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幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
元治2年1月
161/506

佐々木六角源氏太夫

「近藤局長はいらっしゃるか?」

 屯所にいたら、ごめんくださいっ!と声がしたので、玄関に出てみると、見知らぬ男性が立っていた。

 誰だろう?

「すみませんが、どちら様ですか?」

 相手が誰かわからないのに、近藤さんのところに連れていくわけにはいかない。

「見廻組の者だ」

 見廻組って、京都見廻組か?

 京都見廻組とは、旗本の次男・三男を集めた組織で、仕事内容は新選組と同じ、京の治安維持だ。

 ただ、管轄が違うのであまり会うことはなかった。

 その見廻組の人がいったい何の用なんだ?

 私は近藤さんの所に行った。

「なに、見廻組だと?」

 近藤さんの所に行ったら、土方さんもいた。

「何の用なんだろうな?」

 近藤さんも不思議な顔をしていた。

「とにかく、ここに連れて来い」

 土方さんにそう言われて、その見廻組の人を近藤さんの部屋に通した。

 その人を近藤さんの部屋に案内した後、部屋を出ようとした私を土方さんが呼び止めた。

「お前はここにいろ。どうせ盗み聞きをするのだろ?」

 いや、盗み聞きなんてするつもりはなかったぞ。

 話を聞くつもりはあったけど。

 あ、同じか。

 土方さんのお許しも出たので、遠慮なく一緒に話を聞くことになった。


 うーん……

 近藤さんお部屋で見廻組の人の話を聞いた。

 なんか訳が分からなかった。

 一緒に部屋に戻ってきた私に、土方さんが、

「お前、ずいぶん難しい顔しているが、どうした?」

 と、私に聞いてきた。

「あのですね、佐々木六角源氏太夫って、どこの置屋の太夫ですか?」

 そう聞いた私に土方さんはあきれた顔をしていた。

「お前、話聞いていたか?」

「あまりよくわかりませんでした」

「そりゃそうだろうな。どこの置屋の太夫だって聞くぐれぇだもんな」

 太夫と言うのは、花魁の最上級の位にいる人だ。

 見廻組の人の話だと、その人が容易ならざる企てを考えて京に来たらしいのだけど、料亭にいると言う情報を手にした見廻組が襲撃したところ、その佐々木六角源氏太夫などは捕えたのだけど、逃げた人も結構いたみたいで、新選組に協力を求めに来たらしい。

 太夫なら、もともと京にいるから、京に来るって言うのはおかしいし、女の人を襲撃するっているのもなんかわからないし。

「いいか、佐々木六角源氏太夫って言うのは、宇多源氏の嫡流で、六角堂と言うところに屋敷を持っていたから、佐々木六角氏とも言われている。ま、断絶したがな」

 えっ、断絶した?

