

 まさか、捕縛した11人ですべてだと思っていたので、首謀者がまだ捕まっていなかったなんて思わなかった。

「お前、首謀者がいるから、あれだけの事件が起こせたんだろう」

 斎藤さんから、何言ってんだっ!という感じで言われた。

「と言う事は、私たちが膳所に入っていた時は、もう逃げ去っていたと言う事ですよね」

「敵も、俺たちが来ることをわかっていたらしいな」

 わかっていたらしいなって、それっていいことじゃないだろう。

「今度は逃がしませんからね」

「珍しく気合が入っているな」

 だって、11人は捕まって罰せられるのを待っているのに、首謀者が逃げてのうのうとしているのは見逃せないだろう。

 とにかく、捕まえてやるぞっ!


 しかし、捕縛したのは、膳所事件と関係のない人だった。

 井上謙三というお年寄りだった。

 この人の容疑は、膳所事件の首謀者をかくまって一泊させたという容疑だ。

 ちなみに首謀者には逃げられた。

「鯉沼伊織は逃げられたのか?」

 土方さんに聞かれた。

「誰ですか、それ」

「お前っ! 膳所事件の首謀者だっ!」

 そりゃ知らなかった。

「首謀者をかくまった井上謙三を捕縛しました」

 斎藤さんは、何事もなかったかのようにそう言った。

「そうか、さっそく訊問をする。どこに逃がしたか、吐かせてやる」

 土方さんは、井上謙三が捕縛されて入れられている部屋へと行った。

 また拷問か?いやだなぁ。

「お前たちもついて来い」

 と言われたので、仕方なくついて行くことにした。


 部屋に着いたら、近藤さんがいた。

 近藤さんはなんか困ったような感じだった。

 どうしたんだろう。

「歳、こいつの訊問は、簡単にはいかないぞ」

 近藤さんは、頭をかきながらそう言った。

「ああいえば、こういうって感じでな。わしには訊問できん。歳、頼んだぞ」

 近藤さんが、土方さんの肩をポンッとたたいて部屋から出た。

 部屋に残されたのは、グルグルに縄で縛りつけてある井上謙三という人と、土方さんと斎藤さんと私だった。

 近藤さんを帰らせてしまったこの人は、いったい何者なんだろう。

 土方さんは、無言で井上謙三という人を睨むように見ていた。

 土方さんにこの目で見つめられると、怖いはずっ!

 しかし、にらまれた当人はニヤリと笑っている。

「斎藤さん、この人いったい何者なんですか?」

「膳所事件の首謀者を逃した人間だ」

 それは知っているよ。

 いったいどういう性格の人かって知りたかったのだけど、斎藤さんもそんなこと知らないよね。

「知っていることを全部吐けっ!」

 土方さんは睨みながらそう言った。

「わしは、何も知らん。身なりの貧しい人間が、倒れそうにふらふらと歩いているから、助けただけだ。そう言う人間がいたら、助けるのが人間という物だろう」

 なるほど、そう言う事か。

「あ、壬生狼に言っても通じないか。わっはっは」

 おい、一言余計だぞっ!

「お前は、目の前に身なりの貧しい人間がいたら、誰でも助けるのだなっ!」

 土方さんが怒鳴るように言った。

「僧侶だからな、当たり前だろう」

 この人、お坊さんだったのか?

 よく見れば、僧衣を着ているような気もしないでもないが……。

 その後、この人は、難しいことを色々と言いまくり、土方さんを黙らせてしまったのだった。

 これって、完全に土方さんの負けってやつか?


