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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治2年・慶応元年4月
177/506

土方さんと多摩へ

 多摩へ行く前に……。

 私たちが江戸について次の日だっただろうか?

 改元があった。

 元号が元治から慶応に変わった。

 慶応と言えば、江戸幕府最後の元号にあたる。

 もうそんな時まで来てしまった。

「もう慶応になっちゃった」

 つい独り言を口に出してしまった。

「もうじゃねぇだろう。まだなったばかりだ」

 土方さんに独り言を聞かれたみたいで、そう言われてしまった。


 前日に明日の昼に近藤さんの道場に顔出すからと言った藤堂さんが同じ日にやってきた。

蒼良そら、元号が変わったけど、この先何かあるの?」

 藤堂さんにそう聞かれた。

「慶応は、この幕府の最後の元号になります」

「幕府は無くなるのかい?」

 藤堂さんは驚いた顔で聞いてきた。

「今すぐにどうってなるわけではないのですが……。慶応は一応4年ぐらいあります。その間に色々なことがあってそれで幕府は無くなります」

「幕府が無くなったら、新選組はどうなる?」

「新選組は、慶応ではなくなりません」

「でも、幕府が無くなったら、新選組も今までのようにはいられないだろう?」

「はい。京から江戸に行って、江戸から会津。会津からほ……蝦夷に行きます」

 北海道と言いそうになってしまった。

 この時はまだ蝦夷と呼ばれていた。

「蝦夷まで行くのか?」

「新政府軍、幕府の代わりに政治をやる人たちに追いかけられるようにしていくのです」

 私の話を聞いてショックを受けたのか、藤堂さんが

「そうなんだ」

 と言いながら下を向いた。

「蒼良だから言うけど、私は新選組の考え方について行けなくなったのかもしれない。人を簡単に斬ることに疑問を持ってしまったのだ」

 藤堂さんの考えが変わることはわかっていた。

 だから、伊東さんが新選組を抜けることになった時、一緒について行ったのだ。

「でも、新選組がそんなことになると知ったら、なんか悲しくなってしまったよ」

 藤堂さんは、本当に悲しいみたいで、うつむいていた。

「私も、慶応で死んでしまうのか?」

 藤堂さんが言ったその言葉に驚いてしまった。

「な、なんで知っているのですか?」

「天野先生に聞いたよ」

 そうだったんだ。

 お師匠様は全部話してしまったんだ。

「蒼良、安心して。私はそう簡単には死なないから。天野先生にも死ぬなと言われたし、自分の死に方まで教わったんだ。それを回避すればいい。だから、大丈夫だよ」

 確かに、そっちに行ったら死ぬとわかっているのに、行く人なんていないよね。

「大丈夫ですよね」

 でも、不安だったから、念を押すように藤堂さんに聞いた。

「大丈夫だよ」

 藤堂さんは意思のある笑顔でそう言ってくれた。

 

