表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治2年・慶応元年4月
181/506

親入隊士歓迎会

 江戸を立ってから数日が過ぎた。

 この数日は、宿に着くたびに伊東さんの勉強会があった。

 相手は新入隊士だ。

 そして、斎藤さんと藤堂さんもそれに参加している。

 斎藤さんは土方さんの間者で伊東さんに接近しているからわかるし、藤堂さんも、近藤さんのところに来る前に伊東さんにお世話になったことがあると言っていたから、伊東さんの近くにいるのはわかる。

 でも、私から見ると、あまりいい気分ではない。

 伊東さん、隊を乗っ取ろうと考えているのに。

 藤堂さんは知っているのかなぁ。

 でも、そのことを話しても、藤堂さんは伊東さんから離れないだろうなぁと思う。

 今は、近藤さんとの絆より、伊東さんとの絆の方が強そうに見える。

 やっぱり、藤堂さんは新選組を去ってしまうのだろうなぁ。

 そんなことを思っていたら、

「お前は、伊東さんの勉強会に出ないんだな」

 と、土方さんに言われた。

「なんで出ないといけないのですか」

 そもそも、私は伊東さんが嫌いだから、勉強会なんて物は一回ぐらいしか出ていない。

「別に出ろとは言っていないだろう。斎藤と平助は出ているが、お前が出ていないから聞いただけだ」

 斎藤さんは、土方さんの間者だから出ているんでしょって言いたかったけど、これは私が知らないことになっているので、言わなかった。

 勉強会に出ない一番の理由は伊東さんが嫌いだからだけど、それ以外の理由は……。

「私が勉強会に出ると、絶対に寝ますよ」

 その自信は絶対にあるっ!

「お前、そんな自信たっぷりに言う事じゃねぇだろう」

 土方さんはそう言うけど、旅で一日中歩いてやっと宿にたどり着く。

 旅に慣れてきたら、宿に着いた後観光とかしちゃうのだけど、まだ江戸を出て数日しかたっていないので、旅慣れしていない。

 だから、宿に着くと疲れて観光どころじゃないところに伊東さんの勉強会があった日には、絶対に寝る。

 伊東さんの声が子守歌になるだろう。

「ま、お前みたいなやつがほとんどだけどな」

 そ、そうなのか?

「今度勉強会をのぞいてみろ。ほとんどの新入りが寝てるぞ」

 土方さんに言われて気になったので、宿に着いた時に伊東さんの勉強会をちらっとのぞいてみると、コックリ、コックリと、頭を動かし、どれはどう見ても寝てるだろうという動きをしている新入隊士たちの姿を数人見たのだった。

