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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治2年3月
169/506

土方さんに彼女が出来た?

 3月になった。

 現代に直すと4月になる。

 桜も咲き始め、日に日に春らしくなっていく今日この頃。

 そんな感じで春を満喫していると、突然、近藤さんに呼ばれた。

 何だろう?

 またなんか用事を頼まれるのかなと思って、近藤さんの部屋に行った。

 当然、土方さんもいると思っていたが、土方さんはいなくて、その代わりに源さんがいた。

蒼良そら来たか」

 近藤さんがそう言ってきた。

 土方さんがいないけど、後で来るのかな?

「話を始めるか」

 土方さんがまだ来ないのに、近藤さんは話し始めた。

「土方さん来ていないのですが」

 私が言うと、

「いいんだ。今日が歳は抜きだ」

 と、近藤さんが言った。

 本当にいいのか?

 後で怒られても、知らないぞ。

 って、近藤さんが土方さんに怒られているところって、見たことないなぁ。

「本当にいいのですか?」

 私は念を押すように聞いた。

「今日は、歳のことだから、いない方がいいんだ」

 源さんがそう言った。

 土方さんのこと?

「土方さんに何かあったのですか?」

 なにがあったんだ?今日の朝見かけたけど、特に異常はなかったぞ。

「実はな、蒼良には非常に話しづらいことなんだが……」

 近藤さんが本当に話しづらそうに言った。

 そんなに話しづらいのか?

「どうも、歳に女が出来たらしいんだ」

 ええっ!そ、そうなのか?そんな気配全然しなかったぞ。

 それと同時に、心がズキッとした。

 なんだ、この痛みのような感じは。

「蒼良には言いづらかったんだが、歳は男だからな。女を好きになると言う事は普通なことだから、許してやってほしい」

 あ、近藤さんには、まだ私が女だってばれてないんだ。

 だから、男同士でみたいな感じなことを思っているのだろう。

 でも、なんで私に許してほしいって言うんだ?

「許すも許さないも、土方さんが女性を好きになったって事は、いいことじゃないですか」

 そう言いつつも、心ではなんかいいことじゃないことを思ったりしている。

 なんでそんなことを思ってしまうのだろう。

 で、土方さんに女が出来たのがどうかしたのか?

「蒼良にそう言ってもらえると、ありがたい」

 もしかして、要件それだけとか?

「それでだな、ちょっと頼みたいことがあるんだが」

 近藤さんが、再び言いづらそうな顔をした。

 なんだろう?

「歳の女がどんな女か探ってほしいんだが……」

「ええっ!」

 源さんと一緒にそう言っていた。

 そして顔を見合わせてしまった。

「別に、歳にどんな女が出来ようが関係ないだろう」

 源さんが近藤さんにそう言った。

「歳も、副長だからな。そこらの女じゃだめだ。それなりの女じゃないとな」

 それなりの女ってなんだ?

「わしも、結婚はそれなりの女としたつもりだがな」

 いや近藤さんの場合は、結婚したけど愛人がいるから。

 それもどうだと思うけど。

「勇さんは、結婚したけど、愛人もちゃんといるから、そう言うことは言えないだろう」

 源さん、よく言ってくれた。

 こんなことは、近藤さんより年上の源さんじゃないと言えないだろう。

「そうですよ。江戸に奥さんがいらっしゃるのに、京でお雪さんと暮らしているんだから、奥さんがかわいそうですよ」

 源さんも似たようなこと言っていたので、大丈夫だろうと思って私も言った。

「お雪は、今はいない」

 えっ?

「お雪は大坂にいる」

 一緒じゃないのか?

「今は、お孝と暮らしている」

 別な女の名前が出てきたぞ、誰だ、それはっ!

「勇さんも、次から次へと……」

 源さんもあきれているのか、絶句していた。

「お孝は、お雪の妹でな、わしがお雪とともに世話してやっていたら、お孝の方がよくなってな」

 それって、ありなのか?いや、ないだろう。

 彼女の妹を好きになったって、お雪さんの立場は?