「彼に罪はないようなので、釈放したらどうだと思うのだが」

 次の日、伊東さんが土方さんの部屋に来てそう言った。

 訊問をしたのはいいけど、結局近藤さんに続き土方さんも退却した。

 伊東さんなら学もありそうだから何とかしてくれるかもしれない。

 と言う事で、伊東さんにバトンタッチした結果が、釈放したらどうだ?と言う事らしい。

 伊東さんもだめだったのか。

「わかった。いつまでもあんな奴をここに置いていても、仕方ねぇしな。釈放でも何でも好きにしろ」

 土方さんも、いい加減いやになっていたのだろう。

 投げやりにそう言った。

「わかった」

 伊東さんは嬉しそうに部屋から出て行った。

「いいんですか? 釈放しちゃって」

 捕縛した井上謙三という人は、絶対に逃走にかかわっていると思う。

 でも、それを明らかにすることが出来ない。

 前回のように証拠をつくるという手もあるけど、なんぜ土方さんや近藤さんを口で負かした人だ。

 証拠を出してもまた口で負かされてしまうだろう。

 しかし、釈放という言葉に妙に引っ掛かりを感じる。

「それなら、お前が訊問するか?」

 いや、お断りします。

 

 それから、伊東さんは井上謙三という人を釈放した。

「お前は納得してねぇみたいだな」

 土方さんは、私の顔を見て言った。

「いや、納得していますよ。ただ、せっかく捕えてきたのに、こうもあっさりと逃がしちゃうのかなぁって思っていたのですよ」

 一言でいうと、悔しいってやつか。

「仕方ねぇだろう。ありゃ、俺たちよりも数倍上だぞ」

「なにが上なのですか?」

「ここの出来がた」

 ここというところで、自分の頭を指て突っつく土方さん。

 ま、あの人も、ああ言えばこう言うって感じだったもんなぁ。

 今回は完全に負けか。

 はあっとため息ついて、ゴロンと寝っ転がった。

 そんな私を見下ろして土方さんが、

「ちょっと出かけるか」

 と言った。


 梅雨明けが近いのか、蒸し暑い日だった。

 でも、ここは蒸し暑さを感じなかった。

 青々とした竹が茂っていて、風が吹くと、竹と竹がぶつかり合うコンッという音が響き渡っていた。

 着いたところは、やっぱり嵐山だった。

「嵐山が好きですね」

 これで何回目だろう。

 何かがあるとここにきているような気がする。

「四季が綺麗なところは、いいところなんだ」

 そうなのか?

「でも、ここは春に来た方がいいと思いますよ」

「なんでだ?」

「たけのこが取れるじゃないですか」

 私がそう言うと、

「お前は、この季節の美しさを楽しむっていう風流なことが出来んのかっ!」

 と、土方さんに言われてしまった。

「たけのこ取りも、季節を楽しむ風流なことだと思いますよ」

 食べれるし、美味しいし。

「お前に風流を求めた俺がばかだった」

 そ、そうなのか?それって、土方さんが悪いことだったのか?

 そんな話をしている間も、風が吹いてきて、竹の葉がサワサワと音を立てる。

 その音だけを聞いても涼しく感じる。

 やっぱり嵐山って避暑地なんだなぁと思った。

「お前、伊東さんをどう思う?」

 突然の静寂を破るように土方さんに聞かれた。

「どうしたのですか? 突然」

 驚いて、聞き返してしまった。

「俺は、どうもあの人を信用できん。今は、ほっといても害はないからほっといているが、近藤さんなんかは気に入っているらしく、自分の近くに置いて色々話を聞いているらしい。奴の勉強会も人気らしいしな。俺の思惑と反対に、隊では人気者ってわけだ」

 そ、そうなのか?

