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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治2年・慶応元年4月
179/506

藤堂さん食中毒?

「おい、最近平助来てるか?」

 土方さんに突然聞かれた。

 そう言えば、江戸を立つ日まで長屋にいると言っていたけど、藤堂さんが通っている道場の帰り道などにここに寄ってくれた。

 しかし、ここ二日ぐらい姿を見ていないような?

「そう言えば来ていないですね」

 何かあったのか?

「病気とかで寝込んでいなければいいのですが……」

 それが一番心配だったりする。

「お前、ちょっと見て来い」

「えっ、私ですか?」

 私が一人で行くのか?

 藤堂さんが元気ならいいけど、行って倒れていたら、一人で何をしろって言うんだ?

「土方さんも行きましょうよ」

「もうすぐ江戸を立つから、色々と忙しいんだ」

 そ、そうなのか?

「江戸を立つって、いつ立つのですか?」

「近いうちだ」

「近いうちっていつですか?」

「近いうちは近いうちだ。近いうちにたつから用意しておけ」

 その、近いうちがいつかって聞きたいのですが……。

 ま、近いうちなんだろう。

「平助が倒れて寝込んでいたら、治るまで江戸をたてねぇだろうが」

 あ、そうか。

 おいて行くわけにはいかないもんね。

「だから、様子を見て来い」

「藤堂さんが倒れて寝込んでいたらどうしますか?」

「看病してやれ」

 そ、そりゃ看病するよ。

 ほっとけないでしょう。

 そうじゃなくて、

「お医者さんに診せなくてもいいのですか?」

 私一人で、藤堂さんをかついで病院まではちょっと無理だぞ。

「それはお前に任せる。医者に診せた方がいいなら、呼べばいい」

 あ、私がかつがなくても、呼べばいいのか。

「わかりました。ちょっと見てきます」

「頼んだぞ」

 そう言われて藤堂さんの長屋へ向かった。

 医者を呼べばいいと言われたけど、江戸の地理に詳しくないから、どこに医者がいるのかわからないことに気が付いたのだった。

 ま、なるようになるかな。


 藤堂さんの長屋の前に来た。

蒼良そらです。藤堂さん、いますか?」

 そう言いながら長屋の戸を開けた。

 この時代は呼び鈴なんてものが無いので、名前を呼びながら戸を開けた。

 長屋の中は、布団がごちゃと敷いてあって、ゴミも散らばっていて、この前来た時より汚れていた。

 藤堂さんはいないみたいだ。

 こんなに散らかっていて、しかもいないし、どこに行ったのだろう?

 私は長屋の中に入った。

 とりあえず、片づけた方がいいよな。

 ゴミをかたし始めたら、長屋の戸が開いた。

 そこには藤堂さんが立っていた。

「あ、藤堂さん」

 部屋が散らかっていたので、勝手に片づけてましたと言おうとしたら、

「うっ」

 と、口を押えて走り去っていった。

 な、何?つわりか?

 いや、違うだろう。

 藤堂さんが去った方向を外に出て見てみると、厠があった。

 もしかして、厠か?

 厠に近づくと、藤堂さんのうなり声が聞こえた。

「藤堂さん、大丈夫ですか?」

 うなり声の合間に、

「大丈夫だよ」

 と聞こえた。

 いや、全然大丈夫そうに見えないぞ。

 でも、厠の中をのぞき込むわけにはいかないし。

 どうしよう?

 そう思っていると、またうなり声が聞こえた。

 ほっとけないっ!

 そう思って厠の中に入ろうとしたら、

「来なくていいよ」

 という声が聞こえた。

 それで藤堂さんの気持ちがわかった。

 人に見られたくないのだ。

 誰だって気持ち悪くてトイレに入っているところを見られたくない。

「わかりました」

 私は、藤堂さんの長屋で待つことにした。

 最初は大人しく待っていたのだけど、何もやらないと藤堂さんの事とか気になるので、掃除をすることにした。

 ごみを捨てて、布団も綺麗に敷きなおした。

 これで綺麗になったぞと思った時に、真っ青な顔をした藤堂さんが現れた。

「大丈夫ですか?」

 よろよろと敷きなおした布団に倒れこむようにして寝た。

「大丈夫だよ」

 いや、全然大丈夫じゃないから。

「何か飲みますか?」

 もし、おなか壊していたら、かなりの水分が出ていそうだから、何か飲んだ方がいいだろう。

「いや、かなり戻したから」

 戻したと言う事は、吐いたと言う事か。

 それなら、落ち着くまで飲ませない方がいいかも。

 今飲ませたら、また吐いてしまう。

「落ち着いたら用意しますね。お腹は大丈夫ですか?」

「うん、ちょっと悪いかも」

 藤堂さんがちょっとと言ったけど、顔色も悪いから、ちょっとどころではないだろう。

「少し、寝てください」

 私は、藤堂さんの布団をかけなおした。

「ありがとう」

 そう言って、藤堂さんは目を閉じた。

 これは、ノロウイルスか?