「今回の佐々木六角源氏太夫って奴は、摂津で活動している武装集団の頭領だ。嫡流云々は嘘なんだろう。そう言っとけば、仲間も集まりやすいしな」

 なんとなく話が分かってきたぞ。

 太夫って言っているけど、島原の太夫とは違うらしい。

 しかも、あまりよろしくない集団のリーダーになっているらしい。

「と言う事は、今回その武装集団がなんか企んで京に来たけど、見廻組がそれを見破って阻止したと言う事ですね」

 料亭で襲撃したと聞いていたから、そうなのだろう。

「ほとんど逃げられたらしいがな」

 そ、そうなのか。

「それで、新選組に要請が来た。見廻組の管轄は京だからな。奴らはもう京にいねぇだろう」

 なるほどそう言う事か。

「急いで残党狩りをしねぇとな」

 というわけで、佐々木六角源氏太夫の残党狩りを始めることになった。


 摂津と言う、現代で言うと兵庫県辺りを拠点に活動していた団体で、頭領は京で見廻組が捕縛したので、残された人間はきっと摂津に帰ろうとするだろう。

 京にはすでにいないと見た土方さんは、隊士を大坂に送った。

「とりあえず、片っ端から聞くしかない」

 一緒に大坂に来た山崎さんと一緒に潜伏してそうな所を聞いて回った。

「こういう長屋に潜んでいると言う事はないですかね」

 長屋の前で私は山崎さんに聞いた。

「ここには潜めないと思いますよ」

 山崎さんに言われたけど、ビビビと第6感が働いた私は、思い切って長屋の戸を開けてみた。

「新選組です。御用改め……」

 そう言いながら戸を開けたけど、中の様子を見て慌てて閉めた。

蒼良そらさん、どうしました?」

 山崎さんが聞いてきた。

「こ、ここは大丈夫ですよ」

「蒼良さんの様子を見ると、大丈夫だと思えないのですが」

「いや、全然大丈夫です。さ、行きましょうっ!」

「あ、あんたっ! また来てくれたのかい?」

 私はさっさと立ち去りたかったのに、長屋の中から男の人が出てきた。

「蒼良さん、知り合いなのですか?」

 その男の人は、以前聞き込みに行ったときに、必死になって傘の内職をしていた浪人だった。

 あの時は清水寺の近くだったのに、なんで大坂にいるんだ?

「山崎さん、ここは大坂ですよね」

 もしかしたら、大坂と言う名前の京かもしれない。

 そんなバカなことを一瞬思ってしまった。

「大坂です」

 そうだよね、やっぱり。

「ああ、今回は、大坂にいる浪人仲間から手伝いを頼まれてここにいるんだ。まさか、あんたも来てくれるとは思わなかったよ」

 いや、私は手伝いに来たのではないから。

「もしかしてあんた、新選組をやめさせられて本物の浪人になったのか?」

 なんだ、本物の浪人って。

「やめさせられていませんよ。今回も、事件があって聞き込みに回っているときにたまたまこの長屋に立ち寄ってしまったのですよ。手伝いに来たわけでもないですからね」

「なんだ。てっきり俺たちを頼って来たのかと思ったよ」

 いや、全然頼っていませんから。

「あ、でも、今回は納期に間に合いそうだから、手伝いは大丈夫だ。せっかく来てもらったのに、悪いな」

 いや、全然悪くないから。

「何なら一つぐらい作ってもらってもかまわないが」

 いや、作らないから。

「蒼良さん、これはいったい……」

 山崎さんは、私と浪人のやり取りを呆然と聞いていたのだった。

「実はですね……」

 京で浪士20人ほど捕縛した時に、傘の内職の手伝いをした時のことを山崎さんに話した。

「何なら、あんたも一緒に傘を作ってもらってもかまわないぞ」

 なんで山崎さんにも手伝ってもらおうとしているんだっ!

「いや、遠慮する」

 山崎さんはあっさりと断った。

「今回は、納期に間に合うからいいって言ったじゃないですか」

 それなのに、なんで色々と誘ってくるんだ?

「傘の内職は、人数が多ければ多いほど楽しいだろう」

 そ、そうなのか?

「ちょっと聞きたいことがあるのだが……」

 山崎さんは、今回京であった事件のことを説明した。

「と言うわけで、そういうやつらを見なかったか?」

 山崎さんが聞くと、

「ああ、見たよ」

 と、浪人があっさりと言った。

「な、なんで早く教えてくれなかったのですかっ!」

 原田さんの傘の内職をした時も、教えてくれたのは内職が終わった後だったよな。

「なんでって、聞かれなきゃ話しようがないだろう」

「そりゃそうですけど、御用改めに来ましたって言ったのだから、何かあったのだなぁと察して教えてくれてもいいじゃないですかっ!」

「いや、蒼良さん、それは無理な話でしょう」

 そうか?そうなのか?そうかもしれない。

「で、どこで見たのですか?」

 私が聞くと、

「あそこに播磨屋はりまやという旅籠はたごがあるだろ? そこで二十人ぐらい入るのを見た」

 と、浪人は旅籠を指さしながら言った。

 山崎さんは、その旅籠をじいっと見ていた。

 ちなみに、旅籠とは、今で言う旅館のような宿泊で来て食事も食べれるところ。

「ちょっと潜伏調査した方がいいな」

 山崎さんは、旅籠を見ながらつぶやいた。

 潜伏調査をすると言う事は、旅籠の中に怪しまれずに入って調査すると言う事だろう。

「今回も、夫婦役で入りますか?」

 怪しまれずにはいるなら、夫婦役で入るのが一番いい。

「いや、今回はどういう人間がいるかわからず危険だから、蒼良さんはここにいてください」

「よかったな、これで一緒に傘をつくれるぞ」

 だから、今回は傘は作らないから。

 って、納期に間に合うって言っていたじゃないかっ!