 数日後、土方さんと一緒に多摩に来た。

 まず、佐藤さんの家へ挨拶に行った。

 京に行く前もここに泊まったから、今回もここでお世話になるのだろう。

 佐藤さんの家へ行ったら、佐藤さんとおのぶさんが出迎えてくれた。

 家に上がって奥へ行くと、私より少し年下っぽい男の子がお茶を出してきてくれた。

「歳、こいつが源之助だ」

 佐藤さんが紹介してくれた。

 この人が、この前佐藤さんが言っていた息子さんの源之助さんなんだ。

 そう思って、源之助さんがお茶を出してくれるのを見ていた。

「おお、大きくなったな」

 土方さんが源之助さんを見ながら言った。

「立派な男になったじゃないか」

 今度は嬉しそうに佐藤さんに向かって言った。

「そうだろ? 新選組に入れるのにちょうどいいだろう?」

 佐藤さんも嬉しそうに言った。

「ちょっと待って。誰を新選組に入れるつもりなの?」

 話を聞いていたおのぶさんが聞いてきた。

「誰って、決まってるだろ。源之助だ」

 佐藤さんがおのぶさんにそう言った。

「源之助以外いないだろう。おのぶ姉さんが入るのか?」

 土方さんの口から冗談が出てきた。

 それを聞いた佐藤さんと笑っていたけど、おのぶさんの顔は引きつっていた。

「冗談じゃないわよっ!」

 おのぶさんが突然バンッと畳をたたいた。

「じ、冗談に決まってるだろ。新選組に女は入れねぇよ」

 土方さんはお茶をすすりながら言った。

 って、お茶すすっている場合じゃないでしょう。

 おのぶさんを怒らせちゃったんだから。

「そっちじゃないわよっ! 源之助の事よ。誰が新選組に入れるって言った?」

 ジロッと土方さんそっくりな目で土方さんと佐藤さんを交互ににらみつけるおのぶさん。

「俺が言ったんだよ。ここの道場で稽古するなら、京へ行って新選組に入ってきたえられた方が本人の為にもいいし、強くなって帰ってくるぞ」

 佐藤さんがおのぶさんに説明をした。

「源之助なら近藤さんも知っているし、俺も小さいときから知っているからな。悪いようにはしねぇよ」

 土方さんもおのぶさんに言ったが、おのぶさんはまだ怒っているようだ。

「あんたたち、私に黙って源之助を新選組に入れようとしたわけ?」

 おのぶさんのにらみつける目が怖いのですが。

「黙って入れるつもりはなかったさ。ちゃんとお前に話ししてから入れるつもりだったさ」

「姉さんに黙って入れるつもりはなかった。だからこうして今話しているんじゃねぇか」

 佐藤さんと土方さんがそう言ったけど、

「私は反対ですからねっ!」

 と、おのぶさんが言い放った。

「そもそも、源之助は長男なのよっ! この家を継いでもらわないといけないの。新選組なんかに入れるために産んだんじゃないわよっ!」

「姉さん、そりゃひどい言い方だな。新選組なんかとは何だよっ!」

「私から見たら、そうなのよっ! 新選組みたいなところは、次男三男が行くところよ。ねぇ、蒼良」

 こ、ここで私にふられても……

「そんな言い方はねぇだろうっ! って、お前も言ってやれっ!」

 あ、姉と弟でこっちにふってこないでよ。

 佐藤さんの方を助けを求めるように見たけど、さりげなくそらされてしまった。

「どうなのよっ! 蒼良っ!」

「お前はどっちなんだっ!」

 だから、なんでこっちにふってくるんだっ!

「わ、私は……」

 そう言った時に、お茶を入れた後部屋の隅に座っていた源之助さんと目があった。

「げ、源之助さんに聞いたほうがいいと思いますが……」

「それもそうね。どうなの? 源之助っ!」

「そりゃ、新選組に入りてぇよな、源之助」

 今度は、二人が源之助さんの方へ話をふった。

 た、助かったか?

 今度は源之助さんがアタフタとしていた。

「あんた、誰がここまで育てたと思っているのよっ! こういう時は母親の言う事を聞くものなのよっ!」

 父親じゃなく、母親と言うところが、この家の権力のありかを物語っているような……。

「源之助、親なんて関係ねぇっ! 男なら新選組に決まってんだろう」

 土方さんも負けずに源之助さんに言った。

「源之助っ! 新選組に入ったら、勘当するからねっ! 二度と家の敷居はまたがせないよっ!」

「勘当になっても大丈夫だ。俺が面倒見てやらぁ」

 なんか、姉と弟の喧嘩になってないか?

「勘当されるのは困るので……」

 源之助さんは小さい声で土方さんの方を見てそう言った。

「よしっ!」

 おのぶさんがそう言ってガッツポーズをした。

 おのぶさんの勝ちだ。

「くそっ!」

 土方さんが悔しがっていた。

「源之助もそう言っていることだし、この件はこれで終わりでいいだろう」

 ずうっと様子をうかがっていた佐藤さんがそう言ったが、

「いや、これで終わりではないわよっ!」

 と、おのぶさんが言った。

 終わりではないって……まだ何かあるのか?

