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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治2年3月
174/506

またまた温泉騒動

 中山道を江戸に向かって上っていくと、下諏訪宿と言うところがある。

 中山道で何が楽しみかって、この宿の温泉でしょう。

 過去に温泉で色々あったけど、それだけでめげてたまるかっ!

 今度こそ、平和に温泉に入るぞ。

「おい、顔が笑っているぞ」

 土方さんに言われた。

「温泉が近づいてきました」

「お前っ! 入るつもりか?」

 もちろんそのつもりだが……。

 前回は、夜遅く誰も入らないであろう時間に入ったら、勝手に男湯と女湯が入れ替わっていて、大変なことがあった。

 だから、今回は早めに入ろうと思っていたけど……。

 早めがだめなら遅めでもいいけど……。

「温泉、いいじゃないかっ!」

 伊東さんがそう言ってくれた。

 いつもはあまり好きじゃないけど、こういう時はちょっとありがたいと思ったりする。

「みんなで一緒に入って裸の付き合いも大事だ。蒼良そら君とは裸で腹を割って色々話したいしな」

 いや、いいです。

 少しでもありがたいと思った私がばかだった。

 裸の付き合いって、この変態がっ!

 でも、伊東さんは私のことを男だと思っているってことだよな。

「こいつは、だめだ」

 土方さんが、あわててそう言った。

「なんでだ? 男同士の付き合いもたまにはいいだろう」

 その付き合いができないのだから仕方ない。

「蒼良は、人には見せられないやけどの痕があるから、無理です」

 斎藤さんがそう言ってくれた。

 いつの間にか、私は体にやけどの痕があって、着替えも人に見せないと言われている。

「なに、やけどの痕ぐらい気にすんな。男だろう」

 伊東さんはバンッと力強く背中をたたいたので、むせてしまった。

 男じゃないから、女だから。

「とにかく、こいつはだめだ。いいな」

 最後のいいなは、私の方を睨みつけて土方さんが言った。

 はい、大人しくしています。

 温泉は入れないのかなぁ。

「せっかく一緒に入れると思ったのに、残念だなぁ」

 私は伊東さんとは入りたくないですから。

 私のことを男だと思っているからそう言えるけど、女と知っていて言っていたら、たんなる変態だからね。

 男だと思っていることを願っているけど。


 下諏訪宿に着いた。

 私以外の3人は、荷物をおろして少し休むとすぐに温泉に向かった。

 いいなぁ、私も行きたいなぁ。

 でも、まさか一緒に入るわけにもいかないしなぁ。

 ゴロンと寝転んだ。

 何もすることがない。

 暇だ。

「お持ちしました」

 寝転がっていると、部屋の外からそんな声が聞こえてきた。

 何をお持ちしたんだ?

 襖を開けると、宿の人が数本のお銚子とおちょこをお盆に入れて持っていた。

「頼まれていたものをお持ちしました」

 えっ、誰か頼んだのか?

 もしかして、一人で部屋にいたら寂しいだろうと思って、誰かが頼んでくれたのかもしれない。

「ありがとうございます」

 笑顔でそう言って受け取った。

 おちょこが使わないのに数個あるのが気になるけど、一人だし、おちょこを使うのもめんどくさい。

 斎藤さん流、お銚子から直接飲みをした。

 私、一応女だから、こんな姿人に見られた日には、お嫁に行けないよなぁ。

 と思いつつ、お銚子を空にしていった。

 数個あったお銚子は、あっという間にすべて空になった。

 おかわりってだめなのかな?

 襖をあけて廊下をのぞき込むと、ちょうど宿の人が通りかかったので、おかわりを頼んだ。

 宿の人はすぐに持ってきてくれた。

 お代わりしちゃったけど、大丈夫だよね。

 そんなことを数回繰り返した。

 だって、すぐにお酒が無くなっちゃうんだもん。

 そのうち土方さんたちが帰ってきた。

 湯上りって感じで気持ちよさそうだ。

 私も温泉入りたかったなぁ。

「お、お前っ! 何酒飲んでんだ?」

 あれ?

「土方さんたちが、一人で留守番している私に同情して頼んでくれたのでは?」

「そんなことするわけねぇだろうがっ!」

 そ、そうなのか?

 じゃあこの酒は?

 たまたま通りかかった宿の人に土方さんが聞いた。

「あっ、間違えたわ」

 えっ、間違い?