「もしよかったら、傘を少しもらえますか?」

 山崎さんは浪人に言った。

「やるのは構わないが、その分作ってよ」

 ええっ!それってなんかずるくないか?

「わかった。作ったらその分はもらうぞ」

 山崎さんはそう言いながら長屋の中に入って行った。

 もしかして、傘を作るのか?

 そう思ってみていると、山崎さんは傘を作り始めた。

「何本ぐらい必要ですか?」

 傘を作っている山崎さんに聞いた。

「10本ぐらいあればいいかな」

 10本か。早く作れれば早い方がいいのだろうなぁ。

 私も一緒に傘を作り始めた。

 結局、浪人の企み通りになってしまった。

 山崎さんは手が器用なのか、傘を作るのがとっても速く、私が一本作る間に三本ぐらい作っていた。

 そんなペースで作っていたので、あっという間に10本出来てしまった。

「あんた、新選組をやめさせられたらうちにぜひ来てくれ。歓迎する。ああ、あんたは来なくてもいいよ」

 浪人は山崎さんを一生懸命勧誘していた。

 って、あんたはいいよってどういう意味よ。

 この前の危機を救ったのは、私と原田さんなんだからねっ!

「いや、当分やめる予定はないから。あ、着物を借りていいか?」

 山崎さんが浪人に聞いた。

「俺の着物でよかったらいいよ」

 長屋の中で着替えた山崎さん。

 傘を10本持って外に出た時は、どこからどう見ても傘売りの人だった。

「蒼良はここで待っていてほしい。何かあったら窓から文を投げるから、副長に知らせてほしい」

「わかりました」

「そのあいだ、ここで傘を作っていくといいさ」

 あんた、私に傘をつくらすことしか考えてないだろうっ!


 山崎さんは、傘売りになって、旅籠の中に堂々と潜入した。

 しばらくすると、旅籠の窓から紙のかたまりが投げられたのが見えた。

 急いで長屋から出てその紙を取った。

 その紙には一文字「24人有」とだけ書いてあった。

 ここで当たりってことだろう。

 24人ぐらいいるってことか?

 とにかく土方さんに報告だっ!

「あんたっ! 傘つくりを途中で放り投げて行くなっ!」

 今は傘を作っているときじゃないのだっ!

「後で作りますから」

 そう言ってその長屋を出た。


 その後、土方さんに報告し、隊士30人ぐらいで旅籠の播磨屋を包囲した。

「いいか、一人も逃すなよっ!」

 土方さんに言われ、みんなでその24人が出てくるのを待っていた。

 これだけの人数で包囲したら逃すことはないだろう。

 その結果、23人捕縛した。

 一人は斬り殺された。

 長州藩とも無関係であることはわかっていたので、23人は奉行所に引き渡すことになった。

 この人たち、容易ならざる企みがあったから見廻組の人たちに追いかけられたり、私たちも捕縛したのだけど……

「容易ならざる企みって一体何だったのですか?」

 と、土方さんに聞いたら、

「しらん」

 と、あっさりと言われてしまった。

 知らんって……。

 それで捕縛して奉行所に送っちゃったけど、よかったのか?

「ところでお前、この浪人がお前に用があるらしいが」

 えっ、浪人が?

 土方さんの後ろから出てきたのは……

「あんたっ! 後で作るって言ったから、傘残しといたからな」

 傘つくりの浪人だった。

 わざわざ残さなくてもいいだろうがっ!

 しかも、納期に間に合うって言ってたじゃんかっ!

「長屋を借りたのだろ? 傘ぐらい作っていけ」

 土方さんはそう言うと行ってしまった。

「話の分かる人だなぁ」

 浪人は土方さんの後姿を眺めて言った。

 と言うわけで、私は傘を数本作ってから帰ったのだった。

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