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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年5月
188/506

梅雨が明ける?

 今日は珍しく雨が降っていなかった。

 でも、曇り空だった。

 曇りだけど蒸し暑い日だった。

 ムシムシしていて何もする気になれない。

 部屋でゴロゴロとしていた。

 こういう日はかき氷が食べたいなぁ。

 でも、この時代ではかき氷は高級品だからなぁ。

「ぷりん食うか?」

 土方さんが、プリン二人分持って入ってきた。

 プリンでもいいかな。

「いただきます」

 もうプリンの季節が来たんだなぁ。

 って、プリンって年中あるよなぁ。

「禁門の変でぷりんを売っていた店が焼けてなくなってしまったが、やっと新しく建て直してできたらしいぞ」

 土方さんは嬉しそうにそう言ってプリンを食べていた。

「今度は大坂じゃなくても京でプリンが食べれますね」

「ああ、大坂に出張に行く隊士にぷりんを頼まなくても買えるようになったからな」

 出張に行く隊士に頼んでいたのか。

 公私混同だなぁ。

「ところで、お前暇そうだな」

 暇そうに見えるか?いや、暇なんだけど。

「暑くて動きたくないです」

「お前、今からそうでどうすんだ? まだ夏になっていないのだぞ」

 そうだ、まだ梅雨なのだ。

 京の夏は正直きつい。

 盆地特有の気候で、夏は暑いし冬は寒い。

 夏の暑さは、エアコンがほしくなるぐらいだ。

 エアコンなしでよく生きていられるなぁ。

 それでも、現代の30度越えの気候よりはまだましだから、夏でもなんとか過ごすことが出来ていた。

 でももう3年目の夏。

 今からこんな感じだから、夏を乗り越えられるかものすごく不安だ。

「私が倒れたらお願いしますね」

 土方さんにそう言うと、あっさりと

「断る」

 と言われてしまった。

「ただでさえ、夏負けで倒れる隊士が多いのに、お前の面倒まで見きれんっ!」

 そうなんだよねぇ。

 特に今年は、江戸から連れてきた隊士が多いから、京の夏を知らない隊士たちが倒れる可能性が高い。

 そう言えば……。

「土方さんはなんで倒れないのですか?」

 今まで土方さんが夏バテで倒れたところを見たことがない。

「そう言うお前も倒れてねぇだろう」

 ま、そうなんだけど。

 今までは、現代と比べるとこの時代の暑さは鼻で笑っちゃうぐらいだと思っていたから。

「こんな暑さは、暑いうちに入りませんから」

 胸をはって言ってみたけど、

「さっきまでのお前、暑くて耐えられんって顔していたぞ」

 と、言われてしまった。

 そうなのか?

「ま、気合だ。気合があれば、暑くても倒れん」

 気合かぁ……。

 気合ですめば医者はいらんと思うのは、私だけか?

「よし、避暑に行くか?」

 ん?避暑?

「軽井沢ですか?」

 避暑と言えば軽井沢だろう。

「なんでそんなとこまで行くんだっ!」

 確かに。

 現代のように車や電車ですいっと行くわけにはいかない。

「いいからついて来いっ!」

 というわけで、土方さんについて行くことにした。


 着いたところは、嵐山の近くにある梅宮大社ということろだった。

 紫陽花がたくさんあって綺麗だった。

 もう梅雨明けも近いのに、まだ紫陽花は色鮮やかに咲いていた。

「酒の神様が祀ってあるからな。お前にピッタリだ」

 そ、そうなのか?

「それは、いくら飲んでも酔わないようにですか? それとも、飲みすぎないようにですか?」

「お前の場合は、飲みすぎないようにだな」

「土方さんの場合は、飲んでも酔わないようにですね」

「酒に飲まれるよりましだろう」

 そりゃそうだけど。

「あと、子授け、安産の神様としても有名だから、拝んどけ」

 いや、まだ早いだろう。

「その時になったら拝みますよ」

 そう言って、紫陽花を堪能した。

「お前、左之からなにか聞いたか?」

 えっ、何かって……。

 原田さんから聞いたことって、一つしかないが……。

「言わないとだめですか?」

 土方さんには特に関係ないと思うのだけど。

「言わないとだめかって、俺も左之から聞いたが。お前はその様子を見ていたと言っていたぞ」

 確かに見ていた。

 見ていたというか、言われたと言えばいいのか?