 とりあえず、藤堂さんが寝ている間に近藤さんの道場に行き、土方さんに報告した。

「そんなにひどいのか?」

 土方さんが心配そうな顔をして聞いてきた。

「はい。あげくだしですね。ノロですかね」

「なんだ、のろって。呪いか何かか?」

 あ、この時代には、ノロウイルスってなかったか?

「呪いではないと思います。藤堂さんは人に呪われるようなことはないですよ。土方さんじゃあるまいし」

「おい、俺は人に呪われるようなことしているのか?」

「特に、隊士たちに呪われそうですよ、土方さん」

 なんせ、鬼副長だからね。

「うるせぇっ! 一人ぐらい俺みてぇなのがいねぇと、組織が成り立たねぇだろう」

 ま、確かに。

「とにかく、藤堂さんの看病に行ってきます」

「ああ、頼んだぞ」

 土方さんの報告が終わると、再び藤堂さんの長屋へ向かったのだった。


 藤堂さんは寝ていた。

 顔には玉のような汗をかいていた。

 額に手をのせると熱かった。

 熱があるんだ。

 急いで井戸から水を汲んで来て、手拭いを濡らして藤堂さんの額に乗せた。

 そして汗も拭いた。

 うなされているのか、ちょっと苦しそうな顔をしていた。

 藤堂さん、いったいどうしたんだ?

 お医者さんを呼んだ方がいいのかなぁと思ったけど、せっかく寝ているから、起こすのもかわいそうだと思い、目が覚めたら呼びに行こうと思っていた。


「あれ?」

 気がついたら、私も寝ていたらしい。

 すっかり夕方になっていた。

 藤堂さんを見ると、汗がひいていた。

 額に手を当ててみると、熱も下がっているみたいだった。

 結構汗をかいたから、着替えが必要だよね。

 用意しておこう。

 そう思って、押入れを開けてみた。

 着物どこにしまってあるんだろう?

 これかな?

 そう思って引っ張り出したものは、

「きゃあっ!」

 恥ずかしさで思わず声が出てしまった。

 慌てて仕舞い込む。

 そして藤堂さんの方を見ると、眠っていた。

 よかった、気づかれないで。

 一応年頃の乙女が、押入れからふんどし出してつかんでいるところを見られた日には、恥ずかしい。

 藤堂さんもふんどしするんだぁ。って、この時代はみんなふんどしだろう。

 色々な想像をしてしまい、顔が熱くなってしまった。

「蒼良?」

 色々な想像をしているときに急に名前を呼ばれ、ものすごくびっくりしてしまった。

「きゃああっ!」

 思わず叫んで、せっかく見つけた藤堂さんの着替えを落としてしまった。

「あ、驚かすつもりはなかったんだけど」

 藤堂さんは上半身を起こしながら言った。

 私もこんな派手に驚く予定はなかったのだが。

「藤堂さん、起き上がって大丈夫ですか?」

「ちょっと落ち着いたよ。蒼良は、ずうっとここにいたの?」

「土方さんに報告しに一回帰りましたよ。着替えますか?」

 私が着替えを持って行くと、

「ありがとう」

 と言って藤堂さんが受け取った。

 なぜかしばらく見つめ合ってしまった。

「藤堂さん、どうかしましたか?」

 なんで私の顔を見ているんだ?

 早く着替えた方がいいと思うのだけど……。

「蒼良に見られながら着替えるのも、なんか恥ずかしいのだけど」

 あっ!