「まず、あなたはこの家の主だからいいとして……でも、私に黙ってこういう話を進めることは二度とないように」

 おのぶさんが佐藤さんに言い放った。

「わかった」

 佐藤さんはそうとしか言えないだろう。

 おのぶさんの言い方も怖かったし。

「蒼良っ!」

 今度は私か?

「はいっ!」

 怒っているおのぶさんが怖くて思わず背筋を伸ばしてしまった。

「あなたは源之助のことを知っていたの?」

 わ、私か?

 なんといえばいいんだ?

「源之助さんのことは知らなかったですが、隊士にどうだという話は聞いていました」

 素直に言うしかないだろう。

「お前、きたねぇぞ」

 土方さんにそう言われた。

「なにが汚いのですか?」

「源之助のことを知らねぇってことはねぇだろう。何回もここに来ているくせに」

「来ていましたが、知りませんでしたよ」

「そんなことはねぇだろ」

「知らないものは知らないのです」

「あんたたちっ!」

 土方さんと言い合いしていると、おのぶさんが畳をバンッと、また叩いてきた。

「は、はいっ!」

 思わずまた背筋が伸びてしまう。

「それじゃあ蒼良もいいとして、歳っ! あんたは反省が必要ね。反省してきなさい」

 おのぶさんは、表情を変えずに言った。

 それがまた迫力があって怖かった。

「わかったよ」

 土方さんはそう言って立ち上がり、部屋を出た。

 どこに行くのだろう?

 私も一緒に部屋を出たのだった。


 土方さんはそのまま家を出てしまった。

 私も一緒に出た。

「土方さん、どこに行くのですか?」

 土方さんの後を追いかけながら聞いた。

「どこへ行くって、反省しに行くに決まってんだろ」

 反省しに行くって?

「おのぶ姉さんの反省は、家を出て一日自分のしたことについて考えたら戻って来いってことだから、今日はあそこの家には戻れねぇぞ」

 そ、そうなのか?

「お前は大丈夫だから、戻りてぇなら戻っていいぞ」

「そうですか。わかりました。私は戻ります」

 私は佐藤さんの家に戻ろうとした時、

「ちょっと待ったっ!」

 と、土方さんに腕をつかまれてしまった。

「なんですか?」

「お前、戻るつもりか?」

「はい。土方さんが戻ってもいいと言ったので」

「確かにそう言ったが、普通は戻らんだろう」

 そうなのか?

「今日は実家に泊めてもらう。お前も来い」

 というわけで、私も一緒に土方さんと反省することになったのだった。


 土方さんの実家に行くと、土方さんの甥にあたる作助さんが出迎えてくれた。

 土方さんの家は、長男の為次郎さんが目が見えないので、次男の人が継いだのだけど、その人は早くに亡くなってしまい、次男の人の息子さんが家を継いでいる。

 その人が作助さんだ。

 作助さんに挨拶がすんでから、

「源之助さん新選組に入れようとしていましたが、やっぱり跡を継ぐ人は家にいないと帰る家が無くなるので、だめですよ」

 と、土方さんに言った。

「そうだな。これこそ反省だな」

 土方さんは笑いながらそう言った。


 土方さんの実家には、為次郎さんもいるので挨拶をしに行った。

「歳か。待っていたぞ。蒼良もいるな」

 為次郎さんはそう言って迎えてくれた。

 目が見えないはずなのに、私が一緒にいることまでわかっている。

「為次郎兄さんも元気そうだね」

 土方さんはそう言って為次郎さんの手を握った。

「歳も元気そうだな」

 為次郎さんが嬉しそうにそう言った。

「歳に話がある。お前の嫁の話だ」

 ん?なんかいやな予感がするのですが……

「お前がなかなか結婚しそうにないから、わしが勝手に話をまとめたぞ」

 も、もしかして……

「俺はまだ結婚する気はねぇよ」

 土方さんがそう言ったけど、

「いや、今回の嫁はなかなかいい娘だぞ。わしも気に入っている」

 と、為次郎さんも譲らない。

 そして、私の方を見たけど、目が見えないので、視線は合わない。

 やっぱり、前回来た時に為次郎さんと話した話をするのか?