 なんだ、みんなまじめに聞いていると思ったら、そうでもないんだなと思い、ちょっとほっとしたのだった。


 本庄宿に着いた。

 ここで新入隊士の歓迎会をやることになっている。

 というのも、江戸をたって最初による大きな宿場町が本庄宿だからだ。

 宿場町が大きいから、お店もたくさんあって盛大な歓迎会が出来るだろうと言う理由だ。

 私の中では、本庄宿と聞いて思い出すのが芹沢さんだ。

 芹沢さんは浪士組で京を目指して旅していた時、ここの宿場町でキャンプファイヤーより大きな焚火をして大騒ぎになったことがある。

 前に近藤さん達と京へ帰るときここに寄った時は、永倉さんとその話で盛り上がった。

 今回は、誰が思い出しているのだろう。

 本庄宿にある芹沢さんが焚火をした広場に行くと、「火の用心」と書いてある紙が貼ってあった。

 これ、絶対に芹沢さんが焚火をしてから貼ったんだろうなぁ。

 そう思ってしまった。

 そして、広場には藤堂さんが来ていた。

「あ、蒼良そら。そこに火の用心って書いてあるよ」

 藤堂さんが笑いながらそう言った。

「この張り紙は、芹沢さんが来てから貼ったよね、絶対に」

 藤堂さんも私と同じことを思ったみたいだ。

「確かに、ここであんなに大きな焚火して、家に燃え移って火事になった日には、大変ですからね」

「蒼良の言う通り、火事になったら命にかかわってくるからね」

 そんなことを話しながら、しばらく芹沢さんが焚火をした場所を一緒に眺めていた。

「藤堂さんは、芹沢さんのことをどう思っていました?」

 私はふと聞いてみたくなり、藤堂さんに聞いてみた。

 前回は、ここで永倉さんと芹沢さんが本当に長州の間者に殺されたのか?という話をした記憶がある。

「どうって、お酒に飲まれなければいい人だったんじゃないかな」

 そうなんだよね。

 お酒さえ飲まなければ、いい人だった。

 お酒が入ると何するかわからない人だったのだけど。

「蒼良は、酒が強いと聞いたけど、今日歓迎会をするから、蒼良がどれだけ強いかやっとわかるね」

 なんでそんな話になるんだ。

 そんなことわからなくてもいいから。

「天野先生もかなり強そうだったから、蒼良が酒に強いのもきっと遺伝だよ」

 藤堂さんは楽しそうに言っていたけど、別に楽しいことじゃないからね。

「歓迎会が楽しみだ」

 藤堂さんは本当に楽しみにしているみたいだ。

 何が楽しみなんだろう?

「ところで蒼良は伊東さんの勉強会に出ないの?」

 突然、藤堂さんに聞かれた。

「な、なんでですか?」

 突然聞かれたので、驚いて聞き返してしまった。

「伊東さんの話はためになるし、いい話だよ。蒼良は聞かないの?」

 藤堂さんが新興宗教伊東教の信者に見えるのだが……。

 伊東さんが嫌いだからって言ったら怒るかな?

 まだ嫌いなのか?とかって言われそうだな。

「寝てしまいそうなので」

 前に土方さんに話した理由でいいか。

「えっ?」

 藤堂さんに聞き返されてしまった。

「ほら、一日中歩いているのですよ。それで疲れているときに伊東さんの話を聞いたら、きっと寝てしまいます。そうなると、伊東さんに失礼でしょう」

「そう言えば、浪士組で京に着いた時に壬生にある寺に集合した時も寝ていたよね」

 そうだったか?そんなことすっかり忘れていたわ。

「それなら、京に帰ってから伊東さんの話を聞くといいよ」

 藤堂さんはそう言ったけど、絶対に聞きにいかないだろうなぁ。

 京にいた時も聞いてなかったもん。

「藤堂さんは、伊東さんが好きなのですか? 私を伊東さんの勉強会に誘っていますが……」

 やたらと勉強会への勧誘をしてくる藤堂さんに、思わず聞いてしまった。

「蒼良は、やっぱり伊東さんが嫌いなの?」

「はい、嫌いです」

 もう我慢できなくて言ってしまった。

 隠しておこうと思ったのだけどなぁ。

「なんで嫌いなんだい?」

 藤堂さんはやっぱり知らないのかな。

「伊東さんは、新選組を乗っ取ろうと考えているのですよ。自分の味方を増やすために、勉強会を開いているのです。そんなところに私は行けないです」

「蒼良、いつわかったの?」

 いつわかったの?って……

「知っていたのですか?」

 もしかして、共犯とかってことないよね。

「ごめん。知っていた。知っていて黙っていた」

 そうだったのか。

「新選組に入らないかという話を持って行ったときに、そのことを知ったんだ」

 そうだよね。

 伊東さんとの付き合いの方が長いんだもん、藤堂さんが知っていたって不思議じゃないよね。

「蒼良、本当にごめん。でも私は、伊東さんが今の新選組を新しく変えてくれたらいいという思いも込めて近藤さんに紹介したんだ」

「藤堂さん、新選組は変わらないですよ。伊東さんが入ったぐらいでは変わりません」

 これは本当のことだ。

 伊東さんが入ったぐらいで新選組の目指している物は変わらないし、変わらなかった。

 だから後日、伊東さんが新選組を抜けることになる。

「それでも、藤堂さんは伊東さんにどこまでもついて行くのですか?」

 一緒に新選組を抜けるのですか?

「私の考えは、近藤さんよりも伊東さんとともにあるから」

 そうなんだよな。

 だから、新選組を出ないでと約束しても出てしまうのだ。

「蒼良、ごめん」

 藤堂さんは、また謝った。

「藤堂さんは悪くないですよ」

 そう、悪くない。

 仕方ないことなのだ。

 歴史がそうなっているから。

「でも、伊東さんと一緒に行っても、絶対に死ぬようなことはしないでくださいね」

 藤堂さんは、お師匠様からどうやって死んでしまうか聞いたらしい。

 だから、それを全力で避けてほしい。

 伊東さんと一緒に行っても、死ぬようなことにならなければそれでいい。

「わかってるよ。私は絶対に死ぬようなことはしないよ。蒼良の生きていた時代に行くのが楽しみなんだからね」

 藤堂さんは、私の顔を見てそう言った。

 私はそれを聞いて、少しほっとしたのだった。

「あっ、蒼良もからくりがわかったんだね」

 からくり?

