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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
文久3年3月
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藤堂さんの出生の秘密

 江戸から来た浪士組が帰った頃は、もう春真っ盛りだった。

 桜の季節も終わり、ツツジやフジの季節になっていた。


 壬生浪士組は、京の治安を守るのが仕事で、今で言う警察のようなものだ。

 でも、京に出てきたばかりで、治安を守るどころか、街をよく知らない。という訳で、今日の街を各々散策することになった。

 と言っても、沖田さんは、散策と称してちゃっかり観光しているし、島原方面に行っている人もいるし、色々だ。

 ま、京の街は碁盤の目のようになっているから、方角さえ覚えていればなんとかなるのだけど。

 でも、せっかくだから、私もあっちこっち散策してみた。

 誰か誘おうと思ったけど、手の空いている人が誰もいなかったので、一人でぶらぶらすることになった。


 浪士組の時にお世話になった八木さんの家がそのまま屯所になった。

 その屯所からふらふらと出ていくと、近所に大きなお屋敷があり、そこの塀に藤堂さんがいた。

 一人でさみしいなぁと思っていたから、ちょうどいい。

「藤堂さん!」

 大きな声で呼んで近づくと、とても驚いたような顔をされた。

「何驚いているんですか?」

 近づいて話しかけると、シーッ!と言って私の口を手でふさいできた。

 わわっ、何?私、何か悪いことをしたのかな?

 藤堂さんは、塀の影からそのお屋敷の門というか、出入口を見ていた。立派なお屋敷なので、出入口も立派なものだった。

 その出入口から、人がたくさん出てきて、その中にこのお屋敷の主だろうか、その人たちに囲まれるように馬に乗ってさっそうと出てきて去っていった。

 そして、人が去っていくと、元の静けさが戻ってきた。


 藤堂さん、いつまで人の口をふさいでいるのだろう。

 私の無言の訴えが届いたのか、

「あ、ごめん」

 と言って、手をどかした。

「どうしたのですか?」

 と私が聞いたら、

「まさか、こんなに近くだったとは……」

 と、つぶやいていた。

 確かに、屯所からものすごく近い。歩いても二~三分ぐらい。屯所のすぐ裏と言ってもいい。

「確かに、近いですね。屯所からすぐでしたよ。何かあったのですか?」

「できれば、ここと関わり合いたくなかったんだけど」

 関わり合いたくないって、

「何か悪いことでもしたのですか? 例えば、障子に穴あけたとか」

 よく漫画で、野球をしててガラスを割って逃げたとか、そういうシーンがあって、それを想像したのだけど、ガラスって、この時代にはないよね。だから、障子にしてみた。

「またなんで、そんなことを……」

 違うのか?じゃぁ、なんだろう?でも、話したくなさそうだった。

「あ、無理しなくてもいいですよ。人間、話したくない過去の一つや二つ、誰でもありますからね。一緒に散策でもしませんか? 一人で寂しかったんです」

 私が誘ったら、いいよ、と言って応じてくれたので、一緒に散策することになった。

 散策しながらおもむろに藤堂さんが話してきた。

「さっきのお屋敷から出てきた人、私の兄なんだ」

「えっ、お兄さんなのですか? うーん、あまりよく見なかったから、似ているかどうかわかりませんが。まさか、沖田さんみたいに、お姉さんの旦那さんなんてオチはないですよね」

「えっ、オチ?」

「あ、それは気にしないでください」

「異母兄弟かな。私は妾の子。兄は正室の子です」

「ああ、よくある話ですね」

「えっ、よくある話なの?」

 藤堂さんに聞き返されてしまった。

 この時代にはよくあることなのではないの?