 私は外に出るべきだった。

「す、すみません。外に出ますね」

 急いで外に出たのだった。


 しばらくして藤堂さんに呼ばれたから、中に入った。

 着替えてさっぱりとした感じの藤堂さんがいた。

「汗かいた着物は、洗濯しておきますよ」

「いや、そこまではいいよ」

「こういう時は遠慮しないでください。藤堂さんは病人なのですから」

「いや、大丈夫だから」

 しばらく洗濯物の引っ張り合いっこをしていたのだけど、その間から、はらりとあるものが落ちたのだった。

「あっ!」

 藤堂さんと一緒に声を出した。

 そして、一瞬動きが止まり、私は洗濯物を手放し、藤堂さんははらりと落ちたふんどしを急いで拾い上げた。

「だから、いいって言ったのに」

「す、すみません」

 二人で赤い顔をしてうつむいていた。

「具合がよくなったのかな。お腹すいてきた」

 藤堂さんがそう言ってきた。

 それはよかった。

「何か作りますよ。何も食べていないから、お粥がいいですね」

「ありがとう」

 私は、意気揚々と米を研いだ。

 その意気揚々も、米を研いだところで止まった。

 そうだ、かまどだよ。

 ガスはないんだもん、かまどで火をおこすしかないじゃないか。

「藤堂さん、マッチかライターなんて……」

 ないですよね……。

「えっ?」

 聞き返されてしまった。

 やっぱりないよね。

「これ、どうやって火をおこしますか?」

「えっ、蒼良火をおこせないの?」

 うんうんと、うなずいた。

「そうなんだ」

 そう言いながら、藤堂さんがかまどの方まで来て火をおこしてくれた。

 そう言えば、かまどで米を炊くのも初めてなんだけど……。

「これって、ほっとけば米炊けますよね」

「えっ? もしかして、炊いたことない?」

 はい、ないです。

 私のことを察した藤堂さんは、病人なのに、お米を炊いてくれたのだった。

「すみません、藤堂さん病人なのに」

 お米は炊けた。

「藤堂さん、やっぱりお粥がいいですよね」

「もしかして……」

「いや、お粥の作り方はわかりますよ」

 かまどの使い方がよくわからないのよっ!

 結局、病人の藤堂さんが自分で自分のお粥を作るという事態になったのだった。

「本当にすみません」

「もしかして、蒼良の時代はかまどはないとか?」

 藤堂さんが聞いてきた。

「ないです」

「どうやって米を炊くの?」

「お米を炊く機械があるのですよ」

「えっ、機械?」

「指で押す場所があって、米をといで水を入れてそれを押すと、ご飯が炊けるのです」

 ボタンと言ってもわからないから、押す場所と言った。

「そんな便利なものがあるの? もしかして、煮たりするのも機械があるの?」

「それはまた別なもので、やっぱり押す場所があって、そこを押すと火が出るのです」

 家によってはひねるところもあると思うし、火が出ないところもあると思う。

「蒼良がかまどの使い方をわからないのも納得できる」

「すみません」

「蒼良の時代に行ってみたいなぁ」

「そのうち行けますよ。まだ行く時期じゃないみたいです」

 お師匠様がそんなことを言っていた。

 消えるようにいなくならなければならない。

 まだ藤堂さんが現代に行く時期じゃない。

 そんな話をしているうちに、お粥は出来上がった。


「やっと落ち着いた」

 自分で作ったおかゆを食べながら藤堂さんは言った。

「いったいどうしたのですか?」

 急に具合悪くなったからなにがあったのかすごく気になる。

 ノロウイルスだったら、私もうつってしまうし。

「たぶん刺身だと思う」

 えっ、刺身?

「2.3日前に同じ道場の人に誘われて飲みに行ったんだ。その時に出た刺身が原因だと思う。この季節だしね。いたみやすいんだよ」

 この時代には冷蔵庫と言うものがないから、刺身は生きのいいうちに食べなければならないもので、高級品になる。

 現代と違って捕ってすぐ食べれるので、新鮮でおいしいけどいたみやすいし、保存も出来ない。

 と言う事は食中毒と言う事か?

「他の人は元気なのですか?」

 食中毒なら、藤堂さん一人じゃないだろう。

「あれからあっていないからわからないけど、それしか原因が思いつかないから」

 食中毒なら、毒を全部出せば治る。

 藤堂さんが元気になったのも、大変だったけど、毒が全部外に出たからだろう。

「治ってよかったです。土方さんが近いうちに京に帰ると言っていました」

 私が言うと、

「そうか、とうとう帰る日が来たか」

 と、藤堂さんが言った。

 藤堂さんは帰りたくないのかもしれない。

 きっともう新選組の考え方と藤堂さんの考え方があわないのかもしれない。

「蒼良、不安な顔しているよ。私は大丈夫だから」

 どうやら、私は不安な顔をしていたらしい。

「大丈夫だから」

 藤堂さんがもう一回そう言った。

 2回目の大丈夫だからは、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。

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