「それでだな、お雪が大坂で商売するからって言って、大坂に行ったんだ。それで今はお孝と一緒にいる」

 近藤さん、それはお雪さんが身を引いたというと思うのだけど。

 お雪さんも本当にいい人だよなぁ。

「その話、初めて聞いた」

 源さんも驚いていた。

「わしのことはいいんだ。今は歳のことだ」

 近藤さんの女性関係の話の方が驚きだったので、そっちがメインになるところだった。

 そうだ、土方さんの事だったんだ。

 確か……

「でも、歳の付き合っている女を探れって、歳に見つかったら怒られるぞ」

 源さんのその言葉で思い出した。

「土方さんに直接聞いたほうがいいと思いますよ。どういう人なんだって」

 私がそう言うと、

「歳に聞いたんだが、そんなんじゃねぇって言うんだよ」

「じゃあそう言うんじゃないんだろう。歳のことだ。そのうち勇さんにも紹介してくれるさ」

 源さんの言う通りだと思う。

 紹介されてもどうなの?って思っちゃうんだけど。

「でも、一応探ってくれないか? おのぶさんにも報告せにゃいかんだろう」

 おのぶさんとは、土方さんのお姉さんだ。

「歳が自分で報告するだろう」

 源さんがそう言ったのだけど、

「頼む、この通りだ。歳の女を探ってくれっ!」

 と、近藤さんに頭を下げられてしまったため、断り切れずに引き受けることになった。


「歳の女を探れって、どうしろって言うんだ?」

 源さんが困っていた。

「とりあえず、後をつけてみますか? それで女性と会うと思うから、それから女性のことを調べるしかないと思いますが」

「それしかないな。あまり気が乗らないがな」

 源さんの言う通り、私も気が乗らない。

 土方さんが付き合っている女性なんて、出来れば見たくない。と思ってしまう。

 別に誰と付き合おうが、土方さんの勝手だと思うのだけど、なんで見たくないなんて思っちゃうんだろう?

「おっ、歳が出かけるらしいぞ」

 源さんの言う通りで、土方さんが屯所の玄関から出るのが見えた。

「後をつけましょう」

「おう、そうするか」

 というわけで、私たちもあわただしく屯所の玄関を出たのだった。


 こっそりと後ろからついて行った。

 今のところ、ばれてないみたいで、土方さんは普通に歩いている。

「歳はどこに行くんだろうなぁ」

 源さんはそう言っていた。

 今のところ、女性のところに行く気配はない。

 しかし、土方さんの足が急に速くなった。

「なんか、急に速くなりましたね」

「怪しいな。見失うなよ」

「はい」

 源さんと足を速めつつ土方さんの後を追った。

 気がつけば、置屋が並んでいるところに着いた。

 置屋とは、花魁の人たちが普段の生活をしている場所だ。

「歳の相手は、花魁か?」

 そうなのか?

 とある置屋の前で止まった土方さん。

 置屋の中から綺麗な女の人が出てきた。

「で、出てきたっ!」

 思わず、源さんと声を出してしまった。

 声を出してから、お互い自分の口をおさえた。

 土方さんを見ると、怪訝な顔で私たちの方を見ているけど、視線は合っていないから、まだばれていないらしい。

「ばれてないみたいですよ」

「よかった。でも、歳の相手は花魁か。勇さんがなんていうか」

「でも、お雪さんも花魁でしたよ」

「花魁でも太夫だっただろう」

 太夫とは、最上級の花魁のこと。

「とにかく、後をつけるぞ」

 源さんに言われて、土方さんを見ると、土方さんたちと少し距離が離れ始めていた。

「行きましょう」

 再び土方さんの後をつけた。


 気がつけば仁和寺に着いていた。

 ここは桜の名所になっている。

「歳も、女と一緒に桜の名所に来るとはな」

 源さんが、土方さんの後をつけながら感心したような感じで言っていた。

「感心している場合じゃないですよ」

 なんか面白くない。

 なんで女の人とこんなところに来るんだ?

「そうだな、感心している場合じゃないよな」

 源さんと二人で、桜の木に隠れながら、土方さんの後を付けた。

 土方さんと女性の距離はほとんどない。

 二人でより添って歩いている。

 悔しいけど、美男美女で、お似合いだ。

 なんでここで悔しがっているんだ?

 ふと、土方さんが後ろから女性の肩に手をまわしてきた。

「おおっ! 肩を抱き寄せる気だぞっ!」

 源さんが、興奮したのか大きな声で言った。

「あ、でも、女性の肩に桜の花びらがついていたから、取っただけみたいですよ」

 花びらを取ったら、手を元に戻していた。

「何だ、抱き寄せるんじゃなかったのか?」

「まさか、そんなことないですよっ!」

 私たちは、大きな声で言いあっていた。

 声に気が付いたのか、ふっと土方さんが私たちの方を振り向いた。

「こっち見たぞっ!」

 源さんの声と同時に、私たちは桜の木に隠れた。

 源さんなんて、桜の枝までもって木になりきっている。

 土方さんは気が付かなかったらしくて、再び女性と歩き始めた。

「源さん、あまり大きな声で話さない方がいいです」

「蒼良の言う通りだな。後をつけているから、静かにつけないとな。あれ?」

 源さんがそう言ったので、

「どうかしたのですか?」

 と、私は聞いた。

 源さんは、呆然と突っ立っていた。

「歳が消えた」

 ええっ!