「よくわかりませんが……。でも、奥さんが沢山いるならよくあることなのではないのですか?なんか身分の高そうな人だったし」

「一応、伊勢津藩の大名だよ」

「ああ、だからお屋敷が大きいのですね。ということは、伊勢に行ったら、お城もあるのですか?」

「行ったことないけど、あると思う」

 ふうん、と相槌をうって、話が終わった。

 と思ったら、藤堂さんが不思議な顔して話しかけてきた。

蒼良そらは、なんとも思わないの?」

「えっ、何がですか?」

「私は、世間で言うと、ご落胤らくいんです」

「なんか、羊羹ようかんみたいな名前ですね。その、ご落胤だと、何かあるのですか?」

「羊羹……」

 そうつぶやいてから、笑いのツボに入ったらしく、藤堂さんは笑っていた。何かおかしいことでも言ったかな?

「普通、ご落胤と聞くと、好奇の目で見られるんです。ああ、あそこの藩の、みたいな」

 それは、ある芸能人が、妻もいるのに愛人がいて、その妻との間にも子供がいて、愛人の間にも子供ができて、その愛人の子供のような感じなのかな?それなら好奇な目で見るよな。

 週刊誌もトップで取り上げちゃうと思うし。

 でも、藤堂さんの場合はどうなんだろう?そんな感じなのかな。

「蒼良は本当に変わっている」

「その、ご落胤がどういうものかいまいちよくわからないのですが。でも、ご落胤であろうと羊羹であろうと、藤堂さんは藤堂さんですよね。なら、いいじゃないですか」

 私がそう言うと、驚いた顔していた。そんなに驚くようなことを言ったかな?

「そんなこと言われたの、初めてだな。羊羹と一緒にされたのも、初めてだ」

 そう言って、また笑い始めた。

「だって、どこどこ藩の妾の子と言われても、何かピンとこないし、それに、近い将来、藩なんてなくなるかもしれないですよ。そしたら、藩主もただの人ですよ」

「蒼良はすごいことを言うね」

 だって、現に無くなって、そんなのあまり関係のない世の中になっているし。

 そういえば、なんで屋敷をのぞいていたのだろう。それを聞いたら、

「ちょっと気になったんだ」

 と言った。

「何が気になったのですか?」

「自分の兄が何をしているか」

「何してるって、普通に生活してそうでしたよ」

「そりゃ、しているだろうけど……そうじゃなくて、半分血がつながっているからどうも気になるんだよね。自分は妾の子だし、兄は正室の子で跡継ぎだし」

「うーん、私にはよくわからないです。でも、藤堂さんは、自分がお兄さんのような立場ならって思っていますか?」

「どうなんだろう。羨ましくもあるし、その逆もあるし」

「でも、現に藤堂さんは、跡継ぎじゃないし、お屋敷じゃなく、ここにいますよね」

「うん、そうだね」

「じゃぁ、幸せになればいいのです」

「えっ?」

「逆に、お兄さんの方が藤堂さんのことを羨ましがるぐらい、幸せになって、楽しく毎日過ごせたらいいんじゃないですか? それに、私から見たら、お兄さんより、藤堂さんの方は幸せだと思いますよ」

「なんで?」

「確かに身分は高いけど、周りに友達がいるのかな? 確かに、周りにたくさん人はいるけど、友達じゃないですよね。それって寂しくないですか」

 お師匠様が言っていた。人間、友人の数が多ければ多いほど幸せだし、恵まれている証拠だ、って。

 だから、お師匠様はたくさん友達がいて、顔が広い。

「そういう考え方があるんだ」

「私だったら、身分より友達を取ります。友達がたくさんいれば楽しいじゃないですか。現に藤堂さんの周りにはたくさんいますよね」

「うん、確かに」

 仲のいい永倉さんの顔を思い浮かべているのかな。

「蒼良、話ができてよかった。何か吹っ切れたよ。ありがとう」

「なんだか、よくわかりませんが、悪いことしているわけじゃないんだから、コソコソしないほうがいいですよ。堂々としていればいいんです」

「そうだね。私はたまに何か考え込んで悩んだりしてしまうから、そんな時はまた蒼良と話していいかな」

「もちろんです。友達ですから」

「ありがとう。それにしても、ご落胤と羊羹を一緒にする人間を初めて見たよ」

 よっぽどそれがツボに入ったらしく、藤堂さんは、思い出しては笑っていた。

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