 原田さんも土方さんに話しちゃったのね。

「あのですね、突然のことで驚いたのですが」

「そりゃ驚くだろう。誰でもあんなことを言われたら驚く」

 そうだよね。

「しかも、他の連中がいる前で言われたらなおさらだな。いくら酔っているとはいえ」

 ん?他の連中?酔っている?

 他の人たちはいなかったし、あの時の原田さんは酔っていなかったと思うぞ。

「土方さん、なんのことを言っているのですか?」

 私と土方さんの思っていることが違うようだ。

「伊東さんのことだ」

 あ、伊東さんの事か。

 確かに、他の人たちも酔っ払って倒れているところに、酔っ払った伊東さんが言い放っていた。

「でも、伊東さんの考えそうなことじゃないですか」

 未来から来た私は、伊東さんが考えそうで、これから行動に起こしそうなことだと言う事を知っていたから、伊東さんが言い放った時は、ああ、やっぱりなぁ、なんて思ってしまった。

 でも、原田さんは驚いていたなぁ。

 なんだ、そのことを土方さんに話したのか。

「お前の言う通りだけどな。酔って本音を言ってくるとは思わなかったな」

「また伊東さんにお酒を飲ませて酔いつぶしたら、他の本音を吐きそうですよ。もう一回ぐらい酔いつぶしましょうか?」

 酔いつぶす自身ならあるぞ。

「お前なぁ……」

 土方さんは、あきれていた。

「ところでお前は、左之の話の何を思い違いしていたんだ? 言わなきゃだめですか? とかって言っていたが」

 あっ……

「わ、忘れてください。何でもないです」

 しかし、私が慌てふためく姿を見て土方さんが、

「なんでもなくなさそうだな。なんだ? 言え」

 と言ってきた。

「いや、私だけの問題じゃないので」

 原田さんもかかわっていることなので、簡単に言うわけにはいかない。

「左之もかかわっている? 告白とかされたとか?」

 わっ、な、なんでそんな簡単にわかるんだっ!

「そんなんじゃないですよ」

 と、私が言ったけど、私の様子を見て土方さんに分かってしまった。

「そうか、左之に好きだと言われたか」

 土方さんは、紫陽花を見ながら言った。

「先をこされたか。で、お前はなんて返事をしたんだ? まさか付き合うとか、結婚とかって話が出てるんじゃないだろうな?」

 そ、そんな怖い顔して聞くことじゃないだろう。

「そ、そんな話まで出ていませんよ。それに、今は隊務が忙しくてそんなこと考えてられませんよ」

 これから色々なことが起きて、それに対処していかなければならないのだから。

「そうか、そうだよな。と言う事は、断ったのか?」

 断ったというか、なんか中途半端に終わったような……。

「どうなんだ?」

 だから、そんな怖い顔して聞くことじゃないだろうがっ!

「今は、それどころではないですっ!」

 私がそう言うと、土方さんはなぜかうれしそうな顔をした。

 それから、紫陽花を見て回った。

 紫陽花の大きな葉にカタツムリがいたりして、ここにいる限り、梅雨真っ盛りという感じだ。

 梅雨明けが近いみたいなことを土方さんは言っていたけど、本当に梅雨明けが近いのか?

 この時代は、そんなことを教えてくれる親切な人はいないから、自分で判断しなければならない。

 そんなことを考えていると、ぽつっと水滴が顔にあたった。

「雨ですか?」

 空を見ながら私は言った。

「粒がでかいから、降るぞ。本降りにならないうちに行くぞ」

 行くぞって、どこに行くんだ?

