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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治2年3月
171/506

西本願寺へ

 いよいよ、西本願寺へ移転する日になった。

「お前、荷物が多いぞ」

 土方さんに言われてしまった。

 京に来た時は着の身着のままだったのに、いつの間に荷物も増えた。

 これでもいらないものは捨てて少なくしたのに、まだ多いと言われてしまった。

 土方さんの荷物を見ると、私の半分ぐらいしかなかった。

「なんでそんなに荷物が少ないのですか?」

 いくらなんでも少なすぎないか?

「必要なものがあれば、また買えばいいんだ」

 そりゃそうだけど……。

「お前は、いらねぇ物が多すぎんだ。これなんかいらねぇだろう」

 斎藤さんと藤堂さんからもらったかんざしを私の荷物から出してきた。

「これはもらいものだから捨てられませんよ」

「またもらえばいいだろう」

 そんなこと出来るわけないだろう。

「俺なんかみんな捨てたぞ」

「なにをもらったのですか?」

「女から色々だ」

 確かに、土方さんはもてるしなぁ。

 いつだかも、自分あての恋文を実家に送っていたしなぁ。

 もらった方も迷惑だって話だよ。

「土方さんは、モテるからいくらでももらえるじゃないですか」

「よし、わかった。俺が同じかんざし買ってやるから、捨てろ」

 それも、なんか同じような感じがするのですが……。

「とにかく、人からの貰い物は捨てれません」

「それだから荷物が減らんのだ」

 よけいなお世話だっ!

「これでも減らしたほうなんですよ。西本願寺は広いからいいじゃないですか」

 広いんだから、多少荷物が多くても害にならんだろう。

「よし、俺が半分持ってやる」

 土方さんが珍しく優しいぞ。

「持ってやると言いつつ、途中で捨てようとか考えてないですよね」

「お前っ! 人の親切をっ!」

 本当に親切だったんだ。

「珍しく優しいので……。すみません」

「そんなに荷物が多いと、西本願寺まで運べねぇだろうが」

 えっ、運ぶ?

「自分で持って行くのですか?」

「あたりめぇだろう」

 この時代にトラックなんてないから、引っ越しのトラックははなからあてにしていなかったけど、大八車とかがあってそれで運んでくれるのかと思っていた。

「一人でそんなに持ってけねぇだろう」

 確かに。

 大八車をあてにしていたから、一人で運べる荷物じゃない。

「すみません、お願いします」

 素直に土方さんに頼んだ。

「そこにまとめとけ」

 そう言われて荷物をまとめ、半分だけ自分で持って運ぶことにした。


 外に出ると、八木さんがいた。

「八木さん、短い間でしたが、お世話になりました」

 私は頭を下げた。

「あんただけや、そうやって挨拶したの」

 そ、そうなのか?

「他の人たちは、挨拶なしやで。巡察に行くときのように去ってったで」

 そうなんだ。

「みんな挨拶するのが照れくさいんですよ。心の中では感謝してると思いますよ」

 うん、そう思いたい。

「そうなん? 信じられへんわ。あんさんも、屯所が移転して広うなるさかい、ますます励まなあきまへんで」

「そうですね、頑張ります」

「今度やお寺さんなんやろ? あんまり野蛮なことばかりしとると、追い出されるで」

 八木さんもしゃれにならないことを……。

 現に数年後、西本願寺が不動堂と言うところに屯所を用意してくれて、追い出されるのだけど。


蒼良そら、荷物が多いね」

 西本願寺へ行く途中、沖田さんに言われた。

「これ、半分なんですが」

「えっ」

 沖田さんが驚いて絶句していたが、何か悪いことでも言ったか?

「これでも減らしたのですが」

 そう言いながら沖田さんを見ると、ほとんど荷物がない。

「沖田さん、荷物は?」

「ああ、置いてきた」

 ええっ、置いてきた?

「八木さんとこから近いし、いつでも取りに行けるから置いて来た」

 それって、八木さんに迷惑じゃないか?

「荷物は少ない方がいいからね」

 そりゃそうだけど、置いてくるのもどうかと思うが。

「八木さんに迷惑がかかりませんか?」

「大丈夫だよ。そう言えば、こんなことがあったんだけど」

 そう言いながら、沖田さんは笑った。

 面白いことってなんだ?

「近藤さんが、八木さんに今まで世話になった謝礼として5両八木さんに渡したんだ。ちなみに、隣の前川さんには10両渡したらしいんだけどね」

 5両と10両の差って、どこでついたんだ?

