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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年5月
189/506

沖田さんの使用人

 大坂で捕り物があったらしく、大坂屯所の万福寺に収容されたらしい。

 大坂では谷さん兄弟が取り仕切っているらしい。

「大坂にも屯所があったのですね」

 大坂に新選組の一部がいたと言う事は知っていたけど、屯所があったなんて知らなかった。

「知らなかったのか。お前は」

 土方さんはあきれていた。

 知らないもんは知らないんだから、仕方ない。

 その捕り物は、儒教家の藤井 藍田らんでんという人が、長州の人と交流を持ち、倒幕をたくらんでいたらしいと言う事だった。

 詳しいことは、これから拷問をして吐かせるとのこと。

 拷問かぁ、嫌だなぁ。

「大坂も、頑張ってるな」

 土方さんはそう言っていた。

「あ、そうそう。お前のことをこの前話し合ったんだ」

 えっ、私のこと?

「何ですか?」

「組織には入れないが、どこかの隊に補助として入ってもらうって話しただろう」

 そうだった。

 そんな話もあった。

「それで、各隊の組長を集めたんだが、みんなお前をほしがってな」

 な、なんでだ?自由にこき使えるとでも思っているのだろう。

「話し合いにならんから、俺が独断で決めた。総司の隊に総司の補助で入れ。今は労咳の症状も軽いからいいが、だんだん隊務にも支障が出てくるだろう。それで決めた」

「でも、私に一番隊の組長補助が務まるか不安なのですが」

 一番隊と言えば、名前の通り何かあったら一番に行動するのだと思う。

 だから、組長も剣を持たせたら右に出るものはいないという沖田さんなんだろう。

 その代わりが私にできるのか?

「大丈夫だ。気合で何とかしろ」

 また気合いかよっ!お前なら大丈夫だとかっていう言葉がないのか?

「お前は他の言葉をほしがっているようだが、それに甘えられても困るからな。頑張れ」

 わかりましたよ。

「でも、普通の隊士でもいいのですが……」

 組長補助なら、一般隊士でもそんなに変わらないような……。

「お前と一緒に江戸から来た仲間たちは、みんな組長だ。組織図を見て新八が、蒼良そらの名前が無いのはなんでだ? って詰め寄ってきたぞ。それが普通の反応なんだ。お前はそれだけ隊に貢献していると言う事だ」

 そうなのか?貢献しているつもりは全然ないのだけど。

「だから、それなりの地位を与えてやりてぇが、女だからな。いつも言っているが、ばれたときの逃げ道も確保しとかねぇとな」

「いや、それなりの地位なんていいですよ」

 自分が新選組のそれなりの地位にいるような人間には思えない。

 普通でいい、普通が一番。

「本当に上を目指そうって欲望がねぇ奴だな」

 ここで上を目指しても何も得るものがないだろう。

「というわけで、総司を頼んだぞ」

 というわけで、私は土方さんから一番隊ではなく沖田さんをたくされたのだった。


 沖田さんに挨拶しようと思い、沖田さんを探したら、自分の部屋にいた。

「沖田さんの一番隊の補助をすることになりました」

 私がそう言うと、沖田さんは、

「そうらしいね」

 と、他人事のように言った。

 あんたっ!どうでもいいとかって思ってるだろうっ!

「さっそくだけど、蒼良に頼もうかな」

 何を頼むんだ?

「一番隊の稽古を頼む」

 えっ?

「それは沖田さんがやった方がいいと思いますが……」

 なんて言ったって、剣を持たせたら、沖田さんの右に出る人がいないんだから。

「いや、面倒だから蒼良、頼むね」

 面倒だからって、あんたが組長だろうがっ!面倒な仕事は組長の仕事だろう。

「組長は沖田さんですよね」

「組長補佐は蒼良だよね」

 確かに組長補佐だけど……

「あ、稽古終わったら、八木さんの家にある僕の荷物を持ってきてね」

 おい、組長補佐は使用人じゃないぞ。

「それはご自分でお願いします」

「と言う事は、稽古はやってくれるんだ。ありがとう」

 いつそう言う話になったんだっ!

