表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕末へ タイムスリップ  作者: 英 亜莉子
壬生浪士組誕生
16/506

壬生浪士組誕生

その日がやってきた。

 清河は、朝廷の組織の学習院というところに署名とか出していたのだけど、正式に朝廷から返事が来たらしい。

 それは、江戸に帰るようにというものだった。

 こんな長い時間かけて京へ来たのに、よくそんな簡単に帰れって言えるなぁ。

 新幹線がある現代でも、そんなこと言われたら怒るよ。

 近藤さんは、私たちに言ったことを言った。

「家茂公の警護のために上洛したのに、その目的も果たせずに江戸に帰ることは出来ん」

 すると、賛同者が現れた。

「江戸に帰るというが、我らは京へ花見に来たのではないぞ。まだ家茂公も上洛しておらん。尽忠報国の目的も達せないのに、このまま江戸に帰ることはできんぞ!」

 それは、芹沢さんたちだった。

 清河は怒って、

「勝手にしろっ!」

 と、怒鳴っていってしまった。

 なんか、スッキリした。

 でも、安心するのはまだ早かった。

 浪士組から抜けたということは、後ろ盾を失ったということ。

 このままだと、ただ勝手に京へ来ているだけという状態になってしまう。

 今いる八木家も、浪士組だから住まわしてくれているのだろうけど、浪士組を抜けたとなると、八木家にいることもできなくなるかもしれない。

 そんな時に、殿内 義雄と言う人と家里 次郎という人がやってきた。

鵜殿うどの 鳩翁きゅうおう殿が、京に残る奴を確認してこいと言われたから、確認しにきた」

 ものすごく偉そうな感じで言った。

 清河と縁が切れたと思ったら、また変な奴が出てきた。そんな感じだ。

 それから、後ろ盾は京都守護職を務めている会津藩がいいだろう。

 ということになり、この偉そうな人たちと近藤さんと芹沢さんが代表して、京の治安を安定されるために働かせて欲しいと、嘆願書を提出した。

「嘆願が通るかな」

 土方さんは心配していた。

「通りますよ」

「お前、自信満々だな」

 だって、通るって知っているんだもん。

 でも、そんなことは言えない。だから、読んだ本に書いてあったことを言った。

「会津藩は、京都守護職になったのはいいけど、何していいのかわからない。京は治安が悪いから、会津藩だけではどうにもできないと思います。そんなときにこの嘆願書が来たら、飛びつくと思いませんか?」

