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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年5月
187/506

新興宗教伊東教

 今日は原田さんと巡察だった。

 私は、ずうっと原田さんに聞きたいことがあったので、この日を待っていた。

「聞きたいことってなんだ?」

 今日の街中を傘をさして歩きながら原田さんが聞いてきた。

「おまささんと本当に別れたのですか?」

 ずうっとそれが知りたかったのだ。

 だって、結婚するはずだったし、とってもお似合いの二人だったから、別れたと聞いた時は、なんか信じられなかったのだ。

「別れたが……」

 原田さんは、傘を持ったまま私の方を見て言った。

 やっぱり、本当に別れちゃったんだ。

 歴史を変えたいとは思っていたけど、この歴史はあまり変えたくなかったなぁ。

 別れるなんて、やっぱり悲しいじゃないか。

「それが何かあるのか?」

 今度は原田さんに聞かれてしまった。

「またなんで別れちゃったのかなぁって思ったので」

 本当にお似合いの二人だったのだ。

 別れるなんてもったいない。

 今からでも戻せるんじゃないのか?

蒼良そらが好きだからだ」

 えっ?驚いて原田さんを見上げると、

「俺が好きなのは、おまさではなく蒼良だとわかったから別れた。好きでもないやつと付き合うことが出来ないだろう。俺はそんな器用な人間じゃないよ」

 いや、好きでもない人と付き合うことは、器用不器用の問題ではなく、最低ですからね。

「そうなんですか」

 そう言う事情があったんだなぁ。

 おまささんが好きじゃなくなったなんて。

 かわいらしくていい人だったんだけどなぁ。

「蒼良、お前は、人の話を聞いていたか?」

 えっ?何か聞き逃していたか?

「俺は、お前に好きだと言ったんだが」

 えっ?そうなのか?

 そう言われてみれば言われたような、言われていないような……。

 返事しないといけないよな。

「あ、あのですね、私は……」

 まだ好きとかそう言うことがよくわからなくて……

 っていうか、原田さんのことをどう思っているかというと、好きとか、そういうことはまだ考えられなくて……

 っていうか……

 頭の中でグルグルと自分の思いが回っていて、それを一つにまとめようとしたけど、うまくまとめられなくて。

 あたふたしていると、原田さんの人差し指が、私の唇にふれた。

「まだ考えられないんだろ。だからいいよ、俺は待っているから。いつか、蒼良の心の中が、俺でいっぱいになるようにしてやるさ」

 笑顔で原田さんはそう言った。

 そんな日が本当に来るのかなぁ。

 自分の事なのに、他人の事の様に私は思ってしまった。

 この歴史が変わったことが、後日どのように影響してくるのだろう。

 

 巡察から帰ってきたら、藤堂さんが笑顔で迎えてくれた。

「平助、なんか用か?」

 原田さんが、出迎えてくれた藤堂さんに言った。

「左之さんじゃなくて、蒼良に用があるんだよ」

 ん?私に用か?

「なんですか?」

 ぬれた傘をたたんで玄関に置いた。

 藤堂さんは、笑顔で

「蒼良、伊東さんの勉強会に出ないか?」

 と言ってきた。

 でた、新興宗教のような勧誘。

「ちょっと話を聞くだけでもいいから、どうだろう?」

 私、伊東さんが嫌いだからいやだって、前に言ったのだけど、聞いていなかったのか?

「すみません。興味がないので」

 部屋に帰ろうとした私の袖を、藤堂さんがつかんだ。

「そんなこと言わずに、一回でいいから出てもらえないかなぁ。伊東さんに蒼良を誘ってくれって頼まれたんだ」

 伊東さんも、藤堂さんに頼むのではなく、自分で誘いに来いやっ!

「伊東さんに、勉強会には出ませんと伝えてください」

 私はそう言ったけど、勧誘してくる藤堂さんも宗教の勧誘並みにしつこかった。

 何人連れて来いとかノルマか何かあるのか?

「平助もしつこいな。蒼良が嫌だと言っているだろう。嫌なものは、嫌なんだ。あきらめろ」

 原田さんがそう言ってくれた。

「そう言う左之さんも蒼良と一緒に来ればいいよ」

 えっ、原田さんも?

 思わず原田さんと顔を見合わせてしまった。

「そう言えば、左之さんも一回も勉強会来ていないよね」

 そうなのか?私でも1回は行ったことあるぞ。

 原田さんが無言になっていると、

「それじゃあ待っているから」

 と言って、藤堂さんは行ってしまった。

 ちょっと待てっ!いつ行くって言ったっ?

「おい、平助っ! 俺は行くなんて言ってないぞ」

 原田さんも私の同じ状態らしい。

 しかし、そう言った時は藤堂さんはもういなくなっていた。

「行くしかないですかね」

 私が言うと、原田さんも、

「勝手に行くって話になっているし、行くしかないのか? 嫌だなぁ」

 原田さんは、何か行きたくない理由でもあるのか?