「で、お前はどう思ってんだ?」

 改めて土方さんに聞かれた。

「私は、伊東さんが嫌いですよ」

 それは、土方さんもわかっているだろう。

「そんなことは知っている。なんで嫌いかを聞いているんだ」

「あの人は、いいことばかり言ってますけど、最後には絶対に新選組を裏切りますからね。そもそも、伊東さんって尊皇派じゃないですか。今はいいですよ。でも、近い将来、薩摩と長州が同盟を結んだら、伊東さんは隊を裏切りますからね。裏切って長州か薩摩に走りますよ」

「お前、薩摩と長州が同盟を結ぶって、ありえんだろう」

 あ、まだこれは先の話だから、言ってはいけないことだった。

「そ、そうですよね。あんなに仲が悪いのに、同盟なんてねぇ」

 あははと笑ってごまかした。

 でも実際は、今頃、坂本龍馬が橋渡しになって同盟を結ぶのに悪戦苦闘しているところだろう。

「お前は変なことを言うなぁ」

 土方さんはあきれていた。

 何とかごまかせたらしい。

「でも、伊東さんが裏切りそうだっていうのは、俺も同じ考えだ」

 やっぱりそう思うでしょう。

「新選組を利用するためにいるのだろう。でも、俺の目が黒いうちはそうはさせねぇから、安心しろ」

 土方さんは、私の頭をポンポンとなでるようにたたきながらそう言った。

 安心しろって、なんでそんなことを言うのだろう。

 そんな思いが顔に出ていたのだろう。

「伊東さんが、井上謙三を釈放させるときに不安そうな顔をしていただろう」

 そ、そうだったか?

 どうやら土方さんは、伊東さんが釈放させたことに対し、私が伊東さんに対して不安を抱いていると思ったらしい。

 確かにあの人は、釈放させて後で仲間に入れそうな感じがしないわけでもないが、そこまでは考えていなかった。

 ここで、今回は何も考えていなかったなんて言ったら、怒るよな。

 絶対に怒る。

「た、確かに不安でしたが、土方さんの言葉を聞いて、安心しました」

 私は、そう言ってごまかした。

 土方さんの言葉を聞いて安心したのは本当のことだ。

「安心したところ悪いが、帰ったら掃除のところに顔出してもらえねぇか?」

 沖田さんに何かあったのか?

「あいつ、珍しくすねてやがるから、お前が何とかしろ」

 あ、あのですね、確かに私は一番隊組長補佐だけど、沖田さんの子守係ではないですからね。

 なんで沖田さんがすねているのをなだめないといけないんだ。

 そもそも、何すねてんだっ!いい年をしてっ!

「とにかく、頼んだぞ。よし、帰るぞ」

 土方さんは歩き始めた。

 あのですね、私の反論を聞くつもりはないのでしょうか?


 屯所にもどり、沖田さんの部屋に顔を出した。

 沖田さんは、縁側に座って外を眺めていた。

 ちょっとやせたように見えるは気のせいか?

 そういえば、体の調子はどうなんだろう。

 最近蒸し暑いから、また夏バテでもしているのかなぁ。

「あ、蒼良そら

 私が沖田さんをながめていると、沖田さんの方が私の視線に気が付いたらしく、振り返って私を見た。

「蒼良は、いつから三番隊になったんだい?」

 ちょっとすねたような感じでそう言ってきた。

 はあ?それってどういう意味だ?

「三番隊の斎藤君と膳所に行って事件を解決してきたらしいね」

 もしかして、それですねているのか?

「蒼良は、僕の補佐だよね。いつから斎藤君の補佐になったの?」

「それはですね、土方さんに行けって言われたから行ったのですよ。私だって、なんで? って思いましたよ」

「それでも、僕の補佐なんだからさ、一言僕に言って行ったっていいと思うのだけど」

 あ、忘れてた。

「す、すみません。今度は言って行きます」

「今度はないから」

 沖田さんはそうい一言言った。

 それはどういう意味だ?

「今度は蒼良を勝手に他の隊の仕事に行かすなって、土方さんにも言っといたし、もう行かせないから」

 そ、そうなのか?

「蒼良がいなくて、寂しかったよ」

 沖田さんに言われて、ドキッとしてしまった。

 それって、どういう意味だ?

「こき使いやすい人間がいなかったからね」

 結局みんなそこかいっ!

 どうせ私はこき使いやすい人間ですよっ!

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