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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
慶応元年5月
186/506

屯所が汚い

「ちょっと斎藤を呼んで来てくれ」

 土方さんにそう言われたから、斎藤さんを呼びに行った。


 斎藤さんは、他の隊士と同じ部屋にいた。

 大部屋の襖を開けたら、モワッと汗と油の匂いと言うのか、男臭いというのか、匂いが私に襲ってきた。

 な、なんの匂いだ?

 大部屋の中を見てみると、布団は敷きっぱなしの上に、普通に人が歩いていたり、その中を寝ている人がいたり、様々だった。

 布団もずうっと敷きっぱなしなんだろう。

 汚れてグチャグチャになっていた。

 何が掛布団で、何が敷布団かわからないぐらいだった。

 この部屋、汚いぞ。

「なんか用か?」

 気が付くと、斎藤さんが目の前にいた。

 私は、襖を開けたまま固まっていたらしい。

 襖を開けた時に注目を浴びたみたいで、みんなの視線が私に突き刺さっていた。

 その中には、やっぱりなぜか全裸の人がいたりした。

 なんで全裸なんだ?

「なんだ、気になるのか?」

 私の視線が全裸の人に向いている事に気が付いたのか、斎藤さんがそう言った。

「き、気になりませんよっ!」

「そっちばかり見ていたから、気になるのかと思った」

 いや、なんで着物着ないんだろうとは思っていたけど。

「で、なんの用だ? まさか、男の裸を見に来たわけではないだろう」

 な、なんでだっ!

「ち、違いますよ」

 私の顔が熱くなっているから、多分赤くなっているのだろう。

 わ、私なんでここにいるんだ?

 そうだ、そうだった。

「土方さんが呼んでます」

 土方さんが、斎藤さんを呼んでいたのだ。

 それでここに来たのだけど、あまりの汚さと言うか、なんというか……。

 それを見て絶句していたのだ。

「わかった」

 斎藤さんは、やっと大部屋から出てきてくれた。

「斎藤さん、あの部屋汚くないですか?」

 思い切って聞いてみた。

「そうか? どこもあんなものだぞ」

 そ、そうなのか?

 どこの部屋もあんな感じだったら、屯所全体が汚いってことだぞ。

「かなり汚いと思いますよ。掃除した方がいいですよ」

 あんな部屋にいたら、病気になるぞ。

 ただでさえ、梅雨でジメジメしていて変な菌が増殖する季節なのに。

「そう言うお前の部屋はどうなんだ?」

 斎藤さんに聞かれた。

「自慢じゃないけど、綺麗ですよ」

 朝起きたら、土方さんと一緒に布団をたたんで、たたみ終わるとほうきで掃いて掃除をしている。

 あの大部屋より綺麗だぞ。

 屯所内で一番きれいだぞ、多分。

「しかも、あの大部屋臭かったですよ」

 襖を開けた時に襲ってきた匂い。

 あれはあまりいい匂いではないぞ。

「色々な奴がいるからな」

 斎藤さんはそう言うけど、学校だって色々な人がいるけどあんな匂いはしないぞ。

「昨日酒飲んで二日酔いの奴やら、風呂入ってない奴とか、ずうっと着替えてない奴とか」

 それを普通の顔で斎藤さんは言ってるけど、全然普通じゃないからね。

 ちょっとはみんな清潔に気を使おうよ。

 そんな話をしているうちに、土方さんの部屋に着いた。


 私がお茶を入れて部屋に着くと、土方さんと斎藤さんの話が終わっていた。

 伊東さんの事かなぁ?

 斎藤さんの前にお茶を置くと、

「この部屋、本当に綺麗だな」

 と、斎藤さんが、周りを見回しながら言った。

「なんだ、お前らの部屋は汚いのか?」

 土方さんは、知らないのか?

「こいつが汚いっていうから」

 斎藤さんが、私を指さして言った。

「汚いってもんじゃないですよ。あれじゃあ病気になりますよ」

「俺はそうは思わんがな」

 斎藤さん、それはおかしいよ。

「土方さん、ここはドカンと副長命令を出して、部屋を綺麗にしろって言ってください」

「お前、そんな簡単に副長命令出していたら、いざってときに役に立たんだろう」

 いや、今までも結構簡単に出していたからね。

「でも、今出さないと、絶対に病人とか出ますよ。今は梅雨で変な菌が繁殖していますからね」

 そのうちキノコはえますよ、キノコがっ!

「そう言えば、この前押入れに変なキノコが生えてたぞ」

 斎藤さん、何事もない顔で言っていますが、それ、かなり大変なことだと思いますよ。

「おお、キノコか。食えるのか?」

 土方さんも、そんなこと言っていますが、食えませんからねっ!

「お前、味見してみろ」

 斎藤さん、あなたがすればいいでしょうっ!

 そんなところに生えたキノコなんて、怖くて食べれませんからっ!


蒼良そら僕の部屋掃除してよ」

「なんで私が沖田さんの部屋を掃除しないといけないのですか」

 屯所内を歩いていたら沖田さんに会い、突然そう言われた。

「蒼良と土方さんの部屋は綺麗だって聞いたから」

 自慢じゃないが、綺麗だぞ。

「だから、僕の部屋掃除してよ」

「沖田さんも、総司って名前なんだから、掃除した方がいいですよ。ちゃんと、自分で」

「名前は関係ないじゃん。せっかく蒼良に毒薬もらって労咳がちょっとよくなったのに、掃除して悪化したらどうしようかなぁ」

 毒薬じゃないからっ!しかも、労咳って掃除で悪化するのか?今まで通り隊務を行う方が悪化すると思うぞ。

「その顔は、僕の言うこと信じてないでしょう」

 信じられるかっ!