 原田さんは見上げて顔を見ていた私と目があうと、

「苦手なんだよ」

 と、一言言った。

「伊東さんがですか?」

「いや、勉強会が。何もしないで、話を聞いているなんて、耐えられない。俺、寝る自信はあるぞ」

 いや、寝る自信を自慢されても困るから。

 でも、それで勉強会に一回も出ていなかったんだ。

 なんか、原田さんらしいなぁと笑ってしまった。

「蒼良、笑うなよ」

「す、すみません。でも、原田さんらしいなぁと思ったもので」

「俺らしいか」

 そう言うと、原田さんも笑っていた。


 結局、伊東さんの勉強会に出ることになった。

 勉強会のある広間に行くと、出入り口で原田さんがいた。

「入らないのですか?」

 私が声をかけると、

「蒼良、待っていたぞ」

 と言われた。

 えっ、待っていたのか?

「なんか入りずらくてさ」

 そうなのか?

 そう思って広間の中を見回してみたが、別に普通だった。

「とにかく、入りましょう」

 と言う事で、原田さんと中に入った。

「なるべく出入り口近くにしよう」

 原田さんがそう言った。

 なんでだろう?

「すぐ逃げれるように出入り口の近くがいいんだ。こういう場合」

 あ、なるほど。

「じゃあ、出入り口の近くに座りましょう」

 二人で出入り口の近くに座ったのだけど……。

「おお、原田君と蒼良君じゃないか。来てくれて嬉しいよ」

 さわやかに伊東さんが部屋に入ってきた。

 げっ、来た。

「そんな遠慮して隅っこにいないで、真ん中に来るといいよ。前は埋まっているからね」

 ええっ、そんなことしたら、逃げれないじゃないか。

「いや、ここでいいです」

「俺たちはここでいいよ」

 原田さんと一緒にそう言ったけど、

「遠慮しなくていい。さ、真ん中へ。誰か、席を譲ってやってくれ」

 いや、遠慮してないから、隅っこでいいから。

 真ん中に座っている隊士が、わざわざ親切に場所を譲ってくれた。

 これって、余計な親切だよな。

 でも、せっかくの親切を断るわけにもいかず、仕方なく真ん中に座った。

「原田さん、逃げれませんよ。どうしますか?」

「困ったなぁ。こんな真ん中じゃあ寝たらすぐばれそうだな」

 原田さん、寝るつもりなのか?

「寝てたら起こしてくれよ。こんな真ん中じゃ逃げれないからな」

 確かに。 

 そんなことをしている間に、伊東さんが入ってきて、一番前の真ん中に立った。

「今日は、珍しい人が来てくれて非常にうれしい」

 一番最初に私たちの方を見て伊東さんが言った。

 みんなの視線が私たちに集まる。

 一番前にいた藤堂さんが笑顔になっていた。

 あ、あんたのせいだからねっ!

 勉強会なんか出たくなかったのにっ!


「……であるから……」

 伊東さんの勉強会は続いていた。

 すごく暇なんだけど。

 隣の原田さんを見たら、首をコックリと動かしていたので、ひじで突っついた。

「あ、悪いな蒼良」

 原田さんはすぐに起きてくれた。

「だから勉強会に出るのは嫌だって言ったんだ」

 原田さんが小さい声でそう言った。 

 なんか暇だよなぁ、ただ聞いているのって。

 そう言えは授業中によくノートに落書きとかしていたなぁ。

 最近、文字を覚えるために矢立という江戸時代版筆箱と、紙を持って歩いていたので、それを出した。

「もしかして蒼良、伊東さんの話を紙に書いておくのか?」

「なんでそこまでしないといけないのですか」

 原田さんの質問に、思わずそう言ってしまった。

「だって、新八だってなんか書きながら聞いているし」

 そうなのか?