「八木さんが、今までの家賃にしては少ないって言っていたよ」

 そりゃそうだろう。

 私だったら、訴えている。

 この時代、訴えるところがないけどね。

「そう言えば沖田さん、最近体の調子はどうですか?」

 私が聞くと、沖田さんはまた?って顔をした。

「沖田さんが心配なんですよ」

 いつも聞くねと言われる前に、言ってやった。

「それがさ、蒼良からもらった毒薬を飲んだら調子いいんだよね」

 毒薬ってなんだ、毒薬ってっ!

「一応毒薬じゃないですよ」

「でも、色が毒薬っぽかったじゃん」

 沖田さんから見れば、そう見えるのだろう。

 普通のカプセル薬なんだけどね。

「でも、あれ飲んでから咳があまり出なくなったよ」

「それはよかったです。でも、労咳は治っていないと思いますから、養生してくださいね」

「治るわけないじゃん。一応不治の病だしね」

「でも、治った人もいるらしいですよ」

「それは、本当に養生した人だよ。新選組にいる限り、治ることはなさそうだね」

 そ、そうなのか?

「今は落ち着いているから。薬、ありがとう。今回は役に立ったよ。いつも何かわからないものをよく飲まされるからね」

 それは一度だけだってばっ。


 沖田さんと話しながら西本願寺に着くと、大量の酒樽が置いてあった。

「何だこれ?」

 沖田さんが酒樽を見て言った。

「酒樽ですよね」

 しかも大量。

「まいった、まいった」

 近藤さんが奥から出てきた。

「どうしたのですか?」

 聞いてみると、近藤さんは恥ずかしそうにしていた。

「謝礼を5両送ったのに、八木さんから引っ越し祝いをこんなにもらってしまって、恥ずかしくて顔から火が出そうだ」

 近藤さんは顔を赤くして言っていた。

 本当に火が出そうだ。

「なんか、八木さんらしいや」

 沖田さんは笑っていた。

「部屋に荷物を入れて、掃除しないとな。ここはたまにしか使われていなかったみたいで、ほこりだらけだ」

 そうなんだ。

「僕は病人だから休んでるね」

 近藤さんに聞こえない声で沖田さんが言った。

 こんな時だけ病人になるとは、ずいぶん都合のいい病人だ。

「だめです。自分の部屋ぐらいは掃除しましょう」

 私は沖田さんの手を引いて中に入ったのだった。


 中はとっても広かった。

 縁側も長くて大きいし、これならいくら隊士が増えても対処できそうだ。

 しかも、私に与えられた部屋は、8畳ぐらいある。

 一人でこんなに使っていいのかしら。

 嬉しくて顔がにやけてしまう。

「おい、手伝ってくれっ!」

 表からそう言う声がしたので、部屋を後にした。


「縁側が広いっていうのもなんだな」

 永倉さんが、不服そうに言っていた。

「広くていいじゃないですか。日向ぼっこが出来ますよ」

「蒼良はのんきだな。これを掃除しろって言われたんだぞ。こんな広い縁側、一日で終わらないだろう」

 広いといいこともあるけど、悪いこともあるものなのだ。

 縁側は長細いから……

「雑巾がけレースやればあっという間ですよ」

「雑巾がけれぇす?」

 レースって言葉はまだなかったか。

「永倉さん、適当に隊士を集めて来てくださいよ。あっという間に終わりますよ」

「何考えてんだかわからんが、呼んでくればいいんだな」

 しばらくすると、原田さんと数人の隊士たちが来た。

 縁側の端で横一列に並んだ。

「1往復で誰が一番早いか競争すれば、あっという間に終わりますよ」

「そりゃ面白そうだな」

 原田さんが列にならんで言った。

「ちょっと待て、誰が一番か賭けをしよう」

 永倉さんが楽しそうに言った。

「賭けをして大丈夫ですか?」

 ばれたら怒られそうだけど。

「どうせ掃除するなら楽しい方がいいだろ」

 永倉さんはそう言った後、賭けをするのに他の隊士たちを呼んできた。

「誰か勝つと思う?」

「俺は原田先生かな」

 そんな声がひそひそと聞こえてくる。

 気がつけば、縁側の周りには人がたくさん集まっている。

「こんなに大ごとになって大丈夫ですか?」

 いつの間にか賭けの規模も大きくなっているような……

「そんなこと怖がってたら、何もできないだろう」

 永倉さんの言う通りだけど。

「よし、賭けは締切だ。蒼良、しきってくれ」

 えっ、私がしきるのか?