「なるほど、そうかもしれん。お前、たまに鋭いことを言うな。いつもはどこか抜けてるような感じだが」

「抜けてるって、どこがですか」

「全体的に」

 そうか、私は全体的に抜けているのか……。


 そして、歴史通り、嘆願書は通った。のだけど……。

「清河を暗殺するだと?」

 そう、浪士組の偉い人、幕府の人から内命が下ったらしい。

 要するに、幕府の組織を勝手に自分の物にしてしまった清河を、このまま放っておくことができないということなのだろう。

 という訳で、作戦会議になった。

 近々、清河が土佐藩邸に出かけるという情報があり、その日を狙うことになった。

 そして、その日がやってきた。

 二組に別れて清河を狙うことになった。

 暗殺なんてもちろん初めてのことなので、不安だった。

 でも成功したら、私たちの地位が良くなるのかな?とも思い、期待もあった。

 でも、私たちのところには清河は現れなかった。

 芹沢さんたちが待っていた方に現れたらしい。

 話によると、芹沢さんは、清河の背後から狙ったらしいのだけど、御朱印というものを持っていたため、切ることができなかった。

「土方さん、その、御朱印ってなんですか?」

「お前、本当にしらんのか?」

 話によると、幕府からの命令書のようなものというのか、幕府の命令で動いていますというようなことを紙に書いてあるもの。

 朱色の印章、今で言う印鑑が書いてあるから御朱印というらしい。

 で、なんでそれを持っていたから切れなかったかというと、それに剣をかざすことは、将軍家に剣をかざすことと同じ意味になるらしい。

 そんな恐れ多いこと出来ない。

 ということで、切れなかったらしい。

「なんか、水戸黄門の印籠みたいですね」

 と、私が言うと、芹沢さんが驚いたような顔をして、

「蒼良は、光圀公を知っているのか?」

「知っているも何も、有名じゃないですか。諸国漫遊の旅にでて、悪人たちを懲らしめるって」

「お前、歌舞伎か何か見たな」

 テレビで、って言おうとしたけど、この時代はテレビなんていう代物はなかった。

「は、はい、歌舞伎で見ました」

 見てもいないのに、そう言った。

 テレビで観たなんて言えない。

「それにしても、蒼良は、御朱印を知らんかったのか?」

「はい。そんなものの存在すら知りませんでした」

「じゃぁ、蒼良に切らせればよかったな。そしたら今頃清河も死んでただろう。怖いもの知らずとは、こういうことを言うのだな」

 そう言って、芹沢さんは笑っていた。


 清河は暗殺未遂で終わったけど、無事に会津藩お預かりの壬生浪士組になった。

 私たち以外の浪士組の人たちは、江戸に帰ることになったのだけど、出発する日が何日も延期になっていて、壬生浪士組ができたときにようやく京を出た。

 試衛館から来た人たちも、奥さんや子供がいる人はその帰還組に入って江戸に帰った。

 その中に、沖田さんのお兄さんがいた。

「ええ、沖田さん、お兄さんがいたのですか? 全然知らなかったです」

「兄と言っても、姉さんの旦那さんだから、義兄かな」

「ああ、だから。あまり似てなかったのですね」

 そして、江戸に帰った浪士組は新徴組と言う、新選組の江戸版みたいなものになった。

 ちなみに、私たちが暗殺に失敗した清河は、約一ヶ月後に暗殺された。


 壬生浪士組も、少しずつだけど人数が増え、賑やかになってきた春の日のこと。

 沖田さんと縁側に座って、春らしくなったから京見物でもしたいななんて話していたら、土方さんがやって来た。

「ちょうどいい。お前ら、ちょっとこれを見てくれ」

 と言って、見せられたものは、私の住む現代では局中法度と呼ばれているものだった。


一、士道に背キ間敷事

一、局ヲ脱スルヲ不許

一、勝手ニ金策致不可

一、勝手ニ訴訟取扱不可

右条々相ヒ背候者ハ切腹申シ付クベク候也。


 そう書いてあった。なんか、難しすぎる……。

「士道に背くこと、局を脱すること、勝手に金策すること、勝手に訴訟を取り扱うこと、それをしたら切腹って……」

「沖田さん、それわかりやすいです」

「なんだ、お前は、意味すらわからなかったのか?」

 信じられんという顔で土方さんに見られてしまった。

「これを守れなかったら切腹って、ちょっと厳しすぎるんじゃぁ」

「総司は不服か?」

「僕が嫌だと言っても、土方さんのことだから、これを規則にするんでしょ」

「わかってんじゃないか。蒼良はどう思う?」

 えっ、私?