 断ろうと思ったけど、沖田さんはまんべんの笑顔で去って行ってしまった。

 逃げられた。

 仕方ない、一番隊の稽古でもするか。

 私は屯所の庭に出た。


 外に出ると、一番隊の人たちが待っていた。

 やっぱり精鋭部隊だけあって、剣の腕がいい人ばかりだ。

 沖田さんでなく私が出てきて文句でないかなぁと思ったけど、みんなホッとしたような顔で稽古をしていた。

 なんでホッとしているんだ?後で他の隊士に聞いてみたら、沖田さんの稽古はとても厳しいというか、目指している物が高いらしく、沖田さんが出来ることは、みんなもできると思っているところがあり、かなり厳しい稽古らしい。

 全員が沖田さんだったら、今頃天下とってると思うぞ。

 だから、私の普通の稽古はみんなから歓迎された。

「普通すぎて足りないでしょう? もうちょっと厳しくやりますか?」

 と言ったら、

「これで充分です」

 と言われた。

 本当にこれでいいのかなぁ、沖田さん。


 稽古が終わった報告を入れに沖田さんの部屋に行った。

 部屋にいる沖田さんは、だるそうな感じで横になっていた。

 もしかして、具合悪かったのかなぁ。

 それで私に稽古を頼んだのかなぁ。

 それなら、具合悪いから頼むって言ってくれてもいいのに。

「沖田さん、稽古が終わりましたよ」

 私が沖田さんの部屋に入りながら言うと、横になっていた沖田さんは飛び起きた。

「ありがとう」

 そう言った沖田さんは、さっきまで横になっていたとは思えないぐらい元気そうに見えた。

 無理しているのかなぁ。

「沖田さん、具合悪いなら悪いって言ってくださいよ」

 私がそう言ったけど、

「元気だよ」

 と、起き上がって沖田さんは言った。

 きっと具合悪いのを見せたくないんだよね。

 知らないふりをしていよう。

 でも、心配だから思わず、

「体調はどうですか?」

 と聞いてしまった。

「蒼良はいつもそれだね」

 と、いつも通りに言われてしまった。

「稽古が終わったら、八木さんところに……」

 あ、そんなことを言っていたなぁ。

「沖田さん、一緒に行きましょう。沖田さんの荷物なんだから、私にはわかりませんよ」

 少しでも気晴らしになってくれればいいなぁと思い、一緒に行くことを提案した。

「わかったよ。たいして荷物はないんだけどね」

 そうなのか?

 というわけで、八木さんの所に行った。


「あんさんの荷物、まとめといたで」

 八木さんが沖田さんの荷物を綺麗にまとめていた。

「これしかないのですか?」

 思わず聞いてしまった。

 だってあまりに少ないから。

 片手で持てるぞ。

「いつ来るんやと思って、待っとったんや」

 荷物を綺麗にまとめて、待ってたんだ。

「あんたの荷物しかないさかいな」

 要は、沖田さんの荷物しかないから、早く取りに来いってことだったんだろう。

「綺麗にまとめてもらって、ありがとう」

 沖田さんは笑顔でそう言った。

 いや、そこはすみませんだろう。

 それにしても、八木さんのところは、隊士たちでにぎわっていた。

「屯所が移転したのに、まるでまだここが屯所みたいですね」

 私は八木さんの触れてはいけないところに触れてしまったらしく、

「そうやろっ! とっくに西本願寺に移転したのに、まだこうやって来ているんやっ! 家賃とるでっ!」

「いや、家賃は一応近藤さんが払ったと思うのですが……」

 かなり少なかったけど、払ったぞ。

 その後に八木さんがそれ以上のお酒を差し入れしてくれたのだけど。

「あんなん、家賃じゃないでっ!」

 確かに、そうなんだけど。

「あんたっ! 帰ったらちゃんというてやっ!」

 な、何を言うんだ?