「隣の部屋に持って行くやつを間違えてこちらに持ってきちゃったみたいだわ」

 宿の人が大量に散らかったお銚子を片しながら言った。

「でも、間違えたのは数本で、後はこちらの方が追加で注文していたけど」

 宿の人がそう言うと、3人の視線がいっせいに私に向かった。

 えっ、私が悪いのか?

「最初の数本のお代はけっこうですが、残りはいただきますね」

 そう言う非情な言葉を残して宿の人が去っていった。

「残りの方が多いですね」

 私がそう言うと、

「飲みすぎだ。俺でもこんなに飲まん」

 と、斎藤さんに言われてしまった。

「蒼良君も間違えたのだろう。仕方ないな」

 伊東さんは笑顔でそう言ってくれた。

「お前、今回の宿代ものすごく高くつくからな」

 土方さんにそう言われてしまった。

 けっこうお銚子が散らかっていたからなぁ。

 本当に高くつきそうだ。

「か、体で払いますからっ!」

「な、なに言い出すんだっ! ばかやろう」

 土方さんはなぜか照れて赤くなっていた。

「どんなお仕事でも頑張って働くので、それで返します」

「そ、そう言う意味か」

 土方さんは、どういう意味だと思ったんだ?

 私たちのやり取りを見て、伊東さんと斎藤さんが笑っていた。

 何がおかしいんだ?


 みんなで夕飯を食べた。

 温泉の後は酒だろうと言う事になり、結局、斎藤さんと伊東さんがお酒を注文し、それを私もいただいた。

 もう誰の酒代かわからないから、これでさっきの一人で飲んだお酒はチャラになるかな。

「お前、飲みすぎだろう」

 土方さんがそう言ってきた。

「それが、全然酔わないのですよ。土方さんはすぐに酔いますよね」

「うるせぇっ! 酒が飲めるからって、いいことはないぞ」

 土方さんは飲めないからそう言うんだ。

 そう思っていたのが顔に出たのか、

「お前の場合は飲みすぎだ。いいことはないぞ」

 と、斎藤さんにも言われてしまった。

 そんなに飲んだかなぁ。

 確かに、大量のお銚子が散らかっていたけどさぁ。

「少し控えた方がいいですかね」

 ちょっと気になってしまい、聞いたら、

「少しどころじゃない」

 と、声をそろえて斎藤さんと土方さんが言った。

「ま、芹沢さんみたいにならないだけいいけどな。でも、飲みすぎも体に悪いぞ」

 確かに、土方さんの言う通りだ。

 と、一応思うのだけど、お酒がおいしくて止まらない。

 芹沢さんみたいに酔わないから、大丈夫。

 お師匠様だって日本酒は強いみたいなことを言っていたし、しかも一応長生きしているし、大丈夫だろう。

 再び飲み始めた私を見て、土方さんはあきれた顔をしていたのだった。


 夜も更けてきた。

 伊東さんも酔いつぶれたのか、寝てしまった。

 お酒が強い斎藤さんと、一滴も飲んでいない土方さんはまだ起きていた。

 そろそろ温泉に行っても大丈夫かな。

 遅い時間だし、この時間に入っている人はそういないだろう。

「私、温泉に行ってきます」

 そう言って立ち上がると、斎藤さんと土方さんが信じられないという顔で見てきた。

「お前、酔っているのか?」

 土方さんに聞かれた。

「酔っていませんよ」

「酔っ払いは、たいていそう言うな」

「本当に酔っていないのです」

「こんだけ飲んで酔ってねぇって、相当強いな」

 お師匠様に似たのです。

 前にそんなことを言っていたから。

 そう言えば、ここの温泉、夜遅くなると男湯と女湯が入れ替わるんだよなぁ。

「土方さんか、斎藤さん。私が温泉に入っている間、外で見張っていてもらえませんか?」

「なんでだ?」

 土方さんは口に出しきて聞き、斎藤さんは顔で、なんでだ?と聞いていた。

「ここ、夜遅くなると、男湯と女湯が入れ替わるのですよ。前回それでえらい目にあいましたので、見張ってもらって、入れ替えようとしていたら、まだ入っていますと宿の人に一言言ってもらいたいのですが」

「お前、前回えらい目にあったと言ったが、どんな目に合ったんだ?」

 あれ?土方さんに話していなかったか?