 そう思って、一番前に座っている永倉さんを見ると、何かを書いているみたいで、右手が動いていた。

「意外と勉強家なのですか? 永倉さん」

「ああ、意外と真面目だぞ」

 そうだったんだ。

 でも、後日新選組のことを本に書くから、筆まめなのかもしれない。

 真面目かどうかわからないけど。

「で、なんで紙を出したんだ?」

 原田さんが質問してきたので、

「絵をかくのですよ」

 と私は答えて、伊東さんの似顔絵を描いた。

 その様子を横で見ていた原田さんは、

「似てる、似てる」

 と言って楽しんでいた。

「せっかく書いたんだから、ちょっと手を加えないとな」

 そう言って、原田さんは私から筆をとって似顔絵をつき足した。

「原田さん、これじゃあ、伊東さんがっ!」

 原田さんの絵を見て思わず吹き出してしまった。

 その時に伊東さんと目があったので、背筋を伸ばして、真面目に聞いていますっ!とアピールした。

「蒼良がふきだすから、伊東さんにばれそうになっただろう」

 原田さんが変な絵にしたからだろう。

 その変な絵では、伊東さんはおかまになっていた。

 私が、さらに筆を足して、いやんという文字を書くと、今度は原田さんが受けていた。

 そしてまた伊東さんと目があう。

 原田さんと二人で背筋を伸ばす。

「原田さんが笑うから」

「蒼良が変な絵をかくからだろう」

 クスクスと二人で笑っていた。

 おかげで嫌な勉強会もあっという間に終わった。

「毎回こんなに楽しければ出てもいいが、蒼良も今回が最後だろ?」

 原田さんにそう聞かれたので、コクンとうなずいた。

「だよな。俺も今日で最初で最後だ」

 私も今日で最後だといいのだけど。

「原田君と蒼良君」

 伊東さんの声がしたので振り向いた。

 伊東さんの後ろに斎藤さんと永倉さんと藤堂さんもいた。

 藤堂さんは嬉しそうだった。

「二人とも来てくれたんだね。ありがとう」

 藤堂さんが私たちに近づいてきてそう言った。

「でも、今日で最後だからな。な、蒼良」

 原田さんが私に話をふってくれたので、私はうなずいた。

 藤堂さんは、ちょっとだけ寂しい顔をした。

「せっかくだから、飲みに行こうじゃないか」

 伊東さんまで話は聞こえていなかったらしく、さわやかにみんなを飲みに誘っていた。

 伊東さんと飲みになんて行きたくないやいっ!

 そう思ったけど、

「左之、蒼良、一緒に行くぞ」

 と、永倉さんに引っ張られ、一緒に飲みに行くことになったのだった。


「さぁ、飲んで飲んで」

 伊東さんにお酌された。

「あ、ありがとうございます」

 お礼を言ったら、斎藤さんが私のところに無言でお銚子をドンって置いた。

 いや、今日はそんなに飲むつもりがないので……。

 でも、せっかくおいてくれたから、お銚子を空にした。

「やっぱり、蒼良君は強いなぁ」

 伊東さんは、私の隣でご機嫌で言った。

 そもそも、なんで私の隣が伊東さんなのよ。

 伊東さんはまた私にお酌してきた。

 こいつ、酔いつぶしてやろうか。

 勉強会に出てやったんだから、それぐらいしても罰は当たらんだろう。

「伊東さん、お酌します」

 笑顔でそう言って、伊東さんにお酌をしたのだった。

 もちろん私もせっかくだから飲んだ。

 その結果……

「見事みんな酔いつぶれたな」

 原田さんと私以外全員酔っ払いになっていた。

「伊東さんだけは酔いつぶしてやろうと思ったのですが、まさか全員つぶれるとは」

「蒼良に合わせて飲んでたんだろう」

「原田さんは酔っていないですね。強いのですか?」

「俺は、そんなに飲んでない。蒼良をちゃんと屯所まで送らないといけないからな」

 原田さんは笑顔でそう言った。

「みんな送りますか?」

 これ全員屯所に連れて変えるのも大変だぞ。

「ハハハハッ!」

 突然伊東さんが笑い出した。

 酔っ払ったのか?って、もともと酔っ払いか。

「新選組を私が手に入れたら、会津藩じゃなく、薩摩藩に持って行こう。そうすれば、私も薩摩藩とつながりができる。私の念願がかなうぞ。攘夷志士になるのに少し遅れを取ったからな。これで巻き返しだ」

 伊東さんは、言いたいことだけ言って眠ってしまった。

 今、すごい重要なことを言ってなかったか?

 原田さんを見ると、驚いて固まっていた。

「伊東さん、とんでもないことを言っていたが……」

「全部本当の事ですよ」

 今更隠しても仕方ないので、正直に言った。

「そうなのか? 蒼良はいつから知ってんだ?」

「伊東さんが新しく入った時に一緒に京へ向かっているときです」

「けっこう前から知っていたんだな。土方さんは知っているのか?」

「知っています。その時に間者を入れていたようなので」

「その間者ってもしかして……」

 原田さんは、酔いつぶれている永倉さんを見た。

「永倉さんじゃないですよ」

「だよな。一番間者らしくない」

 原田さんはそう言うと笑っていた。

「で、みんなどうしますか?」

「置いて帰る。伊東さんの考えもわかったら、なおさら連れて帰りたくなくなった。しばらくここで反省してもらうか」

 いや、反省も何も、酔っ払っているから明日には記憶が無くなっていると思うのだけど……。

 でも、私も連れて帰る気が無かったので、置いて帰ることにした。

 せいぜい、反省しやがれっ!


 伊東さんの勉強会を聞いて、伊東さんに賛同する人もいるけど、原田さんのように、勉強会を聞いても考えが変わらない人もいるんだなと、心強くなったのだった。

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