「この通り、ここを使っているんや。こき使っても文句言わせんで」

 それは、いいと思いますよ。

「好きにこき使ってやってください」

 思わず言ってしまった。

 きっと、ここにきている人たちは、八木さんにこき使われたってまた来ちゃうんだろうなぁ。

 居心地がいいしね、ここ。

「あ、総司兄ちゃん」

 八木さんのところで話していると、壬生にいる子供たちがやってきた。

「総司兄ちゃんが来とるって来たさかいきたんや」

 笑顔で嬉しそうに子供たちは言った。

 沖田さん、子供に人気あったからなぁ。

「遊ぼう」

 子供たちが沖田さんに群がってきた。

 沖田さんは嬉しそうだったから、てっきり一緒に遊ぶんだろうと思っていたけど、

「ごめん、忙しいんだ」

 と、沖田さんが言った。

「えっ、忙しい?」

 思わずそう言って沖田さんの顔を見てしまった。

 沖田さんはパチッと素早くウインクをした。

 また何を考えているんだ?

「ほら、新選組は大きくなって、僕は一番上の一番隊組長になったから、忙しいんだ。すぐに屯所に帰らないと。ごめんね」

 一番上は近藤さんだけど……

 なんで忙しいなんて嘘をつくんだ?

「なんだ、つまんない」

 子供たちは文句を言いながら去っていった。

「そりゃ忙しそうやな。なんせ、荷物も取りに来れないぐらいやからなぁ」

 八木さん、そのことをけっこう根に持っているのか?

「さ、屯所に戻らないと。蒼良、帰ろう」

 八木さんの嫌味は耳に入っていないようで、沖田さんは何事もなかったかのようにそう言って、八木さんの家を後にした。


「具合悪いのですか?」

 帰り道に私が聞いた。

 子供たちに忙しいなんて嘘をついたから、もしかしたらまた体調が悪いのかなぁと思ったのだ。

「別に、大丈夫だよ」

「それならなんで、忙しいなんて子供たちに嘘をついたのですか?」

 子供が大好きな沖田さんなのに、忙しいなんて嘘をついて断るなんて、らしくないなぁと思った。

「うつっちゃうじゃん」

 ぽつりと一言沖田さんはそう言った。

「蒼良だって、何事もないような感じで僕に近づいているけど、この病気は人にうつるからね。子供たちや蒼良や他の人たちに同じ思いはしてもらいたくないよ」

 そう思っていたのか。

 だから、子供たちを遠ざけたのか。

 子供が大好きな沖田さんなのに、病気のせいで近づけないなんて。

 気がついたら、私は泣いていた。

「蒼良が泣くことじゃないじゃん」

 沖田さんは楽しそうに言っていたけど、心の中はきっとつらいよね。

「だって、悲しいじゃないですか」

「こういう病気になった僕が悪いんだから」

 それはないだろう。

 病気は人を選ばないぞ。

「沖田さん、私は、私だけは労咳になりませんから、もっと頼ってください」

「なんでそう言えるの? もしかして、気合とか?」

 それじゃあまるで土方さんじゃないか。

 ま、私も気合で労咳にならないって言ったのだけど。

「私は、小さいときに弱い労咳の菌を体に入れたのです」

 私が話したら、沖田さんは驚いていた。

「なんでわざわざそんなことを?」

「労咳って、一回かかって治るともう二度とかからないってよく聞きますよね」

 沖田さんはうなずく。

「それです。弱い労咳の菌を入れて二度と労咳にならないようにしたのです」

 現代なら、当たり前のことなのだ。

「それで蒼良は労咳にならないって言っていたのかい?」

「根拠もないのに、そんなこと言えないじゃないですか。信じてもらえるかもわからないし」

 この時代でそんなことをするなんて信じられないだろう。

「なんだ、蒼良は労咳にならないのか」

 沖田さんは驚いたような、ほっとしたようなそんな感じで言っていた。

「それなら、僕のそばにいても大丈夫なんだ」

「大丈夫ですよ」

「よかった、これで安心して一番隊組長補佐の仕事を任せられるよ」

 えっ?そこなのか?私はやっぱりこき使われるのか?

「あのですね、私は補佐であって、沖田さんの使用人ではないのですよ」

「ああ、よかった、よかった」

 話を少しは聞けっ!

「さっそく蒼良に働いてもらわないとね」

 別に手当もらうぞっ!沖田さん担当特別手当。

 現代にいる沖田さんファンから見たら、なんて贅沢なって思うかもしれないけど、沖田さん、本当に人使い荒いんだからねっ!

 土方さんに申告してもらってやるっ!

 嬉しそうに歩く沖田さんの後姿を見てそう思ったのだった。

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