「私が入っているときに、永倉さんと武田さんが入ってきたのですよ」

 その話をすると、斎藤さんが飲みかけのお酒をブーッと吹き出したのだった。

 斎藤さん、お酒を吹き出すなんて、もったいないぞ。

「お、お前っ! そんなこと全然言っていなかっただろうが」

「あれ? 言いませんでしたか?」

「初めて聞いたぞっ! で、新八と武田にばれたのだな」

「それが、ばれなかったのですよ」

 信じられないかもしれないけど、ばれなかったのだ。

「なんでだ?」

 さすがに斎藤さんも不思議に思ったみたいで、聞いてきた。

「温泉の湯が白く濁っていたので見えなかったのと、湯気もあったので、全体的に視界も悪かったのが幸いしたみたいです。お師匠様もいたので、何とかなりました」

「と言う事は、お前は新八と武田と一緒に温泉に入ったのだな」

 土方さんがそう言ってきたので、

「なんか、言い方がいやらしいですよ」

 と言ったら、

「大事な所だろうがっ!」

 と言われてしまった。

 そ、そうなのか?

「あいつらも気が付かなかったと言う事は、お前に色気がないか、あいつらが鈍感かどちらかだな」

 斎藤さんが私を見て笑いながら言ってきた。

 それは、向こうが鈍感だったのですよ。

 私に色気がないっていう方が正解な気もするけど。

「とにかく、行ってきますっ! 誰か付き合ってくださいよっ!」

 そう言うと、なぜか二人とも立ち上がった。


 付き添いは一人でよかったのに、なぜか二人とも来てくれた。

「俺は温泉入るのはやめた方がいいと思うけどな」

 土方さんがそう言った。

「なんでですか?」

「酒飲んだ後温泉に入るなって、一般的に言うだろう」

「それは酔っている場合でしょう。私は全然酔っていないから大丈夫です」

「倒れても知らんぞ」

「大丈夫です。それでは行ってきます」

 二人に挨拶をして、脱衣所に入った。


 着物を脱いで温泉に入った。

 とっても気持ちよかった。

 フウッとため息をついて上を向くと……

 あれ?天井が回っている?

 グルグルと天井が回っているよ。

 そのまま意識もなくなったのだった。


 気がついたら部屋にいて、土方さんと斎藤さんがのぞきこんでいた。

「あれ?」

「あれじゃねぇっ!」

 上から土方さんに怒鳴られた。

 ビビビと頭にひびいた。

「酒飲んで温泉に入ったから、酔いが回ったらしい」

 斎藤さんが説明してくれた。

「でも、酔ってなかったのだけど……」

「酔っていようが何だろうが、酒を飲んだら温泉はだめに決まってるだろ。まったく」

 土方さんが私のおでこにのせてあった、濡れた手拭いを再び濡らして頭にのせてくれた。

「あ、気持ちいいです」

「気持ちいいじゃねぇっ! 俺と斎藤しかいねぇからよかったけどな。これが他の隊士がいる前だったら、とんでもねぇことになっていたぞ」

 土方さんがそう言うと、ゴソゴソと音がし、

「私もいますよ~」

 という声がした。

 い、伊東さん、起きていたのか?

 しかし、またゴソゴソと音がした。

「寝ぼけているらしい」

 斎藤さんが教えてくれた。

 び、びっくりしたなぁ。

「紛らわしい奴だな」

 土方さんも驚いたみたいで、眠っている伊東さんをにらんでいた。

「いいか、もうちょっと注意しろ。そんなことしているから、新八と武田と一緒に温泉に入ることになるんだ」

 うっ……そうなのか?

「あの……」

「なんだ?」

「頭の上で怒鳴らないでください。頭にひびいて痛いです」

 と私が行ったら、斎藤さんが笑い出した。

 そして、土方さんは顔をヒクヒクと引きつらせていた。

「飲みすぎだっ! 反省しやがれっ!」

 最後にわざと私の頭の上で大声を出した土方さん。

 ものすごく頭にひびいた。

 思わず頭を抱え込んでしまった。

 その様子を見て斎藤さんは笑っていた。


 次の日、みんな私が二日酔いになっているだろうと思ったいたらしいが、私は何ともなかった。

「お前の体どうなってるんだ?」

 土方さんが不思議な顔をしていたのだった。

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