 そんなことを思いながら、土方さんの後について歩いた。


 嵐山の宿に入った。

「こりゃ帰れねぇな。泊まるか」

 土方さんが、土砂降りの雨を見てそう言った。

 ザーッと音を立てて振っている。

 現代で言う所のゲリラ豪雨ってやつか?

 でも、ここだけ降っているというわけでもなさそうで、しかも、すぐにやむという感じがしなかった。

 というわけで、嵐山で一泊することになった。

 夜になると、雷まで鳴りだした。

「怖くないのか?」

 一緒に布団に入った時、土方さんに聞かれた。

「別に怖くないですよ。建物の中にいれば安全だって聞いたので」

「普通、女は怖がるものなのだがな」

 ふんっ!どうせ私は女らしくないですよ。

「雷神は、へそを取りに来るからな。へそを隠した方がいいぞ」

 土方さんのその言葉に吹き出してしまった。

「土方さん、本気でそれ言ってますか?」

「お前も、子供のときに言われただろうが」

 確かに、言われたことがある。

 雷が鳴ると、気温が下がるからお腹を冷やしやすい。

 だから、おなかを冷やさないようにという意味を込められたものだと、後で知ったのだけど。

「確かに言われましたけど、今までへそなんてとられた人なんていないですよ」

 雷がへそを取ったなんて話は聞いたことがない。

「いや、いるぞ」

 いるのか?

「うちの近所の俺より年上の人だったかなぁ。へそとられたって言っていたぞ」

 土方さん、それはだまされていると思う。

「雷って、雷神だって言われてますけど、そんなんじゃないですからね」

「じゃあなんだ?」

「色々な原因がありますが、例えば、冬とかに鉄の物をさわるとビリッて手がすることありませんか?」

「ああ、あるある。それがどうした?」

「簡単に言うと、それが大きくなったものが雷ですよ」

 私がそう言うと、暗い室内がシーンとなった。

「お前、ウソばっか言ってんじゃねぇぞ」

 いや、本当のことだから。

 雷神がへそを取る話の方が嘘だからね。

 そんなは足をしていると、ピカッとまぶしく光って、ドンッ!と地響きがした。

「きゃあっ!」

 突然だったので、びっくりして悲鳴を上げてしまった。

「近くに雷が落ちたな」

 土方さんは、何事もなかったかのようにそう言った。

「ほら、怖いだろ?」

 そう言った土方さんは嬉しそうに見えるのは気のせいか?

「女は雷が怖いものなんだ」

 そ、そうなのか?

 雷が怖いと感じた時は、光ってから鳴るまでの数を数えるようにしている。

 そうすると、近づいてきたとか、遠くなってきたとかわかるからだ。

 しかし、布団の中で数を数えるという行為は、眠くなると言う事だ。

 というわけで、いつの間にか夢の中に入って行ったのだった。


 気がついたら朝だった。

 朝日がまぶしかった。

 ん?朝日?

「ひょっとして、晴れてますか?」

 思わず布団から飛び出した。

 土方さんはもう起きて着物に着替え終わっていた。

「あんなに雷が鳴っていても寝れるなんて、お前の神経は図太いな」

 図太くて悪かったですねっ!

 で、晴れているのか?

 そう思って外を見ると、まぶしいぐらいの朝日が地面を照らしていた。

「今日は暑くなりそうだぞ。昨日の雷で梅雨が明けたんだろう」

 雷が鳴って梅雨が明けるって、現代でもたまに耳にする。

 梅雨が明けたのかなぁ。

 そう思って外をもう一回見る。

 日差しが夏の日差しだった。


 あれから屯所に帰ってきた。

 そして次の日、雨だった。

 その次の日も雨だった。

「土方さん、梅雨って明けたのですよね」

 土方さんは天気予報の人じゃないけど、梅雨が明けたってこの前言っていたから、思わずそう聞いてしまった。

「しらねぇよ。天気の事なんてわかるわけねぇだろう」

 そうだよね。

 明日の天気すら当日にならなければわからない時代だ。

 どうやら、私たちは天気にだまされたらしい。

「夏はまだ先のようですね」

 私は、しとしとと降る雨を見ながらそう言ったのだった。

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