「うーん、逆を言えば、それだけを守ればいいということですよね。じゃあ別にいいんじゃないですか?」

 沖田さんの言うとおり、私ごときがダメと言っても、これが隊規になるのだろう。

「でも、規則って破るためにあるって、言うこともありますよね」

 私が冗談で言った。

 よく、校則は破るためにあるなんて、聞いたことがあったから。

「お前、まさか、破るつもりじゃないだろうな」

 そういった土方さんの顔が怖かった。

「ま、まさか、破りませんよ。そもそも、私が破りそうにみえますか?」

「たしかにそうだな。だからこれを見せたわけだが」

「でも、蒼良みたいに、破るためにあるなんて言って、破る人もいるかもしれないね」

 沖田さんが笑いながら言った。

「破ったら、切腹ですよ。停学とかならまだしも切腹なんて、命がなくなるんですよ」

「なんだ、停学って」

 しまった、学校じゃなかった。

「停学は、お前はここでは手に負えないからよそに行けって、追い出されることです」

「そんなものがあるんだ」

 沖田さんが感心しながら言った。

「これを破っても、死罪じゃなく武士らしく切腹で死ねるんだ。そこをありがたく思え」

 土方さんが言った。そうなんだ、武士は切腹なんだ。私から見たら、死罪も切腹も死ぬことには変わりないと思うのだけど。

 そこが価値観の違いなのかもしれない。

「浪士組を見ただろう。ここにも、ああいう連中がやってくる。ああいう連中をまとめるために規則を作り、罰則も厳しいモノにしないとまとめられんからな」

 たしかにそうかもしれない。

 浪士組も、その個性的な集団ゆえに京へ行く間だけでも色々なことがあった。

 それを考えると、規則と罰則は必要なのかもしれない。

「そうですね。いいと思いますよ。これで」

「そうか。で、総司は?」

「土方さんがよければいいんじゃないですか」

「分かった」

 そう言って、土方さんはまた部屋にこもってしまった。

 ちなみにこの隊規は、近藤さんと芹沢さんから発表された。 

 

 土方さんは、隊規の他に色々考えていた。

 その一つが組織だった。

 それは夜に見せてもらった。

「どう思う?」

「いいと思いますよ。でも、局長が二人ですか?」

「今は二人だ。そのうち近藤さんだけになる」

「そうなんですか」 

 私はそう返事した。近藤さんが一人局長になることは知っていたから。

「実は、お前の名前はない」

 そう言われて初めて気がついた。

「あ、本当だ」

「お前、気がつかなかったのか?」

 本当に新選組っぽくなってきたなぁと思って見ていたから、全然気がつかなかった。

「はい、全然」

「俺は色々気を使ってたんだけどな。江戸から一緒に来たやつはみんな副長助勤だ。でも、お前だけ名前がないから、どう思うだろうとかな」

「あ、本当ですね」

「お、お前……それも気がつかなかったか? ま、いい。なんでお前の名前がないかというと、お前が女だとバレたときに逃げ道を作っておきたかったからだ」

「逃げ道ですか?」

「そうだ。試衛館から一緒にいた連中にバレるのは時間の問題だろう。でも、それはなんとかなる。問題は、これから入ってくる奴らだ。どんなやつが入ってくるかわからねぇ。そんな奴らにバレた場合の逃げ道だ」

 そこまで考えてくれていたんだ。

「お前はこの組織とは別扱いで、俺の直属と言う扱いにする。だから処分も俺が扱うから、バレても俺が助けてやれる。それに、俺も自由に使えて信頼できる奴が欲しかったから、ちょうどいい」

「土方さん、ありがとうございます。そこまで考えていたなんて」

「でも、隊規は破るなよ。あれ破ったら、お前でも切腹してもらうからな」

「絶対に破りません」

 切腹なんて、冗談じゃない。

「でも、信頼できるって、私、一応信頼されているんですね」

「まあな。江戸にいた時からずうっと一緒にいて見ていたから、お前のことはわかる。たまに訳わからん事言ったりするが、変なたくらみもなさそうだしな。ま、お前がたくらんでいたら顔に出るか態度にすぐ出るから、すぐわかる」

「褒められてるのか、けなされてるのか、わからないのですが……」

「一応、褒めてるんだぞ。お前の心はまっすぐだって。だから信頼できる」

 なんか、嬉しいな。

「この組織に名前はないが、扱いは副長助勤と同じ扱いだからな」

「はい。ありがとうございます。名前が無くても、もうここにいるだけで充分です」

「それと、俺はこの組織とこの壬生浪士組を守るために鬼になる。覚悟しておけ」

「はい、わかりました。でも、ずうっと鬼でいると疲れますよ。たまには鬼の面も取ってください」

「お前、本当にたまにいいこと言うな」

「たまにってなんですか。そりゃ、いつもではないですけど」

「いつもじゃないから、たまにっていったんだ」

 土方さんは、笑いながら私の頭を撫でていた。

 私は、鬼の副長誕生の場面を思いかけず見たことになるんだなぁ。

 なんて思っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