 藤堂さんを見ると、視線が私の根付けに行っていた。

 この根付は、藤堂さんと一緒に買ったおそろいの物で、買った時は木でできた普通のねずみの根付けだったけど、実はからくり根付けと呼ばれるもので、中につがいで寄り添っているねずみの彫り物が入っていたのだ。

 からくりがわかったと言う事は……

 そう思いながら藤堂さんの根付けを見てみると、私と同じものになっていた。

「藤堂さんも、これがからくり根付けだってわかったのですか?」

「うん。買った時はわからなかったんだけどね」

 なんだ、そうだったのか。

「私も買った時はわからなかったですよ」

 私がそう言うと、藤堂さんと目があい、二人で微笑み合ったのだった。


「今日は無礼講だ。遠慮なく飲め」

 土方さんのその言葉で歓迎会が始まった。

 私は、みんなにお酌して回った。

 お酌をし終わると、私の席には、お銚子がデンッとのっかっていた。

 普通はお銚子ととっくりがペアになって置いてあるのだけど、私のところはお銚子だけだ。

「あの、とっくり取ってきます」

 きっと、店の人が忘れたのだろう。

 取りに行って来よう。

 そう思って席を立ったら、

「お前には必要ないだろう」

 と、斎藤さんに言われてしまった。

 そう言う斎藤さんは、例のごとく、お銚子から直接お酒を飲んでいる。

 もしかして、わざととっくりを置いてなかったのか?

「そうですね、私には必要ないですね」

 わざとなら、受けてやろうじゃないのっ!

 その挑発、しっかりと受け止めてやる。

 私も、斎藤さんと同様にお銚子から直接飲んだ。

「お、お前。なに直接飲んでんだ」

 その様子を見て土方さんが驚いていた。

「挑発を受け取ったのですよ」

 私はそう言ってもう一本お銚子を空にした。

「なにが挑発だ。お前が飲みたいだけだろうが」

 いや、挑発を受けたのだ。

 そう思いながら、斎藤さんを見ると、ニヤッと笑いながら斎藤さんもお銚子を一本空けた。

 私も負けずに空ける。

「蒼良、強いとは聞いていたけど、本当に強いんだね」

 藤堂さんは、楽しみを通り越して驚いていた。

 その間も、斎藤さんと一緒に一本空ける。

「もしかして、斎藤君と蒼良君は、飲み比べをしているのかい?」

 伊東さんが、私と斎藤さんを交互に見ながらそう言った。

「別に、飲み比べをしているわけではないが……」

 そう言いながらも、私を意識しているのか、チラッと私を見る斎藤さん。

「何気に飲み比べしているだろ、お前らっ!」

 その様子を見て怒る土方さん。

 その間もどんどん空になっていく。

 そんなことをやっているうちに、とうとう斎藤さんがダウンした。

「やった、勝ったっ!」

 思わずガッツポーズをしてしまった。

「勝ったじゃねぇぞ。周りを見てみろ」

 土方さんに言われて周りを見ると、なぜかみんなダウンしていた。

「あれ?」

 なんでみんなダウンしているんだ?

「あれじゃねぇっ! みんなお前らに合わせて飲んじまったらしい。だから、みんな酔いつぶれちまっただろうがっ!」

 いや、みんなが勝手に合わせただけで、私に責任はないだろう。

「新入隊士たちは、これが新選組の飲み方だと思ってお前らのまねをしたんだろう。みんなを酔いつぶしてどうすんだ?」

 そ、そうなのか?

「でも、新入隊士だけじゃなくて、伊東さんと藤堂さんも酔いつぶれていますが……」

 これは、私たちのまねをしたわけじゃないだろう。

「お前のせいで酔いつぶれたんだっ!」

 そ、それはないと思うけど……。

 でも、これ以上文句を言うとまた怒られそうだったので、黙っていた。

「明日、移動が出来なかったら、お前の責任だからなっ!」

 そ、そんなっ!


 次の日。

 私と土方さん以外は二日酔いで頭を押さえていたけど、本庄宿を出て中山道を京に向けて進むことはできた。

 だから、移動ができないと言う事はなかった。

「なんで蒼良は二日酔いにならないんだ?」

 藤堂さんが不思議な顔をして聞いてきた。

 藤堂さん、それは私も知りたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