「蒼良は、僕の病気がひどくなってもいいんだね」

「わ、わかりましたよっ! 掃除しますから、沖田さんも手伝ってくださいね」

「蒼良、ありがとう」

 そう言って笑顔になった沖田さんを見ると、何も言えなくなってしまった。

 この笑顔にだまされる人は何人いるんだか。


 沖田さんは個室だった。

「個室なのですか?」

「土方さんが、一番隊組長は個室だっていうから」

 土方さんは、沖田さんの病気を知っているから、他の人にうつらないように個室にしたのだろう。

「よかったですね。一番隊組長は一番偉いのですよ」

「そうかなぁ。実感ないや。とにかく、掃除しよう」

 沖田さんと一緒に掃除を始めた。

 沖田さんの部屋は個室だからかもしれないけど、他の部屋ほど汚れていなかった。

 しかも、荷物もほとんどない。

「沖田さん、もしかして荷物はまだ……」

 八木さんの所なのか?

「ああ、八木さんのところにあるよ。あっちの方が居心地いいから」

 やっぱりそうだったのね。

 しかし、少ない荷物の中に一つだけ、見覚えのある紙袋があった。

 それは、沖田さんのお姉さんが土方さんに持たせてきた人胆丸。

 斬首刑になった人間の中身の物で作られた薬だ。

 労咳に効くらしいが、そんなものが効くとは思えない。

 思えないけど、どういう物なのかは興味があった。

 どんな匂いがするんだろう。

 思わず赤黒い玉を手に取って匂いをかいでいた。

「もしかして、飲みたいの?」

 沖田さんの声が突然後ろから聞こえてきた。

「いや、匂いをかいだだけですから」

「遠慮しなくてもいいよ」

 ドンッと沖田さんが湯呑を私の目の前に置いた。

 ちゃんと水も入っている。

 い、いつの間に?

「鼻つまんで水で流し込めば味はわからないから」

 それは、私が前に言ったセリフじゃないかっ!

「もしかして、この前のこと恨んでます?」

 私が聞いたら、沖田さんは笑顔でうなずいた。

「この薬は、私は関係ないですよ。土方さんが持って帰った来たのだし、沖田さんだって、私に向かって薬を吹き出したじゃないですか」

 私は、沖田さんの薬と唾液を顔で受けたんだぞ。

「あ、そうだった?」

 そうだった?じゃないわっ!

 そして、この部屋はあまり汚れていなかった。

「部屋があまり汚れていないのは、もしかして……」

「ああ、ほとんどここつかってないから」

 やっぱり。

 沖田さんの生活拠点は、まだ八木さんの家なのだ。

「でも、蒼良が掃除してくれたから、本格的にここに住もうかな」

 いや、もうここが屯所なので、住んでもらわないと困ると思うのですが。

「それに、壬生の子供たちに病気をうつしたらいけないからね」

 そう言った沖田さんが、なんか寂しそうな顔をしていた。

 沖田さん、子供が好きだもんなぁ。

 一緒に遊べないのが寂しいだろうなぁ。

「大丈夫ですよ。私でよければ、沖田さんと遊んであげますよ」

「本当に? その言葉、忘れないでね」

 沖田さんの笑顔で言ったその言葉に、すごく嫌な予感がしたのですが。

 気のせいか?


 屯所の中があまりに来たないことがわかり、新入隊士の教育係りという特権を生かして、新入隊士と一緒に掃除をすることにした。

「この部屋掃除するので、みなさん一回移動してください」

 縁側の掃除が終わったので、大部屋を掃除するぞと思い、襖をあけてそう言った。

「掃除? 大丈夫だ。汚れてないだろう」

 永倉さんがぼさぼさの頭で出てきた。

 どうやら寝ていたらしい。

 この時間にいる隊士たちは、昨晩夜勤だった人たちだから、ほとんどの人が今の時間寝ているのだ。

「充分汚れてますから」

 永倉さん、こんな汚いところで寝ていて全然平気なのか?

「後、そこの全裸っ! 着物を着てくださいっ!」

 全裸で寝るとかって考えられない。

 もしかして、裸族なのか?

 この時代にも裸族っているのか?

「俺、もうちょっと寝たいから」

 そう言うと、永倉さんはいそいそと布団の中へ入って行った。

 掃除ができないじゃないかっ!

 永倉さんが布団に入ると、他の人も揃って布団に入ってしまったのだった。


「やっぱり、副長命令でドカンと言ってくださいよっ!」

 大部屋の後で土方さんに文句を言いに行った。

「絶対に病人が出ますよ。そのうち、お医者さんが来て怒られますからねっ!」

「なんだ、誰か具合が悪いのか?」

 お医者さんという言葉に反応した土方さん。

「みんな元気いっぱいですよ。少しはその元気を掃除に回してほしいですよ」

「なんだ、医者なんて言うから、病人がいるのかと思った」

「そのうち出ますって話ですよ」

「なんでそんなことがわかるんだ」

 歴史でもそうなっているけど、

「あまりに不潔すぎるからですよっ!」

 不潔すぎて病人が出るのも時間の問題だろう。

「一回見に行った方がいいですよ。どんだけ汚いか」

「そんなきたねぇ所に行っても仕方ねぇだろう」

 副長がそれでどうすんだっ!

 ああ、もう知らんっ!

 そのうち松本 良順先生が来て怒られるんだからねっ!

 もう私は知らんぞっ!


 この日の夜の夜の味噌汁にキノコが入っていた。

 なんでこの時期にキノコ?キノコって秋だよな。

 もしかして……いや、それはないよな。

 でも、あまりにタイミングが良すぎるので、残したのだった。


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