「そ、その話は、志を果たしてからと……」

「なんでお前がそんなことを言っているんだ? それは俺が言う言葉だろうが」

 土方さんが私の方を見た。

 いや、私の話でもあるのですよ。

「それは、みんなに公表する時期の話だろう。歳は知っといた方がいいだろう」

 いや、知らない方がいいです。

 知った日には、げんこつ10発じゃすまないって、前回ここに来た時の思ったような……

「なんなんだ? お前は為次郎兄さんが知っているという気に入った娘を知っているのだな?」

 よーく知っていますよ。

 私以上にその人間を知っている人間がいたら教えてほしいぐらいですよ。

「知っているも何も、その娘は蒼良だからな」

 為次郎さんがそう言うと、土方さんが一瞬動きが止まった。

「はあ?」

 そして為次郎さんに聞き返した。

「わしが気に入った娘で、お前の嫁にと考えている娘は、蒼良だ」

 土方さんが私の方を見た。

「蒼良は男ですよ」

 土方さんは、私の方を見ながら言った。

 なんでばれてんだ?と、その目が語っているのですが。

「わしは目が見えないが、人には見えないものが見えているつもりでいる。だから、蒼良が女だと言う事もすぐにわかったぞ」

 そう、心の目があるらしい。

 それでばれたのだ。

「それはわかった。で、なんで蒼良が俺の嫁なんだ?」

 なんでだ?と、私を見た土方さんの目が言っていた。

「それは、わしが気に入ったからだ。いいだろ?」

 絶対にげんこつ100発だな。

 そう思ってげんこつを受ける心構えをしていると、

「わかった」

 という返事が聞こえた。

 えっ?

 その返事が信じられなくて、思わず土方さんを見てしまった。

 すると、土方さんと目があった。

「ただ、今すぐじゃねぇ。俺の仕事が終わったら考える」

「それでいいぞ。蒼良も、自分が女の戻った時と言っていたからな」

 それでこの話は終わったのだった。

 土方さん、げんこつどころか何もなかったのですが、おのぶさんに怒られたことがそうとうショックだったのかな。


 土方家の客室に移動した。

 今日はここで寝るらしい。

「お前、為次郎兄さんにばれてたこと俺に言わなかっただろう?」

 あっ!

「忘れてました」

 だって、あの時は江戸から京に帰ってくる間も色々とあったから忘れていたのだ。

「こんなことになっていたことも知らなかったぞ」

 こんなこととが、私が土方さんの嫁候補になっていたことだろう。

「す、すみません」

 それは怖くて言えなかった。

 忘れていたのも半分あるけど。

「土方さん、怒らないのですか?」

「なにをだ?」

「勝手に自分の結婚相手を決められちゃって。しかもその相手は私だし」

 土方さんから見れば、不満いっぱいだろう。

 そう思っていたら、ポンッと頭に手がのせられた。

「為次郎兄さんが何と言おうと、自分の結婚相手ぐらい自分で決める。お前が心配することじゃない」

 そ、そりゃそうだよな。

 なんか少し寂しいような感じがするのは気のせいか?

「その相手は、別にお前でも構わないぞ」

 えっ?

 土方さん、それはいったいどういう意味でしょうか?

「ま、今すぐどうのこうのって話じゃねぇからな」

 ま、確かにそうだな。

「私もまだ20歳ですから、結婚とか考えられないです」

「いや、もう20歳だろう。充分行き遅れているぞ」

 この時代に来てその言葉をよく言われるのですが……。

「ま、嫁の行くあてが無ければ、俺がもらってやる」

 土方さんは優しい笑顔でそう言った。

 その言葉にどう返していいかわからず、私はうつむいていたのだった。

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