 土方さんがいたあたりを見ると、本当に土方さんがいない。

「近藤さんに頼まれたのに、見失ってしまいましたね。どうしますか?」

「まだそこら辺にいるかもしれない。探すぞっ!」

 源さんときょろきょろとあたりを見回して探していると、

「人の後つけてなにしてんだっ!」

 という声がした。

 この声は……

 声のした方を見ると、桜の木の下で女性と一緒に土方さんがいた。


東雲しののめと申します」

 土方さんと一緒にいた女性が挨拶してきた。

 あれから、

「なんで人の後をつけているのか、話を詳しく聞かせてもらおうか?」

 と、怖い顔をして土方さんが言った。

 それを見て無言になった源さんと私。

 どうやらばれてしまったらしい。

 そんな怖い顔をしている土方さんに、

「そんな怖い顔せんと、甘味処に入ってゆっくり話したらどうやと思うのですが?」

 と、一緒にいる女性、東雲さんが言った。

 というわけで、4人で甘味処にいる。

 土方さんが怖い顔してにらんでいるので、ものすごく居心地が悪い。

「あ、あの、東雲さんってお名前、変わっていますね」

 この時代の名前ってだいたい2文字で頭に「お」をつけて呼ぶことが多い。

 そんな中でも、東雲と言う名前はかなり変わっている。

 私の名前もこの時代ではかなり変わっているけど。

「本名ではありまへん」

 えっ?

 源さんが肘でつんつんと突っついてくる。

「置屋から出てきただろう、花魁だ、花魁」

 源さんの言葉で思い出した。

 そうだった、置屋から出てきたところを見ていたんだ。

「置屋から出てきたってことは、屯所から後をつけていたのか?」

 ギロッとにらむ土方さん。

「太夫をやっとります」

 東雲さんが何事もないような感じで言った。

 だ、太夫?

「と言う事は、東雲太夫と言う事か」

 源さんが納得したような感じで言った。

 納得するようなことなんてないだろう。

「でも、身請けが決まっているさかい、もうすぐ年季が開けるんや」

 身請けとは、簡単に言うと、お金を払って花魁を買うこと。

 大体の花魁は、家の借金を背負ってやっている。

 だから、その借金を働いて全部払うか、身請けしてもらって借金を代わりに払ってもらうかになる。 

 年季が開けると言う事は、花魁をやめると言う事。

 東雲太夫は身請けが決まっていると言う事は、誰かがお金を払って花魁をやめると言う事だろう。

「もしかして、土方さんが身請けしたのですか?」

「ばかやろう。なんで俺が身請けするんだっ! どれだけ金がかかると思っている?」

 そんなこと知るわけないだろうがっ!

「あれ? 東雲太夫は歳の女じゃないのか?」

「身請けが決まっている太夫に、手を出すわけないだろう」

 ん?と言う事は……

「土方さんと東雲太夫は、付き合っているわけでもないし、何でもないってことですか?」

「何でもねぇよ」

 なんだ、なあんだ。

 またもやほっとしてしまった。

 なんでこんな気持ちになるんだろう?

「でも待てよ。なんで何でもない太夫と一緒に歩いてんだ?」

 源さんが、鋭い質問をしてきた。

 そうだ、その通りだ。

 どうしてだ?

「うちが土方さんにあこがれとったさかい、身請けする前に一回でいいから一緒に歩きたかったんや」

 そうだったのか。

「東雲太夫がいい思い出を作りてぇって言うから、協力してやっていたんだ。それをおまえらが後つけてぶち壊しやがって」

 いや、ぶち壊しに来たわけではない。

「だって、勇さんが歳に女が出来たから見て来いって言われさ、一度は断ったんだぞ。だが、頭下げられて断り切れなかったんだ」

「近藤さんか。この前東雲太夫に文を出しに行くところを見られたからなぁ」

 それだけで、近藤さんは土方さんに女がいると思って、私たちに探れと言ったのか?

 なんかどっと疲れてきた。

「お前、疲れてんじゃねぇよ」

 土方さんに言われてしまった。

「まとめると、土方さんと東雲太夫の間には、特に何もない。土方さんは東雲太夫の思い出つくりのために一緒に出かけただけと言う事ですね」

 近藤さんに報告しないといけないし、と思ってまとめた。

「そうだ」

「わかりました。源さん、近藤さんに報告しに行きましょう。土方さんは東雲太夫の思い出つくりに協力してあげてくださいね」

 本当は、そんなことしなくてもいいじゃないかっ!と言いたけど、東雲太夫も身請けすると言う事は、これが最初で最後の事なんだろう。

 我慢しよう。

「協力って、ぶっ壊しといて何言ってんだ」

「歳、ぶっ壊したくてぶっ壊したんじゃないぞ」

 そうだ、源さんの言う通りだ。

「じゃあ、私たちは行きますね」

 私と源さんは甘味処を後にしようとした時、

「おおきに」

 と、東雲太夫に言われた。


「なんと、歳の女じゃなかったのか?」

 近藤さんに、今までのことを報告した。

「そうか、そうだったのか」

 近藤さんはがっかりした様子だった。

 そんながっかりしなくても……。


 夕方土方さんが帰ってきた。

 土方さんの姿を見て、何事もなさそうだったのでホッとした。

 なんでホッとしているんだろう。

「桜、綺麗だったぞ」

 隣に美人もいたから、綺麗だったでしょうよ。

 ちょっとイラッとしながら思った。

 なんでイラッとしているんだろう。

「今度お前も連れて行ってやる」

 土方さんにポンッと軽く頭をたたかれた。

 それだけでイラッとした気持ちが消えたのが不思議だった。


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