「蒼良が言い出したから、蒼良がしきった方がいいだろう」

 原田さんにも言われ、私は雑巾もってかまえている人たちの前に立った。

 よーいスタートだと、スタートと言う単語がこの時代にはないと思うから、これがいいかな。

「私がかけ声を言って雑巾をあげるので、そしたら一斉に雑巾がけ始めてくださいね。1往復して、最初に帰ってきた人が優勝です。それでは行きますよ」

 私は一回そこで話をきって深呼吸をした。

「よーい、どんっ!」

 この単語ならあるだろうと思って、どんっ!にした。

 言ったと同時に雑巾を上にあげると、一斉にスタートした。

「いけいけっ!」

「いいぞいいぞっ!」

 応援する人も、お金がかかっているので必死だ。

 雑巾がけレースでここまで熱くなるのもどうかと思いつつ、選手たちを見守る私。

 縁側も綺麗になるし、みんなが楽しいし、一石二鳥だ。

 選手たちはUターンし始めた。

 みんな疲れてきたらしく、顔が引きつっているけど、スピードはそのままだ。

 この時代の人たちって、足腰が結構強いよなぁ。

 乗り物なんてないもんね。

 そして、選手たちはゴールした。

「どっちが早かった?」

 ゴールしたと同時に原田さんが聞いてきたけど……。

「永倉さんと同着に見えましたが……」

「なに、俺が早かったか?」

「なに聞いてたんだよ、同着だってさ」

「はあっ?」

 そう言うと、永倉さんは疲れたらしくて、そのまま仰向けに寝転がってしまった。

 ビデオ判定とかってあればいいのだけど、この時代ないしなぁ。

「賭けどうすんだ?」

「そうだ、金かけてんだぞ」

 そんな声も聞こえてきた。

「もう一回やりますか?」

 疲れ切っている二人に思い切って聞いてみた。

「はあっ?」

 二人からそう言われてしまった。

 他の人たちも疲れているみたいで、恨みがましい目で見られてしまった。

「でも、決着つかないと、周りも納得しないみたいですし」

 現に、賭けはどうすんだ?とか騒いでいるし。

「そもそも、新八が賭けをしようっていうから悪いんだ」

「左之は、なんでも俺のせいにするな」

「まあまあ二人とも、落ち着いてください。もう一回が嫌なら、じゃんけんとか別なことをすればいいじゃないですか」

 私がそう言ったけど、二人の顔が引きつっている。

 なんでそんなにひきつっているんだ?

 そう言えば、周りもにぎやかだったのがいつの間にか静かになっているぞ。

「そうだな、でも今はそう言う時間じゃねぇだろう」

 私の後ろから声が聞こえてきた。

 ん?この声は……

「あ、土方さん」

「あ、土方さん。じゃねぇだろうがっ! 遊んでいる暇があったら掃除しろ、掃除っ!」

「いや、遊んでいないですよ、ちゃんと掃除をしていましたよ。ね、原田さんと永倉さん」

 原田さんと永倉さんがいた方を見ると、いつの間にかいなくなっていた。

 あれ?どこ行ったんだ?

「俺から見りゃ、遊んでいるようにしか見えんが」

 もしかして、逃げたか?

「縁側が綺麗になっているじゃないですか」

「掃除する場所は縁側だけじゃねぇぞ」

 ごもっともです。


 何とか掃除を終えた。

 屯所が広くなったと言う事は、掃除する面積も増えたってことだ。

 今日は疲れたなぁ。

 でも、今日から一人でこの部屋独占。

 えへへ。

 一人で部屋を満喫していると、土方さんが入ってきた。

 なんで土方さんが?

 そう思ってみていると、土方さんは無言で文机の方へ行き、そこで書き物を始めた

 あれ?ここは私の部屋じゃないのか?

「あの……ここは私の部屋ですよね」

 恐る恐る聞いてみた。

「そうだ」

 そうだよね、そりゃ間違いないよね。

「なんで土方さんもいるのですか?」

「なんでって、俺の部屋だからに決まってんだろ」

 ん?土方さんの部屋でもあって、私の部屋でもあるってことは……

「もしかして、また相部屋ですか?」

「お前、この部屋を一人で使おうって考えてたのか?」

 考えてましたが……。

「誰もお前に個室をやるって言ってないぞ。文句があるなら、他の隊士たちと一緒の部屋で寝起きしろ」

 他の隊士たちは、宴会場のような広い部屋にみんなで雑魚寝だ。

「いや、ここで大丈夫です。誰も嫌だなんて言ってないじゃないですか。アハハ」

 私の個室は夢で終わったのだった。

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